落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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レキは元々銀髪だってえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ(未だに発狂中


第1拳「Fii Bucuros」

 天から降ってくる雷は常人ならば必殺の威力を秘めていた。

 お遊びとヒルダ、紫電の魔女と呼ばれる吸血鬼は言っていたし実際その通りなのだろう。なんとなくの感じ(・・)で解るのだ。込められた意思の具合は確かに余裕があった。 

 それでも威力は大きい。通常の自然現象と変わらず、指向性を持っているのだからそれを超えるかもしれないだけの雷撃。当たれば高い確率で即死ないし半死半生の大怪我となるのは間違いない。

 だが、

 

「蒼一さん」

 

「委細承知」

 

 俺のやることは変わらない。

 『宣戦会議(バンディーレ)』であろうとFEWだろうと何であろうともだ。ジャンヌが戸惑っていたけれどこういうことがあるかもしれないから俺は来ていたのだ。

 だから、落ちてくるのが魔女の雷であろうとも、

 

「護るだけだよな」

 

 打撃する。

 拳に瑠璃の気を集中させて振り上げる。雷速であっても光速には劣る。素の状態で全身光速軌道はまだ無理だが部分的な駆動ならば可能だ。必殺の威力を持つ雷撃であろうとも結局それは異能を用いた超能力の類。だったら俺には意味がない。

 だから殴って、殴り飛ばして、当然ながらレキには欠片も被害を届かせず、俺自身にも何の損傷もない。

 そして笑みを浮かべたままのヒルダに対し

 

「喧嘩売ってるのかヴァンピー。俺の女傷つけたらぶちのめすぞ」

 

「高いところにいるのが悪いわ。今代の瑠璃の巫女は電波キャラらしいのだから勝手にそっちに落ちたのじゃないかしら?」

 

「……」

 

「そこはもうちょっと否定する努力をしなさい」

 

 ごめん無理。お前の電波属性はもうどうしようもない。

 

「さて、と」

 

 言葉と共にヒルダも動いた。動いたというより、姿が揺らいだ。自分の中の影に溶け込むように、だ。伝承のドラキュラと同じような影を用いた移動。狙いは、

 

「遠山! さっさとアリアを連れて退け!」

 

 叫んだのはジャンヌ。デュランダルをヒルダの影に目がけて投擲する。影縫いのような技で影になったヒルダを繋ぎ止めたが完全に動きを止めたわけではない。少しずつだが動いている。進路上とジャンヌの言葉からすれば、

 

「おいキンジ、アリア狙われてね」

 

「解ってる。ついでに手伝え」

 

「あいよ」

 

 レキの腰を抱えて風車を飛び降りる。

 

「逃げろと言われたのだから逃げて外の遙歌さんたちと合流しましょう。アリアさんもそれでいいですね」

 

「っ……ええ」

 

「んじゃ俺とキンジで時間稼ぎ」

 

「あぁ」

 

 手短にやることを決める。

 慣れた面子だから役割分担もいつも通りだ。空き島の外の遙歌たちと合流すれば向こうも無理に戦おうとはしないだろう。狙いが何であれ、この場のキーマンであるアリアを遠ざけるのが先決だ。

 そして動くのは俺たちだけではない。

 視界の中、こちらの様子を面白そうに眺めていたカツェ。その背後、

 

「そぉーと、そぉーとっ……」

 

 などと一昔前の盗人のように抜き足差し足で歩み寄るメーヤ。カツェの真後ろで一度十字を切って十字剣を振り上げ、

 

「死ね化物(フリークス)ッ!」

 

 脳天目がけて振り下ろした。

 

「ふざけろ狂信者!」

 

 それをカツェは振り向きながら柏葉の彫刻とダイヤモンドの軍刀が迎え撃つ。刀剣や体格差を考えれば拮抗するはずがないが魔女ということなので何かしらの異能を使っているのだろう。

 

「いい加減決着付けなきゃなぁメーヤ! あとてめぇそのぶっ壊れた思考回路どうにかしろ!」

 

