落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

144 / 225
第2拳『つまり……自業自得ではないですか?』

「由々しき問題である」

 

 曹操と猴たちとの決戦を数週間後に控え、それぞれがそれぞれに修行を重ねる中で、那須蒼一はこれ以上ないくらいに問題を抱えていた。ちょっとかつてないレベルで。

 学校の食堂。調理をするおばちゃん軍団も撤収しているので食事はできないが、放課後でもそれなりに賑わっている。もうすぐ二年は『修学旅行(キャラバン)Ⅱ』なのだ。夏の終わりに決まったチームでそれぞれどこに行くかを装弾しているのだろう。なにせ今度は外国だ。準備にも手間と気合いが入る。まぁ、正直子供の頃に世界巡って武者修行していた身としてはそれほど楽しみというわけではない。

 遊びに行くわけでもなし。

 そして今はそれどころではない。

 

「いやまじどうしようと頭抱えている。助けてくれよ」

 

「いや、そんなこと言われてもよぉ」

 

 言葉の先は三人。苦笑しているキンジといつも通りににこやかに微笑む不知火、怪訝そうな顔で答えた武藤だ。それぞれの前に缶コーヒー、ホットお茶、炭酸ジュースが並んでいる。さっき俺が買ってやった奴だ。

 

「由々しき問題って……そんな風に言うまでもないだろ」

 

「何言ってんだてめぇ殺して解して並べて揃えて晒してやるぞ」

 

「余裕ないからってキャラ変わるな」

 

「おっと」

 

 確かにこれは俺の決め台詞じゃあない。

 

「武藤よ。なにやら事態の重さに気付いていないようだが、実際大問題。解るか? 解らないのか? 愛が足りんなぁ。愛がなければ真実は見えないんだぜ」

 

「キャラ変えなくてもそんな名言をさらっというんじゃねぇ」

 

「ん、んー……あれ? 俺ってどんなキャラしてたっけ」

 

「ははは、大分混乱してるねぇ。大丈夫?」

 

 大丈夫じゃないからこんなんなっていて、こうして助けを求めてるわけなのだ。

 

「――レキがいちゃつかせてくれないんだよ」

 

「死ねリア充」

 

 普段ならば聞き流して煽ってやるつもりだったが、今はそんな余裕もない。

 

「もうさぁ……ここ一週間くらい全然いちゃいちゃしてないんだぜ……? 飯一緒に食べてもあーんもしないし、一緒に寝ても抱き付いてこないし、風呂だって別に入ってるし、学校行くときも手繋いでくれないしさぁ」

 

「十分いちゃついてんじゃねーか」

 

「いや、こいつらの認識ではそうじゃないんだよ」

 

「まぁなんというか今年の初めからずっと二人でいちゃいちゃしててそれくらいなら皆スルーしてるからねぇ。遠山君や神崎さんたちも言うまでもなくて、皆無意識でスルーしてる感じだし」

 

「あーまぁこいつらはなんかもう別枠だしな。んでそれで? 何やったんだよお前。確かにそういえばなんか一緒入るとこ学校でもあんま見ないよな」

 

 一緒にいないとかじゃなくて、同じ空間にはいるんだけどすげい壁を感じるのだ。。お触りがないというか。お喋りもないし。目も合わせてくれないし。というか目があったら思いっきり逸らされる。非常に悲しい。

 

「この前の麻薬関係のヤクザの任務あっただろ? あれでまぁなんというか、その……」

 

「あ? はっきり言えよ」

 

「敵の女にキスされて愛の告白されたんだよ」

 

「なにやってんだお前」

 

「おやおや」

 

「それもあるんだけどよぉ。その後真上から狙撃された即レキ疑ったら相手の仲間だったていうな……」

 

「あぁ……」

 

 はっきり言ったキンジに武藤は呆れ、不知火は笑みを崩さなかったが、どことなく苦笑気味だ。

 いや原因は解っている。そんなものは明白なのだ。傷ついたに決まっている。よく考えれば解ったはずだ。いくらレキでも実弾を撃ったことなんてない。いや、正確に言えば出逢いの時点では実弾使ってきたがそれでも俺の耐久力や防弾制服のことも計算に入れて背中への着弾だったのだ。ヘッドショットなんてやるはずがないのに。

