落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「は」
そこはまさしく戦場と呼べる空間だった。
「はは」
品川の火力発電所の南の芝生が広がる土地だ。通常火力発電所という場所故に事故や天災には細心の注意が施されているが現状、そんなものはどこ吹く風と広範囲にわたって炎上している。
「ははは――」
響き渡る爆砕音や斬撃音などの戦闘音。そしてなにより少年の声だ。
ボディスーツに全身を覆うプロテクター、それと合一したコート。所々に金や金糸の装飾。目元を覆う黒のサングラス。そして顔に刻まれている民族風の刺青。
燃える大地の中で――彼は笑っていた。
「はははははは!」
「この、
ジーサードと渡り合うのは既にPADを装備したアリア。既に『モード
「星伽候天流緋火虞鎚!」
「はははっはーー!」
上がる哄笑は止まらない。
どころか――前後の刃をジーサードは両腕で受け止めた。
「っ!?」
ガッツポーズをしているような態勢でアリアの二刀も白雪の一刀も受け止めている。当然ながらアリアの緋々の気は遍く異能を粉砕するものであり、白雪の炎は千度近い炎を纏っている。
それを苦も無く受け止めている。コートを形を残したままであり、火傷を覆う様子もない。
つまりは、
「先端科学兵装!」
「おうよ。コートも腕も特別製だ。全体の0.002パーセントだが色金合金が仕込まれてる。燃えないし斬れることもまずないぜ」
「だったら!」
アリアが後ろに跳んだ。数度地面を跳ねながら高く跳躍。そのまま剣翼を羽ばたかせて飛翔し、
「白雪、合わせないさいよ!」
「こっちのセリフだよ!」
アリアの下へと移動していた白雪が刀を地面に突き刺し、両手で印を切る。同時にアリアも片手を掲げた。直後アリアの背から剣弾が雨霰と射出された。ジーサードに向かうそれは射出中に突然炎に包まれる。
「It's CARDINAL-RAIN firefall shift!」
「名付けて緋千の落涙ーー!」
「ははっそこは合わせておけよ!」
突っ込みをしジーサードを避けなかった。どころか彼は自分の前を行く白雪すらも無視して二人の動きを眺めているだけだ。
「オラァ!」
地面を殴りつけ、大地が爆散する。ミサイルもかくやという莫大な衝撃だ。まず砕けた土が炎剣弾陣にぶつかり、さらには衝撃波がジーサードから逸らしていく。
そして拳を地面に叩き付けたジーサードはゆったりとした動きで立ち上がり、
【お前は狙撃弾を見切っている!】
「お?」
真横から狙撃弾を受け――彼をぶち抜くはずのそれはあらぬ方向へ飛んで行った。
「……あっれー? レキュ? 当たってないよ?」
『解せぬ』
ジーサードから声が届くギリギリの距離まで離れていた煙突の影に潜んでいた理子が頭を出しながら耳に付けたインカムでレキとコンビ技を繰り出して、しかし当たらなかった。
レキの異常『
つまりこれも、
「これ先端科学兵装だよ、いいだろう?」
何時の間にかジーサードが理子の眼前まで来ていた。理子は目を離してはいなかったのに。瞬きをしたなんて初歩的ミスをしたつもりもない。まるでジーサード自身が霞か何かになったようだった。
「あー羨ましい、超欲しい。でも、その近すぎるからもう少し距離とか欲しいなぁーとか思うんだけど……どう?」
「ダメに極まってるだろ」
「だろうなぁ!」
恥も外聞もなく逃げの一手だ。バックステップしながら超能力で髪によるナイフの斬撃を叩き込み、手にしていた二挺拳銃も乱射する。少しでも損傷を与えられれば異常で結果を増幅できる。さらには全く同時に真上から狙撃弾が降って来た。煙突の上部に着弾した弾丸は明らかに異常な軌道で跳弾しジーサードの頭部へと
