落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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エピローグ「はい、行きましょう」

 

 

「やぁやぁ、ただいま諸君皆の『拳士最強』強襲科(アサルト)切り札(ジョーカー)と慕われいる武偵高二年A組出席番号12番那須蒼一が今、今日この武偵高に半月ぶりに帰って来たよー! さぁ紳士淑女親友友人仲間の諸君、俺の帰還と生還を祝して喜びの抱擁を交わそうじゃないか! 俺たちの友情は永遠だ!」

 

「てめこら那須! なに帰って来てんだよ! 白組にやたらお前らチーム固まって赤組の勝率下がったと思ってたらお前がどっか消えてるから行けると思って綿密に作戦練ったていうのにお前来たら全部おじゃんじゃねぇか! なんだよもうもう一回失踪しちまえ!」

 

「ちょっと那須君今までなにしてたのよ! 那須君いないせいで肉壁要員がいなかったじゃない! ただでさ遠山君たちがノリとテンションで特攻なんて作戦にもならないことしか言わなくて抑えるの大変だったじゃない! あと肉壁と肉盾!」

 

「那須ぅ! お前何しとったんじゃぁ! お前がおらんせいで授業碌に進められんかったやろ! なにぃ? 腕飛ばされて死んどった!? どあほぉ! そんなもん腕飛ばされる方が悪いわぁ! 気合いでどうにかせんかい気合いで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「しくしくしくしくしくしく……」

 

 帰って来て早々に兄さんは号泣していた。白組代表と赤組代表、それにかなり私怨が混じった蘭豹先生から三方向から一度に心ない言葉を喰らって思いっきり傷心だった。今ではグラウンドの端っこで、数時間前までとは入れ替わるようにレキさんの胸に縋り付いて号泣していた。

 

「うぅ……酷い……」

 

「大丈夫ですよ蒼一さん。私は蒼一さんの味方ですから。というよりも私だけが味方でもいいですよね。えぇもうこれは明日からはどこかにいかないように部屋に監禁して私が全部世話したほうがいいですよね。大丈夫です、私は蒼一さん汚物塗れだろうと腐敗物だらけだろうとも抱きしめてキスすることができますから」

 

 半月ぶりのスキンシップということで言っていることが危ないレキさんだったが無表情ながらも満足気だ。こういうレキさんも随分と久しぶりに見る。無表情だけれど無感情ではないのがレキさんの面白い所だと思う。

 人工天才、ジーサード、ジーフォース、ドライたちとの戦いから既に数時間が経っていた。まだスキルの封印のでその場で傷を回復させる事が出来ずに、その場で全員が病院に運ばれた。既にアリアさんたちは治療中で、少し遅れながらもキンジさんにサードが引きずられながらも現れた。なんでも上空から一人用パラシュートで落下し、当然ながら軽いダイハードだったらしいが、戦闘機に合わせて海上から追跡させておいた海上走行モードの緋影を使うことでなんとか帰って来たらしい。

 それから全員がそれぞれ一通りの治療を済ませ、それぞれ包帯でグルグル巻きになりながも武偵高に帰ってみれば既に結構な時間だった。午前の部は終わり、男子女子別目玉の水中騎馬戦と実弾入りサバゲーは終わっていた。

 ちなみにその時点では赤組がかなり勝っていたよう。

 そしてあの言葉攻めである。

 まぁいくら兄さんで泣くのは仕方のないことだ。というか兄さんが泣くのはそれほど珍しいというわけでもないし。

 そして今、私たちはそんな兄さんたちから少し離れた所で、作業中のグランドを眺めていた。

 私たち――つまりはサード、かなめ、ドライの四人だ。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 四人が四人とも傷だらけである。それぞれ相応の激戦を繰り広げ来たのだから無理もない。私とかなめは微妙な距離を取って段差に腰かけ、サードは頭の後ろで腕を組みながら立ち、ドライは普通に腕組みをしていた。私とかなめは制服で、サードとドライはそれぞれキンジさんと兄さんの変えの制服を着ている。

 一応『ケースD9』が出されるほどの扱いの事件を起こしたサードたちだったが現時点では特に何も言われていない。

 見逃されている――というよりは国際問題だ。

 元々アメリカの人権を無視した研究であったロスアラモスに、サードは大統領の護衛もしたことがあるRランク武偵。そんな存在が日本で事件を起こしたとあれば世間の武偵へのバッシングがより辛くなるし、武偵自体のモチベーションも下がる。そういうことに疎い私でもそれくらい考えられるし、多分それ以上に高度な頭脳戦が行われるのだろうが、現時点では保留にするべきというのが校長先生の判断だった。

 

