落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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BGMに引き続き、『Libera Me' From Hell』
途中から空色デイズを流すとおすすめ。※があるところからですねー


第27拳「一緒にぶっ倒すぞォォッッーーーーー!」

「貴女はきっと誰にも愛されないでしょうね」

 

 かつて猴という名の少女は斉天大聖孫悟空に対してそんなことを言った。

 それを孫は何を馬鹿なことを、と笑い飛ばした。そんなことがあるはずがない。緋々神から離反したとしてもその性質からは逃れられない。その存在は愛と戦と恋が全て。恋に生まれ、戦いに生き、愛に死ぬ。最早一つの概念となり、猴のような己と親和性の高い身体を依代としなければ存在できないが、それは絶対だ。

 愛の炎は胸を焦がし、恋の涙は心を裂き、戦の血は身体に刻まれる。

 

「そうでしょうね。確かに誰に恋をし、誰かを愛するということに関しては貴女以上の存在なんていないのでしょう。貴女はそういう存在だから。人間が息をするように、魚が水の中を泳ぐように、鳥が空を飛ぶように。貴女もまた恋をする」

 

 そう、それが自分だ。もう何千年もそうして生きてきた。千年だか二千年だったか前に徳の高い坊主に捕まってインドまで行った時にある程度の人間の常識というのは学び、移り変わるそれに適応するようにはしているが所詮は些事だ。

 その存在理由が揺らぐことはない。

 実際にこれまでも何人もの益荒男と愛をぶつけ合った。閨で身体を交わしたこともあったし、戦場で傷を刻みあったこともある。伊達に長い間生きてきたわけではない。それは彼女だって知っているはずだろうに。その時はまだ猴と孫の身体は随分と幼かった。互いの魂が干渉し合っている故に肉体の成長が十程度の少女のままで止まっていた。だから自分も孫も見た目通りの年齢ではない。猴の身体に宿った以前のことも記憶が共有されているはずなのに。

 

「えぇ、知っています。知っていますとも。全てを知った上で私は言うんですよ」

 

 貴女は誰にも愛されないと。

 孫からすれば在りえないことを猴はもう一度言った。

 

「愛することを求めるが故に――貴女は愛されるということを忘れてしまった」

 

 淡々と、切なそう、悲しそう。

 胸に手を当てながら。

 あるいは、孫を憐れむように。

 下らない、馬鹿にするな、そんなようなことを言って鼻で笑うのは簡単だった。

 それなのになぜか何も言う気にならなかった。理由は自分自身でもよく解らず、けれど猴の言葉は胸に突き刺さった。心の奥底に、小さな棘として。何時までも消えないままに不可視の傷として残り続けた。

 

 ――猴が消えてしまってからも。

 

 十八年前のことだ。その時はよく解らなかった。ある時から少しづつ猴の意識が薄れていき、一年も経たないうちに彼女の意識が消滅してしまったのだ。孫もまた人が簡単に死ぬということは解っていた。ただの脆弱な人間はあまりにもすぐに死んでしまうのだ。実際にそう見てきた。戦争でも起こればそれも日常茶飯事で、驚くことはないはずなのに。

 それでも、いくらなんでもあんまりだと思った。

 馬鹿みたいに呆気なかった。

 それくらいにあっさりと猴は共有する身体の中から消え去った。

 今思えば、那須蒼一が生まれたからなのだろう。自分の同類である彼の誕生に孫の魂が共鳴し、猴の魂を押し潰した。つまり原因は自分にあった。

 気にくわなかったのがそれに一切猴が抗わなかったこと。次第に消えていく存在に恐れもせずに、寧ろ受け入れていた。気にくわなかった――というのは違ったかもしれない。悲しかったのだ。そんな風に諦めてほしくなかった。だからって、諦めるなとか頑張れとか無責任な台詞を吐くこともできずに彼女は消滅しきった。

 残ったのは孫の魂に適合するために成長を始めた身体と彼女の名前だけ。

 そして猴の消滅により暴走を危惧されたことによって、その体は藍幇の上層部よって封印された。刃向かう気にもならなかった。どうでもよかった。投げやりになっていた。どうして猴があんな風に消えることを受け入れたのか解らなかったから。あるのもないのも変わらない束縛に囚われた。

