落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第九章 双天の覇道と双極の求道
プロローグ「我愛你」


 恐ろしく豪華な日本家屋だった。四方を高い塀で覆われ、正面の門は大きく、堂々としている。広い日本庭園では枯山水や錦鯉の泳ぐ池や鹿威し。映画やドラマでしか見れないような如何にもと言った和風の豪邸だろう。

 勿論一般家庭ではない。有体に言えばヤクザの組の本拠地だ。関東圏にて大きな力を持つ『鏡高組』である。四代目は亡き今、幼くも美しい少女である五代目に率いられ、数あるヤクザの中でも比較的非合法なことに手を出さない古き良き『極道』として有名だった。

 しかしそれも今日までである。

 クーデターだ。

 

「アンタの天下も今日で終わりですよ、お嬢さん」

 

「お前たち……!」

 

 屋敷の中の広いリビング。数十人が一度に押し込めるほどの空間の中央でにらみ合うのは明るい茶髪と豪奢な和服の少女とホスト風の男だ。

 『鏡高組』元五代目組長鏡高菊代と元幹部現組長久具室隠岐である。

 既にクーデターは終了目前だった。菊代の数少ない部下は全員が取り押さえられ、五代目勢力は彼女のみ。広い部屋には彼女の味方は一人もおらず、背後や横合いからアサルトライフルを構えている若い構成員たちやニヤニヤと笑いながら菊代を見下す幹部たちも当然のように帯銃していた。菊代は銃を持っていなかったし、持っていたとしてもどうしようもなかった。

 事実上彼女は詰んでいる。

 

「安心してください。ここですぐに殺したりはしませんよ。アンタにはまだ利用価値がある。……ほら、アンタがご執心だった少年君いたでしょう? 彼は中国のお偉いさんたちが高値で引き取ってくれるんですよ。だからそのための人質になってもらいます」

 

「ふざっ……彼は関係ないでしょう!」

 

「関係あるんですよ。アンタとは少なからず因縁がある武偵なんですよねぇ、おまけにちょっと調べたら凄い正義の味方じゃないですか。アンタを人質にして老子に引き渡せばそれで中国とのパイプは完了するって話で……それにおまけもあります」

 

 パチンと久具室が指を鳴らした。隣の部屋から顔をサングラスで隠した青年が不自然に動く人間大の麻袋を載せた荷台を運んできた。

 人間大というか――中には人間が入っていた。

 栗色の髪のごく普通の高校生の少女。

 

「んんー!」

 

 猿轡を噛まされて喋れずに呻く彼女を菊代は知っていた。

 

「望月萌……!? 貴女、どうして!?」

 

 望月萌――少し前に菊代がある少年について揉めた極々普通の少女だ。数週間前に彼女の通う高校に彼が転校してきて、親交を持ったらしいが何をどう間違っても、こんな場所にいる少女ではない。

 

「いやぁ、この女の子も例の子の関係者でしょ? たまたま目に入ったから、人質に使えると思ってさらってきたんですよ。極道の女組長なんて見捨てられるかもしれないけど、堅気の娘ってならそういうわけにもいかないでしょ?」

 

「ふざけないで! お前はそれでも極道なの!? 堅気の人間に手を出すなんて……!」

 

「古いんですよそういう考え方は! これからの時代はチャカとヤクをどれだけ運べるかですぜ? 、ま、そこら辺アンタには解らないでしょうけどね」

 

 そして久具室やさらにほかの幹部連中たちも品悪く声を上げて笑う。それに菊代は歯噛みすることしかできない。萌はあたりの様子に理解できず、しかし恐怖だけは理解している。目に端に涙を浮かべ、微かに震えていた。無理もない。一般人である彼女がこんな状況を受け入れらるわけがないのだ。勿論、菊代としては萌に対していい感情を抱いていたわけではない。身分不相応に彼に関わろうとし、止めても聞かなかった。それでもこんな世界に巻き込みたかったわけではない。

 そしてこんな状況になってしまったという自分にどうしようもない怒りが生まれた。

 

