ブラック・ブレット 救いを求める者   作:桐ケ谷なつめ

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ご覧になっていただきありがとうございます。

やっとA・Tが出てきました。
その描写に時間がかから、投稿が遅れてしまい申し訳ありません。


第3話 9歳 試作A・T完成

 菫と邂逅し、A・Tの制作を依頼してからというもの、菫は頻繁に連絡をよこしてきた。

 その連絡の大半が、やれあの教授はこの現象を解明できていない、私の研究をでっちあげだと言って槍玉にあげようとする馬鹿な奴が後を絶たない、企業からの勧誘がいい加減面倒くさいなど10歳児に言うことではない愚痴であった。

 愚痴を聞くのが嫌になりかけた俺は「自分で研究所でも立てればいいだろう」というと、名案だとでもいうように研究の特許料を使って研究所の設立に動き出してしまった。

 それを言ったのが去年の10月ごろであったが、何をどうしたのか今年の10月には研究所を始動できると言い出し、やれ機材はどうした、研究員はいるのかと聞くと、以前から気になっていた研究者を「最先端の研究ができるぞ」と言って全国から引き抜いてきたと聞いたときは眩暈がして、倒れそうになった。

 しかも、そこに追い打ちをかけるように機材は天童家が持つ企業と司馬重工の二つの家から提供してもらったと聞き、頭を抱えることになったしまった。

 まぁ、両家は仲が悪いというか因縁のある家だからお互いに監視に近いことをして技術が悪用されることは少ないと思うがこれはないだろうと思ってしまった。

 

 

 

 _________

 

 

 

 年が明け、4年生に進級しG.Wに入るころ菫から助喜与師範とともに研究室に来るよう連絡があった。

 師範の事はこれまでにも話したことはあったが、菫が何用だろうと考えながらもともに研究室を訪ねることにした。

 

 

 

「菫さん、来たよ」

 

 師範を連れて研究室に入ると部屋の中はいつものように煩雑としていた。研究のための資料や、機器があちこちにある中、見慣れない金属製の箱が部屋の中央にある机に置かれていた。

 

「やぁ、よく来たね蓮くん。そして初めまして天童助喜与さん。お名前は蓮からたびたび伺っていました。私は室戸菫といいます」

 

 机の上に合ったものに気を取られていると、その奥の机から菫が立ち上がりこちらに挨拶をしてきた。

 

「ほぉ、おぬしが天才といわれる室戸君か」

 

「わしも君の事は蓮太郎からよく聞いている。なんでも自分と同等以上の知識を兼ね備え、研究に余念がない人だか。まだ若いのだから青春を謳歌することも大切だと思うがの……」

 

「ご忠告痛み入ります。まぁそちらのほうは蓮くんとおいおい突き詰めていきますから……」

 

 助喜与の忠告に菫は微笑みながら返していたが、俺は内心、何をさせられるのかと戦々恐々としていた。部屋の空気が少し重苦しくなったので、今日呼ばれたわけを聞くことにした。

 

「それで菫さん。何のために師範と一緒に来るよう言ってきたんだい?部屋に入った時に見慣れない箱が置かれていたのを見つけたけど、それについてかい?」

 

「さすがに鋭いね、そのとおり、その中身について呼んだんだ」

 

 そういいながら菫は机に俺たちを案内し、自分は机の対面に立って箱に手をかけた。

 そして、箱に掛けられていたいくつかのロックを解除していく。

 

「さぁ蓮くん、君がご所望の品だ。受け取りたまえ」

 

 菫が開いた箱の中にはエアギアで見たものと同様のノーマルA・Tが新品の状態で入っていた。

 A・Tは3足入っており、それぞれデザインの違いはそれほどなく、シンプルな装飾のものであった。

 手に持ってみると、しっかりとした重みがありながらも、どこか鳥の羽を思わせる軽さが感じられた。

 

