落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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ちょっと前の私「よっしゃ三大リアルチートみんな出すか」

今の私「え、ちょ、ま……」


第11曲「貴殿の訪問を歓迎しますの」

 

 やらかした。

 全身を拘束服に縛られて身動きが取れない状態でしみじみ思う。

 輸送ヘリの中だった。ルーブル美術家の中で捕まった俺とジャンヌは聖銃に運ばれて、あれよあれよと気づけば空のお荷物だった。ヘリ内部は物は少ない。捕まった俺とジャンヌにカツェ、向かいに妖刕たちが並んで、壁際とかには武器とかがある。運転手はカツェの部下らしい。小窓の外を見れば少し遅れて飛行船が付いてきている。あっちにはカツェの所属する部隊の他の部下がいるらしい。

 しかしまぁ会話がない。

 ジャンヌはずっと俯いているし、妖刕は目を伏せ、魔剱が彼の肩にもたれて寝ている。大分自然な様子だができるのかこいつら。聖銃なんかはポルノ雑誌をパラパラめくりながらニヤニヤしている。カツェもドイツ語のティーン向け雑誌を読んでいた。

 息が、詰まる。

 まぁ俺としても別に気分が明るいわけではないけれど。

 こうして拉致されたというのはあまりよろしくない。美術館を探索中に中空知から戦闘音があると聞いて、行けばジャンヌがピンチだったから思わず一人飛び出した訳だが、そこが拙かったのだろう。ロンでも抱えていけばあの拘束を受けることはなかったかもしれない。

 何が悪かったかは明確だ。一人で先走ったせい。

 やっぱり俺は一人だと何もできないなぁと思う。

 まぁあの後すぐに魔剱や妖刕が合流したので他の皆は大丈夫であろうことだけが幸いだ。

 反省終了。 

 

「なぁカツェ」

 

「あ?」

 

「今これどこ向かってんの?」

 

「お前神経太すぎだろ」

 

 若干引かれた。

 

「いやでも気になるじゃん」

 

「捕虜に場所教えると思ってんのか」

 

「詳しい地理はいいからどんなとこかくらい教えてくれてもいいだろ? ほら、見ての通りお喋りするくらいしかできないんだから」

 

 肩を竦めようとしたら拘束服のせいで変な仕草になるが、それを見てカツェは心底呆れたように嘆息する。それから雑誌を閉じてくれた。

 

「連隊の保有するアジトだ。ヨーロッパ中に数ある中でも結構でかい奴だな。そこにお前を連れていく。アタシの任務はお前をそこまで連行することだからな」

 

「魔女のアジトっていうとあれか? めっちゃ豪華な洋館だったりするのか? そういうのだと俺も嬉しいな、美味しい珈琲も出してくれたらいいね」

 

「残念ながらうちはそんな御伽噺のお屋敷じゃない。つかアーネンエルベは立派な軍属だ。一昔前の映画の地下基地だよ。ついでに言えばお前に出されるのは泥水だ」

 

「そりゃ最高だ。アーネンエルベ……ちょっと聞きかじったけどナチのオカルト組織だったか」

 

「そんな感じだ。ま、お前の身柄求めてるのはもっと上の連中らしいけどな」

 

「?」

 

「ついてからのお楽しみだぜ」

 

「そのお楽しみは後どれくらいだ?」

 

「まだ何時間はかかる」

 

 まじかよ。その間ずっとこの姿勢は辛い。ただでさえ無茶な肉体強化で全身アホみたいに筋肉痛なのだ。

 

「お前は」

 

 うんざりしていたら目を伏せていた妖刕が口を開いた。

 

「お前はふざけているのか?」

 

「どういう意味だよ」

 

「そのままの通りだ。仲間諸共に拉致されて身動きができない状況で、なぜそんなふざけていられる」

 

 真っ黒なコートの高い襟で口元を隠しながら鋭い目で睨み付けてくる。敵意百パーセントって感じの視線だ。俺はこいつに何かしただろうか。多分さっき斬りつけられたのが初めてなはずだが。よくよく見れば結構若い。俺と同じかもうちょっと若いくらいだろう。

 

「答えろ」

 

