落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
無人の道を二輪と四輪は爆走する。
バイクは言うに及ばず、ジープもオープンカーだ。吹き付ける風は強く、耳に打ち付けられる音は大きい。どちらも裸眼では目を開けるのにも一苦労である。
先を行き、機動力で勝るのはキンジたちのバイクだ。だが背後のジープを駆る曹魏の将たちはジープに大量の武器を詰んでいるらしく単純な火力では圧倒的に勝っている。
PADである『緋影』だからこそある程度に自立走行が可能でなんとか二人と一機への直撃は防いでいるが時間の問題だ。自立走行だって完璧ではない。だからキンジの意識は半分ほどに操縦に向かっていて、
「これって俺が運転損なったら死ぬなぁ」
「安心しなさい。地獄にだって相乗りしてあげるわよ」
「そりゃゴメンだ――っと!」
バックミラーに楽進が新しいバズーカ砲を構えたのが見える。右手はハンドルを握ったまま、
緋色の光弾が発射直後の弾丸を炸裂させる。
「どうせ行くなら一緒に天国だな」
「そりゃ最高ね……って今の位のなら私がなんとかしたけど?」
「いいとこ見せたいだろ」
「なるほどソレも最高よ」
軽口を叩き込みながらキンジはバンドルを元の位置に戻し、アリアは爆炎に隠れたジープへと二挺拳銃を連射。当然これでどうにかなるとは思っていない。
案の定すぐに飛び出してきた。
「うわっ、なにあれすげぇかっこいい! 俺も欲しいなぁ!」
「僕こんなに目が輝いた元譲さん初めて見ました」
「それはね――男のロマンだ」
「僕にはどうにも理解できませんね。ぶっ壊していいですか」
「おまっ! やめろ、アレを壊したら俺はキャラ壊れるくらいにブチ切れるからな!」
「んじゃ、捕まえて奪ったらどうです? これだけ歓迎したんですから、向こう手土産として」
「――向こうの銃撃は全て俺が斬り捨てるから攻撃は任せた」
「はいはい。これだけやる気を見せる先輩も初めてですね」
「僕も乗りたいからよろしく」
彼にして珍しくやる気を纏わせながら夏候惇が長剣を片手にジープのバンパーに飛び乗った。鞘から抜き放ち、長剣との即席二刀流を用い、
「ハァー!」
迫る弾丸を斬り伏せ、叩き落とす。当然ながら運転席の張遼はタイヤ狙いの弾を避けるためにジグザグ走行しているがその程度で揺らぐ男ではない。寧ろ、剣撃を飛ばし、豪風を発生させながらアリアの銃撃を防ぐ。
「流石ね」
「あとどれくらいだ?」
「一分半」
「諒解!」
返事と共にクラッチとブレーキを操作してギアチェンジ。それまで時速百キロ以上出していたにも関わらず停止距離は一メートルもない。即座に右折し、再びのギアチェンジして再加速。これもまた時速百キロを超えるのに一秒も掛からなかった。流石の
右折したことで市街地を抜け香港島の沿岸のハイウェイに辿り着く。
「……!」
大きくドリフトしてきたジープにアリアが弾丸をばらまく。だがほとんどが夏候惇によって切り落とされるだけで終わる。現状の火力では無効を落とすのには厳しい。だが、その反面、
「ヒャッハーオブツハショウドクダァー――でいいんでしたっけこういう時。王様が言ってましたけど」
「王の日本知識について軍議を開く必要があるね」
変わらず重機関銃やらバズーカ砲やらを馬鹿みたいに連射する。勿論アリアも銃弾撃ちの類の拳銃スキルは可能だが限度がある。相手の数が多すぎて連射が追い付かないのだ。
「チッ、これは今後の課題ね……」
「いやいや拳銃で突撃銃とかに対応するのは無理な話だろ」
「でもアンタならやるでしょ?」
「……まぁ多分」
「アンタも相変わらず人間離れしてるわねぇ」
実際の所のキンジの拳銃術はほとんど
「! 来たわよキンジ!」
アリアが叫び、視線を向ける先はジープの後方だった。
同時にキンジがギアチェンジ――急ブレーキを掛ける。
それも『緋影』とジープが直線で重なっているタイミングでだ。
「――!?」
曲がろうとしたわけではなく純粋な急停止だ。キンジも張遼もかなりの速度で走行していたのだ。咄嗟に彼もブレーキを思い切り踏み込んだが、明らかに激突コースだった。バンパーの夏候惇も後部座席にいた楽進も思わず体を沈めてバランスを取る。
「おや自殺……?」