 

「あぁ……もう俺は最低だ……死んだ方がましだ……地獄の釜があったら落ちたい……」

 

「いや、でもあれだろ。レキにも問題あるだろ? 日頃の行いというかさぁ」

 

「ま、確かに。一年生から有名だったけど今はもう軽く都市伝説だもんね」

 

「だとしてもよぉ……自分の女傷つけるとかさぁ……あぁどうすりゃあいいんだよ……」

 

「謝って、ないのか?」

 

 勿論した。

 いや、しようとしたのだけれど。

 

「その話するとどうにも逸らされるんだよ。目とか話とか。何回か露骨に逃げられたし。うぅ……」

 

「これは……重傷だね」

 

「一見普通通りなんだけどな。やっぱ見てる方としては違和感があるのは確かだ」

 

 悪いのは俺の方なのだ。それは間違っていない。間違いなく俺が悪い。

 例えそれがことある度電波発言と行動をして平行世界だか異世界まで電波を受信し結構理不尽な理由で普段から狙撃銃をぶっ放し人のことを先端科学兵装の的として活用して撃ちまくってキンジやらアリアを弄り無表情で爆笑して引っ掻き回すだけ回してそのままにしているなんてことを当然にしているとしても――今回は悪いのは俺なのだ。

 果たしてどうすればレキに許しもらえるだろうか。

 

「なんかいい案ないのか」

 

「そうも言われてもなぁ」

 

「ジュース奢ってやっただろ」

 

「これそういう意味なのか!?」

 

 当然だろう。そうでもなかったらこいつらにジュースを奢るわけがない。

 

「遠山君ならなんかいい案あるんじゃないかな? やっぱ那須君やレキさんとも仲いいし、神崎さんのこともあるしね」

 

「それは思ったけどよ」

 

「俺がアリアを怒らせた場合は――嵐を過ぎるのを待つしかないんだよ」

 

 キンジが遠い目で彼方を見つめていた。

 キンジとアリアの場合、アリアが一方的に激怒して風穴カーニバルというのが基本でいつもキンジは端っこで丸まったり物理攻撃を受けて耐えたりと涙がましく、まさしく嵐を過ぎるのを待つようだ。ちなみに白雪によるNTR作戦の時は完全に見ないふりをしている。もっと言えばだいたいそういう時に理子に半ば冗談で誘惑されたりしてそれが見つかって嵐の上に火山が噴火する――比喩ではない。

 

「うーん。正直僕が力になれないね。僕って女性経験ないし」

 

「なんだよそれ男とならあるのかよ。ホモみたいなこと言うな」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……」

 

「……」

 

「あはは、冗談だよ。真に受けないで」

 

「なにそれ怖い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・実妹様:『えっと、というわけで急遽師団ガールズトークを開催します。今回の議題は猴さんのせいでいろいろ大変な兄さんとレキさんに関してです。はい』

 

・九尾狐:『まず言わせてもらおうかの……なんで仏と戦うことになったんじゃマジで。タマモ聞いた時はショックで一日寝込んだぞ』

 

・金王女:『ヨーロッパのほうでも話題になり始めておるえ。バスカービルと曹魏が近いうちに決戦するとのう』

 

・実妹様:『あー、そのー。そういう話は別口でちゃんと師団会議で行うので今回に関してはNTR防止についてでお願いします。すいません』

 

・明 夜:『はぁ。けれど那須さんとレキさんの仲の良さは有名でしょう? 彼が今更他の女性になびくとはとても思えないんですが……』

 

・金王女:『そうじゃのう。妾などレキが関わってるからとかよく解らん理由で昔噛ませ犬扱いされたこともあるぞよ? そもそもレキは何をしておるんじゃ。心配ならば蒼一押し倒してしまえば速いじゃろうに』

 

・実妹様:『それが……兄さんとレキさん今思いっきり倦怠期というか冷戦期というかとにかく微妙な感じなんですよ』

 

・九尾狐:『全く想像できんのぉ』

 

