落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第12拳「信じるってことは裏切られてもいいって思うことだろう」

「えっと……それでは、諸葛静幻君の『バスカービル』入会? 入団? 面接を初めたいと思います」

 

「よろしくお願いします」

 

 ぺこりと、静幻が綺麗なお辞儀をする。たっぷり一秒頭を下げてから上げた顔には変わらず笑顔が張り付いていた。

 ICCビルのベースに帰還してから二時間ほど経っている。その時間はほとんど回復や治療に当てられていた。俺やキンジ、アリア、白雪は比較的軽傷で、レキも『瑠璃神之道理』の発動である程度治癒できたが、ランスロットと理子、それにワトソンはかなり酷かった。 ランスロットと理子は言うまでもなく致命傷だったし、ワトソンは潜入してきた曹仁と戦闘を行ったらしく首筋や手首、脇の下、さらには内腿といった血管が太く、小さい傷でも致命傷になりやすい箇所を集中的に傷を入れられ軽くホラー状態でぶっ倒れていた。

 軽く失血死寸前だったとか。

 代わりに向こうにも致死性の高い猛毒を打ち込みまくったらしいが。

 相変わらずやることがえげつないと思うがそれでも撤退したというのだから恐れ入る。

 そんな感じで半壊状態だったが、ワトソン自身の回復薬と静幻が手配していてくれた医療班のおかげで治療は完璧だった。最も三人とも重傷人は変わりないのだが。ついでに言えば理子は封印中のヒルダの影響で回復速度はやたら早いし、ランスロットは――本人曰く――忠義で動いてるので問題ないらしい。ワトソンは自分で作った増血剤をむさぼっていたが。

 そんな感じで全員一息ついて、腹ごなしもしつつ。 

 仲間に入りたいとのたまったという静幻の面接を行っていた。

 円卓の上座にキンジ、その正反対に静幻。俺とレキは窓際で傍観しつつ、他のメンツはキンジの周囲にたむろし、ランスロットとワトソンは静幻の背後に立っている。

 

「あー、じゃあそうだな。趣味は?」

 

 お見合いかよ。

 

中国将棋(シャンチー)をライフワークにしておりますが、チェスや将棋、囲碁、その他世界各国のボードゲームの類を好んでおります。ここ数年では日本製のシュミレーションゲームも少々」

 

「ふむ……特技は」

 

「頭脳労働は得意ですね、血筋柄。権謀術数陰謀作戦戦略小細工ならばお任せ下さい。それと少し前までは八極拳もやっていましたが、今では健康法程度ですかね。あとは、株なども」

 

「稼いでるのか」

 

「えぇ、まぁそこそこに」

 

 絶対に稼いでる笑顔だ。

 

「なるほどな……じゃあ、これ聞き損ねてたが、なんでバスカービルに入ろうと?」

 

「それは」

 

「お待ちくださいキンジ様」

 

「ん、どうした」

 

「一言よろしいでしょうか?」

 

「いいけど、喧嘩売るなよ」

 

「Yes,Your Majesty。いいかね、静幻殿よ」

 

「なんでしょうか」

 

「正直言って、私は君を信用していない」

 

 そう言ったランスロットは背後から静幻を睨みつけながら、円卓の果物籠に手を伸ばす。

 

「君が一体どんな理由でキンジ様に近づこうとも! この忠義の騎士ランスロット・ロイヤリティは君の戯言全てを見逃さん! そして!」

 

 伸ばしたでオレンジを掴み、掲げ、

 

「今の君にはこのオレンジ一つ渡す気はない! それでも理由とやらを吐けるのであれば吐いてみたまえ!」

 

「シャーロック・ホームズや曹操様、ジーサード殿、さらには貴殿とのキンジ様の決闘を映像越しとはいえその器に心を打たれました。この身は軍師、支えられる王がいなければ意味がありません。故に、素晴らしき王の資質を持つキンジ様の仕えることこそが私の役目だと思ったのであります」

 

「――オレンジ食べるかね?」

 

 そのまま静幻に手渡した。

 

 

・約全員:『それでいいのかよ!?』

 

 

「ちょっと待ってください! キンちゃん様! 私の占い聞いてくださいっ、今、今、ここでこの人を仲間にした場合の私とキンちゃん様と愉快な仲間たちの運命は、運命はぁ……!」

 

