落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
後日淡というか今回のオチ。
エル・ワトソンの登場によって発生した遠山キンジと神崎・H・アリアの修羅場。それに関して俺たち外野は色々どうするべきか作戦会議、『チキチキ波乱の幕開けとかまじ面白いけどマジどうしよう?会議』を実に二十五回と繰り返し、しかし全く効果がなかったわけだが、
「そもそも修羅場とかなかったって話だったわけか」
実に根本的な間違いだ。
スカイツリーにおけるワトソン対アリア、空き島で行われたキンジ対ランスロット、そしてその後に行われた対ヒルダの翌日放課後。重傷だったキンジや理子は入院し――もっとも傷自体は遙歌が直したので精神的な休息の面が大きい――軽傷だったアリアや普通に帰宅していた。
そして武偵高にてキンジの周囲の人間を籠絡しまくり周囲から孤立させた上でランスロットを利用しキンジを亡き者にし、ついでランスロットと決闘しているのを自分との決闘に逃げたとアリアに囁き薬品使って籠絡して『
なんというか、
「人間のすることじゃねぇな」
「うぐっ……!」
思ったことを言ったらうめき声をあげて自己嫌悪に浸っているワトソン君――というかワトソンちゃんだった。ちなみに簀巻きにされて天井から吊られている。実に哀れな姿だ。学校での王子様然とした様子は欠片もない。
「まさか女の子とは。お約束と言えばお約束……というか『
全く驚いた様子もないでレキはノートパソコンから目を離さずに言う。食卓にてヘッドホンをノートパソコンに繋げてやっているのはネットゲームらしい。らしいというのはレキがなにに嵌っているのかが俺でも把握しきれないのである。元々機械的なキャラだったのでゲームには滅法強く、色々あってしまってからはMMOなどに嵌り出し、一緒にやっている俺が止めだすほどになっていつの間にか所謂ガチ勢である。動画サイトにプレイ動画上げてるらしくてもうよくわからない。最近は艦隊を擬人化したゲームに嵌っているとか。試しに俺もやったら砲撃全部ミスって即轟沈したので速攻で止めた。レキは全てクリティカルなのに。ちょっと泣いた。
「へぇ、あれって趣味じゃなかったんですか。てっきりそういう性癖の人がいるのかと思っていましたけど」
などとナチュラルに変装を見抜いてた遙歌もパソコンから目を離さずに言う。我が妹もレキに誘発されてゲームとかもやりだして学校でも打ち解けているらしいが、そもそも運がいいどころではなく運を操れて、操れなくてもデフォルトで激運とかついているのが俺の妹だ。
強い装備が出過ぎて面白くないということを言っちゃう妹である。
その妹は最近なにやらクッキーを焼くだけのゲームとかババァが黙示録だとかなんかよくわからんのに嵌っているらしい。
なんというか
「あの二人似てきたなぁ……」
「というか遙歌がレキに毒されてるわね」
「あ、ちょ、アリアやめ……ぅ」
ぶら下げられたワトソンを蹴りつけ揺らしながらアリアは的確なことを言う。というか止めてやれよ。泣きそうだぞ。
言うがしかし、アリアは鼻を鳴らして、
「コイツのせいで大変な目にあったのよ? そりゃあ貴族として家の問題はあったとはいえ仕方ないといえば仕方ないけどね。それとこれとは話は別だわ」
「まぁ正論だなぁ」
「うぅ……」
揺らされて若干顔の青いワトソンだが、しかし返す言葉もない。こいつのやったことが酷いと思うのは俺も同感だし。
「んで? コイツどうするんだよ。英国に送り返すのか?」
「流石にそれはしないわよ。こいつのスキルは使えるしね。これまでのことを水に流して、女っていうのも秘密にするってことで『バスカービル』の医療要員にするわ。キンジの納得したしあとは申請するだけよ」
「なるほど」
話に聞いたワトソンの薬物精製スキル『
「今後お前みたいな手段出す輩がいないこともないだろうしなぁ」
「いや、絶対いると思うけどぐあああああああああ」
「アンタに言われると腹立つわね」
随分とご立腹だった。
「そいやぁ妹ちゃん。お前、『
