落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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いつもならエピローグ入ってもいいくらいの話数だけど、半分も行ってないんだぜ……?
30も超えるかも


第11拳「涙が出るくらいにな」

 

 緋色が弾けるのをアリアは目撃した。

 彼女の必殺技とも言える『BULLET-HOLE-CALIBER』は爆裂斬撃だ。かつてワトソンを降したそれの特性は斬撃痕が爆散するというものだ。剣状にまとめた剣弾の量に比例して威力は上がっていくし、今回は『千剣千銃』発動直後だったからこそ、細かい操作無しでぶっ放したことによって刀身は十数メートルにまで巨大化していたのである。

 アリアとしては。

 この爆裂斬撃でジープを破壊し、その上で張遼たちにダメージを与え、無理をせずに他の仲間たちと合流するつもりだった。派手なカーチェイスを繰り広げているとはいえ、所詮これは歓迎会なのだ。自分たちの目的である曹魏との決着は別だ。それは彼らが自身の得物を積極的に用いないということから、或はアリアとしては単なる直観にて理解していた。

 その上で――アリアは見る。

 緋色の大剣を叩き込み――刀身そのものが弾けたのを。

 

「――!?」

 

 そして続けて見たのは、

 

「ふぅ……、危ない危ない」

 

 拳を射出した姿勢の楽進だった。

 金色ジャージ白髪褐色肌の拳士。

 バンパーの上で右の拳を伸ばし切り、左腕は曲げて腰に添えらえている。右足は大きく前に出て、左足は右足と垂直となるように外向き、膝は大きく沈められていた。ちなみに直前までバンパーにいた夏候惇は助手席でひっくり返っていた。

 

「なにを……!」

 

 斬撃が打撃されただけ――という風には見えなかった。緋の大剣が彼女の拳に殴られたことは間違いないないのだろうが、それにしては壊れ方がおかしい。打点というか衝撃の爆発点に違和感がある。

 

「さて、教えませんけどね――っと」

 

 楽進が動いた。

 体重を感じさせない軽い動き。中空にいたアリアへと迫るには一瞬だった。接近は止められなかったが反応は間に合った。

 自身へと放たれた拳を剣翼で受け止める。

 受け止め――あまりの軽さに驚いた。

 衝撃がほとんどなかったと言ってもいい。今のアリアたちならば例え直撃したとしてもダメージと感じることはないだろうという程に威力が低い。だからこそ、硬直はしなくとも驚愕ししたのだ。

 その上で

 

「――がはっ!?」

 

 突然剣翼が炸裂し、その衝撃で吹き飛んだ。

 剣翼を構成する剣弾の七割近くが破砕し、破壊がアリアを打撃する。至近距離で手榴弾でも爆発したのかと思うほど。武器を手放すことはなかったし、幸いPADにも致命的な損傷はなかったが、衝撃そのものには対処できずに道路を何度かバウンドし転がってしまった。なんとか姿勢を治しつつも立ち上がるが、

 

「く……っ、何よ……今、の……」

 

 脳震盪を起こしたのか視界が揺れ、膝が震えていた。こればかりはいくら鍛えてもどうしようもない。復帰するのが常人よりも早いだろうが、それでもラグは存在する。

 そしてその隙を楽進が見逃すはずもなかった。

 

「――唯前ヘ進ミ歩ム」

 

 前進、そして拳撃の射出。一切の無駄はなく、隙だらけのアリアへと迫り、

 

「!」

 

 楽進の眼前の地面に飛来した緋刀がその動きを止めた。

 誰が投げなんて言うまでもない。緋影から降り立ったキンジだ。

 緋色に染まった目が真っ直ぐに楽進を貫いている。何を言いたいかというのは彼女にもすぐ理解できた。

 

「……怖い怖い」

 

 おどけたように呟きながら背後に下がり、ジープのバンパーに飛び乗った。

 

「ちょっと調子に乗ったんじゃないかな」

 

「返す言葉もないですけど……なるほどおっかないですね遠山さん。王様が目を付けるのも納得ですね」

 

「俺には正直解らんけどなぁ」

 

「俺だって不本意だっつーの」

 

 夏候惇の呟きに目ざとく反応しつつ、キンジは緋刀を地面から引き抜いた。軽く振って、アリアの前に立つ。

 

「俺的にはごく普通の高校生なんだけどなー」

 

「ないわー」

 

