落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第11曲「私のやり方で扱いますわ」

 

「……こっち来てからよく捕まるなぁおい」

 

「……」

 

 薄暗い牢に鎖で繋げられながら上の空でぼやく。

 手枷足枷を嵌められ、さらに牢屋そのものにも繋げられていてまともに動けない。エコール城で投獄された時よりも部屋そのものは広いがディテール自体は大差ない気がする。最も、部屋の様子はどうでもいい。見た感じ抜けられそうな穴はないし、異能封印系の術式も部屋自体に刻まれている上に当然枷にも嫌になるくらいに施されていた。体が非常に重い。

 リューンレーナに拉致されてから数時間が経過していた。

 思い返せば随分と腹立たしい方法で連行されたが、しかし意外にもなにか拷問に掛けられたり、儀式の生贄にされるということはなかった。全身に枷を嵌められて、牢屋にぶち込まれて、それで終わりだ。

 

「何がしてーんだろうな、あのど腐れ魔女共」

 

「……」

 

「前に遭遇した時はなんか何もしねーとか言ってたのに、なんだよあれ。ひでぇ連中だ。絶対落とし前付けさせなきゃなぁ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……なんか言えよ」

 

「……」

 

「……はぁ」

 

 反応がない。俺の対面で膝を抱えて俯きながら桃ちゃんは全く動かない。

 

「リサ、大丈夫かね」

 

「……」

 

 少なくともリューンレーナにやられた怪我は問題ないはずだ。あの時点で既に完治していたから大丈夫だろう。しかしここに来た時点ですぐに引き離されてしまったのでどうなっているか解らない。

 そもそもここなんて言っているが、ここがどこだかも解らないのだけど。

 非常に拙い。

 エコールで投獄された時より、さらに詰んでいる。

 あの時の脱獄ではヒルダが活躍してくれたが、

 

「反応ねぇんだよなぁ」

 

 ここに入ってから反応がない。リンクが切れているのか封印されているのか解らないが現状では彼女の助けも期待できない。エコールよりも異能封印が強力な証だろう。色金の気を使えばでれなくもないが、しかしヒルダのソナースキルがないと脱出も怪しい。

 ちょっとばかし無理をすればできないこともないだろうが、折角復調させた体だ。今は少しタイミングが違う気がするし、俺だけが無茶しても桃ちゃんは助けられない。

 どうしよう。

 

「出ろよ、遠山キンジ」

 

「あん?」

 

 なんてことを思っていたら牢屋の外に舩坂が現れていた。変わらずにふざけた姿のカソックに煙草を咥えながら一人立っていた。

 

「何だ、エロ本の差し入れなら要らんぞ」

 

「わはは、それもいいかもしれねぇがそういうことばっかしてると俺も怒られるからな。特にここだとよ。飯だよ、出て来い」

 

「飯? いや飯を出してくれない場合は断固抗議するつもりだったが……出していいのか?」

 

「いいらしいぜ、そのあたりの理由は俺に聞くな。細かいことは知らんよ」

 

「あ、そう」

 

 そういえばこの男や妖刕、魔剱は傭兵だったっか。それならばあまり細かい情報とかは開示されていないかもしれない。聖銃は見た感じ怪しさ抜群だし、なんとなく自分からそういう風に仕向けている感じもあるのだろう。

 こういうのに重要な情報を差し向けないはずだ。

 

「んじゃー、行くか。桃ちゃん、ほら立てよ」

 

「……ふん」

 

 反応もなく座っていたまま――なんてことはなかった。

 それどころか顔を上げて髪ふぁさ(・・・・)しながら立ち上がる。

 

「私に出す食事は三ツ星シェフ並の料理じゃないと駄目よ」

 

 これまで通りに無表情と共に無茶ぶりをする。

 

「……」

 

「ま、別にそこまで不味くはねーけど、それはちょいキツイぜ」

 

 言いながら牢屋を出て歩みを進める。

 『竜の港』――それが今俺たちがいる基地らしい。

 正確な場所は教えてくれなかったが、海に面した入江にある滝の内側に作られた第二次大戦中の軍事基地を改装したものだとか。ていうことはまぁ船や潜水艦、或は水上機くらいあるだろう。運転に自信あるわけではないが、まぁできなくもない。脱出する時はそれが使えるかもしれないし一応運転技術とか思いだしておかないと。

 最もそのあたり仮説に過ぎないのであくまで心の片隅に置いておくだけにしながら窓のない廊下を進んでいき、食堂らしい大広間に辿り着く。

 大きなテーブルが乱雑に置かれたそこには既に人が食事をしていた。

 まず魔女連隊のメンバーであろう魔女たち。肉と苺大福を口の中にぶち込みまくってるのは妖刕、魔剱で、ブロッコリーをもしゃもしゃと口に運び続けている羽根つき帽子の少女は多分セーラ・フットだろう。 

 

「……カツェはいないのか?」

 