「そんなわけ、ないでしょう――!」
言葉と共にアリアが飛び上がった。慣性を振り切って、かなりのGが生まれるはずだが無理矢理我慢。背を逸らし、桃色のツインテールを揺らしながら中空に浮かぶ。数瞬後には地面に叩き付けられるだろし、そうなればアリアとて大けがは免れない。
勿論そんなことにはならない。
「来なさい!」
そして飛来したのは鋼鉄だ。
「PAD……!?」
「ご明察……!」
合一は言うまでもなく一瞬で行われた。
髪飾り、髪飾り、腰、脚――緋に塗られた科学の鎧が一瞬でアリアの身体に装着される。刹那、各部のバーニアが火を噴き中空の彼女の姿勢を制御。捻転しながら体をジープへと向けた。緋色を纏う小太刀を抜き、背に剣弾の翼を生み出した頃にはキンジが再加速し自分を超えていった。
香港の沿岸に緋色が咲き乱れる。
PAD『緋天翔滅』 ――モード『千剣千銃』。
「あ、やば」
「BULLET-HOLE-CALIBER――!!」
緋色の奔流が張遼たちを呑み込んだ。
●
「はぁ……はぁ……」
「っづあー、これはやばいなぁー」
レキと理子は満身創痍だった。
どこかのビルの廊下の壁に二人は背中を押し付けて座り込んでいる。無人だが、元々廃ビルか何かのようで電気は碌に通っていないし物もほとんどない。全身ボロボロで流血も少なくない。理子は髪紐はは右側がどこかに消えたし、制服も少し人前を出るのを躊躇うくらいには破けている。理子のナイフは二本とも半分ほど折れているし、レキもまた狙撃銃の銃身の先が折れていた。これでは使い物にならない。実際、今のレキは杖代わり程度にしか使っていなかった。
「マジ洒落になんないなぁ……おまけに完全に遊んでるし……」
「そう……です、ね」
言うまでもなく――指しているのは猴のことだ。
突然襲ってきた彼女だが、正直レキと理子では手に負えないくらいの戦闘力だ。遭遇した時点で二人で全身全霊を逃走に注いだというのに不可能だったし、屋内に誘導されてしまった。
「……ぶっちゃけ詰んでない?」
「それは言わない約束ですよ……」
他の面子に連絡を取ろうとしたが何故か繋がらなかった。何かしらの妨害をされているのだろう。キリコ製の特製チャットアプリすらもジャミングするとはそれも恐ろしいのだが。
現状理子とレキのタッグでは話にならない。
今自分たちがこんな風に一度休憩できているのは向こうが遊んでいるからというだけだ。向こうがその気ならば遭遇時に瞬殺されていたもおかしくなかった。登場と共に物騒な台詞を吐いた彼女だったが、気が変わったのかそのつもりがなかったのかは解らないが、十中八九こちらを弄んでいる。
こちら――というか。
レキだけを、だろう。
「ふぅー……理子さん」
「断る」
「……」
素の状態での即答だった。
「大方、向こうの狙いは自分だけだからさっさと逃げろとかそんなことだろう?」
「う……まぁ、そうですけど。向こうの狙いは私のようなので理子さんは逃げて――」
「だが断る」
だが断られた。
思わずレキも口を噤んでしまう。そんな彼女に苦笑しながらも理子はニヤリと口端を歪め、
「私は絶対に大好きな友達を見捨てない。それに今ここで逃げたとしても援軍を呼べる可能性なんてたかが知れてるだろ? どうせ他の連中だって面倒事に巻き込まれてるのは違いないしな。それに」
ヘラヘラと――笑う。
「私は
「……そうですか」
「あぁ」
「……じゃあ、よろしくお願いします」
「持ちのロンだぜ」
レキは無表情で、けれど笑みの気配を漏らしながら。
理子はやっぱりヘラヘラと笑いながら頷いた。
満身創痍で体力は尽きかけている。直接交戦した時間を合計すれば一分程度だがそれだけでもコレだ。レキの狙撃銃が潰されているこの状況ではやはりどう考えても詰んでいる。レキでは接近戦をすれば一秒も持たないし、理子ならばある程度は凌げるかもしれないが限界がある。理子だってナイフが一本折れた状態では辛い。相手は一槍一矛というキチガイスタイルなのだから。
どう計算したってどうにもならない。
「まぁ安心しろよ。こういう勝ち目が全くない勝算零の戦いなんていつもの事さ。気楽にヘラヘラ笑って行けばいい。案外何となるのは私の実体験だよ」
「なるほど、見習った方がいいですかね。その精神」
「やめとけやめとけ」