「これはこれは流石は星伽の巫女の星伽白雪様。キンジ様と最も縁も付き合いも長いというのは伊達ではないようですね。えぇ、存分に私を見定めてください。幼き頃より常にキンジ様のそばにい続け、支え、これから先も寄り添っていくであろう貴女ならば私を見定めるのには最適でしょう。それで、どうでしょうか。私の存在はキンジ様と白雪様の未来にどのような影響を」

 

「――超吉! 凄い大吉! 仲間にすれば私とキンちゃん様の未来は凄く明るいよ! 正妻巫女の白雪ちゃんが保障しちゃう!」

 

「ちょっと白雪! 何勝手に正妻名乗ってるのよ、それアタシ! つーかアンタも見え見えなお世辞に乗せられてんじゃないわよ! 少しは考えなさい、いい? 私の直観によればこいつを仲間にすれば」

 

「神崎・H・アリア様。緋色の姫君、キンジ様の寵愛を最も受けしお方であり、シャーロックの曾孫様でしたね。私は生前彼と付き合いが深くくてですね、常々自慢の曾孫の話は聞いておりましたよ。一目見てすぐに解りましたとも。顔立ちは言うまでもなく精神の在り方までもを正しく受け継いでおられるようだ。彼も鼻が高いでしょう。キンジ様に仕えるということは王妃である貴女にも仕えることです、その時は貴女の曾おじい様の話も、と思っておりますよ」

 

「――凄いわ! かつてなく私の直観がこいつを仲間にしろと言ってる! ビンビンよ! 目覚めた超直観がそう言っているわ!」

 

「ちょっとちょっとアリアぁー。アリアまでなにそんな口車に乗せられてのさー。どこがホームズっていうんだよー」

 

「けれどホームズはホームズであってアリア様もアリア様ですし、理子様も血筋はどうあれ理子様にはお変わりないでしょう? 血はどうあれ、結局のところ価値を決めるのは己の身と友なのですから。そういう意味では貴女以上に体現している女性はいないでしょうね。敗北を重ねながらも己の血と向き合い、仲間たちの力と共に忌まわしき過去に勝利する。我々の様な英雄の子孫としては貴女こそがあるべき姿なのではないでしょうか。加入云々を抜きにしても、貴女のことは尊敬させていただきます」

 

「おいおいそんなに褒めるなよ。裸エプロンでもしてほしいのか? しょうがないな、キンジの為に取ってい置いたんだが一秒だけなら見せてやろう」

 

「いやいやいやいや! 君たち、いくら何でも懐柔速すぎるだろう! どう考えて解りやすいお世辞にそんな反応して」

 

「いえいえ本心ですとも。ただ、そうやって身構えるのは当然でしょうね。貴方のように意識をして皆さんのストッパーとなって敢えて厳しい意見を出すのは本人にしか解らない辛さがあるでしょうに、素晴らしい心意気です。貴方のような人こそが、土壇場になってチームを救うのでしょう。どうぞ、私を警戒してください。それができるのは貴方だけなのですから」

 

「……解って、くれるのかい……? 僕の気持ちを……う、うぅ……っ」

 

「ダメだこりゃ」

 

「はいターイム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をやってるんだお前らは」

 

「すいませんでした……」

 

 全員俺たちの方まで来て反省会である。全員がキンジへと項垂れていた。微妙に影が重い。なんかブツブツ言ってるし。

 

「お前らちょっと反省しとけ……それで、そこの関係ないと言わんばかりに傍観してるそこ二人」

 

「なんだよ」

 

「なんですか」

 

「なんだじゃねーよ大事なことだから話加われよ……というか何やってんだお前らは」

 

「別に特別なことはしてないが」

 

「ですね、何かおかしいですか?」

 

 顎の下のレキと共に首をかしげる。

 顎の下というか、腕の中というか、胸の中というか、膝の中というか。とにかく胡坐をかいた俺にすっぽりとレキが収まっている形だ。レキが小柄なので丁度レキの頭、というかヘッドホンのアーチ部分が顎に乗るのでおさまりがいい。これくらいならばここ一年くらいずっと行ってきたのだから今更驚くこともないと思うのだが。

 

「いやお前ら数時間まですげぇ冷戦というかお前なんかここから飛び降りようとしたり海飛び込んだんでたような……」

 