「っ……!」

 

「いい顔ですよ、これまでずっと威張り腐ってたあんたをそんな顔にさせてみたかったんですよ……あぁ、最高に気分がいい」

 

「見てるこっちは最悪だよ」

 

 萌を運んできた男が久具室を殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フヴェ?」

 

 常日頃東大卒だと鼻高々に語っている顔が思い切り凹んでぶっ飛んだ。

 

「……っち。早まったぜ」

 

 いきなりの展開に殴り飛ばした男――いや、少年がサングラスを外す。赤みを含む黒髪と目。菊代も萌も知っている少年だ。ついでに言えば、先ほど久具室が意気揚揚と話に出していた少年でもある。

 

「遠山!」

 

「んんん!?」

 

「よう、こんなところで会うとは色々難儀なもんだな」

 

 遠山キンジは周囲の視線を集めながらも彼は菊代に手を掲げて場違いな挨拶をし、ポケットから取り出したバタフライナイフで萌の拘束を取る。

 

「と、遠山君……?」

 

「悪かったな望月。巻き込んじまって、もう大丈夫だからな」

 

「ふぇ……?」

 

 数週間前に転校してきた少し陰のある転校生。そんな彼がこんなふうに表れたことに理解は付いていなかった。夢か何かを見ているようだった。戸惑う萌にキンジは周囲を見回して声を張り上げた。

 

「武偵だ! 今すぐ武器を捨てて投降しろ! 大人しくすれば言い訳くらいは聞いてやるぞ!」

 

 叫び、武偵という言葉にアサルトライフルを構えた構成員が戦き、幹部たちもまた動揺し、

 

「ふざけるな! そんなガキ今すぐ殺せ! てめらやっちまえぇ!」

 

 などという小物臭丸出しのセリフを先ほど殴り飛ばされた久具室が叫んでいた。殴られて鼻が折れたことで自分が調べた遠山キンジという存在を完全に忘れていたようである。あるいは忘れていたとしても隣接する別室に待機させていた数十人の武装した配下がいるのならばどうにかなると思ったのだろう。

 甘いと言わざるを得ない。

 先ほどキンジが出てきた扉から新しい少年が出てきた。

 

「お前手が速ぇよ。ワトソン考えた作戦台無しだろ」

 

「……はぁ?」

 

 現れたのはどこかの制服姿の青い髪の少年だった。久々室は知らないし、あんな少年が組にいたわけがない。

 勿論那須蒼一だ。

 

「悪い悪い、でもまさか一般人が紛れ込んでるとはおもわなかっただろ? 現場的判断ってやつだよ」

 

「ま、いいけどさ。頭抱えるのはワトソンだし」

 

「な、な、な……。隣の部屋にいたやつらは……っ」

 

「全員伸びてるよ。お前らのお仲間は此処にいる連中だけだ。もうどうしようもないから投降したほうが身のためだぜ?」

 

「……!」

 

 パクパクと口を閉口させるが、どうしようもない。腐っても彼らはヤクザだ。彼我の実力差というのには極めて敏感であるから、キンジと蒼一と二人にはどうしったて敵わないと強制的に解らされている。

 へたり込み、呆然とする久具室をキンジは思いっきり見下して、

 

「投降するよな?」

 

 答えは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まともに会うのは久しぶりか? 兄弟。普通の青春生活はどうだった?」

 

「悪くはない。けど、俺には合わねぇよ。不良締めるのもあんま面白くなかったしな」

 

 全員の武器を没収し、手錠で拘束して部屋から放り出してから拳を突き合わせる。

 実際俺とキンジに会ったのは久しぶりだった。数週間前にヤクザの動きが怪しいということで潜入捜査で一般高に転入したキンジだったが電話やチャットアプリで連絡することはしていたが、顔を会わせるのは結構間が開いていた。ちなみに話によると転校初日に高校内の全不良締めたらしい。

 なにやってんだこいつは。

 

「アリアたちは?」

 