「変装と変態は別ということですよお兄ちゃん。服装や化粧で装うのではなくワトソンさんの場合はスキルを使ってホルモンとか色々弄ってたんでしょう。だったら無理ですね。ま、私もスキルを使えば一発で解りますけど、普段から使うと人間駄目になってしまいますし」
「素晴らしい心がけだぜ」
「ぐああああああ……あ、ぁ……ぅ」
「あ、やば」
「おい回復要員殺すなよ」
完全に目を回して意識が飛んだワトソンだった。何時まで吊るしているのだろうか。
「全く……」
しかしまだアリアの怒りは収まっていないらしい。こっちに被害が出ないようだからいいんだけど。
「でも、こいつの策略もほとんど無意味だったわけだよな。お前とキンジの仲を全然裂けていなかったわけだし」
「んぐぅ」
変な声を出しながら顔を真っ赤になった。そしてそれを見逃さないのがレキだ。
「あれだけお二人の仲を引っ掻き回されたのに全然揺らいでないとは私ですらも驚くべき愛ですねぇ。やはり情熱的なラヴに関してはデレデレになったアリアさんの真骨頂というべきですか」
この瞬間だけ顔を向けるあたりいい性格してるなぁとか思う。
話が冒頭に戻るわけだが、そもそもワトソンによるキンジとアリアの仲違いは全く意味をなしていなかった。そうでなかったならばキンジもアリアも緋々の気を使うことはできなかったはずだ。二人が想いあっているからこそ、アリアはワトソンを、キンジはランスロットを打倒することができたのだから。
まぁそれを語るのは無粋だろうから止めておこう。
「それで? 理子とかどうなったんだよ。ヒルダ封印したとか言ってけどさ」
「本人に聞きなさいよ。今から退院に迎えに行くわけだし」
「病み上がりにそんなヘビーな話聞けるかよ。まぁあとで聞くけどさ。第三者からの印象も聞いときたいんだよ」
「ま、私も詳しく知ってるわけじゃないのよ。封印したとか、魔術関係よくわかんないし。首と胴体が理子の影に吸い込まれていったんだけど……」
「おそらく、魂と力を分離したんでしょうね」
口を挟んだのは遙歌だった。こちらを見ずに、しかしマウスをクリックする指と解説する口だけは淀みない。
「頭部と胴体、脳と身体、魂と力。そういう風に切り分けたんでしょうね。あの刀と
意味がないというか、
「ヒルダさん的にはどうしようもないんですよねぇ。精神はあっても力がないからなにもできない。力があっても精神がないからなにもできないですし。理子さんからすれば精神を封じ込めて、力の分だけ存在強度やら生命力が水増しできるからいいこと尽くしです。理子さんが死ねば奪われたものも一緒に消滅するので反逆される心配もないでしょうし。ぶっちゃけ奴隷と言っても過言じゃないです」
「……だってさ」
「つまり、理子は生命力分だけ吸血鬼並みになって、そいでヒルダ側への代償はないと?」
「えぇ。ただ『
遙歌が言うならそういうことなのだろう。それこそ後で理子本人にもちゃんと説明してもらえればいい話だし。
しかしあれもよくわかんない状態だ。異常だったり過負荷だったり普通だったり言葉遣いだったり。今さらによくわからない属性が追加されたわけある。
「ま、どうなろうとあの子はあの子。私たちの友達の峰理子よ」
「違いない」
苦笑する。
微妙にいい感じまとまったがしかし目の前にはワトソンが気絶しながら簀巻きでぶら下がっていて、ちょっと視線をずらせばディスプレイから視線を動かさないレキと遙歌だ。残念ながらこれでは締まらない。
「そいやワトソンのことキンジと理子に言ったのか」
「理子には言うけど、キンジには絶対、ぜぇーたっい! 教えないわよ。なにがあっても、絶対に、教えない」
「怖いよお前強調しすぎだろ」
「ヒロイン枠増やさないがために必死ですね」
「私と同じ妹キャラが出なければなんでもいいですけど」
「うっさいわね! 切実な問題よ! 理子はまぁいいわよ。ジャンヌだって悪い奴じゃないし、一年の風魔も変なのだけどまぁいいわ。中空知とかも怪しいけどしょうがないし。今更言ったてどうしようもないのは解ってる」
「おい白雪はどうした」
「あれは別」
別格扱いのNTR巫女だった。
無理もないが。
「とにかくこれ以上増やさないのが大切なのよ。男だと思っていたけど実は女の子でしたとか、またあいつは無自覚に口説きだすに決まってるんだから……!」
「実感籠ってるなぁ」