ハルコンネンによるレキの狙撃。
命中すれば即死してもおかしくない。
それでも――当たらなかった。
「――バリア!?」
ジーサードを中心に球体になるような半透明のバリアのようなものが斬撃も弾丸も狙撃も全て弾き飛ばしていたのだ。
「ずっこいなぁ!」
『口より手を動かしましょう、あと足とか髪とか頭とか』
いつも通りすぎる友達に涙目になりつつも撤退を選ぶ。まともに戦えば絶対に叶う訳がないのだから。
それでも、
「遅ぇよ」
拳の一撃が叩き込まれる。大気をぶち抜きながら迫る鋼の拳。一瞬後に自分の胸が爆散されるビジョンが見え、
「なにやってのよぉ!」
「させません!」
アリアの剣翼と白雪の炎刃が受けた。
「!!」
着弾と同時に剣翼が半分吹き飛び、炎の外装も吹き飛んだ。それでも同時に後退しながら理子を回収することには成功した。
「はっはは、やるなお前ら。中々いいチームワークだ。これだけ長く持ったのは久しぶりだぜ。ほら、もっと楽しませろよな」
無邪気に笑っていられるほどにアリアたちに余裕はなかった。四人がかりでも極めて劣勢。ちょっと信じたくないがそれでも現実だ。
馬鹿げた耐久に一撃の重さ、先端科学兵装の武装。体術も一流。さらに驚くべき精神性。
「……これはちょっとまずいわね」
アリアの直観がそんな感想をはじき出す。戦闘力そのもので劣っているとは思えないし、一撃の威力ではアリアや白雪も負けない。
それでもジーサードは一対多に恐ろしく慣れている。人間兵器のの名がピッタリだと思うほどに。なまじアリアたちが戦争染みた火力を持っているのが仇になっているだ。
ここにたどり着いてすぐにキンジとかなめは移動している。そしてアリアたちはこの男の相手。多分、まだまだ遊んでいるようにも感じる。
つまり、自分たちはジーサードにとっては前座でしかない。戦闘前の会話もなにもなかったし。
そして何よりこの男。
少し離れた港のコンテナ群で戦っている彼に似ているのだ。
滅茶苦茶というか――その戦い方が。似ている要素なんてないのに、似ていると思ってしまう。
ちょっと勘弁してほしいなぁ。
●
ジーフォースは遠山金叉のクローンだ。
四番目の『Gの血族』、その中でも唯一の女として試験官の中で生を受けた。勿論、生まれた時から薬物投与を繰り返して人間兵器として作られていくことを生きると表現するならなという話だが。物心付くころにはまずなにより銃の打ち方を教えられた。そんなものは所詮序の口で効率よく他人を殺したり、制圧する方法、さらには人間兵器として個人にて行う戦争行為の遂行するために先端科学兵装の使い方を覚えさせられた。
友達とか仲間という言葉は、単語としての意味は知っていたけれどそんな存在を感じることはなかった。確かに同期や同世代はいたが所詮は誰もがライバルでしかない。結果を出さなければ処分される状況で、仲良くなんてできない。誰もがいつ処分されるのだから仲良くなってしまえば精神が持たない。遺伝子レベルで極めて優秀に作られている彼女たちだったからこそそういうことを誰に言われるわけでもなく理解していたのだ。
その中でも彼――ジーサードとドライは飛びぬけていた。
人工天才、人間兵器というくくりに於いて、彼らは最高傑作と持て囃され、重宝されていた。ジーフォースから見た彼らは完全や最強という単語の具現化だった。
故に彼女は彼らに従い、刃向うことはしない。自分よりも強い者に立ち向かうのは非合理的なことで、非合理的なことをしないのがジーフォースが己の定めたルールだったのだ。
だからジーサードが研究所を破壊したときは躊躇うことなく付いていったし、FEWへの参加も、遠山キンジと互いに異常を発動する『
