落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
『
イ・ウーと『ただ知っているだけの人外』シャーロック・ホームズの亡き世の趨勢を決定しづける戦役だ。由緒正しく数世紀前から続けられてきた大戦であり、文字通りの世界規模にて行われる戦争だ。まぁふたを開ければ不意打ち裏切り闇討ち謀殺等なんでもありの決闘なのだが。掛け値なしに
そして深夜、東京武偵高の空き島にて彼らは集う。
糸目に丸眼鏡、色鮮やかな中国衣装に包む青年。
金髪に豪奢なゴシックロリータ、黒の日傘を指し、背にコウモリの翼を担う少女。
全身に火器を装備し全長三メートルはあるであろう巨人。
白い法衣に豊満な体を押し込み、背に巨大な十字剣を背負った修道女。
漆黒のフード、とんがり帽子、肩に大カラスを載せ、さらには逆万字眼帯の小柄な魔女。
狐耳と尻尾を持った和装の童女。
露出の多く、褐色の肌をあらわにした砂を纏う女。
編み上げブーツに茶の三つ編みの髪の美女。
純白の騎士礼服に舞踏会のような仮面で片目を画した青年。
長剣を背負った白人の美男。
数人の男女を背後に控え、威風堂々と周囲を見回す金髪の少女。
巨大な大岩斧を持ち毛皮のワンピース姿の幼女。
顔に刺青を持ち、派手な格好で耳にイヤホンを差し込んでいる少年。
風車の前で白銀の長剣を地面に突き立てそれに柄頭に両手を置き、周囲を見回す銀色の聖女。
その背後で顔を顰めながら隣り合う少年と緋色の少女。
風車の上で膝立ち担う翡翠の髪に狙撃銃を抱えた無表情の女の子。
藍幇、吸血姫、ヴァチカン、米軍、アーネンエルベ、ラウンズ、リバディー・メイソン、曹魏、蛮族、人工天才、ウルス、――バスカービル。
聞くものが聞けばその時点で卒倒しかねない組織でもこれだけのメンツであり、それ以外にも個人で名を馳せる者たちも多い。
師団と眷属に分かれると言っても、背反や裏切りがありなのだからこの先誰がどうなるかは解らないままだ。降伏も認められているから単純な敗北で決まるわけでもない。
そして最初の威信表明。
後の背反が認められているとはいえ、最初が肝心だというのは変わらない。
終わり良ければ総て良しと言っても、始まりが悪ければ気分が悪いだろう。
そして今。
師団にバスカービル、ウルス、玉藻、ヴァチカンが。
眷属に曹魏、 藍幇、米軍、アーネンエルベが。
無所属、保留としてLOO、ラウンズ、カナ、パトラ、リバディー・メイソン、GⅢ。
そういう風に別れていく。
これが始まりであり、ここから世界は変わっていく――。
「はいどうも皆さんはじめましてこんにちはー。『
●
「――!?」
驚愕はもれなく全員分。空き島に集った超人化外どものど真ん中に。誰もが驚きに息を吐き、少なくとも目を見張り、緊張空間に一瞬の空白が生まれる。隣で俺の腕に自分の腕を絡める妹ちゃんのスキルで転移してきたので事前に察知することはほぼ不可能だったはずであり、それ故の驚愕だった。
「来たか」
ジャンヌは小さく呟き、
「――那須、蒼一」
遠山キンジが呆然としながら俺の名を呼んで、
「はいそーです。那須蒼一ですよー。元イ・ウーのメンツにはナンバーゼロって言ったほうがいいかね? 覚えてる? 忘れられてたらショックだぜ。あ、初めての人ははじめまして」
喋っていることに意味はない。これくらい此処にいる奴らなら知っていることだろう。遠山や神崎とは原潜内で会って会話はしていたし、他の勢力のメンツともイ・ウーのお仕事で会ったことはある。
だから彼らの問題は俺が誰か、ということではなく、
「何をしに来た?」
立て直しが最も早かったのは流石というべきか曹操だった。もとより彼女は俺が現れた時もわずかに目を細めた程度に過ぎなかったし。
怖い怖い。
「つれないこと言うなよ王様。ここに来た理由なんか一つだろう? 俺だってイ・ウー残党だぜ。だったらこの宣戦会議に参加する資格はあるだろう?」
「待ちなさい」
