落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第13拳「その落ちこぼれに負けて、お前は超落ちこぼれになるんだよ!」

 自分という存在を認めて欲しい。

 それが峰理子の願いだった。

 否、天下の大泥棒アルセーヌ・リュパンの曾孫。理子・峰・リュパン4世の願いだった。俺たちは銃声におびき寄せられて。

 それを知った。

 聞いた。

 彼女の聞くに耐えない話を。

 彼女の語るに忍びない話を。

 キンジ、神崎、峰たちの会話を。

 それに俺は口を挟まなかった。

 ただ、聞いていただけだ。なぜならそれらの会話は、“受け継いだ者”の話だ。

 だから――このハイジャックに於いて俺が動いたのはその後だ。

 神崎と峰のアル=カタにより神崎が負傷し。キンジが神崎を、連れて撤退。応急処置の時間稼ぎに残ってからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はお前がうらやましいよ」

 

 峰と対峙し、最初の言葉だった。

 

「ああ……?」

 

「だってさ、4世って呼ばれてることはご先祖様の後継者として認められてるって事じゃねぇか」

 

 俺にはそれがうらやましい。俺は認めて貰えなかったから。俺は、落ちこぼれだったから。

 

「どうせ、俺の事も知ってるだろ?」

 

 キンジの『性々働々(ヒステリアス)』も知っていたのだならば、

 

「――那須与一」

 

 理子がある名前を口にした。その名前に俺は口元を歪める。自嘲の笑みだ。

 

「那須与一、それがお前の先祖だ」

 

「ご名答」

 

 那須与一。

 高校や中学の授業では、何度かでるであろう人物だ。『平家物語』において遠く離れた扇の的を射抜いた弓の名手として。源義経の家臣。家系的に見れば俺の23代分前の人物だ。

 

「やっぱ知ってたか。なら俺が落ちこぼれである理由もわかるだろ?」

 

「……正直信じられないな。まさしく小説やマンガの話じゃないか」

 

 まぁ、そう思うだろうな。そうであったらどれだけ良かったか。

 だが、

 

「現実だぜ? ――俺が弓どころか銃とかの飛び道具が一っつも使えないのは」

 

「まるで、呪いだ」

 

 理子は吐き捨てるように言う。

 まるで、ではなく。

 俺にとってはまさしく呪いなのだ。

 飛び道具が全く使えない。弓に矢をつがえることがてきない。つがえられても飛ばない。飛んでも1メートルも飛ばない。銃ならば、弾を込めれない。込めようとするとこぼれ落ちる。引き金を引けば不発。最悪の場合は暴発。弾詰まりは当たり前。弓に銃だけではなく。投げ槍も投石でもブーメランでも投げナイフでもダーツでも輪投げでもスーパーボールでも砲丸でも十字架でも巻き微志でも手裏剣でも苦無でもなんであろうと関係ない。

 あまねく投擲物を俺は使えない。

 そんな存在が――弓の名家である那須家で落ちこぼれ無いわけがない。

 

「それが――俺が落ちこぼれである所以だ。『那須与一二十四代目』を受け継げなかった理由だ」

 

 最もそれだけ、という訳ではないが。これに関しては言う気はない。

 

「なぁ、蒼一」

 

 峰から声をかけられた。それまでの狂ったような声ではない。

 

「お前はイ・ウーに来い」

 

「あ?」

 

「イ・ウーに来れば落ちこぼれじゃなくなるかもしれないぞ?」

 

 きっとお前みたいな人間の為にああいう場所は在るべきなんだ、と彼女は言う。

 それに対し、俺は。

 

「そういうデートの誘いはキンジにしろよ」

 

 俺はどこにも行かない。

 俺の帰る場所はどこでもない、レキのいる場所なのだから。

 かつて雨と血に塗れながら彼女と約束した。

 どこでもない、お互いが共にいられる所にいようと。

 そして俺は構える。今にも駆け出しそうな動の構え。右手は力を抜いておく。飛行機の中では本気では戦えないから。こんな所で本気だしたら誇張抜きで飛行機が壊れる。そういう意味ではハイジャックというのは俺に対しては妙手だ。

 

「さぁ、峰。悪いが時間稼ぎのつもりは無い。とっとお前を捕まえて帰りたいんでな」

 

 なぜなら。レキが待っているのだから。

 

「は。やって見ろよ、本気も出せないお前がなにをできるのか。見せてみろよ、落ちこぼれ!」

 

「その落ちこぼれに負けて、お前は超落ちこぼれになるんだよ!」

 

 約4ヶ月ぶりの那須蒼一の決め台詞である。

 そして、跳び出した。

 

 

 

 


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