落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「お前は親戚に処分されそうになったらしいよな」
倒れ伏した私を見下し、スマートフォンのような携帯端末を弄りながらドライは言葉を漏らした。
「強すぎて強すぎるだけだったら親族に危険視されて、それに刃向った兄の報復に行ったらつい親戚全員殺して、そのことに兄に拒絶されて屋敷に火をつけて死のうとして結局イ・ウーに拾われた、か。いやはや業に塗れた恐るべき人生だな。今日日ライトノベルや少年漫画にだって見ない人生で、調べた時は半信半疑だったが本当なのか?」
「くっ……」
理解できた言葉は精々が半分程度だ。聞こえてはいる。けれど、頭の中で処理が追いつかない。全身は動かず、口の中は血と吐しゃ物の味しか感じなくて不快感が駆け巡っている。
「人生というか化物生とでもいうべきかな。ふむ……そうだな、俺ばかりお前の生い立ちを知っているのはフェアじゃあない。だから俺も教えてやろう。人工天才、ドライの誕生秘話という奴をな。お前も気になっていたんじゃないのか?」
それは――確かにそうだった。
ジーサードとジーフォース。二人の正体は襲撃の次の日には予測ができていたいし、ジーフォース本人からも暴露され、ワトソンさんの調べからも出ている。ただし、ジーフォースと一緒にいた少年、ドライに関してだけは一切の情報は出てこなかった。
ドライ、つまりは三番目。問題は一体何の三番目であるかということ。生憎誰も心当たりはなかった。
「少し長くなるが俺の仲間が文化祭を襲い始めるのにも少し時間があるしな。まぁ大体がお前には深く関係のある話だ。というよりもお前ら一族に関係ある話だ。――そう、俺はお前や那須蒼一の弟なんだ。だから、ドライなんだよ」
「――!?」
告げられた言葉に喘ぎ、血を吐きながらも驚愕する。考えなかったわけではないが、しかしそれでも真実として突き付けられれば驚かないわけがなく、動揺しないわけがなく、ドライを見上げれば、
「まぁ嘘なのだがな」
「な……っ」
「馬鹿か貴様は。お前はともかく、どこの誰が那須蒼一になるような因子を保有すると思う。確かにお前たちの両親――那須檍と那須泉華も傑物だったが、それでも二人は那須蒼一を――歴史上類を見ない最悪を生んでいる。ロスアラモスの研究者たちがそんな危険性を孕んだ遺伝子を使う訳がない」
那須檍と那須泉華。
その名を私は知っている。その名前だけを私は知っている。私の――私たちの両親だ。
駆け落ち同然で結ばれ、那須の家からも断絶された二人。私を生んですぐに交通事故で亡くなった二人。顔も覚えていない、写真もない私たちの父親と母親。
知っているのはそれだけだ。
そしてドライの言うことも一理ある。格闘技能を極めた兄さんではあるが、それは『ただ戦うだけの人外』握拳裂の師事あってのこと。そしてどれだけその拳が強くても、あの人が飛び道具、さらにいえばあらゆる武器防具を用いることができないのは現実なのだ。
「ならば俺のオリジナルは誰なのか――その答えは少しだけ置いておくとして、話を進めようか」
●
「ある島国に、ある一族がいた。
「その一族は千年以上も前に栄えた英雄の末裔だった。かつて世の趨勢の一翼を担い、その時代の王に従って己の武を以て戦てきた。友と共に戦い、女を護り、国を担って、王についていく。そんな英雄を生んだ一族だった
「だがしかし主も戦友も時と共に姿を消していき、その一族は島国に取り残され英雄はどこかに姿を消した。異国へと旅立ったのかどこかでのたれ死んだのかはたまた異世界にでも飛ばされたのかは知らないがある日突然消え去った。そして――一族の衰退は千年かけて進んでいった
「弓を始めたとした遠距離で名を挙げた一族だったからこそ、技術が進むにつれて銃の扱いを取り入れたが、それでも英雄と呼べるものはほんの僅かでしかなく、一族を存続させるだけで精一杯だったんだな
「そして時は流れて――一族には待望の傑物は生まれた。才溢れたその仔はかつての英雄の再来とまで呼ばれ将来を熱望された
「だがそれ故に彼女は一族のしがらみを嫌った。憎んだとさえ言っていい。仔はやがて成長し、少女となり、そして女となって家を飛び出した。
