ブラック・ブレット 救いを求める者   作:桐ケ谷なつめ

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 遅くなりました。

 無事、用事の一つが終わり少々余裕ができましたので投稿を再開したいと思います。


第7話 10歳 昇段

 新学期が始まり五年生に進級した。

 先日の弟子入りに関してはまだ返事をしていないがひと月も考える時間がもらえたので考えが決まった。そのため、菊之丞にまた会える日に返事を返す予定だ。

 また、この春から以前から計画していた施設の建設が始まった。

 もともとは地下10階から地上までを一つの建築物として建設する予定であったが、大規模な地震や地殻変動に対応するために5つのブロックに分け、それぞれを通路で連結する形をとることにした。

 その際、ブロックごとに専門の機材を導入し、最大限活用できるようにすることで生産効率の向上と各地下設備の管理を集約する方法をとることができた。しかし、管理用のスパコンの作成などの問題がまだまだ残っており、菫と共に研究に没頭する日々を過ごしている。

 

 菫の研究所も稼働から安定し始め、研究所独自の研究成果が特許として申請され始めた。それにより研究所の知名度が上がり、出資者である司馬重工や天童系列の企業から共同研究の申し出が多く来ているらしい。しかし、菫自身がプロジェクトに参加することはないらしく、もっぱらA.T関連の開発か再生医療とナノマシンの開発をメインに行っているらしい。

 また、A・Tに関してはハイスペック型の開発とエアトレック技術を企業向けにダウングレードしたものを研究所の研究成果として関係のある企業や工房に技術提供している。その際、特許なども申請しているため特許料による収入が増えたこともあり、研究費に関して一部の援助を断ることもできるようになった。

 俺はAI関連の開発で研究所に出入りし、いくつか基礎理論の構築を行っている。しかし、現状搭載されるCPUでは複雑な命令を自立解決・支援を行うAIを搭載することは難しいことが分かり、ハードの改良が最優先ではないかという議論が研究所のAI部門でされている。

 この開発の過程で建設中の孤児院のメインコンピュータのシステムの構築を進めることができたが、あの規模の施設を自立運用させたうえで、さらに開発や周辺の索敵など様々な運用をさせるとなると、既存のスパコンでは性能的に厳しいということが分かり、どのように対応するのかが課題として浮き彫りになってきた。特に性能的には現在の日本に最高峰のスパコン『京』の100~1000倍の演算容量が必要なのではないかという試算が出ており、どのようにそれらの資材を確保するか菫と協議を行っている。これに関しては妥協するわけにもいかず、また今後の研究への影響をかんがみて性能を一段落とした試作型を作成することでスパコン開発のノウハウを持っておくべきだという結論に至り、現状での最大スペックのスパコンの開発を始めた。この試作型はいくつか正式型に用いるパーツの流用をするため、一部部品が設計図段階のものであるが、今年度中に開発を終えることになっている。設置場所に関してもすでにある研究所内に設置するため、建屋などの建設に時間がかからないため早期の稼働が行える見込みもあり、今後の研究・開発の促進に役立つはずだ。

 

 

 

 _________

 

 

 

 桜も散り、木々に緑の葉が青々と生い茂り始める中、俺は都内のとある道場の前にいた。

 

「ここが天童流の一般道場か……」

 

 これまで使ってきた天童家の敷地内の道場とは異なり、昔ながらの道場然としたたたずまいの建物は風格を感じさせた。またその中から聞こえてくる鍛錬の声が道場の活気を表していた。

 

「失礼します!!」

 

 道場に足を踏み入れ挨拶をすると、鍛錬をしていた幾人かが目をこちらに向けてきたが、すぐに興味を失ったかのように鍛錬に戻っていった。そんな中、鍛錬を見ていた初老の男性がこちらに向かってきた。

 

「よく来たな。君が助喜与師範の言っていた里見蓮太郎君だな?」

 

 こちらに笑みを浮かべながら近づいてくると確認してきた。ただ歩いているだけなのに隙が見えず、自分よりも圧倒的に格上であるのを感じ、緊張を隠すことができないでいた。

 

「初めまして、里見蓮太郎といいます。本日は助喜与師範に言われてこちらに来ました」

 

「がははっ!出稽古の件は聞いとるよ、儂は渡辺勝馬という。この道場を任されとる師範代の一人じゃ。師範から今面白い奴を育てとると聞いとったからなぁ、会えるのを楽しみにしておった」

 

