落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
あの土下座ソング。スーパー風穴タイムだけどこっちは!
話の中ででる技名もあれのカットインな感じをイメージできたらおもしろいかもですねー
文字通り、現行科学よりも数世代分先に進んだ機械兵装のことだ。コストが高く、一般の武偵には広まっていないが各国のエージェントや各組織にての実用化が広まりつつある。それぞれが固有で保有する異能や魔術と違って
そもそも一口に先端科学兵装と言ってもその種類は雑多だ。所謂スパイ映画に出てくるような小手先のアイテムである第一世代から始まり、通常武装、ナイフや刀といった近接武装や拳銃等の兵器化。単分子振動刀や磁気推進繊盾等、おそらく先日の宣戦会議にて姿を消したGⅢもこれだろう。これで第二世代。それからさらに進み、現行兵器をより先鋭的、限定的或はより普遍的に各数値を強化させる第三世代。超高性能ステルス戦闘機や戦車など。キンジのPAD『緋影』は武装整備が完了していないので現段階では此処に当たる。
ここまでは実用化済みだ。
そして第四世代。
PAD――
つまりは
未だ完成作品はなく、どれもが体各部位のみの外装だけ。試作機の完成すらも後数年は掛かるという未完成概念。
その成果の一端が今現在アリアが纏うPAD『緋翔天滅』だ。
当然これも完成品ではない。本来ならば専用のボディスーツを纏い、コンテナのような武器弾薬を追従するはずだが、今アリアに装備されたのは腕や足、腰の一部、それも制服の上から。製作者である京菱キリコが求める完成系とは程遠い。
だがそれをアリアは己の異能で完成させた。
広域空間殲滅形態『
色金の気を剣弾として形成し、それを自在に操作するという夏休みにおいてアリアが生み出した奥義は那須遙歌ですらも苦戦せざるを得ないという破格の異能だったが、しかしその強度故に操作性という点では今一つだった。
具体的にいえばやりすぎるのである。
遙歌が空間系のスキルで作った別位相とかいう空間で戦ったときは戦うたびに街が半壊するし、同じ広範囲殲滅技を身に着けた白雪と激突しようものならば焦土になっていた。最も過剰な破壊力はともかく、せっかく翼を作っても推進力が強すぎて超高速で飛翔しても着地や方向変換が極めて困難ということが生じた。細かいことが苦手のアリアらしいといえばアリアらしい。
その細かいところを解決したのが未完成とはいえ最新鋭とも言えるPAD。京都ではキンジはそのまま『緋影』を譲り受けたが、その時アリアは調整やデータ取りで終了し、つい先日一通りの装備が完成したのであった。それにより微細な方向変換や安定した飛行が可能となったのである。
色金という最古の異能とPADという最新の技術。
その二つが組み合わさった今のアリアは驚くことなかれ。
――師団における殲滅力においては那須遙歌と並び一位タイである。
「――CARDINAL-RAIN」
呟かれたのは流暢な英語。それと同時に行われたのは双翼の羽ばたきであり、それを構成する剣弾の雨だ。両翼合わせて千となる剣弾のうち、約半数が言葉通り緋色の暴雨となってワトソンへと降り注ぐ。
「ぐ、おおおおお!!」
悲鳴にも雄叫びにも聞こえるような叫びを放ちながらワトソンは動く。自身の異能により体感時間を可能な限り加速し、身体能力も軒並み限界まで強化。コートの下や顔の血管が浮かび上がりながらも彼は躊躇わない。
限界まで強化した膂力へ横へ跳ぶ。それだけではなく自らに迫る剣弾も、各部のブレードで打ち砕き、手にした銃で撃ち落しながらだ。当然ワトソンでも剣弾の瀑布を対処するなどは初めてだし消費も激しい。体内精製できる薬物に限界はあるのだ。
けれどそれはアリアも同じはず。
これだけの異能ならば数分で力尽きてもおかしくないと判断し、防御と回避に専念しようとする。
だが、
「はああああぁっ!」
剣弾の背後から翼を羽ばたせるアリアが飛翔してくる。高速化した視界で見れば馬鹿下駄速度を各部のブースターでフォローしていた。そしてそのまま手にした緋色の小太刀が叩き込まれる。
