落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第1拳「楽しいなぁ」

 寮から出れば普段の何倍もの人が溢れてて歩行者天国を作っていた。世間の目が厳しい武偵とはいえ、物珍しさというのは当然あるので今日のような文化祭の日は一般人にも開放され、多くの見学者が来ている。何かと物騒で至る所に重火器やら刀剣類が隠されているが、それらも撤去されるなり、厳重に隠されるなどの処理を施され――というか私たち一年生がやらされたのですが――安全面でも随分と気を使われていた。

 

「おっす、おはよう遙歌」

 

「おはようございます、ライカちゃん」

 

 声を掛けてきたのは金髪をポニーテールにした長身の女の子――火野ライカ。男子顔負けの強襲科でアサルトライフルやらトンファーを振り回し、兄さんやアリアさん曰く白兵戦では結構な素質有りの少女。

 私の友達だ。

 

「先輩たちは一緒じゃねーのか?」

 

「えぇ、『変装食堂(リストランテ・マスケ)』の準備があるということで皆さん早めに家を出ていかれました」

 

「あぁ、なるほど。あれかぁ……私たちも来年やるのかなぁ……」

 

「どうでしょうね。この学校は大雑把ですし、来年いきなりやることが変わっても驚きませんが……その時は可愛い服を着られるといいですね」

 

「べ、別に私は……」

 

「うふふ」

 

 可愛い服という単語に顔を赤くしたライカちゃんに思わず笑みが零れる。男勝りで実際に強襲科の訓練でも男性相手に引けを取らない彼女が極度の少女趣味というのは結構有名な話だ。兄さんも彼女を通じてフィギア等を作ってもらっていたし。可愛い人だなぁと思う。

 

「そ、それよりさ。今度またアタシと組手やってくれるようにセンパイに言っといてくれよ。強襲科の授業だとどうしても鎧袖一触って感じでさぁ」

 

「あぁ……そういえば兄さんって強襲科だと無双マシーンになってるんでしたけ」

 

 『拳士最強』である兄さんだ。当然、強襲科の白兵訓練では重宝されるだろう。それでもライカちゃんの言う通り、迫ってくる相手を殴って飛ばして、蹴って飛ばして、投げて飛ばしてサーカスだかアクションゲームだかみたいな展開になっているらしい。それでも勿論経験といえば経験だが、一対一での組手よりは大分効率が悪い。無双マシーン以外でもたまに組手をやることはあるらしいが、

 

「二、三年生が優先なんでしたっけ」

 

「そ。一年だとどうしてもなぁ」

 

 上下関係に厳しい学校なのでそういうところはあるのはしょうがない。それに兄さんは指南や教導なんていうのは向かないのであえて一年生相手は避けているというのもあるのだろう。細かい加減はめんどくさいんだよなぁとかぼやいていそうだ。

 そしてライカちゃんも一年ではあるが、彼女なら確かに問題ないだろう。Bランクとはいえ白兵技能に関してはAランクと渡り合うのも可能だ。

 まぁランクなんて些細なことだけど。

 

「ま、了解ですよ……というか、今日直接言えばいいんじゃないですか? 『変装食堂(リストランテ・マスケ)』には私もあかりちゃんも陽菜ちゃんも志乃ちゃんも行く気満々でしたしねぇ。後輩の頼みを無下にする兄さんじゃありませんよ」

 

 それこそいつものメンツで白兵技能の訓練をしてもらえればいいのだ。兄さんは古今東西ほぼ全て――それこそ鳶穿のような一子相伝でない物――以外の武術ならば完璧にマスターしている。趣味故に殴る蹴るばかりの人ではあるが、頼めば頼んだ通りの武術をメインに調整して相手をしてくれるはずだ。私も似たようなことはできるが、しかしあの強度は無理である。

 

「ん……まぁそうだけどよ……」

 

 などとライカちゃんは言いよどみ。頬が微妙に赤くなっていたのでピン(・・)と来た。

 

「まさかライカちゃん、兄さんのことが……」

 

「んな! ち、ちがっ、そんなんじゃ……!」

 

「まだ何も言ってませんよー」

 

「遙歌ぁー!」

 

「うふふ!」

 

 顔を真っ赤にして怒り出したので走り出す。歩行者天国を作る一般人をすり抜けて駆け抜けるが、

 

「待てぇー!」

 