 こちらの挨拶に対して渡辺と名乗ってくれたが、笑いながら背中を勢いよく叩いてくるおかげで咳き込むことになってしまった。

 

「おお、すまんすまん。とりあえず道場の隣の建物が着替えなんかができる場所になっとるからそこで着替えてきなさい」

 

 更衣をしてくるよう促された。その際、儂のことは「渡辺師範代」もしくは「師範代」と呼ぶよう言われた。

隣の建物(更衣室兼シャワールーム兼台所を兼ねているようだ)で着替えて道場に戻ると、それに気が付いた渡辺師範代が鍛錬を一時中断して全員を集めた。

 

「集まったな。今日は鍛錬に新しい奴が参加する。これから挨拶させるから聞いとけ」

 

「初めまして里見蓮太郎といいます。これまで別の所で天童流戦闘術の鍛錬を行ってきたのですが、次本日からこちらの方に出稽古に行くよう言われ、来ました。みなさんよろしくお願いします」

 

 そう挨拶をするとその場にいた40名程の門下生たちが同様に挨拶を返してくれた。

 門下生を改めて見渡すと大半が俺よりも年上で、同じ年頃の門下生はほとんど見当たらなかった。

 この道場では天童流の各流派(戦闘術、抜刀術、小太刀術、神槍術)が合同で鍛錬を行っているようで、定期的に他流派との手合せも行われているそうだ。

 監督する師範代は埼玉と神奈川にある他の道場も併せて持ち回りで指導をしているらしい。

 その為、門下生たちは師範代が来る日以外は基本的に自主トレに近いことをしているとのことだった。

 

「今日は助喜与師範もお越しになる総演習の日だ。各人、これまでの自信の鍛錬に自信を持って取り組むように!!それでは鍛錬に戻れ!!」

 

 天童流道場では通常の鍛錬の他に門下生たちが楽しみにしている鍛錬がある。それが月に二度、助喜与師範の訪れる総演習だ。師範代たちも含め、助喜与師範から直接指導を受けられる機会ということでその日はそれぞれの道場に所属する門下生が全員集まるとのことであった。居並ぶ門下生を見てみると、10代から30代の若い東京の門下生が多くこの場に集まっている。 大半は10代半ばから20代後半の門下生ばかりであった。俺と同い年あるいは年下の門下生は一人しかいないらしい。

 

 この総演習において段位の判定が行われるということもあり、それまで集まっていた門下生たちはすぐさま自身の鍛錬に戻っていった。

 俺は鍛錬の前に渡辺師範代に連れられ、道場内にいる他の師範代のもとへ挨拶に行くことになった。

 

「神野さん、木崎さん、斎藤くん。里見君を連れてきました」

 

 渡辺師範代に連れられて行った先には、鍛え抜かれた体をしている老人二人と比較的若い男性がいた。

 

「初めまして、里見蓮太郎といいます。本日からご指導のほどよろしくお願いします」

 

「おう、主が師範の言っておった里見か。儂は天童流神槍術の師範代をしておる神野京司郎という。段位は皆伝をいただいておる。……おお、そうじゃ、天童流の中では師範を除いて最年長になる」

 

「同じく師範代の木崎謙じゃ。天童流抜刀術の皆伝と小太刀術の八段をいただいとる。指導しとるのは主に抜刀術になるがの」

 

「最後に私は小太刀術の師範代をしている斎藤一といいます。天童流小太刀術の八段と戦闘術の四段をいただいています。」

 

 一人目は小説で見た菊之丞のように白いひげを蓄えた背の高い老人、二人目は落ち着いた雰囲気を身にまとった物静かな老人で片隅に刀を置いていた。三人目は師範代の中で最も若いらしい、しかし気配があまり感じられず、こうして対面しているにもかかわらず目を離しそうになった。

 

「お主に関しては一先ずこの後の手合せで様子を見させてもらう予定だ。それまでに体の調子を整えておきなさい」

 

 神野師範代がそういうと、他の師範代も同様にうなずき、鍛錬へ参加するように言ってきたため、俺は鍛錬に入り始めた。

 

 

 

 _________

 

 

 

「これより、試合を始める。本日は同門のみの手合せとする、また体格差も踏まえ、15歳未満のものは見取り稽古とする。ただし、里見君に関しては特例として手合せに参加する。では一戦目のものは用意をしろ」

 