 それから数年後、彼女は那須蒼一とは違った意味で己の対極と出逢いその時間を動かした。

 そのさらに数年後、蒼一の存在を知って彼を愛した。愛してしまった。何故か、消えてしまった少女の名を名乗って。

 結局孫には何一つ解っていない。

 かつて与えられた棘は残り続け、彼女の想いも未だ理解できず、蒼一も受け入れてくれない。

 彼女には解らない。

 解るはずもない。

 人間の想いを――化物では解らない。

 握拳裂のように、シャーロック・ホームズのように。

 もしも、たった一つ。彼女の間違いとも言えない間違い。いっそ不幸なんて言い方をしてもいいとしたならば。握拳裂との、シャーロック・ホームズとの決定的な差異を上げるならば。きっと彼女を知る誰もが口を閉ざし、目を背けるだろうが、最終的に導き出される答えは共通するはずだ。

 

 

 

 ――彼女は誰も愛していない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 血色が心臓を貫くだけでは終わらなかった。直後に叩き付けられる棍。端を両手で長剣のように持って思い切り叩き付ける。その棍もまた最上位の聖遺物。伝承に存在する如意棒は猴の有するレーザーではあるが、それもまた同じもの。伸縮自在は当然として重量すら操作できる自在棍。金剛のような硬度を持ちながらも、上質の竹のようにしなりを持っている。

 それが襲い掛かった。

 

「キキッ――!」

 

 レーザーによる一撃で動きが止まり、その刹那に猴が転移する。これまた如意棒と同じような伝承由来のもの。筋斗雲。どこまでも飛び往く雲の正体は転移術。張遼の移動補正ではない、正真正銘の空間転移だ。猴が思い切り棍で腹を打撃する。それにより体が吹き飛び、その先に猴が転移し、同じように棍を振りぬく。

 

「――!」

 

 あとはそれが連続するだけだった。

 殴られ、弾かれ、転移し、また殴られ、飛んだ先にはもう猴が如意棒を振りかぶっている。衝撃と破壊の無限回廊。ミキサーに放り込まれた肉塊と大差ない。皮が弾け、肉が拉げ、骨が砕ける。破裂するように噴出する血は高度故に低気温で凍って、血色のダイヤモンドダストのように散っていく。果たして何十秒続いたのか。例え瑠璃神之道理を発動していても本来ならば命を落としていた。それでも未だに人の形を残し、生を繋いでいたのはそれだけ完了に戻っているということだろう。

 

「これで、落ちろ―――!」

 

「が……ァッ!」

 

 最後の一撃は真上からの突きだった。音速など軽く突破し、雷速すら超え、光速を宿す。激突音や悲鳴もなにもかもが着弾してから発生した。ただの刺突ではない。逸話通りに巨大化棍を巨大化させ全身を万遍なく、同時に衝突させた。

 そのままに落下し――、

 

「――」

 

 一瞬で海中に突っ込んだ。

 すぐに全身を冷たい水が包み込み。俺たちがいた地点は高度何百メートルという所。時速二百メートルで落下した時の衝撃波コンクリート並という話はあるが不思議と衝撃は感じなかった。いや、そもそも痛みなんてものはこの戦いが始まってから全く感じていない。俺が今いるのはそういう領域だったから。

 ただひたすらに寒くて、冷たくて、寂しいのだ。

 身体の寒さではない。心の寒さだ。

 その冷たさが心を麻痺させていく。

 この寂しさが全てを奪っていく。

 

「は――」

 

 これまた一年前と同じだった。

 世界から切り離されていく。

 落ちて、落ちて、落ちていく。

 消えて、消えて、消えていく。

 朽ちて、朽ちて、朽ちていく。

 壊れて、壊れて、壊れていく。

 死んで、死んで――死んでいく。

 

「はは――」

 

 だからこれは最後の刹那。蝋燭の最後の揺らめき。死は今すぐ訪れるからこそ、今の間際の時間は永遠のように。引き伸ばされた感覚は無限だ。

 俺の存在は必要ない。それは間違いない。俺の役割はどこにもない。

 皆にはキンジがいる。紛れもない勇者といえるアイツがいるのならばこの先何があっても大丈夫だし、魔王たる曹操を打倒してくれるだろう。そして同時に俺は猴のように戦いを愉しむ英雄にもなれない。 

 勇者とは皆に求められ、その想いに応える者だから。

 魔王とは他者を征服し蹂躙し、己の物とする者だから。

 英雄とはそう呼ばなければ存在が許せない者だから。

 俺は、違う。そのどれでもない。

 もしかしたら、俺はいつか英霊のような存在として祀り上げられるのかもしれない。しかしそれはあくまで保有する武威への信仰故だ。俺自身はそのどれらにもなれない。

 だから誰にも交われない。

 誰とも繋がらない。

 誰とも一緒になれない――

 

 

「ははは――」

 

 

 ――――本当に?

