落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
秋の武偵高は行事が目白押しだ。
十月の終わりにある文化祭が終われば、息つく間もなく体育祭なのだから。『
「やるからには――勝つしかないよな」
怖い。
一年生は基本的にドン引きというか未だにノリが染まっていないのでそこまで壊れていない。陽菜ちゃんとか志乃ちゃんや高千穂さんは別として。あの三人あたりはやたらめったらにキャラが濃い。濃いというか自重を知らないと言うべきか。
まぁ三人でもレキさん一人には及ばないのだが。
「ふっふっふ、旦那の分まで弾けさせてもらいましょう」
とかいうレキさんは恐ろしすぎる。あの人も学校やこの前の私の決闘の時のような全員集合以外は夜も碌に眠らずに兄さんの捜索に行っているのでこういう時に羽を伸ばしてもらったほうがいいと思う、一応。
まぁそんなアッパーな人たちは置いておいて、
「さぁ頑張るよぉ! 志乃ちゃん、ライカちゃん、遙歌ちゃん、かなめちゃん!」
「あ、あかりちゃんちょっと待って!」
「ふわぁ……朝から元気いいなぁ」
「……」
「……」
教室で体側服と何故かブルマに着替えた私たちはいつものメンツでグラウンドへと向かっていた。
いつものメンツ。
そう、既にいつものメンツ言えるようになった五人だ。中学生組を除いた四人ではなく、かなめを追加した五人。一週間前の決闘以降、このメンツでの行動が増えていた。横目でかなめを見るが、視線は合わない。この一週間私とかなめだけだといつもこうだ。なんとなく気まずい。あの決闘で全てのしこりが取れたというわけでもないし、かなめにとっての存在意義とまで言えたであろう先端科学兵装による戦闘で敗北したのだ。丸くなったと言えば聞こえはいいが、腐抜けているとも見えなくもない。キンジさんへの積極的なアプローチやアリアさんたちへの妨害なども鳴りを潜めていて、普通に学園生活を送っているがたまにあらぬ方向を見上げて呆けている姿をよく見た。
今もこうして並んで歩いているわけだが、会話するこもないし目も合わない。この一週間いつもこんな感じで、
「ほらほら! 二人とも元気だして!」
「うわぁ!」
「ひゃ!」
そんな私たちの間にとってそれぞれの手を取るのは一週間の間もずっとあかりちゃんだ。
「開会式まであと十分くらいなんだから、ちゃんと気合い入れていかないと負けちゃうよ!」
「あ、はい」
「……そうだね」
「……あはは、とにかく頑張ろうね!」
反応は悪い。特にかなめが。ここ最近はぼんやりしていることが多かったが、それでも今日はなんというか完全な上の空だ。
「なにかあるんですか」
「……」
答えはない。聞こえてないのか答える気がないのか。
「あかりちゃーん! 遅れちゃうよー」
「遙歌もかなめも早くしろー」
「行こう、二人とも!」
「うん」
手を引くあかりちゃんにかなめが頷き、私も頷こうとして、
「ん」
「電話? 午後の開会式の時はサイレントにしないと発砲されるよ」
飲み物やタオルを入れていた手提げかばんの中のスマートフォンが音を鳴らしていた。あかりちゃんがらしくもない物騒なことを言っているが実際にありえるから仕方がない。午前中は一般向けだからともかく午後では銃弾やら刃物やらスキルが飛び交うのだから。その時はあかりちゃんを護るのに神経を注がないといけない。
苦笑しつつ、画面を見て、
「――」
「遙歌ちゃん?」
「……いえ、何でもないです。あと、私忘れ物を思い出したので先に行ってください。すぐ追いかけますから」
「え? 私も行こうか?」
「大丈夫ですよ。その気になればスキル使って転移できますし」
「そっかぁ、じゃああとでね」
「はい」
踵を返して来た道を戻る直前――一瞬だけかなめは私の目を見ていた。
何かを訴えるように。
●
「随分と仲良くやっているようだな」
勿論忘れ物を取りに行ったわけではない。あんな言葉を素直に受け入れるのは心が純真すぎるあかりちゃんくらいだろう。実際にライカちゃんや志乃ちゃんは気づいていただろうし、かなめに至ってはあからさまだった。かばんの中にいれていたジャージを羽織りつつ、スマートフォンでキンジさんやレキさんに連絡を取ろうとするが圏外表示、つまりはジャミングだ。仕方ないのでスキルを使って念話をするが反応しなかった。
そのことに歯噛みしつつ辿り着いた場所――空き島には既にドライがいた。