 意外にもライカちゃんもまた人混みのなかを素早くすり抜けてこちらを追ってくる。流石、と言うべきだろうか。顔を真っ赤にして走る女生徒ということで随分目立つけど構わない。まぁライカちゃんが兄さんのことをどう持っているかはともかく、あの人はレキさん以外の想いに応えられるほどに器用ではないし、気づくこともないだろう。ライカちゃんには申し訳ないけど。

 あとそれに。

 兄がモテるというのは妹としても気分がいい。

 

「楽しいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー遙歌ちゃん、ライカちゃ……って、どうしたの? そんな息荒げて」

 

「な、なんでも、ない……ッ!」

 

「うふふ、そういうことにしておきましょうか」

 

 私とライカちゃんが教室にたどり着けば既にあかりちゃんや志乃ちゃんの姿があった。一年A組の仲良し四人組である。いつもだったら中等部(インターン)の麒麟ちゃんやさくらちゃんが一緒だが、当然ながら二人とも今は中等部でそれぞれ自分のやるべきことをやっているのだろう。

 

「まぁ一年の私たちがやることなんてほとんどが雑用ですけどね」

 

 苦笑する志乃ちゃんの言う通り、私たちはそれぞれの科の仕事以外は上の学年の雑用がメインになる。ゴミ捨てや一般客の誘導、あとは少しばかり来る報道関係の人や来年からの武偵高入学を考える一般中学生たちへの武偵高案内なども仕事に含まれる。

 一年がやるというのは二年以上になると良くも悪くも誰かしら少なからずキチガイになるので、未だ汚染が少ない一年にやらせようということらしい。確かに兄さんたちを見ると納得だ。

 ちなみに今の私は保護観察は継続していて、例外的に兄さんたち二年生のチーム『バスカービル』に所属し一年にてもあかりちゃんたちの戦妹グループにくっつけてもらっている。

 

強襲科(アサルト)は『簡単一日でできる仏流護身術入門~地獄巡り編~』でしたっけ。仏なのか地獄なのか例によって頭おかしくてよくわかりませんが」

 

「あぁ、それって普通に普通の入門編と粗相した人たちがやる性格矯正の地獄巡り編と二つあるってこと。入門編は私たちみたいな一年で地獄巡り編は二、三年生。アリア先輩とか蒼一先輩もやるんじゃなかったけ。キンジ先輩は入門編のほうだけど」

 

「……初めて聞きましたね」

 

 通りで何をするか聞いた時に口ごもって応えてくれなかったはずだ。それでもおそらく内心ノリノリなのだろうが。

 

狙撃科(スナイプ)は割かしまともだったようなぁ。暴徒鎮圧用のゴム弾撃たせるとかだろ? レキ先輩のところにしては意外に普通だよな」

 

「甘いですよライカちゃん。レキさん曰くリアルゴルゴ13やるとのことらしいです」

 

「なにすんだよ……」

 

「それが無表情でフフフと声に出すだけで詳しいことはなにも」

 

「こわ!」

 

 全員一致の感想だった。

 正直私も怖い。

 誰かを狙撃したり、背後に立った人を撃ったりするのだろうか。それだと結構いつも通りなのだが。

 結局数か月たった今でも義姉の感情は中々読めない。現状、あの人の感情を完全に理解できるのは兄さんくらいだ。

 

「SSRは? 超能力研究ってくらいだし、一日だけで超能力使えるようになったりしないの?」

 

「流石に無理ですよ。というかあそこは結構門外不出なので一般公開もほとんどないですし。……あ、でもスキルなら私がなにか貸しましょうか? お友達ですしね、あかりちゃんならアイドル系とかのスキル百個くらい」

 

「あ、あー……いいよ流石に。私はほら、鳶穿で精一杯だしさ」

 

「それは残念です。言ってくれればいつでも貸しますからね?」

 

 などと言いつつ、そんなことをあかりちゃんが言うことはないだろうなと思う。そういうズルをできない子なのだ。最近はキンジさんと一緒に殺傷技の鳶穿を非殺傷技に作り替えているし。肉体駆動に関しては天性の才能があるキンジさんとの鳶穿の相性はいいらしくて、結構進んでいるらしい。

 いいことです。

 そんな感じでいつも通り、或は少しだけ浮つきながらお喋りをしていたら先生が入って来た。

 入って来たと思った。

 

「む、開かない……? ぬぬ……」

 

 何故か扉が開かずに声だけがあった。クラスの皆も不審に思いつつ自分の席に動こうとして、

 

