落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第七章 消えぬ過去と明日への契約
プロローグ「次に進むために《Go For The Next》」


「――では始めよう」

 

 ジャンヌ・ダルクの宣言よりそれは始まった。

 十月一日真夜中の濃霧に包まれた空き島最南端。年末の一件で半壊し修復するも半年前に新たに一つハイジャックによって折れたままの風車の下。

 周囲を巨大なライトに照らされながら曲がり風車を取り囲むよう不規則に彼らは存在していた。

 糸目に丸眼鏡、色鮮やかな中国衣装に包む青年。

 金髪に豪奢なゴシックロリータ、黒の日傘を指し、背にコウモリの翼を担う少女。

 全身に火器を装備し全長三メートルはあるであろう巨人。

 白い法衣に豊満な体を押し込み、背に巨大な十字剣を背負った修道女。

 漆黒のフード、とんがり帽子、肩に大カラスを載せ、さらには逆万字眼帯の小柄な魔女。

 狐耳と尻尾を持った和装の童女。

 露出の多く、褐色の肌をあらわにした砂を纏う女。

 編み上げブーツに茶の三つ編みの髪の美女。

 純白の騎士礼服に舞踏会のような仮面で片目を画した青年。

 長剣を背負った白人の美男。

 数人の男女を背後に控え、威風堂々と周囲を見回す金髪の少女。 

 巨大な大岩斧を持ち毛皮のワンピース姿の幼女。

 顔に刺青を持ち、派手な格好で耳にイヤホンを差し込んでいる少年。

 風車の前で白銀の長剣を地面に突き立てそれに柄頭に両手を置き、周囲を見回す銀色の聖女。

 

「各地、帰還、結社、組織の大使たちよ。『宣誓会議(バンディーレ)』――イ・ウー崩壊後、求めるものを巡り、戦い、奪い合う我々の世が――次に進むために(Go For The Next)

 

 次に進むために(Go For The Next)

 そう、その場にいた誰もが続くように、しかしバラバラに唱和する。楽しそうに、つまらなさそうに、悲しそうに、苦しそうに。共通することはただ一つ。この場にいる誰もが正負聖邪の区別はなく他を圧倒する存在感を放っていることだ。

 そして俺たちもまた。

 蒼い着流しに袴、指先にまかれたバンテージ。戦装束姿で風車にもたれ掛かっている俺。

 その風車の直上にて膝を立てて腰かけるレキ。

 すぐそばには同じく赤い和装のキンジとレキと同じく制服姿のアリア。

 原潜から京都。

 

 そして今こここそが――世界の中心だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはイ・ウー研鑽派残党(ダイオ・ノマド)のジャンヌ・ダルクが、敬意を以て奉迎する」

 

 始まりの宣誓から続いたのはジャンヌの言葉。濃霧の中に潜む異形たちの語り掛けながらもその声は鋭い。当然だろう、空気が違う。常人ならば卒倒しそうなほどの緊迫感。だれもが一切も敵愾心を剥き出しにして牽制し合っている。人外という存在に耐性がある俺でもそう感じるのだ。眼前の彼らの強度が計り知れる。

 『宣戦会議(バンディーレ)』。

 半月前の京都にてその前哨戦を行ったわけだが今回のこれは本番。宣戦の会議という名の通り各国結社組織の使者が集まって宣戦布告をするというもの。

 俺たちからの参加者は俺、レキ、キンジ、アリアという最早定番の四人組だ。まず『バスカービル』の代表ということでキンジ、バスカービルと兼任しながらも『ウルス』の代表ということでレキ。レキが行くならば当然俺が付いていく。キンジの付き添いで意見が割れたがシャーロック・ホームズ亡き世界を巡ること故に彼の後継者であるアリアが。勿論空き島周囲には他のバスカービルのメンツがすぐに駆けつけられるように待機していた。

 

「初顔のものもいつので、序言しておこう。かつてより我々は世界の闇に潜みつつ、各々の武威、魔導、技術を継承し、他者のそれを奪い合ってきた。イ・ウーという存在によりその争いは一時的に休止したが――イ・ウーの崩壊と共に再び戦いの砲火は開こうとしている」

 