「あー……別にふざけてるわけじゃないけどな。失敗の反省はしたからな、あと個人的にネガティブ思考は好きじゃねーんだよ」

 

「ふざけてるな」

 

 話通じないぞコイツ。

 

「真面目だって。てかお前名前教えてくれよ、『妖刕』って通り名しか知らないし、俺は遠山キンジだ」

 

「…………原田静刃」

 

 むすっとした感じでボソッと名乗られた。

 コミュ力低いな、昔の蒼一みたいだ。

 考えられる一番酷い評価を喰らわせてやっていたら

 

「はっはー、悪いな勇者様。うちの大将はアンタに結構な対抗意識燃やしててな。色々噂は聞いてるんだぜ。煙草吸うか? カツェはいるだろ」

 

「おう」

 

 

「俺はいい」

 

「そうかい、んじゃこっちの雑誌は? 美人ばっかだぜ?」

 

「悪いがその手の雑誌に触れると嫁から銃撃されるから触れないようにしてるんだ」

 

「ははは、笑えるな」

 

 マジだから笑えない。

 聖銃は懐から葉巻を二本とジッポライターを取り出し、葉巻の一本は自分で咥えもう一本はカツェに手渡す。カツェが懐からドイツカラーのジッポライターで火を付ける。

 聖銃も火を付け、

 

「よろしくな勇者様。聖銃、舩坂慧だ」

 

「……舩坂? 舩坂っていったかお前。まさか舩坂弘の孫か? 汎用人型決戦兵器の」

 

「あぁそうだよ。その頭悪いあだ名付けられたゾンビ爺の孫が俺だ」

 

 舩坂弘――その名前は武偵や軍人関係では有名だ。

 不死身の分隊長、生きている英霊、グンソーフクダ、日本歴史史上最強と名高い軍人だ。医者に匙投げられても死ななかったとか傷口に蛆湧いて自決しようとしたら不発弾だったとか死ねなかったから行軍したとかそれで死亡宣告されたのに三日で生き返ったとか瀕死で捕まったのに逃げ出したとか色々伝説に事欠かない超人なのだ。

 俺でもビビる不死身ぶりだ。

 いくら何でも三日も死んでいられない。

 

「つってもアンタの祖父さんだって大概だろ? 『ダイ・ハード』遠山鐵。うちの祖父さんはちょっと前にようやく永眠したけど、話はよく聞いた」

 

「俺も聞いたことあるよ、戦友だったてな。……でも、まさかこんなところで会うとはな」

 

「ま、俺は俺で爺は爺だ。爺の戦友の孫だからって俺はお前を助けたりはしない」

 

「態々口にしてくれてありがとよ」

 

 別に期待してなかったからいい。

 しかしまぁ驚きだ。こんなところに舩坂の孫がいることもそいつが訳のわからん不良神父だってことも。

 

「ま、色々あんだよ。ガキの頃にエロ本漁ってたらたまたま聖書見つけて暇だから読んでたら嵌ったとかだけどな」

 

「それは口にしなくていい」

 

 理由がわりかし下種だ。

 神か。

 俺はあまり信じる気にはなれない。日本人自体が宗教に興味は薄いし、俺だって似たような物だ。 あとそれに。

 極めて個人的な理由で、神様というのに縋るのは御免だ。 

 

「ふむ」

 

 退屈はそれなりに紛れている。

 が、しかしふと大事なことを思い出した。

 

「なぁ、カツェ。カツェ・グラッセ」

 

「なんだ」

 

「この状態でトイレはどうすればいい」

 

「漏らせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間、なんとか粗相することはなく、妖刕と途中で目覚めた魔剱に睨みつけられたり、カツェや慧と適当に時間を潰しながらもアーネンエルベのアジトへと到着した。ヘリから出る時に拘束服脱がしてくれるかと思ったがそのまま車椅子移動である。

 石造りの古城。

 重々しい雰囲気を漂わせたそれはこれまで見てきた歴史的な価値のある建物とは毛色が違った。別に空が曇ってたり暗いわけではないのに、城の周りだけが異様な雰囲気を保っている。魔性、なんて言えばいいのだろうか。古城全域を覆うように変な気配があるのが感じ取れる。多分結界か何かだ。輸送ヘリを車庫に収納し、通路を進んで室内へと行けば、待ち構えていたのは大量の戦車だ。