「冷戦? なんだそれ、俺とレキが喧嘩するとか在りえないだろ? なぁ」

 

「えぇそうでね。私たちは何時でもどこでもラブラブカップルです。私以上に蒼一さんのこと好きな人はいません。逆はどうでしょうね?」

 

「あ、こいつぅー。俺だって俺以上にお前のこと好きな奴はいねーよ。あはは」

 

「うふふ」

 

「蹴り落とすぞテメェら……あぁ、いいや。とにかく、どう思うよ、アイツのこと」

 

「どうと言われてもね……」

 

 こっちを笑顔で見ている静幻に視線を向ける。ニコニコと笑ったままランスロットからもらったオレンジを齧ってた。そんな姿を見て、俺はキンジに感想を述べる。

 

「よく解らねぇっていうのが正直な所だなぁ」

 

「……ふざけてるんじゃないよな」

 

「ちげーよ。まぁこのあたり観念的な話になるしすげぇレアなんだが……静かな強さと激しい強さの話覚えてるよな?」

 

「一応な。お前やレキが静かな強さってやつだろ? 俺たちは激しい方」

 

「そうそう、んでアイツは完全に俺たちの同類だ。でも俺やレキみたいに戦闘映像が出回ってないから強そうに見えない。実際に戦っても強さを実感できないかもしれないな。どうよ、アイツ強そうに見えるか?」

 

「……見えないな」

 

「歩き方とか身振り手振りで普通解るもんだけど、俺から見てもよく解らんね。あぁ、でもそうか、俺とレキの場合は色金があるから、厳密な隠蔽効果消えてるのかな」

 

 色金はつまり人の魂の輝きであるためにどうしたって隠しきれない。色金の姫や守護者としての純度が上がれば上がるほどステータス隠蔽スキルは消えていくのではないだろうか。

 とにかく比較対象が少なすぎてなんとも言えない。

 

「まぁ俺からは別に言うことはない。仲間に入れるならランスロットと同じでお前のシンパだろ? ワトソンじゃないけど一歩引いて気をするくらいのことはしてやるよ」

 

「そりゃありがたいな。レキはどうだ?」

 

「私も蒼一さんと同じ感想ですが……少なくとも頭脳労働担当という立場は必要ではないでしょうか。実際私たちの弱点はそこでしょうし」

 

「間違いない」

 

 それに関しては全面的に同意だ。

 切実に。

 本当にどうにかなりませんかね。

 俺は諦めたのだが。

 

「ジャンヌ引っ張てくるべきだったな……」

 

「あいつの策士設定まだ生きてたのか……」

 

 俺、アイツの策とか一回しか見たことないし、決まったとこは一度も見ていないのだが……。俺たちよりも頭いいのは確かだが。

 

「まぁ悩んでも仕方ない。――静幻!」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 円卓に戻ったキンジが場の視線を集めた。そのキンジの瞳を静幻はこれまたずっと同じ笑みで受け止めている。下手な無表情よりもずっと鉄仮面だ。

 

「好きにしろ」

 

「――」

 

「お前が何考えてるか知らんし、俺はこれまでそうとしか言ってなかったからそれ以外に言うことはねぇ!」

 

 ……腕組んで仁王立ちだが威張れることではない。

 

「仲間になるなら俺はお前を信じるから力を貸してくれ、裏切るんだったらその後でぶん殴ってやるから覚悟しろよ」

 

「……信じられますか? そもそも裏切りを止めないんで?」

 

「信じるってことは裏切られてもいいって思うことだろう。そういうつもりがあるならそこまで思わせてみろ」

 

「……相変わらず無茶苦茶だなアイツ」

 

 なんだかんだホントに謎理論を展開している。それに引き寄せられる馬鹿が多いのだからなんとも言えないのだけど。

 それを静幻はどういう風に受け取ったのか、一瞬だけ張り付いた笑みが崩れ、

 

「く、くくく……」

 

 笑いだした。

 

「……なんだよ」

 

「いいえ、失礼。思った通りのお方だと思いまして。貴方のお言葉、胸に刻みましょう」

 

 では、

 

「曹魏との決戦についてお話いたしましょう」

 

 

 

 

 




静幻(……大丈夫でしょうかこのチーム)
脳筋過ぎる! アホばっかだぁ!

何気に二話続けて静幻のセリフで締められている。おいしいやつめ。

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