 視線が俺とキンジに集まるのを感じた。京都でも司馬懿に言われたことだが、今回の一件の始まりを担ったのは俺たち二人。夏休み前の戦いでシャーロックを打倒してしまったから。元々彼の寿命があの時で尽きていたとはいえ、結果的には俺たちがあの人外を終わらせたのだ。 

 

「――皆さん」

 

 進み出たのは修道女だった。泣き黒子のある目を潤ませて指を組み、祈るように甘い声で呼びかける。

 

「戦乱を避ける道はないでしょうか」

 

 無法者ばかりの空間で彼女は異質だった。その言葉は嫌味ではなく本当に戦を忌避する思いがあった。背中の十字剣さえなければ、の話だが。

 備えないのは愚か者だとしてもどうみてもアレは戦う気満々だ。真っ当な台詞にキンジは一瞬目を輝かせたがやはり背の剣を見て項垂れていた。

 

「バチカンは戦乱を望みません。それを伝えるために私はここに参りました。皆様、ただ修羅となって戦う前に今一度和平の道を――」

 

「できるわけねぇだろメーヤ、この偽善者が」

 

「黙りなさいこの害虫が」

 

 ……え。

 先ほどまで貞淑そうに人道とか平和とか語っていたメーヤとかいう修道女がいきなり毒舌を吐いた。耳を疑うも魔女ぽいのと言い合いは塵とか害虫とか滅尽滅相とかいう単語が飛び交っている。ふとキンジに視線を移した。

 

「……」

 

「ほ、ほらちゃんとしなさい」

 

 すっごい項垂れていてアリアに慰められていた。あいつもう諦めろよ。

 その間にも修道女と魔女の口汚い言い合いは続いていく。

 それを止めたのはジャンヌだった。

 

「……まぁ、どちらにしろ戦は不可避だ。ソレが解っているからお前も、私も、この場にいる全員が武装しているのだろう。私としても戦いは望まないが、それでも戦うしかないのだ。――私たちはそういう風にできていた」

 

 休戦は終わりだ、とジャンヌは呟き、

 

「古の作法に乗っ取り三つの盟約を提唱する。

 第一項、いつ何時、誰が誰に挑発する事も許される。戦いは決闘に準ずるものとするが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱は許される。

 第二項、際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁じる。これは第1項より優先する。

 第三項、戦いは主に『師団(ディーン)』と『眷属(グレナダ)』の双方の連盟に別れて行う。この往古の盟名は歴代の烈士達を敬う上、永代改めぬものとする」

 

 それがこの戦の作法(ルール)

 勢力が解れるのは聞いていたから驚くことではない。つまり纏めればこの前の京都での相対戦がより大規模になったということだろう。所属に関しては無所属保留黙秘なども許されるらしいが。

 

「ではこれより連盟の宣言を募る。私たちイ・ウー研鑽派残党(ダイオ・ノマド)、バチカンの聖女メーヤは『師団』、魔女連隊のカツェ=グラッセ、『竜悴公姫(ドラキュリア)』ヒルダは『眷属』で相違ないな」

 

 名指しされたのは先ほど騒いでいた修道女と魔女。それに金髪のゴスロリ女。

 

「はい。バチカンはもとより闇の眷属を討滅する殲滅師団の始祖にございます故」

 

「だから当然私は『眷属』。こいつと仲間になんかなれるかよ」

 

「聞くまでもない。私は生まれながらの闇の眷属なのだから」

 

 答えたヒルダの姿。その不吉な衣装を纏う彼女の脚にはよく見れば目玉模様。忘れるべくもない。六月に倒したヴラトと同じもの。ドラキュリア――つまりはこの女は吸血鬼ということ。

 

「貴女はどうかしら玉藻?」

 

 名指しされたのは――比較的キンジに近い場所にいた狐耳と尻尾の和装の童女。なんというか一部を狙い撃ちにしたあざとい姿というか名前を聞いた瞬間レキが反応して嫌な予感がしたが、

 

「すまんのう、ヒルダ。儂は今回『師団』じゃ。未だに仄聞のみじゃが、今日の星伽は基督教会と盟約があるそうじゃからの。パトラ、お主はどうする?」

 