「女は一族という狭い世界から飛び出し、本当に意味で世界を知った。友を、仲間を、そして伴侶を得たのだ。男を愛し、その男に愛され、二人は結ばれたのだ
「数年後には男の子が生まれた。その子供の呪いに気付いていたが、それでも二人は子供を愛した。そして一年後には二人目の子供が、女の子が生まれた。その女の子もまた呪いとも言える業を宿したが、それすらも二人は愛していたのだ
「そして女と男は死んだ
「残された子供は一族の本家に預けられた。あの女が生んだ二児ならばさぞ一族の繁栄に繋がると信じられて
「そんな目論見は儚く砕かれた
「男の子はあまりにも才がなかった。朽ち果てていた。枯れ果てていた。才能という言葉から見放され、能力という概念など欠片も持ち合わせていなかった。遺伝子が起こしたバグとしか呼べない。女と男から生まれたとは信じられない一族きっての最低傑作だった
「女の子はあまりにも才を持っていた。溢れていた。持ちすぎていた。才能という言葉に愛され、能力という概念のことごとくを抱いていた。遺伝子が起こした奇跡。女と男から生まれたとしても信じられないほどに一族きっての最高傑作だった
「当然男の子は邪魔者扱いされ、女の子は愛された。女の子の力ならば一族復興など目ではない。その姓を歴史に刻むことなどあまりにも容易かった。一族はそう信じ、確かに女の子にはそれだけの力があった
「しかし女の子は一族を嫌った。彼女が懐いたのは兄である男の子だけだった。
「一族からすればたまったものではない。なにもできないどうしようもなくどうしようもなくどうしようもない、穀潰しとしか言いようがない男の子のいうことしか女の子は聞かないのだ。男の子は一族には刃向わないから女の子は一族の言うことを聞いているというのが現状だった
「一族は困った。すでに女の子が自分たちを一蹴するだけのポテンシャルを秘めているのは明白だったから無理強いはできない。せっかく一族復興ができると思ったら、いきなり断絶の危機に入ったのだから当然と言えば当然だがな
「そして男の子と女の子を引き取って数年が経ち、困り果てたは一族は決断した
「どうしようもない最高傑作を廃棄し――代わりを用意しようとな」
●
「――かわ、り……?」
ドライの口から語られたのは私も知っているところもあれば、知らない所もあった。女と男の話は未知だったし、男の子と女の子の話は私や兄さんの話だった。その先の話が何があるのかも知っているし、私の罪だ。
それでも――代わりなんて概念が出てくるなんて展開は私は知らない。
「そうだ、代わりだ。女の子を持て余した一族にある国のある機関がある話を持ち掛けた。
「――――ぇ」
「そして一族はそれに応えた。女の子の遺伝子を送り、研究所は受け取り――それでは済まさなかった。それよりも前に入手していた
「――ぁ」
「その遺伝子をベースにして、女の子のようになるように作られた新たな人工生命が作られた。あぁ、そうだ、そういうことだ」
「――ぁぁ」
「一番目は握拳裂、二番目は那須遙歌そして
「――あぁ」
「お前のせいでお前は一族から見放されて、お前のせいで俺みたいな化物が生まれているんだよ。全部全部が――お前のせいだ」
「――ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ピシリと何かが砕ける音がした。
それはたぶん、那須遙歌の心というやつだったのだろう。
そんなものが――私にもあったらしい。
●
体育祭が行われている武偵高。遠く火力発電所では戦争が行われ、近くの空き島ではドライによる化物退治が行われている。
だからこそ体育祭を滅茶苦茶にするのは彼らの役目だった。一言で言えば異形の集団だ。統一性の欠片もない、人種も性別も種族もバラバラな六人。
全身に傷を持つ白髪の男。
頬の弾痕が目立ち、筋肉の鎧をまとった白人の長身の男。
顔を半分を包帯で隠したひょろ長い体の黒人。
オッドアイの銀髪の少女。
中性的な顔立ちに狐の耳を持った和装の女の子。
紳士然としたスーツ姿の老人。
彼らに共通しているのは誰もがジーサードの忠誠を捧げ、そのためにドライの作戦に従うという戦士たちであるということだ。