文化祭の、襲撃の夜と同じ近未来的な袖無しのボディスーツとツナギのようなゆったりとしたズボンに顔を隠すヘッドセット。空き島にある風車の一つに背を預けて私を待ちかまえていた。
『宣戦会議』やキンジさんとランスロットさんの戦いで何度か戦場となった場所で、所々に斬撃痕や焼け焦げた跡が多く残っている。
「ほら、飲めよ」
そう言って投げつけてきたのはホットの缶コーヒーだ。そのあたりの自動販売機で買えそうなごくごく普通のもの。
「……どういうつもりですか」
「なに、呼び出した詫びだ。安心しろ、毒など入っていない。生憎缶を閉じ直すなんて先端科学兵装も流石にないしな」
そうやって苦笑するドライには確かに敵意はなかった。彼自身も同じ銘柄のものを片手にしている。
「……いただきましょう」
言葉通り缶を閉じ直す先端科学兵装があるなんてのも考えにくいし、毒だとしてもスキルで解毒すればいいだけのこと。だからプルタブを引いて缶を傾ける。一口含んだが、不審なことはないし体に異変もない。どうやら本当にただの缶コーヒーだ。
「……それで私を呼び出してどういうつもりですか、こっちは生まれて初めての体育祭だったんですがね」
「それは失敬。だが午前中は周囲へのデモンストレーションでしかないだろう。呼び出した理由は……まぁ少し話をしてみたかったというだけだ。どうだ、フォースの様子は」
「学校生活をエンジョイしているように見えますがね。私としては距離感が微妙で扱いにくいというのが正直な所ですが。というか、そんなことは貴方たちだってわかっているんじゃないですか?」
「否定はしない」
私のスマートフォンにいきなり連絡して着たり、周囲にジャミングを掛けている辺りは先端科学兵装の面目躍如というところだろう。学校生活を監視されていても何の不思議もない。だからこそキリコちゃんに頼んで専用アプリを作ってもらったわけなのだが。
「まぁアレは根は優しいからな、解っている通りフォース、そしてサードは遠山金叉から生み出されたクローンだ。血の繋がりは恐ろしいというべきか正義感の強さは間違いなく受け継がれている」
「そのサードさんとやらは今何をしているんですか。私は一度も目にしていないんですがね」
「アレは風来坊だからな、どこにいるかは知らん。だがまぁサードの目的くらいは教えてやろうか?」
「……そんな簡単にいいですか?」
「別に隠しているわけでもない。寧ろ簡単だよ、色金だ。FEWはそのためにあるのだろう、そして色金による――死者蘇生だ」
「――は?」
色金には寧ろ納得だった。それでも――後半には呆けざるを得なかった。
「死者、蘇生……?」
「そうだ。ロスアラモス時代にいたサードの女がいた。サラ・ウェルキンという科学者でな。人間兵器でしかなかったあいつに生きる理由と戦う意味を与えた女だった。だがサードの実験中に死んでな、だからサードは色金の力で彼女を生き返らせようとしている」
「そんな、ことが――」
「できる。時間を超えるのだ、死者を甦らせることだって可能だろう」
確かに色金の力は人知を超えている。教授は緋弾を三年前のアリアさんに埋め込んだし、去年の兄さんと握拳裂さんとの死闘に於いてレキさんの声は兄さんに届いていた。あらゆる異能を粉砕することもできるし、心の呼応するその性質は他に類を見ない。
いや、それでも信じられない。
そんなことを信じるサードもそうだし、なによりそれをあっさりと喋ってしまうドライにも。
「そんなこと喋っていいんですか」
「喋ったことで何も変わらないだろう。どうせフォースも遠山キンジたちに同じことを教えているだろうしな」
「……一体、何が言いたいんですか貴方は」
ドライは笑みを崩さない。引きつったように笑いながら彼はヘッドセット越しに私を見ている。目は見えないのに、その無機質さが恐ろしく不気味だった。
「そうだな、本題に入ろう。俺はここ最近お前たちを監視していた。あぁ、プライベートなとこまでは見てないから安心しろよ。精々が学園生活やこの前の決闘くらいだ。随分と楽しそうに送ってたな」
「……だからなんですか」
「俺には不思議で堪らなかった。お前がああやって笑っていられるというのもな。特に仲良くしていた……間宮あかりだったか? あの女人望の少女だよ。そういう風に調整されたフォースよりも上回るとは恐れ入るが、その子だ」
「っ! あかりちゃんに手を出したら――!」
