落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
風が強く吹く病院の屋上。
ずずー。
「……」
ずずー。
「……はぁ」
さてさて。
缶コーヒーを飲みながら考えよう。隣で情けない顔をしている親友をどうするかを。
・・・・・・・・・・・
『性々働々《ヒステリアス》』。
それがキンジが抱える
正式名称は『
『異性に興奮することによって驚異的な戦闘力を得る』。
もっともそれは結果であっても目的でない。このスキルの目的は子孫を残す事にあるらしい。つまり、スキル発動中は異性に好かれようとするのだ。 つまり、女性に対しどうしようもなくキザになるのだ。
……笑ってはいけない。
そのせいで中学時代にいろいろあったらしい。利用されたらしい。便利にされたらしい。道具のようにされたらしい。あまり好きでは無かったと、当時のキンジは思っていたらしい。それでも、いつか使いこなせると思っていたらしい。
ただ。
キンジが自らの異常を嫌悪したのは(今はともかく)彼の兄、遠山金一死んだ時ということは----知っている。
・・・・・・・・・
俺とレキが神崎の病室に行き、見たのは今にも泣きそうキンジの顔だった。中の神崎はレキに任せ、俺とキンジは缶コーヒー片手に屋上へ来たのだ。
「……アリアはさ、俺に期待してたんだよな」
キンジがぽつりと言った。屋上の柵の手すりに身を預けながら。
「……だろうな」
「でも、オレは何もできなかったか……はは」
「……」
「情けないな」
キンジは拳を手すりに叩きつけた。怒っているのだ。神崎にではない。『武偵殺し』の犯人にではない。自分にだ。何もできなかった自分に怒っているのだ。怒りに身を震わせているのだった。それを見て俺は。やれやれと思う。暗いし根暗だし辛気くさいし面倒だし空気重いし鬱だし手痛いしレキといちゃつきたいしなんか美味い物でもって食いたいなぁ。 そのためにはキンジがこんなままでは困る。だから、声をかける。決してキンジが心配だからではない。
「やっぱり武偵なんて止め----」
「----なぁ、キンジ。神崎はお前に何を求めていたかわかるか?」
「え……?」
「だから、理由だよ。お前を奴隷にした理由」
「それは……武偵としてのアシストが必要だったからじゃないのか……?」
「そんなわけないだろ、99回一発逮捕の失敗無しがどうして今更武偵としてのアシストを必要とする?」
「あ……」
そう。
そこまでの実力があるのなら一人で十分だ。奴隷など──必要ない。一人でも問題ないはずだ。それでも、奴隷をキンジを必要とするのは。
「武偵としてのお前を求めてるわけではないってことだろ」
無論、武偵としての強度は高ければ高いほど良いだろう。けど、それは二の次だ。神崎・H・アリアは天才だ。それも、まだまだ成長する天才性だ。そして、天才は孤独だ。孤独であり----孤高でなければならない。普通に紛れれば天才ではいられなくなるのだから。だから、他人が解らない。他人と分かり合えない。他人に理解されないのだ。そういう天才を俺は知っている。そいつらの思いを俺は知らなかった。天才たちだって、独りがいいわけがないのだ。他人と解りたい。他人と分かり合いたい。他人を理解したい。そう思っているのだ。俺がそれに気づいたのはもう全てが遅かったけど。
「神崎は
「----」
キンジは目を見開き聞き入っている。
どうして、こうも鈍いんだか。
「だからさ、勝手に諦める前にちゃんと神崎と話してこい。正直に、思った事を、溜め込んだことをさ。そうしねぇと始まんねぇよ」
俺は----出来なかったから。
キンジにはできてほしい。
「----そうか、なぁ蒼一」
「なんだよ」
「すまんな」
は。根暗の癖にいきなりイケメンにもどりやがった。
「気にすんなよ、あと武偵止めるとか言うな。4ヶ月前にお前がいなかったらさぁ----俺は腑抜けたままだったぜ」
あの人にも勝てなかったし、レキと共に生きることはできなったんだ。それに親友は放っておくわけにもいかない。つーか、こういう時にあやまんなよ。
こういう時は。
「ありがとな」
「気にすんなよ」
拳をぶつける。
『----兄弟』
こういうもんだろ?