「アリアと白雪は隣の部屋で雑魚まとめてるし、レキとワトソンは周囲の警戒、理子と遙歌はさっき送り出した連中の引き渡しと警察への連携だな。つーわけで、そいつらどうにかしとけ」

 

「あぁ、うん」

 

 俺が指差したのは言うまでもなく鏡高菊代と望月萌。絶体絶命からいきなりたなぼた敵に救われて呆然気味――というよりも颯爽と救い出してくれたキンジに心酔しているのだろう。どう見ても顔が恋する乙女だ。中学時代に知り合いだったという菊代はともかく、会ったばかりのはずの萌にまであれとは恐れ入る。

 最近は純粋に人たらしという感じだったが、フラグ製造器の本領発揮と言ったところだ。

 

「まーたアリア怒るかね……」

 

 なんて、苦笑したところで。

 ソレは現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――!?」

 

 空気が質量を得た。

 それは戦意であり、殺意であり、覇気でもある。

 けれど害意や敵意はない。そんな混じりけがあるものではなかった。そんな些細なものが張り込む余地がなかった。

 もっと純粋で、もっと無垢で、もっと真正だった。

 発生源はいつの間にかリビングの中に姿を見せていたのは一人の女だ。

 女――あるいは少女なのか迷うところ。少女と女の境目だけにある独特の雰囲気。腰まで流れる黒髪。白雪顔負けのスタイル。顔は半ば外套で隠しているし、髪でも隠れている。赤いカットオフセーラー服の上から外套を纏う彼女。

 ニヤリ(・・・)と彼女は笑った。

 

「ようやく茶番は終わったか」

 

「キンジィッ!」

 

「――!」

 

 判断は一瞬だった。

 彼女の出現に意識を失った菊代と萌を抱えてダッシュ。一切振り向かずに、即座に離脱し部屋から脱出した。同時に耳にしていたインカムにモールス信号で全員に発信。

 緊急事態発生、だ。

 そしてその間にも彼女は動いていた。

 

「キキッ」

 

 腕が霞んだ。正確に言えば、外套の下にあった右腕、それが握っていた偃月刀ごと。京都で戦った張遼のそれによく似ているが僅かに違う。あれよりももっと有名な形状だ。

 ソレが霞んだ――霞んで見えるくらいの速度で振り上げられた。

 ガードは間に合った。振り上げられる偃月刀に対して、両腕を十字にさせることで受け止めた。意識の切り替えこそが遅れて、十全な防御ではなかったが、しかし並大抵の攻撃ならば容易く受け止めるくらいではあった。

 だから受けきれずにぶっ飛んだのは彼女の一撃がそれだけ並はずれていたという証だった。

 

「――!?」

 

 ぶっ飛ぶ。文字通りに体が天井に激突。体制を整える暇もなかった。そのまま天井をぶち抜いて、さらに屋根まで突っ切って、それでも尚止まらなかった。夜の空へとカチ上げられる。

 

「くそ、が……!」

 

 常人ならばこの時点で既にブラックアウトで意識を失っていただろう。なんとか姿勢を制御しようとして、

 

「っつお!?」

 

 俺がぶち抜いた穴から投擲されたであろう偃月刀が超音速で迫っていた。速度に加えて莫大な気。当たれば身体が消し飛ぶ。避けきれない。腕の螺旋運動で逸らしたが、逸らし切れずに肉が削げて、骨にひびが入った。しかしそんなレベルではない。

 逸らした直後――背後に彼女の気配があったからだ。

 

「キキッ」

 

 まるで瞬間移動したかの如くに現れていた。笑みを浮かべながら。超音速と超高密度の気を宿していた偃月刀をバトンで遊ぶかのように容易く。

 そして振り落とす。

 

「なめん、な……!」

 

 右足で空間を蹴りつけ、左足刀を偃月刀へ激突させる。

 

「――!」

 

 ぎぃぃいん(・・・・・)

 衝撃波と同時にそんな馬鹿げた音。一瞬、完全に互いに動きが止まり、

 

「シィッ!」

 

「キキキキッ!」

 