「何もしない。俺は何もする気はない。何かしたのは――
「……? なにを」
意味が解らなかった。私があかりちゃんに迷惑を掛けているのは確かだが、しかしそれにしても今の場面で使うようなことはなにもしていない。
そんな記憶は欠片もない。
「いはやは不思議で仕方ないんだ。俺もそういう倫理には疎いが。なぁ、だってそうだろ?」
ドライは。
笑って。これ以上ないくらいに口を歪めて。
「
●
「――は? え……なにを……」
「だって間宮の里を滅ぼしたのはイ・ウーで、都市一つ滅ぼすなんてお前を於いて他にないだろうが。間宮の技の拡散を拒否したいお前らは、お前が一族ごと壊滅させたんだろう」
何を言っているのか――理解できなかった。
理解することを全身が拒否していた。
身体は言うことを聞かず、よくわからなくなってただただ体が震えていた。視界が黒く染まって、胸から気持ち悪いのがこみ上げてきて、吐きそうになって、来るしくなってそれでそれで――
「うぉぇ……っ」
胃の中にあったもの吐きだされた。朝白雪さんが作ってくれた和食だということを頭の片隅で眺めていた。口の中に特有と酸っぱさと直前に飲んだコーヒーの味が口の中に広がる。
「うづぅ……っづぁ……!」
ぐらりと体揺れて膝から崩れ落ちる。天地がひっくり返ったような感覚。
吐き気、困惑、動揺、疑問、懐疑、驚愕――
「う、う……うそだ」
「嘘? そんなわけがないだろう。あぁしかしやはりお前は覚えていなかったのか。忘れていたのか、記憶の片隅にも止めていなかったのか。そうだよなぁ、そうでなければあんなふうに何食わぬ顔でゆるふわ系の四コマ漫画みたいなことができるわけがないよぁ」
「そ――そん、なことが」
「しかし酷いなぁ。これは酷いなぁ、お前は自分が台無しにした人生のことも覚えていなかったのか。間宮あかりも憐れんだなぁ。覚えてもらってすらいなかったとは。間宮の妹の方に二年越しの毒を喰らわせたのは夾竹桃だが、しかし生まれ育った町を滅ぼしたのは他ならぬお前なのに」
覚えていない。そう、記憶にない。
――
「『
その言葉に記憶は勝手に回帰を始める。
あのことの私は。死にたがりの化物でしかなかった私は兄さんに殺してほしいという想いしかなかった。ずっとそう考えていてそれ以外はどうでもよくて、いつか訪れるその日を待ち続けていた。その間に教授から頼まれて反抗勢力とか好き勝手やっている流儀をわきまえない無法者たちを討伐することだってあった。そして被害とか周囲とかどうでもいい私は適当に破壊してあとは他のメンツに任せていた。
あぁだから――どれが壊した間宮の里なんか解るはずもない。
「――っぁ」
「――あぁ」
蹲る私をドライは眺めて、
「
そしてその言葉と共に、どこからともなく戟を取り出した。手にしていた缶コーヒーを投げ捨てて私へと歩み寄り、
「お前の心はどうしようもなく脆弱だ」
振り上げるように私の胸をへと叩き込んだ。
「あぐぅーッ!」
吹っ飛んだ。無防備だった私は十数メートルは吹き飛んで空き島の地面を転がる。決して軽くはない一撃で胸骨が音を立てて砕け、内臓を痛めて口から血が零れた。防御など考える余裕もないクリーンヒット。けれど、そんな程度の損傷はスキルを使うまでもなかった。元々素の身体能力でも私のそれは馬鹿げていて、回復力もそれ相応だ。
だからそんなものはすぐに治るはずで、
「ごふっ」
口から血の塊が飛んだ。
「え……なん、で……?」
「馬鹿か貴様は」
ドライは吐き捨てる。
「お前の精神は障子紙のように脆弱だが、しかし戦闘力に関しては最高峰なのは明白だろうが。そんなお前に真っ向から勝負を挑むと思ったか? だから先ほど細工をさせてもらった」
「さい、く」
それが何かはすぐに思い当たった。
「かん、こーひー」
「あぁそうだ。まさか本当に飲むとは思わなかった。あるんだよ、先端科学兵装にはな。缶コーヒーや缶詰のような一見細工不可能なものに細工をする技術がな。意外に引っかかる奴が多いんだよ」
返す言葉もない。
けれどだ。そもそもおかしい。薬物なんて仕込んでも私には聞くはずがないのに。
「サラ・ウェルキンは遺伝子、それでも異常や過負荷について研究する科学者だった。人工的にそういう個性を生み出す方法を考えていたんだよ。その過程で生み出されたものをお前に使わせてもらった。『ノーマライズ・リキッド』という、対異能剤だ」
「な……!」