「っ!」
バツの字斬りにワトソンは大きく後退する。空振りしたが、しかしアリアは止まらなかった。そのまま再び二刀を大きく振りかぶり、
「――DUAL-BLAZER」
投擲する。
投げられた二刀は空中を疾走し――巨大化する。刃渡り二メートル近い真紅の斬馬刀。肥大化した刃はさらに速度を上げてワトソンへと迫る。
驚く暇もない。『
だから前に出た。
自殺行為にも取れる前進だが、無意識の行動故に躊躇いはない。足を踏み出すのと同時に体を横にし、双大刀と体を並行に。
そのまま側転気味に飛び込んだ。
「――」
抜ける。胸のプロテクターとコートの端が吹き飛んだが体は無事だ。潜り抜け、着地して床とブーツが火花を散らしたところで正気に返った。
「……」
疲労ではない汗が流れる。咄嗟であり、最善策だったとはいえ一歩間違えれば死んでいた。それはワトソンからすれば普段絶対に行わない行為。彼の流儀からすれば在りえない行動だったからこそ、
「それくらい私たちなら当然やるわよ?」
「!?」
アリアの接近を許していた。ブースターを吹かし、緋色を煌めかせる彼女は手にした二刀を連続で叩き込み、
「っお、お、お……!」
関節部の刃と銃、そして背から引き抜いたクルス・エッジで斬り結ぶ。限界強化した感覚と身体能力でようやく互角にまで持って行けた。負荷により全身から血が滲み始めたが、ここで止まるわけにはいかない。そう思い、強化を続け、可能な限り傷を回復させるが、
「--っ!」
緋色の刃が掠る度に全身から割砕音が響き、強化が薄れていく。
あらゆる異能を凌駕する緋々色金の力だ。あらゆる異能を砂上の楼閣の如くに無に帰す瑠璃色金とは違い、アリアやキンジのそれは問答無用で粉砕する特性を持つ。ワトソンの異能は薬物を精製することだから強化が全て消滅するわけではない。それでも斬撃部から流れ込む緋々の波動がワトソンの異能を破壊してくる。
アリアの背後で剣弾が浮遊した。ただ浮かんだわけではない。それぞれ二本づつが柄の部分で合体し両刃刀に。それ自体が手裏剣のように高速回転してワトソンへと飛んだ。
「SONIC-EDGE-FORCE!!」
「くそ……!」
避けきれない。
飛来した中の刃の内対処できたのは半分で、残りは直撃を避けるので精一杯だった。肩や太ももに裂傷が刻まれる。
解っていたとはいえ、直撃すれば拙い。単なる負傷の意味でもあり、異能を完全粉砕されたら致命的だ。故に掠り判定はあっても直撃判定は在ってはならない。勿論異能を無効ないし粉砕する色金の姫や守護者たちのことは知っていたし、対策をし、そもそも戦わないように策を練っていた。
それにしても――いくらなんでもこれは想定外だ。
そして顔を顰めるワトソンに対し、アリアが手心を加える理由はない。
「ハァ!」
「な!?」
右の刃をクルス・エッジで防いだ。そこまではよかったのだが、よくなかったのはその次だ。一刀を追いかけるに右翼が自分へと振り下ろされたのだ。まるでそれ自体が意思を持つように。いや、考えれば不思議でもなんでもない。先ほどからアリアは剣弾を操作して戦っていたのだ。だったらその集合体である刃翼を操作できない道理などない。
間に合わなかった。クルス・エッジは直前の一刀で弾かれ、拳銃も逆の一刀と切り結んでいた。咄嗟にクルス・エッジと拳銃を手放し、腕を十字にし、
「っづぅ……!」
両腕が
「まだまだ……!」
続く刃翼の連撃が体を削っていく。
回復はついに追いつかなかった。顔と胸は十字で守ったが剣弾の集合体である刃翼をの削り取りを避けきれない。体を包む防刃コートや各部に装備したプロテクターが粉砕され、
「フィニッシュ……!」
アリアが決めに来た。
ワトソンへと奔っていた刃翼が基本の双翼になり、背後へ跳躍。コートが破け、所々血塗れになりながら膝をつくワトソンには全く構わない。
「『緋翔天滅』
各装甲に入ったラインがより強く緋色に輝き、腕や足のアーマーが小さな翼のように展開。剣弾一本一本がアリアの手の中に収束し、一振りの大刀に。先の斬馬刀よりは小さいがその存在感は段違いだ。そしてアリアの周囲を吹き荒れる緋色の燐光。