「昨年制作を依頼されてから、いくつかの企業にパーツの政策を頼むとともに、君からもらった設計図の中で改良できるところを手直ししたうえでの試作機になる。基本のスペックは君の求めていた物以上になるから、満足のいくものだと思うよ」

 

「ついでに、助喜与氏と私のものも制作しておいた。どうせ練習するなら、同時期に初めて、もろもろの各種データを取ったほうが効率がいいだろうと思ってね」

 

「一応耐久性のチェックなんかも行うことを考えて、それぞれのパーツのスペアは大量に確保してある」

 

 私は話を聞きながら、手に取ったA・Tの感触やホイールの周り具合など、細かなことを確かめた。目の前にアニメや設計図でしか見たことのなかったA.Tがあることが実感でき、今すぐにでも走りたいという気持ちを抑えていた。

 その横で師範はA・Tを眺めながら、これが以前蓮太郎の言っていたものかと腕を組んで菫の話を聞いていた。

 

 

 満足のいくまでA・Tを手に持ち、いじくりまわしているうちに時間が経っていたようで菫と師範は共椅子に座って飲み物を飲んでいた。

 

「ありがとうございます、菫さん。試作機の段階からこれだけの完成度のものを見せられるとは思っていませんでした。それに、完成には1年ほどかかるはずではなかったですか?」

 

 と去年菫の言っていたことを思い返しながら言うと、菫は頬を赤くして顔をそらしながら

「5月5日は君の誕生日だろう、それよりも早く完成させて驚かせたかったんだ」

とこちらが嬉しくも恥ずかしい理由を言ってきた。

 部屋の中に何とも言えない空気が漂う中、助喜与師範が話を切り出した。

 

「ふむ、ではこれはもう使うことはできるわけだな?」

 

 その言葉に元の雰囲気に戻るとこができた俺たちは改めて、どこで走行するのかなどの話を始めた。

 その話し合いの結果、まずは俺がA・Tの走行テストや機能の確認を行い、その中で基本動作やTrickの確認をするということで話がまとまり、大学の中にある体育館の一つを貸し切り、行うことになった。

 

 

 

 _________

 

 

 

 走行テストを行う体育館の中、地上階、アリーナ、天井など様々な角度から観測が行えるよう数十個の定点カメラが設置されている。そんな体育館の中央に蓮太郎が試作A・Tを履いて一人たたずんでいた。

 

「さて、計測の準備ができたよ蓮くん。そろそろ走行テストを始めてもらおうかな」

 

 体育館のステージに特設された機械ブースに菫と助喜与はおり、周りにはいくつかのモニターが設置され、カメラの視点や速度メーター、採取されたA・Tの各種データを見るための画面が記されていた。

 

「わかりました。今回の走行テストでは基本的に一般の走行(Run)と壁のぼり(Wallride)、あと簡単なエア(Air)を行った際の衝撃と負荷データの採集でいいんですよね?」

 

「うん、それでいいよ、じゃあ君のタイミングで始めてくれ」

 

 そういわれると蓮太郎はゆっくりと体育館の中を走り始めた。

 助喜与や菫にA・Tの扱い方を教えるためか基本であるウォークから始まり、通常のRun、急加速、急停止などの基本動作を行いながら体育館を周回していく。

 そして、30分もたつと試作A・Tの耐久度や癖がわかってきたのか、Wallraideに移り始めた。

 体育館の広大な壁を渦巻のように斜めに昇っていき、アリーナまで来ると今度はそれに沿うように同じ場所を回り始める。

 

 この時、あまりに簡単そうに蓮太郎が壁を登っていくことにその様子を見ていた菫と助喜与は話を聞いていたにもかかわらず、驚きのあまり固まってしまっていた。

 

 

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 本来であれば壁走りなどは難しいとされるものである。

 重力に引かれ落ちてしまうこともそうであるが、壁をける際に前方に向かおうとする力と壁を押す力の両方が体にかかるためよほどのスピードが出ない限りは数歩も走れればいいほうであった。