「アイツは今お前と面会禁止だぜ。異性恋愛罪とかいう嫌疑に掛けられてるからな」 

 

「……別にそんなんじゃないぞぉぅ?」

 

「なんだその言い方」

 

 そう、恋愛あれこれとはちょっと違い。

 カツェとは戦場で爆笑し合いながら最高に楽しいバトルをする戦友の仲なのだから。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

「――カカッ」

 

 それはいた(・・・・・)

  

「ッ――!」

 

 テーブルの一つに大量の握り飯を載せて鷲掴みで次々に口に放り込むんでいるそいつは俺と目を合わせ、巨大な()をむき出しにしながら嗤った。赤・黄・緑の色に梵字らしき模様のカラフルだがすり切れた和服に赤銅色の髪、筋骨隆々の傷だらけの身体。

 怪しく光金色の瞳。

 額から突き出た角。

 明らかな異形、化外でありそれは紛れもなく鬼だ。

 だけど、あぁ、それでもしかし。

 そんなことは(・・・・・・)どうでもいい(・・・・・・)

 絶対に認めてはいけない存在がそこにいた。

 

「カカッ」

 

 ソレは歯を剥き出しにしながら哂う。

 目があったのは一瞬だけ。

 言葉を交わした訳ではない。

 交差それだけで終わった。

 歯を剥き出しにした鬼の哄笑。

 まだ何も(・・・・)始まっていない(・・・・・・・・)――そう思わせられる歪み。 

  後になって思えばこの時点で俺はコイツと強引にでも向き合うべきだった。感じた埒外の嫌悪感に従い、無理矢理にでも攻撃をしかけそれからこいつの知っているある情報(・・・・)を引き出すべきだった。最もそれを知っていたからこの地にいる俺に何かできるわけではなかっただろう。

 それでも俺はこの邂逅を後悔せざるを得ない。

 何かが変わったわけではないとしても、それでも或は変えられたかもしれないと信じたかったから。

 結局――何もかもが手遅れなんだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことですか、長官ッ!」

 

 イヴィリタの執務室でカツェはらしくもなく彼女へ声を荒げていた。

 相手はカツェにとっては命の恩人という言葉ですら物足りない相手だから、彼女相手に声を荒げることなんて滅多にない。それどころか刃向ったことさえ記憶に数えるほどしかなかった。

 ただそれでも、今回の件は黙っていられなかった。

 

「異性恋愛罪なんて……!」

 

「否定できるのかしら?」

 

 全然違う。そんなものじゃない。

 遠山キンジとは戦場で爆笑し合いながら最高に楽しいバトルをする戦友の仲なのだから。

 色恋沙汰では断じてない。いやまぁ大好きな戦友ではあるけど。

 

「カツェ、いいかしら?」

 

「……はい」

 

 イヴィリタはその美しい唇を歪めながらカツェに対して諭すように語り掛ける。優しい物言いであるが、しかしそこに優しさも甘さも感じさせない。

 

「お前は私が知っている魔女の中で最も優秀よ? 術式の扱いや異能だけではなく、策の立て方や罠の貼り方。間違いなく今の魔女連隊でお前は誰よりも優秀であるわ。連隊の長である私が保障しましょう」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 だけど、とイヴィリタはそこで言葉を区切る。

 

「お前は、二度も失敗したわ」

 

「っ……!」

 

「一度目はいいわ。ジェヴォーダンの出来損ないに、相手が悪かったし、お前が策を立てたわけじゃなかったしね? でも、二度目は許されないわ。魔女連隊の総力を結集したにも関わらず敗北――お前とて、責務は免れないのは解っていたでしょう」

 

 言葉がでない。イヴィリタの言葉は何一つ間違っていないから。

 カツェ・グラッセは魔女連隊三千に力を担い、大量の砲火を湯水のように使ったにも拘らず遠山キンジとジャンヌ・ダルクの二人に敗北した。香港の時の失態とは比べものにならない。カツェ自身も何かしらの叱責があるかと思ったが、しかし実はあの直後の時点ではなにもなかった。戦時中とはいえ、何もないのは気になったがしかしカツェの頭はどうやって遠山キンジに泡を吹かすかで頭が一杯だったから流していたが――ここでツケが回ってきた。

 

「……長官」

 

「クスッ」

 

 声を落としたカツェに、しかしイヴィリタは小さく笑う。

 

「信賞必罰が私のモットーよ? だからこそお前を重用し、評価をしてきたけれどだからこそこの件にしては罰を与えざるを得ない。それが異性恋愛罪というわけよ。連隊の魔女としては屈辱のでしょうけれど、甘んじ受け入れなさい」

 

 つまり、

 

「この程度で済ませるのが私なりのお前への思いやりなのだけれど、不満かしら?」

 

「……いいえ、ありがとう、ございます」

 

 確かに甘い結果だった。本来ならば降格なり、体罰も在り得ただろう。対して異性恋愛罪は実の所具体的な刑罰はない。連隊の魔女としては屈辱であるのは確かだし、場合によっては陰湿な虐め等が行われたり、それを掛けられた魔女が暴走したりすることもあるわけだが。