――結局『
それでも彼らは彼女を見捨てなかった。だから体育祭の朝にキンジやアリアをおびき出して
そう、彼女は何も間違っていない。
非合理的なことはやってはいけない。それは自分の身を滅ぼすだけだから。
あぁ、だったらどうして――と呼んでくれた彼に刃を向けることが辛く感じるのだろう。
●
港街のコンテナ群を駆け抜けるのは二つの影だ。
「――!」
武偵高の男子制服の赤みが掛かった黒髪の少年と近代的なボディスーツと各部プロテクター、さらには腰や背中等の至る所に刀を携えた鳶色の髪の少女。その眼にはヘッドセット。
「――かなめ!」
「その名で、呼ばないでぇ!」
遠山キンジとジーフォース。
ほんの数十分前までは互いに兄妹として接してきた二人は今は刃と銃弾を交し合っている。開会式まではいつも通りだった。しかしその直後にジーサードを捕捉した玉藻からの連絡と武偵高へのジーサード勢力の宣戦布告と『ケースD9』、消えたジーフォースと遙歌。遙歌からの連絡はなく、しかし教務課から指名され放っておくわけにはいかず待ち構えていたのはジーサードとそして敵として現れたジーフォースだ。
「くっ!」
「せぇい!」
火力発電所から少し離れた港で戦っているキンジたちだが、発電所のほうでは絶え間なく戦闘音が届いてくる。ジーサードとアリアたちが戦いっているのだ。キンジとしてはすぐにでも駆けつけいと思うが、
「あああ!」
「ちぃ!」
ジーフォース一人でさえキンジ一人では厳しいと言うのが正直な所だった。
ジーフォースが手にする双剣。それは先端科学兵装で造られた科学の刃。刀身を形成するのは鋼ではなく超極高温の光と超極低温の液体の刃だ。
「
切り裂いたコンテナの切断面が融解し、完全凍結する二つの極点。掠っただけでも生身の人間ならば即死級であり光と液体であるからこそ刀身の長さは自由自在。刀身の延長上に入ればそれだけで致命である。
そしてさらに恐るべきはそれだけではない。
「
近づこうとするキンジを妨害するのは自律浮遊する刃。これまでジーフォースの周囲に浮遊していたX型の布二つがそれぞれ分離して八枚の刀となって刃の結界を生み出している。
ジーフォースの固有兵装、先端科学兵装で生み出された十三の刀。
一つ一つが技術革命を起こせるだけの科学の戦争兵器。那須遙歌に決闘にて負けたが彼女の真価は尋常の戦いではなくルール無用の戦争にて発揮される。遙歌の砕かれた高分子カッターを抜いても十二。今使用しているのだけでも三つで、彼女はさらに九つの兵器を隠しているし、それを使うことに躊躇いはない。
そうまでもしてでも――彼女はキンジを寄せ付けたくない。
「かなめ……!」
緋色の少年はその名を呼びながらコンテナを足場にして駆ける。一瞬でも止まれば間合いを無視する二つの極温の刃が迫り、ジーフォースに近づけば近づくほどに疾風の刃が縦横無尽にキンジを蹂躙する。
それでも、
「かなめーッ!」
兄は妹の名前を呼ぶ。
「……!」
妹だったはずの少女が否定しても。
灼熱と氷結を潜り抜け、暴風に晒されながらも。
彼は止まらない。
「おお!」
文字通り四方八方から刃が迫ってくる。鋭角的な軌道を描き、亜音速に近い速度で迫る機械刃だ。一つ一つ対処していては足が止まって双刃に殺されるのがオチだ。だからキンジは既に『
「
疾走の速度を緩めることなく二挺拳銃による
「な……ッ!?」
キンジの行いにジーフォースが驚愕するがキンジは構わずに突っ込んだ。暴風を潜り抜け、一瞬だけ止まったジーフォースにさらに発砲し
距離を詰めた。
二人の影が交叉し、
「ぐっーー!」
キンジの右肩に斬撃が迸った。