口を挟んだのはヒルダ。吸血姫は驚きを遺しつつ、けれどひとまずいちゃもん付けておこうみたいなノリで笑みを浮かべながら指を指してくる。
「ここに来るのには招待状が必要でしょぉ? 誰が来てもいいわけじゃないわ。エキストラの出番なんて、この夜には必要ないのよぉ?」
「残念、それが持ってるんだなぁ」
「!」
蒼い和装の懐から取り出したのは真紅の蝋で封が去れた手紙――今夜の招待状だ。
「なぜそれをお前が……」
「私が送った」
「貴女が……?」
「何か問題はあるか? 彼らもまた私と同じイ・ウーの構成員であり、幹部だった。ならば参加する資格は十分にあるだろう」
当然のことのように正論を言うジャンヌだった。表情を変えない彼女に舌打ちし、それでヒルダは口を閉じた。そして次に口を開いたのは、
「お前、生きていたのか」
「おいおい勝手に殺すなよ」
遠山キンジ。
この男との面会はそれほど多いわけではない。カジノの一件で初めて会い、あとはシャーロックとの戦いまでに原潜の中を道案内した程度。そしてそのまま崩壊していく原潜の中を道案内し、
「お前は出てこなかった」
「まぁな。色々やることがあったんだよ。ほら、集めていたジャンプの付録取りに行ったりさぁ。あれ大変だったんだぜ集めるの。何せ原潜住まいだから買いに行くのでも一苦労でさぁ。解るかなぁこの気持ち」
「……」
反応はなかった。つれないねぇと肩を竦め苦笑していたら、
「――兄さぁん」
真横からの声があった。誰がなんて言うまでもない。俺濡れ羽色の俺と同じ肩まで伸びた髪。二重に重ねた十二単。血のように赤い真紅の瞳。
那須蒼一の妹――那須遙歌。
我が麗しき妹は俺の腕にもたれ掛かりながら、つまらなさげに周囲を見回している。
心底つまらないのだろう。
「いい加減本題に入ってくださいよぅ。お喋りがつまらなさすぎて此処にいる人たちみんな殺しちゃうそうなんですけど」
何気ない遙歌の言葉に混乱していた空気が張りつめる。遙歌の物言いはそれだけには十分だったし――遙歌はそれは可能だった。まぁ多分。曹操には手古摺るんじゃないかなぁ。
まぁ半分くらいは瞬殺だと思う。
そして数人が殺気立ち、
「あ」
「『
「え?」
――ヒルダとカツェの右胸から血が噴出した。
「……!?」
「あーあ、
「プライド高い二人だからなぁ」
言っている間にも一瞬でほぼ同時に心臓を捥がれた二人は崩れ落ちる。いや、ヒルダはそもそも死なないのでいいのだが吃驚したんだろう。なんとか体勢を立て直すが、カツェは死んだだろう。
「まぁいいや。あとで生き返らせておいて上げろよ妹ちゃん」
「めんどくさいです」
「……」
そして背後にいるあかりちゃんは何も言わない。
『鳶穿』。その殺人術を極めた『
「お、お前たち、よくも……!」
「あーうるさいですねぇ。今から本題に入るので黙っててくれないですか? じゃないと魔臓とか関係なしに存在ごと消滅させますよ?」
「……っ」
黙らせる。
そしてその遙歌の言葉はこの場にいる全員に当てはまることだ。故に誰もが黙らざるを得なくなり、
「えー。では本題に入りたいと思います」
ごほん。
「俺ちょっとこの戦役に参加して変えたいことがあるんだよね。法律なんだけど」
それは、
「――妹と結婚したいんだ」
●
「やだもう兄さんたらストレート。そんな兄さんのことが大好きだすけど」
「おいおい嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。俺も妹ちゃんのこと愛してるぜ」
「うふふ」
「かはは」
「……………………」
止まった空気は治らなかった。
変なこと言ったかな俺。
「まぁあれだよ。七年前にイ・ウーに入ってそれから兄弟二人で仲睦まじく生きてきたんだけどさぁ。恥ずかしながら禁断の実妹ルートに入っちゃてさ。背徳の味っていうの? まぁ最初過ちを犯した時は死にたくなったけどよく考えたらイ・ウーって法律とかないからいっかーとか開き直ってたのに崩壊しちゃったじゃん? だから、この戦役にかこつけて日本の法律変えて近親婚可能にしちゃえばいいんじゃね? とか思って参上したわけだよ」
