摂津物語   作:pzg

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注意書きを確認したうえで読んでください。
好みの分かれる内容になっています。


摂津物語 後編

演習海域に進入した敵は、鎮守府の警戒任務に艦隊を出す当番になっていたとある提督が、間違えてボーキサイト輸送任務に艦隊を出撃させてしまったのが原因だったらしい。

つまり、ヒューマンエラーであり、またいつ起きてもおかしくない事件でした。

 

困りました。

これって、演習を続けている限り、またこんな事態になってしまうかもしれないということですよ。

しかも、正直に言って演習時に夜戦をするのが怖くなりましたよ。

でも、解体されないためには、朝も昼も夜も演習する必要があるわけです。

 

そこで、聡明?な私は思いついたのですよ!

私が武装して、実弾をいつも持ち歩いていればいいんじゃないかと!

ということで、青葉さんの「龍驤さんに愛の告白をされたそうですが、一言お願いします」という意味不明の追跡を華麗にかわし、名取さんの部屋に来ました。

 

「それ、貸してください」

 

「ふえぇ!?」

 

名取さんの手には、機関銃のような武器があります。

他の艦むす武装はとても使えなさそうですが、こいつは簡単な訓練で使えそうな気がします。

名取さんを半ば強引に連れて行って、演習海域へ向かいます。

さて、適当にぶっ放してみましょうか!!

 

 

あれ?

 

弾が出ない?

 

「あ、あの…摂津さんは、非武装だから、武器は絶対に使えないと思います…」

 

私の野望は初日から脆くも崩れ去った。

 

 

 

 

でもこれで諦める私ではありません。

何か良い方法が絶対にあるはずと信じ、鎮守府中探し回った結果…ありましたよ!

 

 

改造です!

 

艦むすは、経験を積むと霊力が増え九十九神としての格が上がり、改造できるようになるそうです。

そして中には、別の艦種になったり、武器の搭載数が増えたりするのもあるそうです!

 

早速、困ったときの妖精さんということで、可能かどうか聞いてみました!

 

「フツウノカンムスノヨウニハ、イカナイデアリマス!」

 

なんだと。

 

色々と聞いてみた結果、改造というのは史実で改造されたようにしかなれないとのこと。

そして、摂津は戦艦から標的艦になったものの、標的艦から更に改造なんてされていないとか。

 

なんてこった。

 

ということで、諦めるところですが、私はここであることに気がついたのでした。

扶桑さんは「航空戦艦扶桑」という空を飛んでしまう戦艦です。

私の乏しい知識でも、太平洋戦争に空飛ぶ戦艦なんて無かった筈です。

 

これはきっと何か方法があります!

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精さんに「コノマエノタタカイデコウイショウガ!?」「キットヒロウガタマッテイルンデアリマス!」「ハヤクヤスムベキデアリマス!」って感じで本気で心配されました。

そしてたまたま通りかかった龍驤ちゃんにもギャグだと思われて「そんなわけあるかい!」って華麗に突っ込みを入れられました。

航空戦艦って飛行機を積んだ戦艦のことだったんですね、知らなかったよ…

 

 

とんでもない恥をかくところでしたが、おかげで扶桑さんには史実では実現しなかった、つまり実在しなかった改造がされていることが分かりました。

そしてそこから、実在しなかった改造を行う方法が見えてきました。

 

1.艦むすと改造を実行妖精さんが、改造後の艦むすとしての姿と、艦艇としての改造後のイメージをしっかりと持つこと。

2.艦艇としての改造後の姿は、技術的に無理が無いこと。

3.艦むすが十分な霊力と持つこと。

4.資源もたっぷりあること。

 

私の妖精さん達と、アドバイザーで来てくれた工廠の妖精さん達、そして龍驤ちゃんの情報を統合するとこんなところらしい。

そしてこの中で3番については十分らしい。

演習を繰り返してきた成果が上がっているとか。

でも問題は残りの三つでした。

 

蒔絵提督は霊力が少ないため、私を呼び出す(建造)時も通常の100倍近くの資源が必要なだったので、改造でも同じぐらい必要になる可能性があるらしい。

そして厄介なことに、蒔絵提督は艦むすが私一人しかいないため遠征などが行えず、資源供給を配給のみに頼っており、その配給も私を呼び出す時にもらった資源を返すためにイケメンに提供しているという状況なのです。