在りえない。異能というのはそういうものではないのだ。いや、超能力の類ならば可能だろう。あれは遺伝子が生み出した第二出力。遺伝子工学ならばどうにかできるかもしれないし、異常にしても基本的には
それでも過負荷はそういうものではない。それもっと無意味で無価値で無責任で、理由や意味なんてつけられない精神に絡みついたどうしようもないものなのだから。薬なんかどうにかできるものではないはずなのに。
「そうだ。だから別としては精神安定剤の逆のもの、つまりは自白剤のそれと同じような精神動揺剤も一緒に盛った。精神に絡みついた異能であるなら――精神を揺らがせればいいだけの話だ」
「――!」
言葉も出ない。ドライの言葉が真実かどうかは別として異能が発動しない。
異能も化物染みた身体能力も回復力も異常も過負荷も超能力もなにもかも。
何もかもが作用しない。それは、そんなものは、生まれてから初めてのこと。そんな経験をしたことは、ない。そういう物を全て持っているのが――他ならぬ私なのだから。
「だったら異能も化物染みた身体能力も回復力も異常も過負荷も超能力もなにもかも奪ってしまえば――お前はただのなにもできない化物だ」
「――ぁ、それ、は」
否定できない。
否定できるわけがない。
「あぁそれと、もっと言えばお前を呼び出したのは話をするためなんかでは勿論ない。お前を学校から引き離すためだ。サードを知らないと言ったのもな。今頃はバスカービルの連中と戦闘中だろう……ほら」
転がり落ちていた私のスマートフォンを勝手に取って何かを操作して見せてくる。メール画面だ。差出人欄は武偵高
書かれていたのは『ケースD9』。
「まさ、か……」
『ケースD』というのはアドシアードや学園祭等の学校行事における事件発生の符牒だ。事件の規模、対処方法、犯人情報等を意味している。
『ケースD9』といえば『極めて危険性の高い事件であるものの教務課は学校警備及び要人警護に専念するために指名された生徒たちにて解決するべし』という、想定されるものとして教務課が出張れない分最大クラスの緊急事態だ。なにせ今は一般の著名人、さらには学校へのスポンサーが見学に来ていて先生陣はそういう人たちの警護に回らなければならない。
そして指名された生徒たちは――『バスカービル』。
つまり、
「今頃サードとフォースが品川の火力発電所で交戦中だ。お、場所も書いてあって他の生徒は目立たずに避難勧告しろ、か。ご丁寧なことだが、賢明だな。あの連中がやり合えば発電所自体が吹き飛んでもおかしくない。――まぁそれだけではないのだが」
「……ぁ?」
この期に及んでなにを、と最早言葉にすらできなかった。精神動揺剤というのは確かな効果を発揮し、正常に思考が働かない。
「俺の仲間が武偵高に体育祭を台無しに向かっている。だからこそお前らやバスカービルを遠ざけるためだ。なんでそんなことをしたかって? 決まってるだろう、お前の思考を乱すためだ。兄たちの危機に駆けつけるか迷うくらいに大事ならばそれが危機に陥ると解っていれば、お前の思考は滅茶苦茶だろう」
「あなた、は……どこ、まで……!」
「安心しろよ化物女。俺はお前を侮らない。爪も牙も目も腕も足も何もかもすべてもぎ取ってなにもできなくなっても俺は油断しない。俺が考えた対化物プログラムはまだまだ目白押しだぞ?」
妹ちゃんレイプ目回。
基本的に万能系妹の遙歌ちゃんは明確な攻略方があったり。
基本的にあらゆることに一流と超一流の境界線にいるのでなんでもいいから超一流の何かで正面から挑んで正面から勝つ。正面からいくと妹ちゃんも原則それに合わせてくれるので。
つまりはFateで言えば全スキルAランクだったりkkkの等級項目でいえば陰陽の9だったりするのでA+以上とか陰陽10とかなら勝てないこともない。
遙歌が合わせること前提だけど。
その条件下だと今のところ一応バスカービルズ(というか夏休み中はそういう決闘をひたすら続けていた)、張遼、ランスロット、第三形態ヒルダとかが当てはまります。あと誰だろう。
ガチで戦って勝てるのは蒼一とかシャーロック、拳裂、曹操、カナだけ。
キンジレキアリアが異能無効によってワンチャン。
現時点未登場キャラとサードとかなめドライは除いて。
今回ドライがやったのは裏技でとりあえず精神攻撃。
ちなみ本当にまだまだ続きます(
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