「これは異なことを。異教徒は殺す、化物は殺す、魔女も殺す。だからあなたも殺す。解りやすいでしょう。あぁ神よ、貴方の為に剣をとることをお許しください。けれど絶対に一木一草残さず化け物どもを塵にと返しましょう……!」

 

「ゴミはテメェだ……!」

 

 殺気と殺意と憎悪を剥き出しに聖女と魔女はにらみ合う。今すぐにでも決戦始めそうな雰囲気ではあるが問題ない。

 なぜならば――、

 

「そこまでよ二人とも」

 

 黒いコートが翻った。

 

「――!」

 

 二人の中央にカナが割り込んだ。飛ばした鎌がコンクリートに突き刺さり二人を引き離す。婉曲した刃を足を起きながら、

 

「この場ではここまで。いい子だったら帰りましょ? 悪い子だったら――オシオキよ?」

 

 例によってドヤ顔。けれど確かな凄味があり、カツェとメーヤは顔を顰めながらも引いた。視線は俺たちへと移り、彼女もまた引けと言っている。

 

「遠山、速くアリアを連れて逃げろ! ヒルダ、アイツは――」

 

「きひっ、それではおもしろにみ欠けるだろう」

 

「!」

 

 ジャンヌの言葉に割り込んだのは曹操であり、

 

「子考、少し遊んでやれ」

 

「――御意」

 

「ッッ!」

 

 ジャンヌを蹴り飛ばしたのは金の短髪。容姿は曹操に似ていて髪型くらいのしか見分けがつかない。

 子考。

 つまり――曹仁子考。

 剣をヒルダに飛ばして無手のジャンヌは吹き飛び、周囲に氷を生みながら迎え撃つ。小ぶりのナイフ投擲してジャンヌを襲う。

 それによりデュランダルの影縫いの効果が薄れ、

 

「ありがと、王様」

 

「構わん、楽しませてもらおう」

 

 ヒルダが解放された。

 

「蒼一!」

 

「おうよ」

 

 キンジはアリアを連れて下がり、俺はヒルダを止めるために前へ。ああいう人間ではない、異能を使う相手は俺には好都合。低強度の異能ならばほぼ完全無視できるし、必殺級でなければイロカネの気で防御できる。最優先するべきはアリアの退避。彼女をそのままヒルダと接触させるにはいい予感がしない。いつの間にか白のトレンチコートの男は完全に姿を消し、玉藻もおらず変な毬があるだけ。ランスロットや静幻、LOOやハビとかいうのは少し外れて傍観。位置を把握しヒルダと行った。

 同時に背後から瑠璃色の光弾。レキの援護射撃。

 

「貴方たちと正面からやるほど馬鹿じゃなくてよ?」

 

 ヒルダが腕を振った。指先から放たれたのは雷の矢だ。レキの光弾を相殺し、

 

「さぁこれならどうかしら」

 

 地面を雷撃が迸った。

 

「!」

 

 地を這うような雷。先ほどの落雷と同等のそれは俺だけならば軽傷で済むだろうが、他の連中は知らない。曹操ならダメージないだろうが、それ以外は謎だ。

 ヒルダが放った雷の範囲は広い。俺一人では止められなく――

 

「ほほほ! 妾を忘れてもらっては困るのぅ!」

 

 舞い上がった砂塵が総てを受け止める。

 それが誰なのかは言うまでもないパトラさんだ。吹き荒れる砂嵐は雷撃を受け止め焼けこげながらも消えはせずに彼女の周囲を浮遊する。 

 

「パトラぁ……!」

 

「主の雷撃と妾の砂では妾のほうが分があるえ? これ以上やるなら妾が相手となろう」

 

「さすがパトラさんっ! かっこいい!」

 

「ほほほ! 褒めるがいい!」

 

 高笑いするパトラさんと一緒にヒルダの前に。これで俺とパトラさん、そして背後のレキで吸血鬼を囲んでいる。アリアとキンジは既に撤退を始め、ジャンヌは未だに曹仁と交戦中。他のメンツに動きはない。

 ヒルダさえ退ければこの場は収まるだろう。曹操もこんなところで決着を付けるつもりはないはず。

 