「実体験ですしねぇ。昔忠告したんですが」
「とにかく! 絶対にキンジにワトソンが女ってことは秘密よ? というかアンタもあんまりキンジに近づかない。いい? あ、でも土下座はちゃんとしなさいよ」
「うぅ……」
怖い。
ワトソンは外道だったが、しかしこれではアリアは鬼だ。もう誰が鬼なのかよく解んねぇなおい。というかうちの女衆は鬼が多い。
「私は鬼じゃないですよ?」
「ナチュラルに人の思考読むな。そういうことが怖いんだよ」
「兄さん解りやすいですから」
「……」
迂闊に考えこともできなかった。しかし家庭内カーストが低いのは今に始まった話ではないので何も言うまい。気にしたら負けだというのが俺とかキンジの不文律だったりする。
「ん、そういえばランスロットどうしたんだっけ。アイツだろ救急車とか呼んだってさ。キンジに力貸したらしいけど、それからはどうなったんだよ」
「知らないわよ。気づいたら消えてたし。英国帰ったんじゃないの? 報告とかあるだろし」
「ま、そりゃそうかね」
しかし俺たちの予想は大きく外れて明日の朝に体育教師としていきなり現れた忠義の騎士から忠義の教師へとクラスチェンジしたランスロットに仰天することになるのだがそれはまた別の話だ。
「それでキンジと理子の退院は何時になるんだ?」
「明日の朝、そのまま学校行くって」
「つまり今日は病院で二人きりですか」
「――」
アリアが固まった。固まって、青くなって、赤くなって、また青くなってから結局赤くなって、
「しくったぁーッ! あの理子と一晩一緒にさせるとか拙いわ! Goddamn!」
絶叫である。そろそろ半年の付き合いだが初めて聞いたレベルであった。微妙に目とか髪とか赤く染まっている。吊るされていたワトソンが痙攣していた。
「遙歌! 今すぐ私を病院に連れてって! あの泥棒猫の跳梁を阻止するわよ!」
「大好きな友達じゃなかったんですか?」
「それとこれとは話が別! 速く!」
「はいはい、わかりましたよ」
ぱちん、と。遙歌が指を鳴らした瞬間にはアリアの姿は消えていた。しかし今の間もパソコンから目を離さなかった。レキは言うに及ばないが随分染まってきてなぁ。こっちに来たばっかの時は大分初々しかったのだけれど。
「……まだ信じられないよ。彼女があんなふうになっているなんて」
「ん?」
ぽつりと声を漏らしたのは吊るされたままのワトソンだった。結局置いてかれたけどどうせ別口で土下座させられるんだろうなぁ。けれどそんな未来などまだ彼女には想像できないらしく、
「アリアも、それに峰理子も……ああやってヒルダに立ち向かうなんて思わなかったし、ランスロット卿が遠山を認めたのも理解不能だ」
漏らしたワトソンの言葉は本心なのだろう。考えてみれば昨日の間にこいつとキンジはは直接関わらなかったらしいからそういう感想を持ってもおかしくない。
「ま、いいんじゃねぇの? 俺だって、あいつの下に付こうなんて思ってないしさ。理解できないっていうならこれから先理解してきゃいいさ」
「……そうか」
「おう」
言いながら縄を解いてやる。
俺たちだって全員が全員アレに心酔しているわけではないのだ。それぞれがそれぞれの距離感をもって関わっていけばいい話だ。全員同じ風に付き合ってもなにも面白くないし。
「ただ、そうだな。アリアも理子もランスロットも、一つだけ同じこと思ってたんだろうぜ」
「……?」
あいつらにも色々あるのだろうし、あったのだろう。過去の鎖はそれぞれを縛っていて、それは簡単には抜け出せないもので、傷ついて、もがき続けていたんだろうけど。
それでも今は、
「前を向いて、明日へ歩いていくってさ――当たり前のことだろ?」
おまけ
蒼「前を向いて、明日へ歩いていくってさ――当たり前のことだろ?」
レキ&遙歌
「なんか蒼一さん(兄さん)がドヤ顔でいいセリフ言っている……」
久々のオリ主側。こいつら果たしてなにをやっていたのかは謎。諸々の戦闘に邪魔入らないようにしてたんじゃねーかな。
八章はGの血族編ですがAAのほうでなんかそこらへんやってるらしいのでそれ進んでから書こうかなーと思いつつ、しかしそれっていつの話だよとか葛藤中(
ともあれ次章遙歌ちゃんメインー