 体が温まったころに鍛錬の中断され、手合せについて斎藤師範代から説明がなされた。

 その際、俺が参加するということに大半の門下生が驚きを隠せないのかこちらに目を向けてきた。

 

「里見君の参加に関しては助喜与師範からの推薦もあってのことだ。そのため、他のものと同じように相手をしなさい」

 

 助喜与師範の推薦と聞いていぶかしげな目を向けながらも、門下生は準備に取り掛かっていく。

 手合せは高段者同士のものから始まり、俺はそれを見ながら各流派の戦い方を学んでいった。

 

 戦闘術は己の肉体を武器とし、気を込めた打撃、蹴撃をもって相手を無効化する、あるいは体当たりや投げ技、関節技なども用いるショート・クロスレンジでの戦い方である。通常の拳打、蹴りを繰り出す中で相手のスキを作り出し、気を込めた必殺の一撃をもって相手を打ち倒す。互いの気の練り方、技の練度によっては途方もない威力を生み出す武術である。

 

 抜刀術は神速の踏み込みと刀を鞘走りさせた速さをもって切れ味に変え、相手を切り払う。あるいは初撃から二の太刀、三の太刀とつなげていき相手を切り捨てる。その踏み込み・打ち込みの速度は天童流の中でも随一の速さを誇り、高段位者であれば相手に切られたと気づかせず切り伏せることも可能である。そのため、手合せの際には刃を潰した模造刀を用いることが決められている。ただし、一部の高段者ではそれでも危険なため、竹光に重りを付けたものを用いて行っている。

 

 小太刀術の場合、抜刀術のような速さではなくその手数によって敵を圧倒する。

 刃渡り30cmほどの小太刀のほかに戦闘術と同様の拳打、蹴撃、そして投擲物(針や棒苦無といったもの)をもって敵を打ち倒すため、戦闘術のようなショート・クロスレンジのみならずミドルレンジにおいても戦うことができる。戦闘術と異なる点は主に組打ちや寝技、関節技を含まないこと、そしていわゆる隠密が用いているような暗歩を用いるということである。そのため、小太刀術を習得しているものは気配を消すのがとてもうまい。手合せでは投擲物は用いず、模造刀の小太刀および肉弾戦が一般となる。

 

 神槍術の場合、様々な種類の槍で相手を突く、払う、打つといった戦い方をする。習いはじめは素槍、段位を得て、ある程度したところで自分に合った形状の槍に取り換えていくという鍛錬方法のため、種類がいくつかに分かれていく。特に扱われるのは片鎌槍、十文字槍、大身槍、素槍、手突槍である。全体的に穂先から石突まで2~3mあるためミドルレンジでの攻撃になる。特に突きに関しては突きと引きの速度が速いため、なかなか間合いを詰めることが難しい武器である。唯一の例外として手突槍は50cm程と短いため間合いを詰められやすいが、これを用いるものは戦闘術と併用するため、間合いを詰めれば手足が飛んでくる。神野師範代は十文字槍をベースとした槍を用いているとのことであった。

 

 手合せは次々と進んでいき、高段位者同士の技の冴えから、中段位者同士の駆け引き、低段位者同士の粗削りながらも力溢れる立ち合いが俺の闘争心を燃え上がらせていた。

 そんな中、とうとう俺の番がやってきた。

 

「次、赤、井出、白、里見。前へ!」

 

 俺とともに呼ばれた相手は16歳ほどの少年であった。

 身長が年齢の割に大きい俺(145cm)であっても、5つも離れているということもあり、その差は30cm近くあり、リーチの差も大きい。

 俺は相手と相対しながらどのように仕掛けていくかを考え続けていた。

 周囲の声が聞こえなくなり、意識が集中していく中

 

「はじめ!!」

 

 開始の合図とともに相手の懐に踏み込んでいく。

 相手は間合いを詰められるのを快く思わなかったのか、一足飛びに後ろへ飛ぶとともに、顔に向けて足を繰り出してくる。それを防ぐのではなく、さらに体を沈めることでかわし、足が伸び切ったところで逆に相手の道着と掴み、引き込む。

 相手はバランスを崩しそうになるが、逆にその流れに乗ってこちらに飛びこみ、膝を合わせようとしてくるのがわかり、それを避けようとするが無理と判断。それまで道着を持っていた手を放し、両手で持って受け、後ろに飛ぶ。おかげで俺と相手の間が離れてしまったものの、ダメージは若干手がしびれが残るのみで凌ぐことができた。