 

「博物館か?」

 

「あぁそうだ。普段は一般開放とかもしてる立派な国立の博物館だよ。『エコール戦争博物館』ってんだ」

 

 並んでいる戦車やミサイルは展示品であるが、よく見ればきちんと手入れがされ何時でも使える状態に保たれていた。つまり普段は博物館として機能していても有事の際は何時でも実用可能で、ここは体のいい武器庫というわけだ。

 上手いこと考えている。

 

「遠山、入館料八ユーロな。ジャンヌの分も含めて十六」

 

「え、金取るの?」

 

「ったりめーだろ。入館料払えばシュミレーターとか使えるんだぜここ。空方とかも打てて人気観光地だぞ――まぁお前が体験する暇ないけど」

 

 いやそうだろうけども。

 コイツ完全にただの嫌がらせだろ。拘束服に帰せられたときに武器とかスマホ、財布の類も全部没収されている。なので俺は何もできず財布から十六ユーロ没収されるのを見ることとしかできなかった。

 入館し、展示品などをガンスルーして関係者以外立ち入り禁止らしきドアを潜れば――そこはもう彼女たちの世界だ。

 

「ジークハイル!」

 

「ジークハイル!」

 

 出迎えたのはカツェと同じような三角帽子と軍服の人種様々な少女たち。ナチス式の敬礼を完璧に決めた彼女たちだったが、それを終わった後にはカツェを囲って姦しく騒ぎ出す。人気者らしい。

 

「カツェ、お帰り!」

 

「おう、ただいま」

 

「ちゃんと任務こなしたんだ!」

 

「けけけ、当然だろ!」

 

「それで今日はどんな失敗したの!?」

 

「失敗前提で話すんじゃねぇよ!」

 

「え、じゃあ失敗なかったの?」

 

「え、あ、あーそれは」

 

「ほらね! これでカツェの失敗に賭けた子の勝ち! ――まぁ全員なんか失敗するって賭けたからノーカンだったけど」

 

「貴様らァ! ホロコーストっすぞ!」

 

「きゃはははは!」

 

 まぁこれも愛されているのだろう。顔真っ赤にして軍刀振り回してるが完全に受け流されている。

 

「人気者だなぁ、結構」

 

 隣に同じように車椅子で運ばれているジャンヌに話しかける。妖刕たちはここに入るのと同時にどこかに消えていた。傭兵ということだしそれなりの扱いがあるのだろう。

 

「……」

 

「ジャンヌ?」

 

「……ん、あぁ、すまないな。聞いてなかった」

 

「いやいいけど……」

 

 大丈夫か、とは聞けなかった。もう何時間も顔色が悪い。多分、ルーブルでのことをまだ気にしているのだ。そのあたりは話すならもうちょっと落ち着いた場所で話したい。

 

「ったくどいつもこいつも……行くぞ遠山。お偉いさんたちとのご対面だぜ」

 

 カツェが先導し、他の魔女たちに押されながら通路を進んでいく。そうして連れて行かれたのは赤い豪奢な扉の前。如何にも偉そうな奴がいそうだ。

 

「西方大管区フランス管区所属魔女連隊連隊長カツェ・グラッセ、入ります」

 

「入りなさい」

 

 待ち構えていたのは金髪碧眼の美女だった。 

 彼女の執務室なのか他には誰もいない。高価そうな調度品に彼女の背後には日本人の男と欧米人の女の肖像画。それだけならともかく女の足元には何故か黒豹が寝そべっていた。カツェ達と同じような軍服だが、被っているのは軍帽で襟章もカツェや他の少女たちより地位が高い。左右柏葉三枚、星無しの徽章は少将の証だ。いつだったレキのイ・ウーで来ていた軍服と同じものだろう。

 

「ジークハイル!」

 

「ジークハイル」

 

 挨拶は交わされ、俺たちの車椅子を押していた魔女たちは退室。残されたのは俺たち四人だけ。

 そして切れ目の碧眼は真っ直ぐに俺へと注がれる。

 真紅の唇が蠱惑的に孤を描いた。

 

