ブラック・ブレット 救いを求める者   作:桐ケ谷なつめ

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第4話 10歳 救済に向けて

 試作A・Tの試走からから4カ月がたった。

 毎週末は菫の研究室に泊まり込みでA・Tを動かすことが多くなり、データの収集とともに菫や助喜与師範の走行練習も行うようになった。

 菫は普段あまり運動していないためなかなかコツを掴むことができず、WallrideやAirの練習よりもRanを中心に行い、体重移動やスピードへの耐性付けが基本であった。

 助喜与師範は天童流師範だけあり、Ranにはすぐに慣れ、WallrideやAirの練習が中心になっている。また、最近では走行中に天童流の型を行うなどしてどのように天童流に取り入れていくかの思案もしているようであった。

 これらの走行データがそろったことで、突発的事態における機能の不備や不具合がみつかり、その改修が頻繁に行われることになった。また、基本パーツの耐久試験などにも終わりが見え始め、改良に向けて菫とも意見交換が頻繁に行われるようになった。

 A・Tの研究が進む中、菫がとうとう核心を突くことを聞いてきた。

 試走からほとんど戸惑いなく走れていたことに対して疑問を思っていたところに、先日の俺と師範の会話をデータの整理をしながら聞いていたらしく、それを指摘してきたのだ。

 俺は助喜与師範と同様の話をした。自分の境遇や知識の一部について話を聞く中で、菫はそれだけの境遇にあり、世界に大きな影響を与えられる知識を与えられながらそれを自分のためではない事に「やはり君は天才だよ」と評価してきた。また、数年後に起こる「ガストレア」大戦についても話をし、その中で自分の目的と対応について話をした。

 その中で、ガストレアの生態に興味を記す一方で、その因子を保持して生まれてくる子供たちについてどういった対応をとるかといった話になったが、その時は対策を模索中と言って煙に巻いた。

 

 

 

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 夏休みに入り、長期の休暇を利用して天童の屋敷に1週間ほど泊り込んで稽古に励んだり、木更と遊ぶなどをして過ごす一方で、A・Tの機能向上を目的とした改造を行ったり、ボゥローラー型製造に向けて採集したデータを基に設計の見直し行った。

 菫から近々研究所を開設するという話を聞いた。

 以前俺が提案したことだが、その時にはA・Tの技術を持ち込んでいたため、そのA・Tの研究・開発を行うための設備を急遽増設しようとしため、開設に遅れが出てしまったらしい。

 研究者はすでに家族ごとこちらに呼び込み済みということで、研究所始動は今年の秋になるとのことだ。

 研究内容は基本エネルギー関連の開発とAIなどの開発ということであったが、菫に頼み込んで再生医療やナノマシンの開発も研究所内で行うことにしてもらった。資金の援助先の意向で研究内容が一部決められたしまったこともあってか、菫は乗り気であった。その際、研究費の関係でいくつかの企業への技術提供を含めた資金援助や俺が株をもとにためた資金の一部を研究所に資金援助をすることになった。

 研究所は東京と埼玉の県境に近いところにできる予定だということで原作での外周区にぎりぎり入らないところと聞いて安堵をした。一方でこの研究所で「新人類創造計画」の研究が行われるのではないかと考えている。

 また研究所の資金援助にはいくつかの企業が絡んでいるとのことだ。

 その中では原作の中にも出てきた司馬重工も含まれていた。軍需産業を含めた日本の重工業の一大企業であり、車、飛行機などから銃火器や戦車といった兵器開発をしている関東に本拠を置く企業であった。菫は司馬重工から戦車や航空機などのエネルギー効率の向上と強化外骨格の制御A・Iの開発に行き詰っていたため共同開発を以前から打診されていたらしい。その共同開発を行う条件として研究所への資金提供と研究機材の供与を求めたとのことだった。

 菫からは気軽に来て研究に協力してくれとの事であったが、今後の事を考えるとエアギア技術のいくつかをここで実現させていくことになると思われる。その上で研究所にやってくる研究者に俺のことを認めさせなければならないというのが大きな問題の一つだろう。

 

 

 

 

 

 

 夏休み最後の休日、俺はいつものように天童家に天童流の稽古に天童家へ赴いていた。

 

「木更―……?」

 

 天童家の大きな池のある中庭のほとりで俺は小さなお姫様の姿を探していた。

 