「えぇい!」

 

 扉が吹き飛んだ。教卓に激突して、全員が固まる中現れたのは――パトカーだった。

 扉を吹き飛ばし、無理矢理に教室に顔を出して、

 

「おはよう諸君」

 

「誰だよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは、誰だとは失礼だな諸君。君たちの担任、忠義の教師ランスロットである。さぁ席に付き給え」

 

「……」

 

 パトカーが喋っていた。 

 私でさえも驚いてしまって思わず鑑定のスキルを発動する。どうやら本来の運転席の座席や床をぶち抜いてそこに人間が入って体を固定して支えているらしい。エンジンの類は全て撤去されているが助手席や後部座席はそのまま。上半身のインパクト故に気付くのが遅れたが、ちゃんと黒子のように黒い恰好をした人間の下半身が出ている。

 遠目から見ればパトカーが浮いているようにも見えるだろう。

 いや、こんなの見えるとか問題なのだが。

 

「えっと、ランスロット先生?なんでそんな恰好を……」

 

 そう、ランスロットさんです。

 『最後の円卓(ナイトオブゼロ)』サー・ランスロット。今現在武偵高ではランスロット・ロイヤリティ等と名乗り、先月のキンジさんとの決闘から少ししていつの間にか教師になっていた。

 ロイヤリティ――つまりはLoyalty(忠義)だ。

 解りやすいにもほどがある。聞いた話では二年の担任を希望して現れたらしいが、しかし叶わず丁度産休にて空きがでたこのクラスに赴任したとのこと。あの決闘の後数日間姿を消していたと思ったらこの登場である。

 色々ひどい。

 流石に縦になることはできず、横向きで入って来たまま、窓ガラスの中からこちらを見て、

 

「ふ、愚問だな遙歌君。君は知らないのかね? 我が主君、遠山キンジ様が『変装食堂(リストランテ・マスケ)』で警官の変装をしていることを」

 

「いや、知っているも何もくじ引きを担当したのは私なわけですが」

 

「ならば解るだろう」

 

「解りません」

 

「なんと! 簡単な話だ、キンジ様が警官である。ならば忠義の騎士として――忠義のパトカーになるべきであろう!」

 

「解りません。意味不明です」

 

「忠義が足りぬ! 貴様それでもキンジ様の家臣か!」

 

「違います。友達とか仲間ではあるつもりですが家臣ではありません」

 

「ではやはり私がその分忠義を担うしかあるまい……!」

 

「あーもういいので連絡事項とかお願いします」

 

 この騎士は頭がおかしかった。これまで使えるべき王がいなかった分忠義魂が爆発しているらしい。少し前までのクールな完璧騎士という感じは消え去りぶっちゃけ暑苦しい。なまじ世界的に有名な人であるからきっぱり突っ込める人もそうそういないし。ちなみにこの人は体育と強襲科担当である。剣技に関してはスキルフル活用した私と同等かそれ以上なので身になると言えば身になるが、鬱陶しいことこの上ない。

 良く採用したな武偵高――などと思うも他の教師も大概であった。

 ちなみに意外に陽菜ちゃんと仲がいい。

 意外でもないか。

 

「さて、連絡事項は――特にない」

 

「ないんですか……」

 

「うむ。強いていえば各自己の仕事や義務を果たすように。ちなみに私は『変装食堂(リストランテ・マスケ)』付近にて何時でもキンジ様に呼ばれてもお応えできるように宝具開帳の準備をしているので、何があったら来たまえ。おっと、諸君らもキンジ様の妨げになるようなことをしてはならんぞ?」

 

「しませんから。あとそんな宝具ホイホイ使わないでください」

 

 そして、忠義のパトカーはホームルームの終了を宣言し、

 

「オールハイル・キンジ!」

 

「……」

 

 誰も復唱することないままに去って行った。ちなみに現状あれをやるのは陽菜ちゃんと理子さん、白雪さんくらいだ。

 ランスロットさんがいなくなったことで教室の中にも変な空気は薄れて、それぞれ思い思いの人たちと固まって見学に行ったり、仕事に行ったりする。

 当然私もあかりちゃんや志乃ちゃん、ライカちゃんと一緒に。

 楽しむとしましょう。

 私にとっては始めての文化祭なのですから。

 

 




忠義頭おかしい(
なんか気づいたらこうなった
解せぬ

一年がなにやってるかはよくわかんなかったので適当に。

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