 しかし蓮太郎は壁走りを始めてから10分が経とうとしているにもかかわらずまったくバランスを崩さず同じライン上を走り続けていたのである。

 

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 これを見て菫は体の中から湧き上がってくる歓喜の衝動を抑えられなくなっていた。

 

「(いったいこれは何だ?こんなことが本当に可能なのか?いや現実に目の前でそれが行われている。これを否定はできない。しかしなんだ、これまで出来ないとされていたことをこうも簡単にされてしまうと笑うことしかできないんだな……)」

 

 一方の助喜与は蓮太郎の体の動きを見て、これまで行ってきた天童流の基本的な身体運用が有効であることを確信していた。そして自分の中に久しく感じていなかった好奇心を募らせていた。

 

「(あれだけのスピードであそこまで細かい立体起動が行えるのであれば、天童流の各流派の威力を底上げすることが可能だろう。……しかし、蓮太郎の申しておったことが本当に起きる未来だとすれば、今これを取り入れることは天童家にとって悪影響だろうな……。とりあえず、わしと蓮太郎の二人で技の研究を行い、われらの認めたもののみに伝授するというほうがいいかもしれんな……)」

 

 とA・Tと天童流に取り入れる場合の方向性とその危険性について考えていた。

 

 そして、Wallrideを終え、Airに移り始めた蓮太郎は1mから4mクラスのジャンプを複数回にわたって行いながら、その走行性の高さに興奮していた。

 

「(これまで思い浮かべていた軌道を簡単にとることができる。試作機の段階ではこのレベルでのTrickは厳しいと考えていたが、良い意味で裏切られたな。あの設計図からこれほどの機能向上を行えるとはさすが菫だ……)」

 

 

 

 それからも30分ほど走り続け、菫から十分なデータが取れたと声をかけられて初めて足を止めた。

 足を止めて思い出したかのように蓮太郎は汗をかきはじめ、ステージに置かれていた水筒を取ると浴びるように飲み始めた。

 そんな蓮太郎をねぎらうかのように助喜与はタオルを渡し、その様子から体力の消費度を測っているようであった。

 

 一方で、菫はモニターの前を離れることはなく、黙々と得られたデータの解析を始めていた。

 

 

 そうして各々が自分のやるべきことを終えたころ、一度研究室に戻ることになった。

 研究室に戻ると菫は脱がれたばかりのA・Tの各パーツの消耗度を調べ始めた。

 

 蓮太郎と助喜与は互いに走行中の印象を教えあい、意見交換をしていた。

 

「蓮太郎、あれは予想以上にすさまじいものだな。もしあれが世界に広まれば世界中で大きな戦いが起きかねないぞ」

 

「そうですね、実際以前話した私の前世で描かれていた漫画では軍事利用が行われ、常人では足り打ちできないものが描写されていましたからね……。これを一体どの限度まで開示するかは慎重に行く必要があると思っています」

 

「うむ、そうだの。わしも今後A・Tを練習し、天童流に取り入れていこうと思うが、それを道場内で伝授するかはおぬしと協議してからにしようと考えておる。あれを悪用せぬ気概を持つやつでなければ行き過ぎた力がそやつ自信を締め殺すだろうしな……」

 

 互いにA.Tの有用性と危険性について見解を同じくした。

 

 

「ところで、彼女にはおぬしの事をすべて明かしたのか?」

 

 それまでの話をやめ、助喜与は蓮太郎が抱えるものを菫に明かしているのかを確認してきた。

 

「いいえ、まだしていません。しかし、今回の事で彼女もなにがしか感づいている部分があるとは思っていますので、近いうちに自分から打ち明けたいと考えています」

 

 と真剣な面持ちで語る蓮太郎に助喜与は「お主に任せよう」というと改めてA・Tについて話し始めた。




読んでいただきありがとうございました。
感想をお待ちしております。

 7/22 修正

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