「もう、兄さんったら私と結婚したいがためにどれだけ頑張るんですかぁー」
「おいおいお前が女の子夢とかいってあかりちゃんと一緒に頷くまで殺しに来たんじゃん」
「嫌なんですか?」
「超結婚してぇ」
本心だ。
「……おい待てよ」
「ん?」
遠山だった。何故か微かに震えて、こんな夜でも解るくらいに顔を青くしていた。まさか俺たちの愛と禁断と背徳の物語に感動したのだろうか。
「お前、そんなことの為にさっきの二人殺したのか……?」
「そんなことって酷いなお前。お前も男の子だろう? 好きな女の子にウェディングドレス着せてあげて、新婚生活いちゃこらしたいとか思わないのかよ」
「ふざけんな! だったらどっかで勝手にやってればいいだろ!」
「おいおい! どの口が言ってるんだお前! 俺らがこんな苦労してるのは他ならないお前のせいだぜ!?」
「な――」
顔を青くする遠山へと指を突き付ける。
「お前がイ・ウーをぶっ壊してくれたおかげで今、この人外魔境の戦争が始まるんだぜ? これから先死ぬ奴も傷つく奴も殺す奴も殺される奴も誰もかも! お前の行動が引き金となって生まれてくるんだ」
「っ詭弁よ!」
神崎が叫ぶが――お前が言っちゃあ駄目だろう。
「遠山よ。お前はシャーロックの糞爺を自分の女を取り返すために殺したんだろ? そのせいで俺ら兄弟は被害蒙ってるわけだ。お前らの青臭いラブコメのせいでな。それっておかしくね? そこまでやったのに、俺らのこと非難するの? ――差別すんなよ」
「――!」
「いいか? そもそも何お前巻き込まれた面してんだよ。お前が悪いんだ、お前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪いお前が悪い――俺は悪くない。ひどい目に合わされたから俺たち被害者はなにをしてもいいんだよ」
だからこそ、
「俺たちは被害者として師団でも眷属でも無所属でも保留でもない第三勢力の樹立を宣言する! ……どうだジャンヌ、認めてくれるよな?」
「認めよう」
「ジャンヌ!?」
即座に頷き注目を集めるジャンヌ、それに声を上げる遠山と神崎で、他の面子も信じられないような目で彼女を見るが構わずにこちらに歩いてくる。
「無所属がなんと名乗ろうとも関係ないだろう。だから認める。扱いとしては無所属と変わらず、どちらにしろ斃さなければならないのだから。そして――私は
此方というのは勿論、俺たちのことで。歩いてきたジャンヌは俺の横に、遙歌の反対側に、先ほどまでと同じ姿勢で立つ。
「おかえり」
「ただいま」
へらへらと笑いながら拳を付き合わせれば――ジャンヌの姿が変わっていく。
青みを帯びていた銀髪は色の薄いプラチナブロンド。ただでさえ白かった肌は病的なまでの白に。サファイアブルーの瞳は怪しい金色へと変貌し、手にしていたデュランダルもまた白銀の刀身が黒く、黒く、真っ黒になっていた。
ジャンヌ・ダルク闇堕ちバージョン。
「なんでだ……!」
「何故も何もない。元々こいつと私は同士だからだ。生き難きを生き、忍び難きを忍び、耐え難きを耐えてきた、な。お前らのように天に愛される者たちには解らん。理子のように救われた者にもな」
「かはは。このくらいで驚くなよ遠山。言っておくけどな、俺たちの敵はお前だ。お前たちだ。お前の味方だ。お前たちに味方する奴らも全部敵だ。お前に率いられる奴らは全員まとめて皆殺しだ」
「……っ、ぁ……」
最早言葉も出ないというように息を荒げる遠山たちだった。
情けないなぁ。
お前らはあの爺の跡継ぎだろうに。このくらいで驚いてもらってちゃあ困るんだよ。
「でも俺は信じてるぜ? お前が覇王も円卓も
実妹ルートとかいいつつ、負完全蒼一ルート?
ジャンヌが味方になったのは特に意味はない……と思う。
握拳裂にも拾われず、理子とも出逢わず、他でもない遙歌に惚れちゃったらという話。
多分一番酷い。
あとなんか殺人マシーン化したあかりちゃん(
本編ではならないだろうから何故かこうなった