そしていつの間にキンジの後方十数メートルにいるジーフォース。彼女の踵には半透明で三日月型の刃が。
「――『
呟きと共にジーフォースの姿が消え――暴風の八刃をさらに上回る速度でキンジの身体を斬撃が蹂躙した。キンジの目でも追いきれない超高速機動。靴裏が足場のコンテナと接しておらず僅かにホバリングしていた。踵の刃による高速機動補助装置だと悟った時には遅かった。一瞬で叩き込まれた刃は十近い。致命傷には至らなかったが、それでも重傷だ。
いいや、至らなかったわけではなく、
「解るでしょ、私は貴方を簡単に殺せるんだ」
「……はぁ……はぁ……っ」
ジーフォースが加減をしていただけの話だ。
膝をついたキンジの前方にて動きを止めた彼女はその瞳を隠しながらキンジに語り掛ける。
「だから降伏して。だったら私が絶対にサードもドライも説得するから。アリアたちだってなんとか生かして返して見せる。だから」
「嫌だね」
「どうして! このまま戦えば、私は貴方を殺しちゃう!」
その言葉は真実だ。このままいけばいつかジーフォースはキンジを殺すだろう。それはあまりにも明白な真実で、だからこそキンジは馬鹿だなぁと笑って、
「――家族の為なら俺は死ねるぜ」
心の底から思うことを言った。
「――」
その言葉は、真っ直ぐに彼女の胸に突き刺さる。
「大体ここ最近ずっとお兄ちゃんお兄ちゃん言って寄って来て挙句の果てには押し倒して来やがって今更もう関係ない人ですとか言われてはいそうですかなんてできるかよ馬鹿にするな」
「そん、な」
「アリアと白雪は起こるしレキと理子は煽るし遙歌は憐れんでくるだけだし間宮たちは遠巻きで眺めてるだけだしランスロットは訳の分からん忠義発揮する武藤と不知火は野次馬うるせぇしジャンヌとかはそっちのけで女子に囲まれてるし、蘭豹とかは相変わらず理不尽だし。――どいつもこいつの俺の周りは最高だぜ」
「そんなの……」
「そんな俺に周りには――お前もいるんだ」
「……だめ、だよ。私は、私は……ジーフォースだ。人工天才だ。人間兵器なんだ」
「違う。お前は遠山かなめだ。俺の妹だ、兵器でも数字なんかでも、ない」
「ッ――!」
「だからさ、かなめ。帰ろうぜ、もう戦わなくてもいいんだよ。お前の帰る場所はあるからさ。俺の最高の友達がたくさんいる場所だし、お前にだってたくさんの友達ができただろう? だから、俺たちの帰る家はきっと同じだよ」
そう語りかけながらキンジはジーフォース――かなめへと手を差し伸べる。
一緒に家に帰ろうと。
それは奇しくも、数か月前、那須蒼一が那須遙歌へと送った言葉によく似ていた。キンジ自身気づかなかったが、しかしそれでもあの時の兄と想いは同じだった。
けれどだから、いや因果関係なんて全くないけれど、それでも妹の答えは同じだ。
「ダメだよ。私はたくさん悪いことしたから……どれだけ言いつくろっても兵器として生まれてきたのは変わらないから」
揺れた頭部からヘッドセットがズレて落ちる。露わになった瞳に光っているのは透明な雫。ぽろぽろと零れ落ちる涙にかなめは気づいた様子もなくて、
「だからごめんなさい、
「はっ、大丈夫だ。悪いことをして泣いてる妹がいたら、頭叩いて連れて帰るのが兄貴の役目だぜ」
そして彼らは――生まれて初めての兄妹喧嘩を始めるのだ。
ちょっと脈絡ないかと思いつつ、これまで遙歌視点でやってきたからしょうがないのかなぁと思う。
かなめとキンジの会話は蒼一と遙歌のと被らせるつもりはなかったけれど勝手にこうなった。
なにこいつらどんだけ仲いいんだ(
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