 

 

 あの時と同じ? 

 あの時と一緒?

 何も変わっていないのか? 

 何も変えられなかったのか?

 あの屑であった那須蒼一と今の那須蒼一は同じ存在なのか?

 

「……そんなわけないだろ」

 

 だって。

 

「――レキ」

 

 だって俺は彼女を愛している。

 何も解らなかったかつてとは違う。確かに俺は馬鹿だし、不器用だし、解っていることの方が少ないけれど、それでも自分の気持ちは違えることなく自覚している。だからこそ、俺はあるのだから。

 全身余すことなく満身創痍、指先一つ動かない絶対絶命。

 そんな状況での胸の鼓動は消えてなくならない。

 

「れき……レキ、レキ――レキ」

 

 彼女の名前を呼ぶ。呟いた分だけ胸に灯る熱は強さを増していく。

 とくん、とくん、とくん。

 微かに、けれど確かに震える魂。

 自分でも単純だなぁと思う。大層な理由じゃない。誰かからすれば本当にちっぽけな理由だろう。ただ好きな女の子の名前を呼ぶだけで、ただ惚れた少女を想うだけで。

 それだけで拳を握れる。

 それだけで戦える。

 結局俺はそういう人間なのだ。

 惚れた女の子の為に命を張って、魂を懸ける。

 那須蒼一はそういう頭の悪い生き方しかできない。

 好きな女の子と一緒にどこまで落ちていく俺がいた。高嶺に咲き誇る華を摘むために最高を求めた俺がいた。人に憧れ、終焉を求め、少女の始まりの中で幕を引いた俺がいた。最強と寄り添い天下に己の名を叫んだ俺がいた。時代を間違えた聖女の愛を証明する俺がいた。血の呪いに縛られ、しかし祝いのように生きた俺がいた。虐げられ続け、それでも自殺志願の人外と共にいる俺がいた。落ちるところまで落ちて、へらへらと笑う俺がいた。他にも、他にも、他にも――。

 一々あげていけば限りがない。けれど共通するのは、いつだって俺は誰かを愛し、誰かに愛され、その想いを拳に乗せてきた。

 そして今、この俺は、

 

「――一緒に生きていきたいよ」

 

 願いはたったそれだけ。

 人間のままでいられるのも、生きようと思うのも、ただ彼女と一緒に生きていきたいから。果てしなく広がる蒼穹の下で一緒に駆け抜けていこう。一日の終わりに包んでくれる黄昏の中でお互いを抱きしめ合おう。先も見えない無明の暗闇では少しずつ、確かめ合いながら進んでいこう。始まりの夜明けには朝日に向かって歩いて行こう。これからずっと。これまでよりもっと。お互いを好きなって、愛し合って――生きていこう。

 その誓いは何一つ変わっていない。寧ろ強くなる一方だ。

 彼女こそが俺の生きる理由で、戦う意味なのだから。

 なぁ、レキ。お前だってそうだろ?

 

『えぇ、当然です』

 

 俺はさ。確かに昔は繋がりとか鬱陶しかったよ。絆とか要らないと思ってたよ。今だって距離開けた方がいいと思うし、価値観のズレは感じるよ。ここに俺はいらねぇなぁって、思うのはさ、本当なんだ。やけくそとか、意地とかじゃない。

 

『はい』

 

 ……でもさぁ。

 それは間違いないんだけどさぁ。

 

 俺は――アイツらと一緒がいいんだ。

 

 繋がりが愛しいよ。絆が暖かいよ。距離感があっても価値観のズレも関係ねぇよ。皆違って、皆良い奴らだからさぁ。昔の俺みたいな屑野郎も受け入れてくれたお人よしばっかだからさぁ。アイツらと一緒に馬鹿やりたいんだ。楽しいもんなぁ。役割とかないけど、きっと受け入れてくれるだろうし。

 

『そうですね。私もそう思いますよ』

 

 此処にいていいのかとか、そんなことはもう考えない。

 此処にいようって、俺は決めたんだから。

 