この状態で資源を手配する方法を考えるため、まず蒔絵提督に電話をしました。

 

「蒔絵提督」

 

『やっと電話かけてきたわね』

 

 

「改造で相談がある、割烹鳳翔で龍驤と食事をしながら相談しているから、蒔絵提督も来て」

 

『………』

 

「蒔絵提督?」

 

『ごめん今忙しいの!』

 

ピッ!ツーツー…

 

蒔絵提督は忙しいみたいです。

仕方が無い、こうなったら私が考えた案。

イケメンから借りるという案しかないですね。

 

「摂津どうするんや」

 

「私にいい考えがある」

 

「ほんま!?」

 

ということで、1番と2番の問題も大切ですが、まずはイケメンの所にGOです。

 

 

 

 

 

「ここからは私一人でいい」

 

「いい考えがどんなのか知らないけど、分かったで、がんばりや!」

 

龍驤ちゃんを廊下に置いて、イケメンの提督室に入ります。

 

提督室には、扶桑姉妹と、金剛四姉妹がいました。

扶桑さんは言わずも知れた秘書艦。

金剛さんは私の歓迎会は出撃中でいませんでした、扶桑さん達と双璧をなす主力の一人です。

そんな二人が提督室にいること事態はおかしくないが、二人とも何やってんだ?

金剛さんはイケメンにベッタリとくっ付きながら紅茶飲んでるし、扶桑さんもその反対側でイケメンピタッとくっ付いています。

そして、金剛さんの妹達はスコーンとか食べながら、何やらはやし立ててるし、最近仲間になった山城さんは、ハンカチを噛みながらイケメンを睨んでいます。

なるほど、リア充死ねという状況ですね、分かります。

でも今の私はそれどころではありません!

 

なんといっても、命がかかっていますからね!

さあ、超緊張するけど、気合入れて行きます!!!

 

「春人提督、お願いがあります」

 

「藪から棒にどうした?」

 

「私の改造のため資源を融通してほしい」

 

用意した資源の見積もりをイケメンに渡します。

 

「OH!大型建造並ね!」

 

「…助けてやりたいが、流石にこの量は…」

 

ですよね、確かに簡単に貰える量ではないのは分かっています。

 

「もちろんただではない」

 

「何だ?まさかお金でも用意したのか?」

 

 

 

「春人、私を自由にしていい」

 

だから、私を自由に使って演習し放題という特典をつけます!

蒔絵提督を通して私と演習を組むより遥かに沢山演習を組めるという素晴らしい特典です!!

おっと、いつも脳内でイケメンと呼び捨てにしていたので、提督と付け忘れてしまいました。

でもまあいいか。

 

「へぇあ?」

 

パリン!

 

カタカタカタ…

 

 

 

「昔、私が欲しいって言ってた」

 

最初の歓迎会の時に、言ってましたよね、標的艦である私が欲しいって。

金剛さんがティーカップを落としたり、扶桑さんが小刻みに震えていたりしているのが少し気になりますが、今は大事な時なので無視して話を進めます。

 

「夜戦…怖いけど、春人が望むなら何回でもしてあげる」

 

今度は、夜戦…嫌な予感がするわって扶桑さんが叫びましたが、とりあえずそれも無視です。

イケメンが半端無いぐらい迷っていますからね!

さあ、あと一押しです!

 

「なんなら、今から試す?」

 

「た、試すって?」

 

「や・せ・ん」

 

聞き直されたので、はっきりゆっくりと答えてあげました。

さあさあ!

私を実際に指揮してくれたまえ!

そして私の素晴らしさを実感してくれたまえ!

何なら、お試しの演習に龍驤ちゃんをセットでつけてもいいですよ!

 

 

「NOOOOOOO!」

「駄目よ!」

 

 

「あかん!あかんで!!」

「摂津!!自分の体を大切にしなさい!!」

 

金剛さんに扶桑さんに龍驤ちゃんに蒔絵提督!?

 

「提督の一番は私のものネ!」

「金剛には、負けたくないの!」

 

「こんなの絶対にゆるさへんで!」

「摂津、正座!正座しなさい!!」

 

なんで私怒られてるの!?

なんやこれーー!?