 眷属ではなく師団への参加を表明し、指名したのは我らがパトラさんである。夏休み終わりから金一との婚前旅行に出かけていた彼女だ。あの原潜脱出でのことを考えるとぜひ敵には回したくない相手だが――

 

「ふふふふ! 妾は師団にさせてもらう! 研鑽派には恨みがあったがそれも既に水に流した。何より! 義弟の力にならぬ妾ではない! さぁきん……ではなく、カナ! 共に師団へ!」

 

「あ、私は無所属ね」

 

「えぇ!?」

 

 パトラさん飛び上がるほどの仰天であった。

 

「創世記41章11、『同じ夜に私達はそれぞれ夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた』。私にも私なりの考えがあるのよ。だから、キンジたちのことは任せたわ」

 

「ぬ、ぬぬ……! 任せれた、と言いたいが離れるのも……ぬうぅ……!」

 

 乙女回路が暴走しかけていたがカナに頬をちょんちょんと突かれて顔を真っ赤にしながら頷いていた。ちょろい。

 

「ジャンヌ。リバティー・メイソンも『無所属』だ。暫くは様子を見させてもらう」

 

 霧の奥、俺ですら気配が曖昧にしか掴めない白のトレンチコートの男はそれだけを告げて黙る。一瞬だけ姿を見せたがすぐに霧に塗れてしまった。

 

「LOO――」

 

 次は全身に銃火器を装備した巨人。なんとうか最早形容するのも馬鹿らしい今時のロボットアニメでもみないような、子供が考えた全身装甲ロボット。銃火器に詳しくない俺でもやりすぎだろうと思う。

 自律式なのか中に誰か乗っているのかは定かではないがひたすらにるぅーるぅーと繰り返し続ける。ジャンヌも困ったように眉を顰めていたが結局は無所属。 

 なんかもう色々現れすぎて馬鹿らしくなってくる。キンジはドン引きだし。

 

「眷属、なる!」

 

 カタコト口調で叫んだのはいかにも野生児という風に叫ぶ少女だったがおかしいのは彼女が振り回す得物だ。巨大な、三百キロくらいはあろう石斧。俺でもできないことはないがああいうのは趣味じゃないのでやらない。とかく、明らかにアリアよりも小さな少女がそんな巨大なものを振り回していた。

 怪力ロリとかまたまた狙いすぎだ。

 

「ハビ、眷属!」

 

 叫ぶ拍子に額に見えたのは――赤い双角。当然ながら何かしらの化外らしい。 

 いい加減反応するのにも飽きてきた頃である。

 

「尚、『バスカービル』は師団、曹魏は眷属ということは先日の一戦で宣言されているが……変わっていないだろうな」

 

「無論だ」

 

 ズシリ、空気が軋む。ただ一言でさえ人外魔境ともいえるこの空間を揺るがしたのは金色の覇王。 曹操だ。背後に司馬懿とそれに初見の曹操によく似た、しかし単発の少女が控えている。『宣戦会議(バンディーレ)』が始まって以来口は開かなったが、彼女はキンジへと視線を向け続けていた。

 そしてそれに当たられ続ける我らが大将も、

 

「あぁ」

 

 言葉少なげに頷き曹操を睨み返す。

 視殺戦。

 目は口程に物を言う。

 京都にて敗北したキンジだが思うところがあるのだろう。あれ以来、少しずつだかキンジに変化が生まれているような気がしている。未だ表面化していなくても確かに何かが。

 そのキンジに寄り添うようにアリアが立っていた。聞いた話ではここにいる何人かはアリアの母親の冤罪を担っているらしい。本来ならばすぐにでも飛びかかって逮捕したいのだろうが彼女は抑える。今無理しても逃げられる可能性が高いし、今この忍耐が自分の男の糧になると信じて。

 

「ウルスの姫、それに守護者も同じだな」

 

 ようやっと振られた。まず答えたのは当然主たるレキ。

 

「はい、私は元々バスカービルの一員ですし『ウルス』の全権も私が担っています。我々は師団に所属しましょう」

 

「レキがそういうならそういうことさ」

 