 手刀と偃月刀が交叉する。

 先ほどと同じような音が連続して夜空に連続する。互いに一歩も譲らない攻防――というよりは完全に技量(・・・・・)が拮抗していた(・・・・・・・)

 地へと落下する数十秒。激突する度に一瞬止まっていたのでそれだけの時間が掛かり、

 

「っ……!」

 

「キキキ!」

 

 庭園に同時に着地する。

 それまではどこに出しても恥ずかしくなかったはずの庭園も着地直前の激突で滅茶苦茶になっいた。

 そしてにらみ合う。

 

「兄さん!」

 

「来るな!」

 

 背後から遙歌の声。けれど構ってられない。既にこの時点で先ほどあったヤクザ絡みの事件なんて頭から消え去っている。

 一目見て解ったのだ。

 こいつは――曹操と同じだ。

 あるいはスキルを封印する前の遙歌。

 人から外れたどうしようもない例外。 

 それ以上にこいつはたぶん、もっと根本的な意味で人間ではない。

 

「お前……何者だ」

 

 答えは期待していなかった。

 だが、

 

「コウ」

 

 答えはあった。

 

「闘将仙仏、孫悟空、色々呼び名はあるけれど、猴と呼べ。いい響きだろう?」

 

 目と鼻の先から。

 

「――っ」

 

 目を離したつもりはなかった。気を緩めたつもりもなかった。寧ろ、全身全霊で彼女――猴の動きに目を凝らしていた。

 それなのに全く気付かなかった。一瞬もなく、まさしく零瞬。さながら瞬間移動の如くに猴は俺の目前にいたのだ。その時点で殺されてもおかしくなかった。

 けれど、そんなことはなかった。

 猴は腕を広げて――そのまま首に絡みついてきた。

 関節技や投げ技ではない。まるで抱きしめるように。

 

「あぁ、ようやく見つけた。私の半身、私の片翼。もう話すもんかお前がいるのならば(・・・・・・・・・)私はもう一人ぼっち(・・・・・・・・・)じゃない(・・・・)

 

「なっ――んっ!?」

 

 声を上げる暇もなかった。

 

 ――彼女の唇と俺の唇が重なっていたから。

 

 キスを、されていた。

 キス。口づけ。接吻。唇と唇を重ね合わせるということ。好意の行為。

 それを、俺が、猴からされていた。

 突然のことに反射的に目が見開かれたが、猴はうっとりと酔っているかのように目を閉じていた。

 わずかに香るのは、血の匂い。   

 

「お前だ。お前以外にいるもんか。お前しかいない。お前以外在りえない。お前だけが私を満たしてくれる。お前が、お前が、お前がお前がお前がお前がお前がお前がお前がお前だけが――」

 

 そして彼女は。

 蠱惑的に、これ以上ないくらいに瞳を潤ませて笑みを浮かべ

 

我愛你(愛してるよ)、蒼一」

 

 愛を囁いた。

 

 




純愛()ですね。
りゅーちゃん大好き殺し愛とか殺ンデレ。
体型はおこちゃまではなくめだかちゃんレベルにナイスバディ。

あと活動報告を見ていない人はぜひ見てください。重大報告があります。
いやまぁ、この話では適応されていないので実行されるのは次話からでしょうが。

一言で言うならレキを綺麗する?

ちなみに前話で一刀が蒼一と引き分け云々は実力が拮抗していたわけではなく、蒼一のほうが上だけれどなんとかしのいでて、恋が武将チーム倒して加勢に来て一刀にも蓮華が来た感じ。つまりタイムアップによる引き分け。それだけで見ればまぁ蒼一判定勝ちだったかな?
あと一刀だけじゃなくてあの面子に紛れて戦ってる蓮華が一番インフレ(

あとめだか編ので書き忘れていたけれど、あの蒼一の肩書はこんなの。

調律奴隷(アンクルーフィン)
選挙管理委員会顧問
一年一組担任

能力とか立場に触れたいなぁとは思うけど触れられるか謎なのでここで公開。


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