 

 

-----------

 

 

どうしてこんなことをしたんだと怒られたので「改造のために、どうしても資源が欲しかった。蒔絵提督が忙しいみたいだから、自分で何とかしようとした」と正直に言いました。

すると、蒔絵提督は一変して今度は「ごめんね、本当にごめんね」と謝られてしまいました。

 

何が何やら分かりませんが、蒔絵提督は凄く心配してくれたみたいなので、私も「勝手なことして、ごめんなさい」と言いました。

もちろん、龍驤ちゃんにも謝りました。

「うちのこと好きやって言うたのに…」と怒っていましたが…

「何でもするから許して」と言ったら「女の子が何でもとか簡単に言うたらあかん!」と言いながらも許してくれました。

因みにイケメンは「NTRは趣味じゃないからな、本当に好きになったらいつでも歓迎する」と訳の分からないことを言っていたので無視しました。

 

それで資源の件ですが、結局蒔絵提督が大本営と掛け合って取り寄せてくれることになりました。

改造による演習での効率アップと、それに伴う戦力アップの予想。

前例の無い大規模改造を行うことの実験的意義。

そして卒業した士官学校の校長を使った伝手を使ったそうで、聞くからに大変そうでした。

 

とにかく、資源の問題がクリアできました。

こうなると後はいかにイメージと技術の問題なのですが、ここでイケメンから参考になる話が聞けました。

扶桑さんの改造時の詳細な話が聞けたのです。

航空戦艦伊勢の設計図を元に航空戦艦扶桑の設計図を引き、それを元に妖精さんが改造案をつくり、後は扶桑さんの「伊勢、日向には負けたくないの!」という気持ち(気合)で改造後の姿をイメージしてどうにかしたそうです。

つまり、設計図とイメージトレーニングが重要だということです。

 

ということで、それから徹夜続きのデスゲームになりました。

私のような船を戦えるように改造した事例はないため、扶桑さんとは違い、一から図面を引くことになったのですよ。

だから…

 

私、蒔絵提督、龍驤ちゃん、妖精さん達で設計のコンセプトをまとめる。

それを元に海軍技術研究本部の設計局の人達に図面を引いてもらう。

その図面を建造に関わる妖精さん達に見せて、色々と艦むす的に難しいところを指摘してもらう。

設計を修正するために最初に戻る。

 

ということを繰り替えしています。

私の霊力と改造内容とかに色々と相関関係があるらしく、中々うまくいきません。

 

まあ、私達がちょっと無茶し過ぎってのもあると思う。

蒔絵提督が私に46cm砲を積めと言い出したら、龍驤ちゃんは100㎜厚の装甲を張った飛行甲板を装備した軽空母にしろと反論し、私は島風ちゃんみたいに速度を上げてくれと言う。

そしてそれを聞いていた妖精さん達が「ムチャデアリマス!」と止めるようなことが何度もありました。

 

 

結局…

私というより、蒔絵提督と龍驤ちゃんの意見が何度も何度もぶつかり会いました。

一時はどうしようかとハラハラするぐらいの感情的な激突でしたが、ある日を境に急に感情的な激突は無くなり、むしろ仲が良くなっていました。

二人とも意見が激突し始めると、私の見えないところに行くので何があったのか分かりませんが、結果よければ全て良しなのです。

結局、蒔絵提督の戦艦案を基本にして設計を固める方向で落ち着きました。

 

「うちとお揃いがよかったわー」

 

龍驤ちゃんが残念がっていましたが、龍驤ちゃんの手を取って「私の龍驤への気持ちは揺るがない」と、こんなことで友達関係は揺るがないとフォローしておきました。

なかなか上手いフォローだと思ったのですが、龍驤ちゃんが「摂津は友達、友達なんやー!?」と狼狽しながら顔を背けたり、蒔絵提督がちょっと不機嫌になってしまいました。

また何か失敗したようです。

 

そんなこんなで、私の設計図は…

 

船体中央部を切断し、60m船体を追加。

同時に石炭式の機関を、ロ号艦本式重油専焼水管缶8基16万馬力へ。

そして機関配置も、集中配置からシフト配置になり、煙突も二本に。

艦首は総とっかえで、クリッパー型からバルバス・バウ型へ変更し更に20m船体を延長。

バルジを追加し、全幅が28mに増大。

前部艦橋は、大和型を小型にしたようなものを設置。

 