・実妹様:『私も考えたことなかったんですけどね。実際微妙な感じなんですよほんと。正直私たちも困ってます。いやほんとどうなってるんですかね。目も合わせないとかちょっと在りえないですよ。兄さんは距離感掴めないでいるし、レキさんもレキさんで逃げてます。こればっかりは実際に見てないと伝わりにくいと思いますが』

 

・明 夜:『そういえばその実際に見ているであろう学園組の人たちはどうしたのですか? チャットに顔を出しているのは遙歌さんと私たち学校外の物が主ですが……』

 

・実妹様:『既に全員に話振って逃げられました』

 

・約全員:『えぇ……』

 

・実妹様:『というかレキさんもキスされた時の狙撃を真っ先に疑われて日頃の行いを反省して、なんか軽く引きこもりなんですよ。引きこもってるか修行してるかのどっちかで。それで兄さんと距離とって兄さんも怒ってるって勘違いしてるんです』

 

・九尾狐:『面倒じゃのう……やっぱレキが蒼一を押し倒せば問題ないじゃろ。十六なら子供出来てもおかしくないしの』

 

・実妹様:『今の時代じゃあちょっと問題です。それにそれだけじゃないっぽいんですよ……。ちょっと待っててください。部屋に籠ってるレキさん連れてきますから。アリアさんたちもいますしね』

 

・――電波嫁、緋桃、火巫女、ルパンさんがログインしました。

 

・電波嫁:『……』

 

・緋 桃:『まったく。リビング行ったと思ってたらチャット開いてるなんて。相変わらず抜け目ないわね』

 

・実妹様:『褒め言葉として受け取っておきましょう。えーっとレキさん。タマモさんたちにも話しましょうよ。学校の外の意見を聞けますよ』

 

・電波嫁:『……そのですね』

 

・九尾狐:『なんじゃ? てっきり入室した瞬間に例によって電波を垂れ流すと思ったんじゃが』

 

・電波嫁:『――やっぱり男の人って胸とかお尻とか大きい方がいいんですかね』

 

・九尾狐:『……だとなん』

 

・金王女:『……お、おう?』

 

・明 夜:『あら……あらあら』

 

・電波嫁:『猴さん明らかに胸とかお尻とか大きくて……その女性らしさというのに恵まれた人だったのです。……私ってそういうの薄いですし、いえ、少し前に比べれば私もそれなりに成長していると思うんですが……』

 

・九尾狐:『これは……どういうことじゃ』

 

・ルパン:『つまりー、今までそーくんに対するライバルいなくて好き勝手やって来たけどあんなふうに熱烈アピールするボインボインの女の子だったっていうから危機感感じて電波キャラで遊んでる余裕なくなっちゃんだろーねぇ』

 

・電波嫁:『冷静に分析しないでください……』

 

・火巫女:『うーんNTRには一家言あるつも――』

 

・――緋桃さんと火巫女さんがログアウトしました。

 

・実妹様:『あー室内で斬りあいするのやめてほしいんですがね。とりあえず別の部屋に移動しましょうか』

 

・九尾狐:『慣れておるの……今代の緋々の姫も巫女もどうにも頭がおかしい』

 

・ルパン:『頭おかしくないのがいたの?』

 

・九尾狐:『さってそれで瑠璃の姫はどうするんじゃ!?』

 

・約全員:『逸らした……』

 

・電波嫁:『いえ、まぁ私も蒼一さんが私を捨てるとか思ってないですよ。でもですね。もし私の身体とかで満足してなかったなんてことがあったらもう……蒼一さんの顔もまともに見れないですし』

 

・金王女:『この姫こんなキャラじゃったか……?』

 

・実妹様:『さっき言った通りにこれまで兄さん相手にアプローチ掛ける人なんていなかったですからね。それがあの求愛ですもの。そりゃ焦ります』

 

・明 夜:『つまり……自業自得ではないですか?』

 

・電波嫁:『ぐはぁ』

 




何気に初めての喧嘩?のような

レキの電波抜いたらすげぇ書きにくい。脳みそが拒否する。こわい。


感想評価お願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。