「くすくす、さすがに貴方たち三人同時は面倒ねぇ」

 

「ははは。悪いが俺は面倒な男でな、惚れた女以外とかまじどうでもいいから。お前さんも縛り付けて日焼けマシーン送りにしてやる」

 

「風情がない男ねぇ。こんな男のどこがいいのかしら」

 

「そういう頭悪い所ですよー」

 

 遠くから微妙に酷い声が聞こえてきたがそんな女に惚れているが俺である。

 いやぁ人の心はままならないね。

 

「下らないわぁ、劣等種の人間風情が。私のような高貴な血族には理解できないわねぇ。端的に言って汚らわしいわ」

 

「言ってろ化物」

 

 拳を構える。パトラさんも砂を動かし、ヒルダもまた雷撃を纏う。帯電する雷は即席の鎧のようだ。

 構わずぶん殴った。

 殴って、殴り飛ばして、

 

「――え」

 

 ヒルダの身体が吹き飛んだ。比喩でもなんでもなく文字通りに彼女の身体が電気となって弾けて消滅したのだ。

 

「やっべ殺した!?」

 

「阿呆! (デコイ)じゃ!」

 

 囮、つまりは本命は別にある。そして言うまでもなく本命は――

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんキンジ逃した!」

 

 後方から聞こえる蒼一の声にキンジは即座に動いた。蒼一の不手際を責めるつもりはない。足止めをすると言った以上あいつはあいつなりに全力だったはず。そういう手抜きのできるキャラじゃない。

 つまりヒルダは蒼一の手際を上回った。

 その上で、

 

「アリア、さっさと逃げるぞ。すぐに『緋影』が来る」

 

「えぇ……ごめん」

 

「いいよ」

 

 アリアの存在のせいで戦闘になったとはいえ所詮結果論だ。というかアレは向こうが悪い。シャーロックの後継者であるアリアがこの場にいるのは何の問題もないのだ。

 だからキンジはアリアを責めない。

 蒼一と同じで彼もまた自分の主を護るだけだ。

 走る速度は緩めず、寧ろ彼女の手を握りながら加速し、

 

「なんで来たのかしらねぇ。でしゃばりを身を亡ぼすわよぉ」

 

 真横にパトラが現れる。

 

「――!」

 

「アリア!」

 

 長い爪の手がアリアの首に延びる。咄嗟にキンジが繋いだ手を引くが、遅かった。ヒルダの手がアリアと捕えられ、

 

「てめぇえええ!!」

 

「うるさいわよ下郎」

 

「……!」

 

 雷撃がキンジに落ちた。視界がスパークし、巨大な熱量。先ほど蒼一に落ちたほどではないしろ、防御面の意識が外れた瞬間の一撃だった。

 

「キンジィッ――!?」

 

「愚かな武偵娘(ブッキー)にはお仕置きよ」

 

 キンジが雷撃を受け、それにアリアが手を伸ばした瞬間をヒルダは見逃さない。

 

 ――彼女の首筋に噛みついたのだ。

 

「っ、ぁ――」

 

「うふふ――」

 

「――!」

 

 雷撃に構わずキンジが緋刀をヒルダへと斬撃を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

「キンジ!?」

 

「ほう」

 

「ふむ……」

 

「これはこれは」

 

 間に合わなかった。俺に目にはアリアが噛まれ、雷撃を浴びながらキンジが緋刀をぶち込んだとこまでで光が溢れて視界が途切れた。フラッシュグレネードレベルのそれはつまりキンジの感情の表れだ。かつてない領域の激昂にて放たれた緋色の斬撃。

 曹操、ランスロット、静幻たちも息をのむほどの大斬撃。他で小競り合いをしていたカツェやメーヤたちも一度動きを止めていた。少なくともあれだけの威力を出すのは俺は初めて見る。

 光が晴れて見えたのは息を荒げ膝をつくアリアと彼女を庇うように立つキンジ。そして肩を押さえるヒルダだ。

 

「……なにをした」

 