武装は35.6cm連装砲を前部2基、後部2基の合計4基。

15.5cm三連装砲を前部1基、後部1基の合計2基。

12.7cm連装高角砲を片舷中央に6基、合計12基。

25mm3連装機銃、40基

61cm四連装魚雷発射管、2基

21号電探、1基

22号電探、2基

13号電探、2基

 

水上機 6機

カタパルト 2基

 

基準排水量32540トン

最大速力32.1ノット

平均航側装甲圧200mm(傾斜)

最大航側装甲圧305mm(傾斜)

最大甲板装甲圧100mm

集中防御方式

 

といった感じになりました。

金剛さん級の高速戦艦といった感じの設計で、カタログスペックだけを見るとなかなかしっかりとした戦艦です。

実態は、残念ながら船体追加等という無茶な改造をした上に標的艦としての機能を残しているので、戦艦としては最低レベルの性能しかありません。

例えば装甲板の質が低い場所があるので、カタログスペックより防御力が低かったり、艦首取り替えて機関も大和型以上の出力なのに、バルジやら水線下の構造が悪くて速度が出なかったり、機銃に爆風避盾ではなく演習に耐えられるよう対爆構造にしたせいで旋回速度が落ちたりしています。

しかも、排水量が1.5倍になるという前代未聞規模の改造なうえに蒔絵提督の霊力不足が重なって、必要資源は4桁を越えて5桁というありえない事態に。

長門さん曰く「ここまで非効率な改造をする提督は始めてみた。愛の力だな」とのこと。

愛の力云々は分かりませんが、非効率なのは認めます。

ですが、先日のような演習時のトラブルに対応するにはこれしかないのですよ!

 

さて、設計が固まった後は、まあまあ順調に進展しました。

蒔絵提督の提督室でペンギンのぬいぐるみを大量に発見したので「ぬいぐるみ可愛いですね」と褒めたら突然キレられた事件や、『摂津が龍驤と熱愛発覚か』『春人提督、全艦むすケッコンカッコカリ計画崩壊!?』というとんでもないデタラメ記事が掲示板に貼られているのに気がついて、青葉さんを追いかけるという多少のトラブルはありましたけどね。

因みに改造後の艦むすの姿をいかにイメージするかについては、夕張さんが絵が上手だと聞いたので、イメージトレーニング用として改造後の艦むすとしての私の姿を描いてもらいました。

最初は渋っていましたが、私と龍驤ちゃんと蒔絵提督をモデルにした漫画を書くことを許可することを交換条件に引き受けてくれました。

私をモデルにした漫画とか意味があるのかと思いましたが、冬のイベントがどうとかで喜んでくれたので良かったです。

夕張さんの書いてくれた絵は、魔法少女姿だったり、どう見ても艤装に『搭乗』している姿だったりと変なものが混ざっていましたが、大半は素晴らしい出来でした。

 

そんなこんなで設計が終わって一ヵ月ほどで全ての準備が整いました。

 

 

 

そしてついに、改造の時です!!

 

蒔絵提督、イケメン、龍驤ちゃん、夕張さん、扶桑さん、金剛さん、妖精さん達と、島風ちゃんや夕立ちゃんや長門さんや天龍さんなど、その他大勢の野次馬が集まってきました。

なんでこんなにいっぱい野次馬がいるのかと思って金剛さんに聞いたところ、他は知らないが金剛さんについては、私は要注意人物らしいのでどれほど戦力が上がるか確認しに来たとのこと。

どういうことなの…

 

どうして私が要注意人物なのか、どうして私の胸をガン見しながらそういうことを言ったのか分からないまま、私の改造が始まりました。

霊力が私の体を嵐のように駆け巡っていきます。

そして私は、私をイメージします。

今より強くなった私を…

 

 

 

いける!

 

 

 

体が光り、そして…

 

 

 

 

 

世界が少し変わって見えます

そう、視線が高くなっていたのですよ!

 

これは、成功っぽいです!

背が高くなっているだけではなく、私のペッタンコだった胸に、小さいですが二つの丘が!!

 

「ななな!!

 なんやてーーーーー!?

 この裏切り者ーーーー!!」

 

龍驤ちゃんごめんね?

私、一足先に大人になっちゃったみたい。

実は改造の規模から考えて、夕張さんの絵がツルペタであっても、強制的に成長してしまうだろうと予想されていたのですよ。

残酷な話なので、龍驤ちゃんには最後まで伝えられませんでしたけど。

 

「こんなの、こんなの認めへんでーー!!」

 

残念ですが、龍驤ちゃんが認めなくても現実は何もかわらないのです。

この胸間違いなくここに、存在するのです!