二人で手を取り合いながらなんとか立ち上がる。それだけでも一苦労だ。
それでも、まぁ、二人ならできないこともない。
だったらやるだけだ。
二人ともこんなところで死ぬ気はないのだから。
そんな二人が立ち上がったのを見計らったように――、
「あぁ、見つけた」
猴が現れる。
理子とレキがいる廊下の先の階段から。偃月刀と矛を肩に担ぎながら。
軽い動きと言葉だが殺意と覇気は健在だ。一瞬でも気を抜けば、或は向こうがちょっとでも気を変えればすぐに死ねるだろう。彼我の距離は十五メートルほどだ。
「……ッ」
こちらの手札はあまりにも少ない。
唯一可能性があるとすれば理子の『りこりんシステム』による封印。けれどあれは接触状態で相手に隙がないと使えないのだ。できる可能性は限りなく低い。
それでも――二人は立ち向かう。
理子は前進しながら懐の二挺拳銃を弾倉ごとレキにパス。片手で折れたサバイバルナイフを握りながら髪を動かし盾のように配置する。レキも受け取った拳銃を即座に構えた。
お喋りするつもりはなかった。
猴の精神は完全に狂っている。
会話が通じる相手ではない。下手に言葉を交わして変な所に触れたり、こちらが当てられることの方が怖い。
その判断を猴がどう思ったかは解らない。
たが凄惨な笑みを浮かべて理子を迎え撃つ。
「キキッ――」
偃月刀と矛を同時に振る。理子はまだ間合いにいなかったが構わない。
振られ――廊下を埋め尽くすような衝撃波が放たれる。
「ガッ……!?」
「ッ理子さ……っ!」
避けられず直撃する。
回避などできるはずもない。廊下を完全に覆う衝撃波だ。壁床天井を砕きつつ理子へと迫り、吹き飛んだ理子もレキとぶつかってさらに飛ぶ。そのままビルの外壁に風穴が開き、そのギリギリまで転がった。
「……がはっ」
「理子さん!」
一気に廊下が滅茶苦茶になり、飛んで転がされた理子が血の塊を吐いた。
髪を盾にして、両腕をクロスしたが理子の負傷は甚大だ。ナイフは完全に砕け、恐らく両腕は粉砕骨折だし、ろっ骨や内臓も痛めている。レキは幸いにもというべきか比較的軽傷で済んだ。
済んだが――その先がない。
「っ……!」
「あぁ、もう終わりか? そうか、じゃあそれでいいさ。どれくらい遊べるかと思ったら存外弱かったな」
「……何故」
ゆっくりと歩いてくる猴に、動けなくなってしまった理子を庇うように抱きしめながらレキが問う。
「どうして蒼一さんに?」
「解らないのか?」
「解らないから聞いているんです」
嘘だ。
どうしてかなんて――解っているのに。
誰よりも那須蒼一を見ていたレキだからこそ。
猴が蒼一を求める理由を解っている。
「――教える義理はない。お前は邪魔だ。アレに癒着する癌細胞だ。お前の存在がアレの純度を下げている。故に死ね。ここで消えろ。私の愛の礎として」
偃月刀が振り上げられる。距離はすぐに縮まっていく。今度こそ打つ手がない。
「にげ、ろ……!」
理子がレキの身体を突き放すように押されるが、寧ろ離さないというように抱きしめる。
大好きな友達は絶対に見捨てないと理子は言った。
でも、それはレキだって同じ思いだから。
だから、見捨てられるわけがない。
そして、目の前までたどり着く。
「――」
「――ッ」
最早言葉もなく偃月刀が振り下ろされ――、
「――そこまでです」
●
偃月刀が振り下ろされたと同時にビルに飛び込んできたのは白い影だった。
両袖からショートソードを伸ばし、交叉させて猴の振りおろしを受け止める。
「貴様は――」
「貴方は――」
「ヌン!」
猴とレキが驚く間にも偃月刀を弾き飛ばした。猴も無茶をせずに軽い動作で後ろに大きく飛び退く。そうして、現れた人影はレキと理子を護るように前に立って二刀を構え、高らかに名乗りを上げた。
「遠山キンジ様が騎士、ランスロット・ロイヤリティ! 今ここに王の友にして我が戦友の為に剣を取ろう! 来るがいい異国の姫君よ――!」
――忠義の騎士がその忠義を執行する。
ちょっと文体変えてる気がしないでもないけど気づくだろうか。
あんま変わったないかもしれないけど。
ギャグもシリアスもいけるランスロットさん。さすが忠義。
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