「……食えない野郎だったぜ」

 

 ぽつりとサードは呟いた。

 

「あの野郎、完全に見逃してやがる」

 

「……それで国際問題とか気にしてるんじゃないんですか?」

 

「あぁ、そうだけどな。あのおっさんはそもそも俺たちを引き渡す気なんかねえんだよ」

 

「……だろうな。それが一番問題ない」

 

「ちょっと、説明してよ」

 

 私も説明してほしい。

 

「だからよ、俺たちを日本政府なんかに引き渡したらそりゃもう一大事だ。武偵の信用問題、人権、生命倫理とか言いだしたらキリがねえ。最悪のところまで行き着けば戦争になったておかしくねぇんだよ」

 

「……そういうのを避けるための策を考えるために今放置されてるんじゃないんですか?」

 

「忘れるな那須遙歌。今の俺たちは既に戦争中(・・・・・)だ」

 

「――極東戦役(FEW)

 

 そうだ、とドライは頷く。

 

「今の地球上において全ての組織結社はそれに注目している。当然だな、文字通り世紀の大決戦だ。この先数世紀の支配図を決める戦いだ。だからこそ今どの政府もそれの経過に夢中だ。国としてはどうやっても何かしらの戦果を得る必要がある。そして――この戦役では背反や裏切りも認められているということだ」

 

「あぁ、なるほど。そういうことかぁ。ふうん、合理的だねぇ」

 

「……? あの、つまりどういうことですか?」

 

 残念ながら今の私の脳みそでは理解しきれない。普通に話したり感情のままに叫ぶならともかく、細かい思考は無理なのだ。

 なので可哀想なものを見るようなドライの視線は誠に遺憾である。誰のせいだと思っているのだ。

 

「つまりよ。経過がどうなると最終的に勝ってる陣営にいればいいってことだ。そうすりゃ何かしらのお零れ(・・・)はもらえる。師団の中核は日本だからな、多分このまま会談なんかしてみろ。『こちらが悪かったのでどうぞそいつら使って下さい。私の国から貸し出します。元々いない存在なのでこっそり自由にどうぞって』ってなる。日本のほうも公にできるレベルの話じゃねぇから、そのまま通るしな」

 

「……悪い話じゃあないように聞こえますがね」

 

「悪い話じゃねぇ、胸糞が悪い話だ。明るみにできない話を隠したまま、俺たち使って戦役終わった後のことも視野に入れてんだよ。解るか? そうすりゃ俺たち作ったくそったれどもは俺たちが戦って成果出して名を上げれば上げるほどほくほく顔(・・・・)だ。冗談じゃねぇ」

 

「だからあの男は、緑松武尊は策を打った――策を打たなかった、というべきかな」

 

「つまり放置だよ放置。あの野郎、俺らにとっと雲隠れしろって言ってるだ」

 

「え、えぇ? いいんですかそんなんで、『ケースD9』まで出てるんですよ?」

 

「そんなもん適当に眷属とかの連中あげりゃあいんだ。面倒事を回避するにはそれが一番手っ取り早い。ここで捕まって元アメリカ所属の人工天才として存在するより無所属の謎の人間兵器たちってことにしてれば責任の擦り付け合いができなくなる。今回の一件を持ち出してアメリカの糞ども笑かすよりも、なかったことにしたほうが混乱が少ないと思ったんだろうなあのおっさんは」

 

「混乱……」

 

 それは確かに混乱はないほうがいいだろう。今のような微妙な時期は特に。

 

「元々俺たちの存在はいろんなものに喧嘩売ってるからな、明るみに出たら拙い。だったらなにもかもなかったことにしようってことだよ」

 

 肩をすくめてサードは苦笑する。

 

「ま、一言で言えば見逃されたったことだろうな。どういう思惑があろうともそれには違いねぇ。情けないねぇ、情けを掛けられる敗者っていうのは」

 

「それを甘んじるのが敗者の責務だ」

 

「ったくおめぇは相変わらず糞真面目だなぁ」

 

 文句を言いつつもサードもドライも笑みを浮かべていた。憑き物が落ちた、というのとは少し違うだろう。そこまで私はこの人たちのことを知らない。けれど、何かしらの心境の変化はあったはずだ。

 サードの愛もドライの友情も変わらないのだろうけど、変わるものもあるはずだ。

 

「……んでよ」

 

 頬の刺青を掻きながらサードが言葉を発した。

 

「俺はさ、サラへの想いも夢も、また会いたいっていうのも諦めきれねぇ。諦めるつもりもねぇ。……少なくとも当分はな。だから俺はこのままとっととトンズラこくつもりだし、アンガスもその準備進めさせてる。あー、だから、よ」