認めなくちゃ、現実を!

 

「これは夢なんやーーー!!」

 

あの!

龍驤ちゃん?両手をワキワキとしながらどうするのですか!?

まさか、それで私の胸を抓ろうと考えないですよね!?

おかしいですよねそれ!

普通、自分の頬を抓りますよね!

 

あ、ちょっと、やめてーーーーー!?

 

 

 

カンッ!

 

「あいたたーーー!?」

 

 

かん?

 

「指が指がーーー!?」

 

 

何だ、龍驤ちゃんが指を捻挫しただと!?

いったい私の胸に何が?

 

この滑らかで、冷たくて、硬い感覚は…

 

 

ぶ、ブラジャーだ!!

私、鋼鉄製のブラジャーしてますよ!!

 

なにこれ…どうなってるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、私自身は何も成長していませんでした!

え、ブラジャーの中?

空気が詰まってましたよ!!

じゃあ、身長が伸びたのはどうしたのかって?

靴が上げ底になっていたのですよ!

 

つまり艤装が立派になって、成長したかのように見えているだけでした。。

妖精さん曰く、無理に改造したのが見事に表現されているとか…

 

現実はままなりません。

でも、何はともあれ、これで私の平穏な日々が戻ってきましたよ。

 

 

----------

 

 

私の目の前には、極秘と書かれた書類が置かれていた。

これでやっと摂津の願いを叶えてあげられると私は思った。

 

あの始めての実戦は、ここ三ヶ月続いた日々を大きく変えた。

私と摂津の関係は大きく前進し、そして摂津は…

 

自らを再武装しようと動き始めたのである。

きっと摂津は、不甲斐ない戦いをしてしまった自分に対し、怒っているのだろう。

摂津はいつも通り何も語らないが、摂津の提督である私にはすぐに分かった。

 

でもここで事件が起きた。

私の所に相談に来るだろうと高をくくっていたのに、いつまで経っても摂津は姿を現さない。

おかしいと思ったとき、電話が鳴った。

電話は摂津からで、摂津は龍驤と割烹鳳翔で昼食を取りながら相談しているので、来てくれないかという内容だった。

私は適当な嘘をついて電話を切ってしまった。

 

摂津と龍驤が二人で仲良く昼食を取っている姿をイメージするだけで嫌な気分になり、摂津の元へ行く気力を失ってしまったからだ。

 

北上と大井に代表されるように、人ならざる存在である艦むすは艦むす同士でそういう関係になることが多い。

そして、うやむやになってしまったとはいえ、摂津は龍驤に好きだと言い、青葉の発行するコミュニティ紙でも話題になっていた。

 

だから摂津が心を寄せている龍驤に相談することはおかしいことではない。

そう自分に言い聞かせるが、自分自身納得しなかった。

 

どうして自分ではなく龍驤なのかと。

 

私はまるで檻の中の動物のように、提督室の中を何分もウロウロと歩き続けた。

そして鳳翔さんから「二人はもう店を出たけど、いいの?」という電話が入った後、やっとのことで私は摂津に会いに行く決心がついた。

私は走って摂津を探した。

そして兄の提督室の前でドアの隙間から中を覗いている龍驤の姿をついに見つけることができた。

 

「龍驤、摂津はどこ?」

 

「摂津は今から大事な交渉やから、邪魔せんといてな、ええな?」

 

こっちが誰なのか確認しようともせず、答える龍驤に一瞬憮然とするが、好奇心に負けて私も部屋の中を覗いた。

摂津が兄と交渉する理由は大体予想の通りだった。

 

でもこんな展開は予想すらしていなかった。

兄が摂津を女として欲しいと言っていたことを逆手に取った取引。

取引材料は摂津の体。

いつもの無表情な顔と声でありながら、隠語を使い兄を巧みに誘惑する摂津。

あまりの状況に、兄を愛して止まない金剛と扶桑も固まり動けない。

 

 

こんなの、これ以上見たくない!