「さぁて、なんでしょうねぇ。玉藻にでも聞いたら。くすくす、それにしても第一形態(プリモ)でも殻を外せるなんて! おほほほ! おーほほっほ! Fii Bucuros! Fii Fericit! ほほほほほほほほほほほーーーー!」

 

 肩に受けた斬撃は浅くはない。吸血鬼であろうとも色金の力で放たれた斬撃には吸血鬼の再生能力も効果は薄い。それでも確かにヒルダは笑っていた。

 

「何をした!」

 

「私よりお姫さまの心配をしてあげればぁ?」

 

 緋色の残す一刀を強く握りしめ全身から煙を上げるキンジの背後、蹲ったアリアから光が溢れた。

 

「毒か!?」

 

「それよりもまずい、遠山の。……ヒルダ! お主『殻金七星』破りまで識っておったか」

 

 アリアに寄り添うに現れたのはそれまで姿を消していたはずの玉藻。その顔にも焦りが強い。

 

「おいおい、レキさんどうなってんだこれ」

 

「私にも解りかねますが……いい予感はしませんね」

 

 同感だよ。基本的にこういうことは苦手で役に立たない。異能系は破ることはできても扱うことはできないのだ。とりあえず、

 

「パトラさん、解るか?」

 

「解る。解るが、お喋りしている暇はないっ。ともかくアリアたちの下へ行くのじゃ」

 

「おっす」

 

 言われた通り今できるのはそれだけだ。

 ただ近づくだけのわずかな時間でも状況は動いていた。

 アリアの胸の中から光が溢れ、

 

 七つに飛び散った。

 

「メーヤ、パトラ!」

 

 一つは符を構えた玉藻が受け止めた。

 一つはパトラさんが砂で受け止めた。

 もう一つはメーヤが十字剣で受け止めようとして、

 

「お、っと、と――!?」

 

「させるかぁ!」

 

 邪魔に入ったカツェに奪われる。奪われたのはそれだけで済まされず残りの四つも、

 

「Fii Bucuros」

 

 紫電の魔女に、

 

「きひっ」

 

 金色の覇王に、

 

「……」

 

 円卓の騎士に、

 

「おお!」

 

 鬼の幼女に。

 それぞれが受け止め、光は掌の中で宝石となって彼らの手の中に納まる。

 

「その殻皆に上げるわ。眷属についたご褒美よ。ランスロットは上げた意味を考えて欲しいわねぇ。まぁお父様を捕まえられた嫌がらせだからいいんだけどね」

 

 ヒルダはそう告げて、

 

「きゃはははは!」

 

「あははは! また会おうぜメーヤ!」

 

「いい余興にはなったか。また会おうキンジ。これを欲しくば強くなれ」

 

「……礼は、言っておきましょう」

 

 受け取った四人はそれを最後に霧の中に姿を消した。

 そして、

 

「やれやれ、ここらが潮時ですかねぇ」

 

「LOO……」

 

「……」

 

 静幻とLOOもカナもまた闇夜に消える。

 残ったのは師団の者たち。

 

「アリア!」

 

「安心せい、すぐにどうなることではない。しばらくは問題なかろう。ジャンヌ、レキ、パトラ、那須今すぐ追跡を始めろ。散り散りになっているがすぐに追いかえれば首級(しるし)の一つでも上げられるかもしれん。深追いはするなよ、儂は結界を張って守りを固める」

 

「……解った」

 

「行きます蒼一さん。話は後ほど」

 

「……あぁ。説明してくれるならな、そっちの狐ロリもだ」

 

「キンジよ。アリアのことは妾も全力を尽くす。今は玉藻を頼れ」

 

 気配探知を広げて、逃げた連中を探る。少なくとも空き島周辺には気配は残っていないが、動けば解らない。

 残念ながら――こういう場合では俺は役に立たない。

 だから追跡に全霊を注ぐ。

 そして背を向ける最後。

 

「――――」

 

 ――キンジはアリアを抱きしめ続けていた。

 

 




テンション上がる(
ちなみにいたけど描写されなかった司馬懿くんはずっと曹操の背後に隠れていました(
今回は基本的に原作沿いですかねぇ。
ちょっと、すこーしインフレするくらいで。

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