そして腰のブースターが爆発し、爆走する。
向かう先は一直線にワトソンへ。
そして振り下ろす。
『BULLET-HOLE-CALIBER――!!』
叩き込んだのは爆砕斬撃だった。大斬撃を振り下ろした直後に斬撃痕が爆散し緋色の華を咲かせる。それはワトソンが宿していた異能を残らず
「――」
悲鳴を上げることもできずにワトソンは崩れ堕ちた。意識はないが、息はある。本来ならば即死していてもおかしくないが、アリアも武偵だ。不殺は基本事項で、対人における威力調整はPADが自動で処理してくれている。キリコとついで参加していた遙歌曰く、滅茶苦茶痛いけど絶対死なない鬼畜仕様だとか。つくづくあの妹キャラは万能だ。最近アリアの妹分と仲がいいから影響が心配である。
「ふぅ……」
息を吐く。決着により背の翼や緋色の燐光は徐々に消えていった。通常の超能力や異能と違って消耗というものは色金の力には存在しない。感情や魂に直結しているから精神力や体力とは関係なく、今の戦闘では感情や魂は全霊だった。
勿論、実際に戦うのは精神力や体力という要素は重要事項なので無関係ではないのだから相応の疲労はある。
「今何時かしら……。十時くらい? ワトソンめ、時計も携帯も没収してるなんて……。ちゃんと回収しないとっていうか流石に寒いわね」
一人でぶつぶつと言いながら倒れ伏したワトソンへと近寄る。見る限り傷は多いが致命傷ではない。とりあえず襤褸切れのようになってしまったコートをはぎ取って、その下にあった武器を捨てる。
暗器術というやつかやたら仕込んでいて軽く引く。
とりあえず一通り剥いて、
「よいしょっ……と?」
担ぎ上げたワトソンの身体に違和感を得た。
「ん、ん……?」
なんというか――柔らかい。
自分の知っている男の身体――当然キンジ――とは決定的に違う。なんとも表現しにくい、釈然としない違和感と、何かがあるというアリアの直観が作用し、
直後に床から発生した雷撃への対処は遅れた。
●
「――がああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
視界がスパークし全身に激痛というにも生易しい莫大な
そして雷撃はたっぷり十秒近く続き、
「……っ!」
崩れ落ちるアリアと転がるワトソン。一応生きていそうなのは流石というべきか。なんとか雷撃は凌いだが、
「――くすくす」
人を小ばかにしたような小さく、けれど気高さを感じさせる笑い。焼けこげたコンクリートにも構わず視線を上げたそこにソレはいた。足場のない中空で、この夜は我ものだと言わんばかりに天空から見上げる魔性の女。空き島でアリアの首に喰らいついた金髪の魔。
吸血姫ヒルダ。
これまで見た時とは比べ物にならない威圧感を抱いてアリアの前に出現していた。彼女は笑みを止めずに高度を下げていく。そして降り立って、
「流石ねぇ緋弾。今の雷撃で生きてるなんて。そこそこ本気だったのだけれど。ねぇ、貴女はどう思う――理子?」
「――!」
いつの間にか。アリアとワトソンの滅茶苦茶になった工事現場の一角に峰・理子・リュパン・四世はいた。先ほどの雷撃で視界が点滅するアリアには表情は読めないがけれど、彼女がいるということは解った。
解ってしまった。
「……り、こ」
「……」
返事はない。
「あらぁ、もうちょっと驚いてくれてもいいんじゃなぁい? 少し前まで貴方達のお仲間だった彼女は裏切って私たち側にいるのよぉ? 今は
ゆっくりと。ヒルダの言葉の受けながら理子は歩いてくる。変わらずに表情は見えない。
ヒルダの横をすり抜け、アリアの前にまで来て。
「うるせぇこのメンヘラ処女ババァ。誰がお前なんかと友達だよ、寝言は棺桶で言いやがれ」
ノイエ・エンジェに関してはオリ設定です
イギリス出身だし技名は英語で。ちょっと安直かなーって感じの名前です。
読者のみなさんを驚かせるのが難しい。もっとうまくやりたいですねー。
前話から推薦二つもいただいてテンション上がっておりますが、常に感想共々募集中です。
やっぱあるのとないとのだとモチベが私的には結構違うかなと。