「ノリいいなこんちくしょう……!」

 

 今更な評価に内心涙を流した。

 何はともあれ、

 

「歓迎会っていうのはまだやってくれるのか? カーチェイスはここで終わりとして、カンフーアクションならあの馬鹿の役目だと思うんだがな」

 

「ふむ……どうだろうね。僕たちとしても引き際については言及されていない。互いにある程度満足し、王を楽しめればそれでいいんだよ。だからこんな余興で銃を使っていたわけでわけど」

 

 ゆらりと運転席から張遼が立ち上がる。その手には既に偃月刀が握られている。

 

「君が望むのならば仕合わせてもらおう。王の言葉を疑うわけではないが、君の価値を見極めたいという想いはないでもないから」

 

「――」

 

 張遼の言葉にキンジの目が細まる。

 戦いの気配は消えていない。

 寧ろその濃度を増していき、第三局面を迎えようとし、

 

「――いいえ、そこまでです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 瓦礫の上に腰かけながら徐晃はタバコを口に咥えた。口の下には吐血した後があるが構わずに、ポケットからライターを取り出そうとするが、

 

「……おい」

 

 ライターを入れていたポケットが破れていて何もなかった。ハーフパンツだからとタバコとライターを分けていたのが功を奏したのか悪かったのか微妙な所である。間抜けにも火が付いていないタバコを咥えたまま途方に暮れて、

 

「どうぞ」

 

「うお」

 

 いきなりタバコの先が発火した。

 白雪だ。

 

「……ありがとよ。あ、お前タバコの匂い気にするか? だったら消すけどよ」

 

「いえいえ、問題ないです」

 

「そかぁ」

 

 しっかりと礼を言いつつも、断りを入れてから紫煙を吸い込む。口の中でタバコと血の味がミックスされるが、悪いものではない。血の味だけよりもずっとずっとマシだ。

 

「ふぅ……」

 

 煙を吐き出し、

 

「たまげた野郎だったぜ……ありゃ敵わねぇわ」

 

 思う相手は那須蒼一だ。 

 電話が掛かって来たときは驚いたが戦闘中にマナーモードにしないというのは礼儀に反するので注意をしつつ、彼に電話を取らせたと思った次の瞬間には徐晃は吹き飛んでいた。己の能力を使う暇もない。気づいた時には既に殴られていて、瓦礫の山に激突していたのである。

 

「まぁ、アレが蒼一君だよ。『拳士最強』。それにモチベーションがレキ絡みだったら余計に手の付けようがない。あの二人ね、模擬戦で組むとチートとかバグレベルに強いんだよホント」

 

「なんだそりゃ知るかよ。つーか知りたくねぇ。単体でもあれだけ十分チートだろ」

 

 げんなりする徐晃だったが帰還した後にそのコンビがあの猴をほとんど反撃も許さずにフルボッコにしたと聞いて卒倒しかけるのである。彼はチンピラ枠でありながら常識枠でもあるのだ。

 

「つーかお前なにまったり俺と雑談してんだよ。帰るなり、仲間のとこ行かなくていいのか?」

 

「そうしたけど、私って燃費悪いからあんまり連戦したくないんだよ。徐晃さんの方は今のところ戦闘する気なさそうだから、私も回復中ということで」

 

「そーかい。ま、好きにしてくれや」

 

 戦う気がないのであればそれでいいのだ。徐晃も戦闘狂ではないし、今回は歓迎会であって決戦ではなく、王から引き際は任せられている。

 そしてその上で、

 

「……そろそろ静幻も動く頃だろうしなぁ……」

 

 煙と共に呟きは空に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れたのは糸目に丸眼鏡、色鮮やかな中国衣装に包む青年であった。

 ごく普通の青年のように見える。少なくとも人外めいた雰囲気や武人特有の圧倒的な覇気はない。強いて言えば笑顔が胡散臭そうに見えるけれどそんなことは感性の話であって問題ではない。

 問題なのは――あまりにも普通に見えすぎてその強度が全く測れないということ。

 そして、この戦場にもさも当然のように現れたことだ。直前に睨みあっていたキンジや張遼の中心に音も気配もなく出現し、直前に全く存在を気取られなかったことである。台詞と共に現れたとかではなく、気づかれる前に現れ、言葉を発し、その上でようやく誰もが気づいたのだ。