『――それが貴方の応えならば。忘れないでくださいね、貴方が想っていることは私の思っていることでもあるんですから』 

 

 あぁ。

 だったら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、ぃ、ぁ……!」

 

 全身の血液が沸騰する。

 防御をする暇もなかった。破壊の光輝が何もかもを粉砕し、キンジの身体を蹂躙する。死にかけだった身体に叩き込まれる文字通りの必殺。これまでキンジだって決して簡単ではない戦いを潜り抜けてきた。けれど今までのどれもと格が違う。その強度、概念、純度。ありとあらゆる事項がそれまで受けたことごとくを完全に上回っていた。

 自分が今どうなっているのかもわからない。痛覚なんてものは吹き飛んだ。もしかしたら腕の一本や二本とか頭の半分とかくらいは消滅したかも。視界を埋め尽くすのはただ眩しい光だけで、もう何が何だか解らない。

 はっきりとしているのは――ここで諦めれば楽だということだ。

 これを受けてまさか責めるような者はいるまい。ここで死んで地獄に行っても親父だってきっとそこそこ褒めてくれるはずだ。それくらいには頑張った。だから諦めたらもう痛いのとか辛いのとかからも解放される。別に曹操を恐れる気持ちがないわけではないのだ。キンジはあそこまで外れていない。純粋な生物としての恐怖感は当然ある。素の戦闘力で言えば絶対的に劣っているわけだし。

 あれとまともに戦えるのは蒼一とか遙歌とかカナとか、それくらいに外れている存在のはずだ。

 だから試しに諦めるというのをやってみよう。

 なんか知らんけどこんな状況にもなっても馬鹿の一つ覚えみたいに握っている剣から手を離してみよう。恐ろしいことにこの中でも未だに緋刀やサバイバルナイフは砕けるどころか罅一つ入っていない。こいつら手放せば諦めたことになるんじゃないか? それ以外だと未だに踏ん張って体を支えている膝を折るとか。我ながらゴキブリみたいなしつこさでへばりついているが、離れてしまえば案外吹き飛んで海に落ちるとかでギリギリ命助かるとかするかもしれない。

 いちにのさんはい。いっせぇーので、

 

「――できるわけねぇ」

 

 身体が削れていく実感があったので声帯が無事なのか解らないが、とにかく答えを出した。 

 そもそも最初から選択肢にあるわけがない。ここでそんな結末を赦せるのならばこんなところまで来ていなかった。

 ならばこの状況を打破できるのはなにか。

 死に片足突っ込むどころか片足以外を突っ込ませているような展開に於いて自分ができることはなんなのか。

 

 ――まぁぶっちゃけそんなものはない。 

 

「ハハハ――」

 

 自分がそういう存在でるというのは解っていた。それにしたって笑えてくる。何かしようと思う時は自分は何時だって誰かを頼っている。

 崩壊は止まらず、しかしそれでも苦笑はもまた同じだ。

 だったら。

 いつも通りに。

 俺たちらしく。

 皆にたくさん力は借りたけど、やっぱそれだけじゃ足りないらしい。俺が使うにはお前らの力は恰好よすぎるぜ。俺は一人じゃなにもできないから。すっげー頑張ってくれたんだろうけど、もう一頑張りしてくれよ。大体こんな大舞台で俺一人にやらせてもいいのか? ここで俺のこと助けてくれたなら、きっと恰好いいぜ? それでそのまま皆であの金ぴか突っ込んで、俺が勝ったらさ。最高だと思わないか?

 

「行こう、皆――頼りにしてるぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 猴と曹操は同時に見た。

 己の相対者の変革を。決して侮っていたわけでもなかった。一様に放ったのは紛れもなく決殺の秘奥義だった。この一撃で終焉となることも半ば確信していたし、蒼一が水中に没するのも、キンジが黄金に飲まれるのも確認した。

 だからこれ那須蒼一と遠山キンジが、二人の思考を完全に上回ったということだ。

 

「さぁ――」

 

 海が弾けた。まるで海中で大規模の爆弾が炸裂したかのように、周辺一体の水が衝撃を受けながら水滴や霧となって周囲に拡散する。蚩尤天にも降り注ぎ、揺らし、猴すら届いたほどだ。

 黄金の殲滅が打ち砕かれた。それが何であるか曹操は理解が及ばなかった。最速の因果が、導き出された結果が緋色の炎と共に概念事消滅させた。拒絶されていた桜吹雪が勢いを増し、増幅する結果が呆気なく音を立てて粉砕された。