彼らの視線の先には一般競技にて盛り上がっているように見える体育祭。だが、見る者が見れば、生徒たちの動きが強張っているのが解るだろう。誰もが品川で行われている戦闘に動揺しているのだ。
未熟だと思ったり、どうでもいいと思ったり彼らの感想は様々だったが誰も何も言わなかった。何せ彼らは今光
全員が到着し、数分の空白があった。
そして全員が一斉に迷彩をオフにする。
「時間ですな」
まず口を開いたのは老人――アンガスだ。
「ドライから計画の変更はないでござりまするな」
狐耳の女の子――九九藻がそれに答えた。同じように白髪の男のクラスト、白人のBE、黒人のサイク、銀髪のエレナも同じように頷く。互いに完全なステルス状態でそれぞれの情報が全くない状況だったのだ。全員が此処にいるのも迷彩を切ってから初めて気づいたほど。
「では計画通りに参りましょう」
「ヤー」
雑談はない。今更迷うこともない。
ドライから命じられたことは体育祭の蹂躙だ。生徒や教師、観客はある程度殺してある程度生かす。そうして武偵高に多大なダメージを、武偵高を居場所としてるバスカービルや化物那須遙歌に精神的なダメージを与える。それがドライのから課せられた彼らの任務だった。
ジーサードは知らない。
彼はそんなことを望むような男ではないし、だからこそ彼らはジーサードに付いて行っているのだから。
だからこそ自分たちが汚れ仕事をするべきだと考えていた。ジーサードの悲願は誰もが知っている。そのためにはバスカービルの打倒とFEWの勝利は必須だ。ならば例えどれだけジーサードが怒ろうとも部下たる自分たちがやると決断している。戦力的に見れば教師陣は確かに脅威だが、生徒は所詮烏合の衆だ。全体の半殺しでいいのならば十分可能なレベル。それだけの強度を彼らは保有していた。
勿論、彼らにも心がないわけではない。文化祭を楽しんでいる高校生を憐れんでいる思いはある。けれどそれは所詮干渉に過ぎず、ジーサードに捧げた忠誠には比べ物にならない。
故に、
「Go Ahead」
躊躇いなく進み、
【誓いを此処に。我らの聖域は決して穢させん】
足元に氷の弦が絡みつき、動きを止められた。
●
「――!?」
六人が今にも飛び出そうとした瞬間、さらに六人が彼らの行く手を遮っていた。
「……ふむ。遠山の言葉通りだったな」
銀髪に白銀の甲冑、片刃の剣を突き立てた聖女が。
「なるほど只者ではないようね。流石は教授を打倒したというべきかしら」
煙管を吹かした古風なセーラー服の少女が。
「全く、いきなり引き出されたと思ったらさらにいきなりこれですか。まぁ彼を呼ぶには絶望が足りませんがね」
端正な顔立ちの眼鏡の優男が。
「ホホホ! 流石は我が義弟の師事じゃのう! ドンピシャじゃ!」
褐色の肌を多く露出し、金の装飾を凝らした女が。
「Good。彼らを足止めできてよかった。調べた限りではこれで打ち止めだから、僕たちが凌ぎ切ればここの護りは心配する必要がなくなる」
各関節から刃を生みプロテクターで身を固めた中性的な少女が。
「素晴らしい……! 流石我が王、この忠義の騎士、一生ついていきます……!」
片目を隠した長身の騎士礼服の男が。
かつて遠山キンジや那須蒼一や神崎・H・アリアやレキや星伽白雪や峰・理子・リュパン四世や、さらには間宮あかりの前に立ち塞がったかつての敵たち。
誰もが既に敗れ去った者たちだ。
「まぁ、なぜ私たちだと思うかもしれんがここが居場所なのは私たちも同じでな。ついでに滅多にない出番だから決めさせてもらおう」
ジャンヌ・ダルクが、夾竹桃が、小夜鳴徹が、パトラが、エル・ワトソンが、ランスロット・ロイヤリティが――彼らの前に立ちふさがる。
「負け犬軍団参上!! ここを通りたくば私たちを斃してから行け!!」
妹ちゃんレイプ目回その2&負け犬軍団参上。
そして蒼一遙歌ドライだと思った人は残念。拳裂遙歌ドライでした。
こわい。
イメージ的には父親が拳裂で遙歌が双子の姉的な感じで遺伝子とかいじくった。
あと誰もが予想しなかった小夜鳴さんの登場。
負け犬軍団にヒルダいないのは理子にくっついてるから。
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