「お会いできて光栄ですわ遠山キンジ卿。私はイヴィリタ・イステル少将、ここの責任者よ。手荒な真似をして申し訳ありませんが貴殿の訪問を歓迎しますの」

 

「……それはどうも」

  

「あぁカツェ。彼らの拘束も解きなさい。いつまでもそんな恰好を指せておくのは失礼だわ」

 

「ハッ!」

 

 あっという間に拘束服を脱がされた。かなり雑に制服の上から被されていたから俺は平気だが、ジャンヌは下着姿だ。ブレザーを彼女に渡してからイヴィリタを視線を戻す。睨み付けるくらいの視線だったが、彼女には笑みが浮かんだまま。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「今回、貴殿を拉致した理由はお分かりですの?」

 

「そんなもん、心当たりが多すぎるけどな」

 

 『師団』総長であることは言うまでもないし、色々やらかした俺を捕まえたというのも名を売るのには持って来いだろう。ついでに恨みだってどこで買っているか解らない。

 

「そうでしょうね。『極東戦役』に於ける貴殿の重要度は最高クラスです。さらにはRランク武偵への昇格を快く思っていない欧州武偵連盟からすれば漬け込む絶好のチャンス。さらにブラド、ヒルダを打倒した貴方は魔女や魔術師からも快く思われていませんね」

 

「それは知ったこっちゃねぇな」

 

「でしょうね、私は魔術の素養があまりないのであまりそのあたりの感情はないですが。今回貴殿を強引にお招きした理由は――上からの命令ですの」

 

「……上、ね。アンタ将官だろ? それよりも上っていうと」

 

「あぁ軍部の上ではないわ。魔女として(・・・・・)の上(・・)元老院(・・・)といえば解るかしら?」

 

「……?」

 

「な……!?」

 

 聞きなれぬ言葉に首を傾げたが、ジャンヌの方の反応は劇的だった。ただでさえ悪かった顔色がさらに悪くないり、驚愕に染まっている。

 

「知ってるのか?」

 

「魔女で知らなかったらモグリですよ、遠山卿」

 

「……」

 

「なんでしょうか」

 

 いきなり敬語を使ってくるカツェである。正直気持ち悪いな。こいつはもっと下品な感じでげらげら笑って笑いすぎるくらいが丁度いいと勝手に思う。

 

「つまり俺を拉致って来たのはその元老院ってのの命令ってことか」

 

「えぇそうですよ遠山卿。本来ならばまずは尋問なり拷問に掛けることですが元老院は全ての魔女の最上位機関。拒否は許されません、まずは……そうですね、着替えでしょう。流石にその恰好では拙いですの。場に相応しきドレスコードを。カツェ、手配はお前がしなさい」

 

「ハッ、ジャンヌはどうしますか?」

 

「ふむ……」

 

 少し首を傾げ、

 

「彼女は任務に含まれていません、独房にでも放り込んでおきなさい」

 

「ハッ」

 

「っておい、ちょっと待てよ。なんでジャンヌだけ」

 

「いいのだトオヤマ」

 

 ジャンヌは弱弱しく微笑んでいた。

 俺が貸したブレザーを体に巻き付けながら、仕方なさそうに。

 

「元老院の大魔女たちは私など相手にしないだろう。私が言えたことではないが、気を付けろ」

 

 それは懇願するような声。

 今にも壊れそうな薄氷みたい。

 

「……解ったよ。おい、カツェ。手荒真似とかすんじゃねぇよ」

 

「無論。トオヤマ卿は今は客人ですので。できる限り要望にはお答えします」

 

 口調だけは慇懃に、けれど口元だけは歪ませながら厄水の魔女は哂う。

 そして魔女たちの長もまた、真紅の唇を歪ませた。

 

「では参りましょう、欧州の地を支配する――魔女たちのお茶会へ」




尚原作でポンコツなイヴィリタさんは戦闘力低いけど知能指数はめちゃ高い模様。静幻司馬懿クラス。
欧州では評価高いキンちゃん様ですがアメリカいったらそーでもないことになる模様

次回、魔女たちのお茶会……!


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