 

「一緒に」

 

 猴はそれがなんであるか欠片も理解できなかった。爆裂の中心部にいる少年。自分と同類だと思っていた孤独の一刀。なのに、どうしたってそんな風には見えなかった。その背に、その拳に。数えれきれないほどの愛を宿してそこにいたのだから。

 曹操には最高級のオーケストラの演奏を見ているように見えた。複合概念を宿した極光。だからこそそれはキンジがその絆の力を引き出そうとも攻撃に使えるのはランスロットと白雪、アリアだけ。最終的に内包していた概念の数という至極単純な理屈で押し勝てるはずだった。しかし現実は違う。

 

「一緒に――」

 

 空気が震えていた。大気が、世界が。まるで誰かの心音みたいに。

 旋律が響いていた。大気が、世界が。まるで誰かの演奏みたいに。 

 

「一緒にぶっ倒すぞォォッッーーーーー!」

 

 誰かなんて言うまでもない。

 この二人以外にいるはずもない。

 ついにその真価を発揮する緋色と瑠璃色。

 震える魂。己の愛。那須蒼一の根源はそういったものだ。そして今臨界を突破し、世界の枠を超え、あったかもしれない可能性の自分と共鳴し、使えたかもしれない能力を体現していく。魂の震え。心の絶叫。共振作用であり狂信然様。狂気にまで至った愛は、愛の為に狂い、世界をも超える。

 それが――言葉(スタイル)『言魂遣い』。

 響き渡る絆。奏でられる魂。それを引き出し使うというのは違ったのだ。自分らしくあればと願うのだから借りて使うのは違った。遠山キンジとはそんな自分勝手に滅茶苦茶する奴らをまとめて、彼らの歌を指揮するのが本来の形だ。今こそその覇道が本来の形に収束していく。

 それが――『響き奏でる(スカーレット・)絆の緋想詩編(シンフォニア)』。

 

「――」

 

 二人の身体が急速に修復されていく。

 蒼一のそれはまるで呪いのように、彼という存在の完全状態へと回帰させていく。キンジの体内にて細胞活性の薬物が精製される。それらが全身に行き渡り、回復を開始するが全快には届かない結果に終わる。しかしその結果はより成果を昇華され治癒を完了させた。

 猴は見てしまう。たった一人であるはずの蒼一の隣に瑠璃色の少女がいるのを。彼女だけではない。一緒に堕落したがったり、高みで待ち望んだり、背中を向け合うように、寄り添い合うように、背後にて祈るように、雁字搦めに縛られ合うように、見下し蔑みしかし目を離さないように、互いに破滅を願うように。いつかどこかの那須蒼一が愛し、愛された少女たち。全ての彼は叫んでいる。俺の愛が一番強いんだって。俺の想いが一番恰好いいって。

 曹操は見る。緋色の指揮に従って旋律を奏でる者たちを。誰もが好き勝手にしている。自分らしくやりたいようにしているだけだ。同じ曲を引いているようには思えない。けれど誰もが自分たちを導く少年を見ている。彼が振るう指揮に従っている。誰もが強いられたわけではない。ただ、彼ら自身が彼に奏でられたいと思った。忠義に身を捧げる騎士。吹っ切れたように笑う医者。星の輝きを炎の煌めきを担う巫女。最低でありながら最高を望む大怪盗。そして誰よりも高らかに、周囲の音と交わりながら誇らしげに謳う歌姫。

 

「は」

 

 そして笑う。

 

「ハハ」

 

 心の底から。

 

「ハハハ」

 

 魂を響かせて。

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

 那須蒼一と遠山キンジはこの刹那が何よりも貴いものだと確信していた。




終らんかった……!
久々に蒼一のモノローグに気合入れたら終わらない。次こそ終わる。
ちょっと書きすぎてくどくなったかなぁと思ったけど反省はしない。

蒼一のスタイルはエクストラ編で出ましたが、これまでやってきた番外編で覚えるスキルを全部使用できるというもの。
キンジは流出(おい)は軍勢変生特化。つまり仲間の力を引き上げて使うだけじゃなくて、組み合わせて強化できる。つまり合体攻撃がデフォルト。
どっちも応用度が尋常ではない()

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推薦とかもよかったら。
今度こそ感想が300行くのかなぁと。

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