 相手を見ながらもどのように攻めていくかを考えていく。すると、今度は相手の方から攻めてきた。

踏み込みからの左右の拳打。それをガードし、反撃に出ようとしたところで、腕で見えない角度から足が飛んでくる。それをどうにか防ぐが、体が軽いため再度距離を離されてしまい反撃を行えない。

 

 

 

 それから幾度かこぶしを交えていくが、距離を詰め切ることができず、またリーチの差もあって一方的にダメージを負ってしまうことになった。

 一応、五分ほど粘れたようだが、最後は天童流戦闘術一の型十二番『閃空瀲灔(せんくうれんえん)』を胸に受けてしまい、吹っ飛ばされ気絶した。

 

 

 

 気絶から目を覚ますと、俺の様子を見ていてくれたのか、一つ年下の少年と手合せの相手であったの井出君がいた。井出君からとは「いい試合だった」と互いの健闘をたたえあい、鍛錬に戻っていくのを見送ると、隣にいた少年がこうした様子で話しかけてきた。

 なんでも彼は現在天童流戦闘術二段で、今日の結果次第では三段に上がれるのではいわれるほどの若手の中のホープだったらしい。その彼相手に5分以上粘り、最後は技まで出せさせたのはすごいということであった。

 興奮しているからか、一方的に話しかけてくる少年を落ち着かせると、互いに自己紹介をすることにした。

 

「まぁ、今日渡辺師範代に紹介されたから知っていると思うけど、里見蓮太郎です。この春で小学校5年になった。よろしくな!」

 

「僕は薙沢彰磨といいます。年は一つ下の小学4年生です」

 

 驚いたことにこの少年が未来の天童流戦闘術八段だというから驚いた。

 とはいえ、そんなことを彼が知るわけでもないので握手をし、互いにこれまで見てきた手合せや戦闘術の技、鍛錬について語り合った。そうしているうちに互いの呼び方が「彰磨」、「蓮太郎」となったのは年が近いゆえだろう。

 

 

 そうしているうちに手合せもすべて終わったようで、助喜与師範から今日の総評があり、道場内の片づけをして解散という運びになった。

 

 が、そこで渡辺師範代から俺の扱いについて説明がなされてしまった。

 

「最後に蓮太郎に関してだが、この道場にはいつも来るわけではない。彼は天童家に居候させてもらっているとのことで、基本的には助喜与師範から直接ご指導されている。そのためこちらには週に二度程度手合せに来るという認識でいてくれ。それと、居候の件に関してはご家族の都合ということもあるのでむやみに詮索しないように」

 

 そう、渡辺師範代が話した後、解散となったが話を聞いた門下生たちは助喜与師範から直接指導されているということに嫉妬半分、興味半分といった感じの視線をこちらに向けてきて気が休まらなくなってしまった。

 唯一、彰磨だけは憧れの目を向けてくるだけであったのが救いだが。

 

 片づけをしながら、この後の流れを彰磨に聞くと、昇段の有無に関しては解散後に離れから道場に呼び出すことになっているらしい。

 

 片づけを終え、離れで休んでいると、俺を含め門下生の半数ほどが道場に呼ばれた。

 そして、俺は天童流戦闘術の初段をいただいた。

 評価としては「上位者と相対しながらも自身の不足していることを的確にとらえ、それを踏まえた戦い方を行っていた。しかしながら自分の実力に対しての認識が少々不足している」とのことであった。

 まぁこれまで助喜与師範以外とは手合せとしていなく、対人戦の経験が不足していることは自分でも理解していたことであるので、それを客観的に指摘されたということだろう。

 他にも昇段についての評価が進んでいき、戦った井出君も無事三段に昇段できたようである。

 

 段位の授与も終わった後、彰磨と次に道場に来た時に手合せをしようと約束をして俺は道場から天童の屋敷へと戻っていった。

 




 このお話で彰磨が出てきます。
 年齢や時系列は完全にこちらでの独自解釈になりますので、申し訳ありませんがご理解のほどよろしくお願いします。

 また、初の戦闘シーンも入りました。
 描写がわかりづらい、読みにくいなどあるかもしれませんが初の事ですので大目に見てください(笑)

 前話で募集した兵器、武器に関するアンケートは現在も募集中です。ありましたら活動報告の方にお寄せください。

 最後にこれまで投稿した第一話から第六話までの一部を修正いたしました。

 読んでいただきありがとうございました。
 感想をお待ちしております。

 7/24 修正

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