 

「私は付いていくよ」

 

「言わずもがなだ」

 

 かなめもドライも即答だった。続きを聞く気もないのは明らか。それはサードにとってはかなりの予想外だったようで呆けながら目を見開く。

 

「……お前ら」

 

「非合理的ぃ。今更何言ってるのさサード。そんなの言われるまでもないじゃん」

 

「お前は本当に馬鹿だ。ここでおさらばですなんて言えないだろう」

 

「いや、でもよぅ。かなめ(・・・)は兄貴から帰る場所貰ったんだろ? ドライだって蒼一にそんなようなこと言われたんだろ? だったら俺みたいなのと一緒に来なくても」

 

「違いますよ、サードさん」

 

「あ?」

 

 いきなり口を挟んだ私にサードは睨みつけてくる、というよりも元々がキンジさんと同じで目つきが悪いのだろう。

 

「帰る場所があるからって、絶対そこにいなきゃいけないじゃあないですから。帰る場所があるなら……どこに行っても大丈夫っていう考えもあるんじゃないですかね」

 

「非合理的ぃ、ほんと非合理的だけど……そういうのも悪くないと思う、かな」

 

「俺はお前の影だ。だいたいお前が俺無しで夢を叶えることができると思うのか? まったく人がどれだけ裏仕事をしていると思ってんだ」

 

「……はぁ」

 

 私たちの言葉に――サードはため息をつく。ニヤニヤと笑みを浮かべるドライやかなめに対して、そのため息はありったけの想いが込められていたのだろう。それはこの三人同士にしか解らない絆だ。

 

「仕方ねぇなぁ。ほんと……じゃあまぁ、当分付き合ってもらうぜ。そのうち夢から覚めるまではよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、お前ら。そろそろ行くぞ」

 

 そして現れた兄さんはケロリとした顔でそんなことを言った。

 

「……何を言ってるんだ貴様は」

 

「あぁ? お前なぁ体育祭だぜ? 種目やるに決まってるだろ。ほれ、見てみろ」

 

 指さした先はグランド全体を使って白と赤の組で分かれている全校生徒。その中で十数メートルくらいはある紅白の棒。頂点には赤組のほうは三年生の先輩らしき人が立っていて、白の頂点はキンジさん。

 彼はマイクを握って、

 

「武偵高体育祭(ラ・リッサ)名物! 男女混合全校生徒棒倒し『王棒遊戯(キング・ノック・ダウン)』!! 戦え! 叫べ! 吠えろ! 勝つぞォーー!」

 

『おぉおぉぉおーー!』

 

 目から怪光線出して叫んでいた。あとなんかランスロットさんが全身発光しながら飛んでいるがまぁいいや。

 

「……あの兄貴はあんなキャラだったのか」

 

「最近吹っ切れたぽいな。と、いうわけで、お前らも行こうぜ」

 

「お前な、そんなことが……」

 

「いいんだよ。制服来てりゃ文句言われねぇって。ホラ行くぞ」

 

「なんで俺らが……ってかなめ速いな!」

 

「ほらほらサードもドライもせっかくなんだから行こうよぉー!」

 

「オラオラ、いかねぇーと引きずってでも行くぜ? 人員なら腐るほどあるしなぁ」

 

「……やれやれ強引だなぁおい」

 

「……ま、アンガスたちが準備を整えるまでだな」

 

 肩をすくめ、苦笑しながら二人もグランドへと足を進めていった。

 そんな三人を眺めながら、私も兄さんと並んで歩き出す。

 

「ねぇ兄さん?」

 

「ん?」

 

「私――スキル全部封印しようと思うんです。可能な限り、多分素の身体能力は限界があるでしょうけどスキルそのものは全部」

 

「そっか。いいんじゃねぇの?」

 

「はい」

 

 兄さんは否定しなかった。頷いて、笑みと共に私の頭を撫でるだけだった。

 

「お前がどんなスキルを持っていようと持っていなかろうと、俺の妹っていうことには変わらねぇんだ。何があっても俺はお前の味方で家族だよ。好きにしてくれ。俺は遙歌が大好きだからな」

 

「私も大好きですよお兄ちゃん」

 

 じゃあ、

 

「行くか」

 

「はい、行きましょう」

 

 帰る場所があればどこにも行く気はないけれど。 

 帰る場所があるから――どこにでも行けるのだ。

 

 

 

 




これにて八章終了。
いろいろ込み入った話だったのかなぁと。
変わったことが多かったと思いますね。変わらなかったことも勿論ありますけど。


というわけで何話か番外編挟んでから九章ですねー。

感想評価おねがいしますー

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