「いったいあの子はどこに隠れたのやら……、やっぱこの屋敷は大きいな。あの小さく元気な子にとっては格好の隠れ場所しかないから見つけるのに時間がかかる」

 

 最初は一緒に人形で遊んでいたのだが、途中で飽きてしまった木更は「かくれんぼするのー」と言って屋敷の中に消えて行ってしまい、現在行方知れずとなっている。すでに30分近く探しているが、屋敷が広いこともありなかなか見つけることができない。3歳児とあなどっていたが、道場に一緒に来て鍛錬の真似事をしていたことを考えるとその体力や足腰の強さは普通の子供以上であると考えているべきであったか……。

 とはいえ、屋敷の中には多くの使用人がいるので彼女に危険はないと思われるが、兄貴分としてはなるべく早く見つけてあげなければと思い屋敷の中を順番に捜している所であった。

 

 

 

「木更はここかな?」

 

 屋敷の中を歩き回っていた時、ふと道場を思い出して訪れてみるとそこには日向ぼっこをしながらすやすやと眠っている木更がいた。

 

「こんなところにいたのか。日当りのいいところとはいえこんなところで寝ていると風邪をひくぞ」

 

 と少々気を使いながらも羽織っていた薄手のシャツを眠っている木更にかけてあげる。

 木更はむずかりながらもそのまま眠っており、その寝顔はかわいらしい顔立ちであるだけに天使を思わせるものであった。

 

 そんな木更の横に座り頭をなで、時折髪を梳いていると屋敷の方から師範が歩いてくるのが目に入った。師範もこちらに気づいたようでゆっくりとした歩調でこちらに向かってきた。

 

「こんなところに居ったのか蓮太郎。主に話があって探しておったのだが……」

 

 歩きながら話しかけてきた師範は俺の横に木更が眠っているのに気付くと話をするのをやめ、俺と同じように木更の横に座り込み、かわいい孫を見るようにほおを緩ませて髪をなで始めた。

 その様子はとてものどかなものであり、俺もその様子を静かに見守っていた。

 

 

 

 しばらくすると日が暮れ始め少々寒くなったので木更を起こさないように抱え、師範と共に屋敷へと戻っていった。

 木更を布団に寝かせると師範は話があるといい師範の私室に向かうことになった。

 

 

 

 互いに畳に向かい合って座ると師範は早速とばかりに話をしてきた。

 

「蓮太郎、以前お主が資金調達をするために株を行いたいと言って居ったので仲介者に口添えをしたがそれはどうなっておる?」

 互いに畳に向かい合って座ると師範は早速とばかりに話をしてきた。

 

「蓮太郎、以前お主が資金調達をするために株を行いたいと言って居ったので仲介者に口添えをしたがそれはどうなっておる?」

 

 約一年前、つまり俺自身の境遇をある程度師範に伝え、その支援をしてもらうことが決まった時、師範にお願いしたことの一つに株取引の口添えがあった。天童家のご老公の口添えということもあり、弱冠9歳という子供の言うとおりに株取引の運用を行ってくれたが、最初の頃は金持ちの道楽のように思われ、自分が指定した企業の株を買うことに否定的な態度であった。しかし、半年もたつ頃には俺が指定した企業の業績が上昇し、大きな利益を得るようになった。それによって俺の取引を道楽ではなく、他の投資家と同様の株取引として扱ってくれるようになった。

 

「最初の半年は相手も信用できるか判断ができなかったようで、なかなかうまく話がつきませんでしたが最近では一人の投資家として見てもらえているようです。それと利益に関しては師範からお借りした投資金の4倍程度の利益が出ました」

 

 そう伝えると師範は驚き、目を見張った。

 

「そこまで増やしたのか……。確かわしがあの時出した初期投資金は50億であったかな。つまりお主は個人資産として200億を持っているわけじゃな」

 

「いえ、師範からお借りした50億はお返しするつもりでしたので、実質150億程度となります。また、一部が税金で引かれたので130億程度ではないかと……。」

 

「しかし、子供がそれほどの金額を持つとなるとよからぬことを考え始めるバカもおるじゃろう……。よし、お主が稼いだそれらの資金は儂が預かっておく。確かこの資金を使って今後に生かすのであろう?」

 

「まぁそうなりますね。この資金をどのように使うのか、その大枠はすでに決めてありますし、菫にも相談済みです」

 

 そういうと師範は頷きながらも計画の詳細を催促してきた。

 