 誰もが驚きを隠せない中で諸葛静幻はゆうゆうとキンジへと優雅なお辞儀を行う。

 

「お初にお目にかかります遠山キンジ様、神崎・H・アリア様。正確には『宣戦会議《バンディーレ》』の時にお顔は拝見しましたが、直接言葉を交わすのはこれが初めてですのでそう言わせて頂きましょう。私、藍幇代表諸葛静幻という者で御座います、以後お見知りおきを」

 

 頭を上げた静幻はキンジと張遼の二人に語り掛けるが、その眼がどっちを向いているのかが判断できない。

 得体のしれない――そんな風にキンジとアリアは思う。

 

「キンジ様、アリア様並びに張遼殿、夏候惇殿、楽進殿。皆様これにて戦闘行為を中止してくれないでしょうか?」

 

「ふむ。君にそうやって口を出されるとは思っていなかったな。どういう意図だい?」

 

「私としても口出しするつもりもなかったのですが……些かこちらの想像よりも被害が大きく、これ以上続けられると困ったことになります。港町も半焼して、ICCホテルの一階部も滅茶苦茶、まぁこの程度なら問題ではありませんが、先ほど中心部の街一帯が丸ごと吹き飛びました。洒落になりません。これ以上戦わされてこの先の建設中の高速道路まで壊されては、正直困ったことになるので」

 

 得体のしれない青年の困ったような表情にキンジとアリアに蒼一の顔が過った。

 間違いなくアイツだと思い、しかしそれは的中していて、港町も中心部も彼が原因の一端であった。

 

「そういうことならばこちらに異存はない。手を引こうか」

 

「あれ、意外に素直ですね」

 

「ほら、有耶無耶になったけどコイツ京都で世界遺産潰してるから気にしてんだろ」

 

「黙っていてくれ君たち。まぁ、彼らが頷いてくれればの話だが」

 

「お前らから吹っかけてきたんだろ。俺たちは香港観光のつもりだったんだ。文句はない」

 

 キンジの言葉に張遼は頷き、偃月刀の柄の付け根を握り直した。戦意も既に消失している。それで去るかと思ったが、先ほどの静幻のようにキンジとアリアへと頭を下げる。夏候惇や楽進もまた畏まったように頭を下げる。

 

「これにて我ら曹魏の歓迎会は終了にございます、極東の王よ。ご満足いただけたでしょうか?」

 

 突然の畏まった言葉にキンジは戸惑いつつ、

 

「あぁ、最高だったぜ。涙が出るくらいにな」

 

「それは重畳。我らとの決戦についてはこの諸葛静幻にお聴きください。彼ら藍幇が我らの決戦の審判役を担うことになっております故に。無論、貴方達側からの審判役を指名されても結構ですので、その場合も彼らにお申し付けください」

 

「……解ったよ」

 

「では――よい戦争を」

 

 そう残し、張遼たちは去っていた。

 残ったのはキンジとアリア、そして静幻だ。

 

「では、キンジ様。ICCビルに帰還しましょうか。貴方の御同輩に関しては我ら藍幇が医療チームと共に回収班が向かっております。一刻もしないうちに皆揃うでしょう。その上で『バスカービル』と曹魏の決戦についてご説明をいたしましょう」

 

「……そうか」

 

「キンジ、いいの?」

 

「別に敵意はなさそうだしな、アリアこそどうなんだよ」

 

「私も、別に構わないけど……」

 

 微妙に言葉を濁すアリアに眉を潜めていたら、

 

「キンジ様、一つよろしいでしょうか」

 

「ん?」

 

 胡散臭い、貼り付けたような笑みで静幻が言う。

 

「実は、折り入ってお願いがあるんです」

 

「はぁ? ……そりゃ、内容によるけど」

 

「えぇ、実はですね」

 

 そして香港藍幇代表諸葛静幻は変わらず笑みを浮かべたままお願いをキンジへと告げた。

 

「私を――『バスカービル』に入れてもらえないでしょうか」 

 

 

 




さぁどうなることやら。

なんか初めて更新速度早いですねとか言われた。
某氏の影響で一日一更新が基本だと思っている(
土日に空いているのは一次を更新しているからで、執筆していないわけではないんですね。
そっちの方もよかったらどうぞ(

ちなみにこの歓迎会でそこそこレキが綺麗になったと思っているんですがどうでしょうか(真剣

感想評価お願いします。

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