 

私が飛び出したのは、龍驤と同じタイミングだった。

 

怒れる私と龍驤に摂津は「改造のために、どうしても資源が欲しかった。蒔絵提督が忙しいみたいだから、自分で何とかしようとした」と語った。

それを聴いた瞬間、私は自分で自分を叱りたくなった。

二人三脚で栄光を掴みたいと思っていたのに私は…龍驤のことで摂津の求めを退けて、摂津に自分を売るという暴挙をさせてしまった。

提督失格である。

 

だから私は、その後資源を集めに奔走し、摂津の改造案を夜遅くまで考え続けた。

摂津の改造案で、龍驤とは何度も何度も激突した。

 

「摂津を装甲軽空母に改造ですって!!

 何考えてるのよ!」

 

「そっちこそ、46cm三連装砲を四つも積むなんて無茶苦茶や!」

 

「何よ、提督と艦むすの関係に口出しする気?

 まさか恋人気取りになっているんじゃないでしょうね?」

 

「そ、そんなんちゃうわ!摂津は友達や!

 そっちこそ、提督というよりまるで姑みたいやわ!」

 

最初は彼女と意見が合わない度に感情的になったけど…

 

「水偵6機、これだけは譲れへん」

 

「また航空機なの!?いい加減にしなさい!」

 

「ちゃう!単独行動が多くなる摂津は、偵察能力を上げへんと生き残れないんや!!」

 

「確かに…」

 

「えっ……」

 

「何よ?どうしたのよ?」

 

「素直に意見聞いてくれるなんて、意外というか、少しあんたのこと誤解していたかも…」

 

「…私もあなたのこと誤解していたかも。

 ちゃんと摂津のこと考えた提案してくれていたのね。

 てっきり私への対抗心ばっかりだと…」

 

「あたりまえや!

 関西人はいい加減に見えるけど、友達のためなら必死になるんや!」

 

「そうなんだ…友達のためね…ふふふふ…」

 

「あの~ここ笑うとこ違うんやけど…」

 

激突していくうちに私も彼女も摂津のことが本当に好きだから激突するのだと、お互いに分かり会う事ができた。

今は友達というより、いいライバルなのだと思う。

 

そして、鎮守府のみんなに暖かく見守られながら執り行われた、前代未聞の改造は成功に終わった。

艤装は立派になったが、摂津本人がまったく成長しなかったのは意外だったが、とにもかくにも改造は大成功だった。

 

標的戦艦

耐久 56

火力 62

装甲 48

雷装 16

回避 40

対空 52

搭載  6

対潜 0

速力 高速

索敵 44

射程 長

運 20

 

改造後の摂津のカタログスペックとして妖精達から示された数値は、一部に高いものがあるものの、お世辞にも高性能な戦艦とは言えないものだった。

しかしこれは、あくまで初期値。

これに武装と、摂津の霊力(レベル)と経験が補正され、更に錬りに錬った作戦があれば十分にいけると私は確信した。

 

摂津と私が二人三脚で栄光を掴み、摂津の夢も叶えることができる。

これから私が始めようとしていることは、そんな完璧で、欲張りで、全ての始まりとなる計画なのだ。

 

私はコンコンというノックに「摂津入っていいわよ」と答えると、『極秘 蒔絵艦隊作戦要項』と書かれた書類を手に取り、最高の笑顔を作った。

 

 

----------

 

 

蒔絵提督に呼ばれましたが、凄く笑顔です。

まさか、間宮さんのアイスでも手に入ったのでしょうか?

最近、演習も板についた上に、武装も手に入ったのでアイスを楽しめる程の心の余裕ができたのですよー。

 

「南方で大きな作戦が行われているのを知っているわよね?」

 

ああ知ってますよ。

なんか姫とか言う敵が出たとか、撃沈された艦むすが出ているとか大変なことになっている奴ですねー。

怖い話ですから、臆病者の私としては身の安全のためにしっかりと調べていますよ!

まあ、万年演習しかしない私には関係ないのですけどね!

 

「ふふ、やっぱり知っているのね。

 それなら話が早いわ!

 

 

 

 我が蒔絵第一艦隊は、通称E海域に向けて出撃します!」

 

へー…

うちって一人なのに艦隊なんだ…

 

 

って、何ですとおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、後に伝説となる蒔絵提督と摂津の戦いが始まったのだった。

摂津は、姫級と戦ったり、更に改造されたり、ケッコンカッコカリしたりするが、それはまた別のお話…

 

~終~




おまけ以外は、これにてひとまず終了となります。
ジャンプ的な終わり方ですみません。

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