 全権とか持ってたんだーとか驚いたがまぁ予定通りだろう。レキの言う通りバスカービルのメンバーであるのだから師団以外在りえない。

 

 そして残ったのは三組だ。

 

「『最後の円卓(ナイト・オブ・ゼロ)』、ランスロット卿は如何に?」

 

 ランスロット――円卓の騎士。

 問われた青年は一度目を伏せてから――キンジを視た。その瞬間だけはキンジもまた彼を見返し、

 

「――私は保留とさせていただきましょう」

 

 そう告げて目を閉じる。先ほどのリバティー云々とは違い気配を隠すようなことはしないが、口を開く様子もない。

 

「では私も保留とさせていただきます」

 

 ランスロットに続くように保留を宣言したのは丸眼鏡の青年。反応したのは――意外にも曹操だった。

 

「ほう。どういうつもりだ静幻。貴様は眷属だと予想していたのだがな」

 

「おやおや曹操様。そんなことは一言も告げておりませんが。そして予想していたとは冗談を。貴女は私が保留し、さらにどうするつもりかも解っているのでしょう?」

 

「きひっ、好きにするといい。もとより貴様は私の配下でも部下でもない」

 

「えぇ、貴方は私の王でも主でもない」

 

 無礼とさえいえる言葉に曹操の背後の短髪が動きかけたが曹操自身に止められる。それ以上追及するつもりはなかったのか口を閉ざし――ただ笑みを濃くするだけだ。

 残るは一人。

 顔に刺青を入れた、ピエロのような恰好の少年。多分、俺たちとはそれほど年齢が変わらないくらいだろう。

 

「……美しくねぇ」

 

 言葉と共に耳に指していたイヤホンを投げ捨てた。聞いていたのか聞いていなかったのかは定かではないがどうやらあれにはこの会議に興味がなかったらしい。こちらを見ることもせずにそいつは背中を向け去ろうとする。

 

「GⅢ。貴様がどうしようと私の知ったことではないが、今お前が去れば自動的に無所属となるが構わないな」

 

「関係ねぇ。俺は強い奴と戦えると思ったから来ただけだ。なのにどいつもこいつも結局はパシリじゃねぇか。それに無所属だ? 上等だぜ、どいつもこいつも敵ならどいつもこいつもぶっ殺しても文句ないんだろ? ――ならそれでいい」

 

 その言葉を最後にそのGⅢとかいうのは姿を消した。霧に紛れのでもなく、超高速で動いたわけでもなく文字通りいきなり姿をくらました。最先端科学兵装(ノイエ・エンジェ)か異能だろうか。少なくとも気配は完全に消失している。

 そして今この場にいる全員の所属が告げられ、師団眷属無所属保留という四つに確かに別れた。

 

「最後に、この闘争は『宣戦会議(バンディーレ)』の地域名を元に名付ける慣習に従い、『極東戦役(Far East Warfare)』と呼ぶ事を定める。各位の参加に感謝と、武運の祈りを――」

 

 それが今宵における終わりを告げる言葉だった。司会の役目を担うのに彼女もかなりの緊張を強いられたらしく、息を吐きながら首と肩を鳴らしていた。俺も発言したのはほぼ一言とはいえこの連中の中にいるのは疲れた。帰ってレキといちゃいちゃしたい。

 そして、

 

「じゃあ、もういいのね?」

 

 にっこりと八重歯を剥き出しにして笑うのはヒルダだった。

 

「――なに?」

 

「だってもう始まったんでしょう? だったら」

 

「いや、待て。もう、か? 貴様は今夜は」

 

「だって緋弾がいるとは思わなかったし。天気も悪いし。だから――ちょっと遊んでいきましょう?」

 

 直後、

 

 ――轟く落雷が俺とレキのいた風車を直撃した。

 

 




最新刊読んだので更新しました。
レキってイロカネ適合する前は髪銀色だったらしいですねぇ……。
なにそれ我歓喜。魂が震えた。無道銀髪天が轟いた。
エンディングが見えた(クワッ
あとはラスボスというか。


あとオリ勢力で円卓ですね。あの剣エクスカリバーじゃねとか思ってたら、やっぱガチエクスカリバーだったとか。原作ではえらい扱いだったけどキンジの主武器に。


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