 晴らす方法はたった一つ。

 嫌疑相手を――その手で殺すこと。

 

「その機会が私に与えられるのですか?」

 

「まだそれには応えられないわね。現場にいた貴方ならば解るでしょうけど、今回の件は元老院、それも議長殿からの勅命よ。私ですらも手の届かない部分が多いわ」

 

「どうして元老院は遠山キンジを改めて拘束など? 前回は一同拘束したにもかかわらず放置していたのに……」

 

「それは私にも解らないわよ。というか、この連隊において長官の私が最も彼女たちに縁遠い存在なのだから。それこそ、お前の方が彼女たちに近いでしょうに」

 

「……御冗談を。私は一介の魔女に過ぎません」

 

「それでも連隊に於いては最優の魔女よ。なんにせよ、当分の間はお前は遠山キンジとの接触は禁止よ。いいわね?」

 

「……ヤ・ヴォール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クスクス、上手く丸め込んだ物ねぇ」

 

「いえ、この程度造作もないですわ」

 

 そこはイヴィリタの執務室ではなかった。

 どころかこの世のどこでもない、魔女が作り出したお茶室。かつて遠山キンジが置かれた場所に、同じように大魔女五人にイヴィリタ・イステルは囲まれていた。

 

「あれは私に心酔していますので。最も、遠山キンジと関わったせいで唯々諾々とはいかなくなったようですけど」

 

「それがアレの面倒な所ね。自分に友好的な相手だけではなく、敵対者すらとも心を通わせる――くすくす、そういう意味ではリューンは危ないかもね?」

 

「あはは、それもそれで面白いねぇ」

 

「面白くありませんわ、だからこそ元々不干渉のつもりだったのですし」

 

「議長様には困ったもんだねぇ。おじさん正直気乗りしないわー」

 

「いやヴェーさん何もしてないしてないでしょう」

 

「そうよ、ヴェーは黙っていなさい」

 

「あるぇー、なんでおじさんディスられてるの?」

 

「ヴェーはそういう役回りでしょうね。それと遠山に関してはメルクリウスからは基地内ではイヴィリタ、お前に扱いが任されるわ。どうこうしろという指示は無く、お前の好きにしていいということだったけれど。どうするつもりかしら?」

 

「無論、私のやり方で扱いますわ」

 

 元老院議長の大魔女が一体どういう意図を以てしてイヴィリタに命じたのかは解らない。普通の魔女ですらイヴィリタには理解の及ばない存在であるのにその頂点である大魔女の思考なんて解るはずもない。

 だからこそ自分にできるやり方しかないのだ。

 

「ふぅん? どうするのかしら」

 

「当然、処刑ですわ」

 

 それ以外在り得ないと言わんばかりにイヴィリタは即答する。

 

「遠山キンジ――『絆の勇者(リンカー)』等と称されていますが我々からしたら『呪いの男(フルヒマン)。眷属の天敵に他なりませんわ。生かしておく意味はないかと」

 

「なんて、言うけれどね? できるかしら? 相手は『ただ知っているだけの人外』シャーロック・ホームズの後継者であり、覇王曹操すら下した相手よ。お前は遠山キンジをどうすれば殺せるのかしら」

 

「えぇ、えぇ。それが問題ですわね。正直言って自信はありませんわ。脳天に銃口叩き付けても生きてそうな人類かどうか怪しい相手ですし」

 

 果たして殺して死ぬのか――真面目に疑問だ。

 まぁ、なので、

 

死ぬまで(・・・・)殺しましょう(・・・・・・)

 

 それがイヴィリタの答えだ。

 

「手始めに拷問を掛けましょう。別に欲しい情報なんてないですけれど、可能な限りあれを消耗させます。なんだったら全身の骨を砕くなり、血を抜きまくって可能な限り弱体化させます。それから……ま、存在する処刑方法を一つづつ試しましょうか。全部試せば流石に死ぬでしょう、それで死ななければ私にはもうどうしようもありませんわ。その時は素直に白旗をあげましょう」

 

「あらあら――いいわねそれ」

 

 ベルンカステルはイヴィリタの出された案に唇を歪める。

 彼女だけではなく、他の大魔女たちも同じように。

 くすくす。

 げらげら――。

 拷問や処刑という単語が気に入ったらしい。

 

「くすくす、流石にイヴィリタ。自分のやり方なんていいつつ、私たちの好みも踏まえてるんだから。 ジェヴォーダンは?」

 

「万事滞りなく」

 

「結構、できる子は好きよ」

 

「ありがとうございます。ですから――」

 

「えぇ、解っているわ。例の件、期待してていいわよ? ()にするかは決めているんでしょう」

 

「勿論。私の知る最優の魔女がいますので」

 

 

 

 




色々詰め込んだ回でしたとさ。

キンちゃん様のピンチは続く。

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