「まず改めて確認しなければならないのが自分の目的はガストレア因子を持って生まれたがために迫害された呪われた子供たちをできる限り助けることです。しかし、世界はガストレアによって支配されてしまうので世界中でそれを実現することはほぼ不可能と言ってもいいです。それでも後にできる東京エリアだけでもできる限り子供たちを保護し助けるというのが目的の一つです」

 

「ふむそうじゃな、自身が望まない力をもって生まれてきた罪のない子供が理由なく虐げられるのは儂も認められるものではない。その目的には賛成じゃ。まぁ、付け加えるなら木更の事もお主に任せられれるといいのじゃが……」

 

「木更についても修羅の道を歩ませようとは思っておりませんので、影から支えていきたいと思っています」

 

 師範はその回答が気に入らなかったのか少々眉をひそめていたが話の続きを促してきた。

 

「話を戻しますが、子供たちを保護するうえで必要になるのはガストレア因子を持つとはいえ“人”であるという社会的な認識を持ってもらうことです。師範にはお話ししましたが、子供たちが悲惨な扱いを受けた背景にはガストレア因子を持つがために捨てられ、十分な教育を受けられたい状況であったため欠如していた“道徳観”。そして、食料などの生活物資の不足による窃盗や殺人などを起こしてしまったことで人々の反感を買ってしまったことが大きな原因と言えるでしょう」

 

 原作での子供たちの社会からの扱いを踏まえたうえで、その問題点を挙げていく。

 蓮太郎は客観的に物事をとらえようとする一方で無責任に子供を捨てていったお八重の憤りを胸の内に抱えていた。

 

「そこで私は大規模な託児所を兼ねた児童保護施設を作り、できる限り捨て子を保護し育てられる環境を整えることが大切だと考えます。また、外周区に子供たちが集まった場合保護し、ある程度力の制御の仕方や社会での生き方を教えられるようにしたいのです。そして食糧不足などに対応できるよう自給自足できる設備を整えることで窃盗などが起きないようにし、社会での子供たちの印象を向上させることが大切だと考えています」

 

「ふむ。大人たちの反感をうまく制御できるならばそれでもいいと思うが、肝心の施設や自給自足するための場所はどうするのだ?」

 

 子供たちを救うための方針を話す蓮太郎の着眼点に感心しながらもその具体的な策を聞いてくる。

 

「その場所を確保するために資金の調達を行っていたのです。私は今年の終わりには土地の買取りを行い、大規模なショッピングモールの建設と偽ってそのための施設を建設したいと考えています。その規模は敷地面積として100,000㎡を確保し、そこに地下10階、地上5階の大規模施設を建設する予定です。とはいえ、地上施設に関しては時期を見て学校に改装できるように建築する予定ですが……」

 

「学校を作るか……それは子供たちの教育のためと捉えていいのだな。しかし、施設を建設するのは良いが、いったいどこにそれほどの施設を建設するというのだ?」

 

「予定としては三鷹か立川近辺に土地を買い、開発を行えればと考えていますが実際可能かどうかは今のところ分かっていません」

 

 そう聞くと師範は腕を組みながら目を閉じて考え込んだ。

 二人の間にしばらくの沈黙が落ち、蓮太郎は改めて自分の考えを認めてもらえるかを静かに待っていた。

 

「ふむ……。分かった。この土地の件に関しては儂から菊之丞に相談し、何とかして見せよう。しかし、地下10階に地上5階の大規模施設となるとその設計などで時間がかかると考えるがそのあたりはどうなっておるのじゃ?」

 

 師範は土地について自身が何とかすると確約した上で、その施設の設計図について問いかけてきた。

 

「それに関してはすでに菫と話を進めています。先ほどの条件をクリアしたうえで、さらにいくつかの研究を行える環境を持たせる必要を考えているので、そのあたりの事をかんがみた設計図を今年中には完成させる予定です」

 

「分かった。ではその設計図は完成次第見せてくれ。儂は一先ず土地の確保のみに注力するとしよう」

 

 互いにやるべきことを確認すると二人は最近の鍛錬についてやA・Tの❘技《Trick》について話し始めた。




この話ではいくつか疑問に思うことやご都合主義な部分がありますがご了承ください。

気になることがありましたら感想のほうに寄せていただければできる限り対応させていただきます。

読んでいただきありがとうございました。
感想をお待ちしております。

 7/22 修正

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