摂津物語   作:pzg

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注意書きを確認したうえで読んでください。
好みの分かれる内容になっています。

※深海棲艦の棲の時が凄になっていました。申し訳ありません。


摂津物語 前編

「やった、ついに建造に成功したわ!!」

 

女の子の声?

 

 

あれ?

ここはどこだ?

この景色は…私の家じゃない!?

おかしいな、私は家で普通に寝ていたはずなんだが。

とにかく、落ち着いて状況を調べよう。

 

ここは…どこか神社っぽい雰囲気がする工場のような場所。

そして周りには、何これ…可愛いい!?

例えるなら、旧軍のコスプレをした頭でっかちなフィギュアがちょこまかと跳ね回っています。

「セッツ、シュンコウデアリマス!」

何か喋っているが、小さくて聞き取れないけど、とにかく可愛い。

色々と不思議な存在ですけど、可愛いからとりあえずは良しとします。

あと他には…

 

「蒔絵よくやったぞ!!

 成功を祝して、この兄が熱い抱擁をしてやろう!」

 

「妹にセクハラをする提督を持つことになるなんて、不幸だわ」

 

「ち、違う、これは違う!?

 俺は艦むす以外には手を出さない紳士なんだ!!

 

 ぎゃああああああああ!?」

 

今気が付きましたが、少し離れた所に人が三人いました。

一人は、ウェーブがかかった黒髪を腰まで伸ばした、気が強そうな中学生ぐらいの少女。

二人目はまるで改造巫女服のようなものを着て、何故か砲塔と盾の様なものを持っている大人の女性。

三人目は男性で、二人目の女性が持つ盾のようなもので股間を殴られて、絶賛悶絶中の黒髪の大学生ぐらいのイケメン。

 

何この組み合わせ。

色々とツッコミどころが満載な組み合わせです。

少女とイケメンは海上自衛隊のような白い軍服を着ていますし、大人の女性はどう見てもコスプレ、一歩間違えるとイメクラです。

ああそうか、単純に考えればいいんだ。

この人達はコスプレしているんだ。

 

例えば道に迷った場合、わざわざコスプレしている人達に助けを求めるなんてことはありませんが、今は非常時です。

この人達に助けを求めましょう。

さて、助けを求めるとしたら第一印象が大切です。

第一印象が悪ければ「すみません、ちょっと私達忙しいんで」といった感じで相手にされない可能性があります。

ですので、しっかりとした挨拶をしましょう。

何時もの如く緊張して来たけど、落ち付いて喋ればきっと大丈夫!

 

「家に帰る、ここがどこか教えて」

 

なんとか上手く喋れた、よかった。

どこが上手く喋れたのかって?

実は私、物凄く恥ずかしがり屋で、所謂コミュ障なんです。

顔は無表情だし、心の中で色々喋っていても、口が上手くついて来てくれないのです。

だから、今のような簡潔な言葉でも、私にとっては上手く喋れた方なのですよ。

 

「家?帰る?どういうことよ!?」

 

あれ?何か少女が驚いていますが、私はそんなに変なことを言っているのでしょうか?

確かに相変わらず心のこもっていない言葉でしたが、言いたいことはちゃんと言えてますし、多少ぶっきらぼうですが間違った言葉でもないはず。

とにかく、もういっかいチャレンジです。

 

「そのままの意味です、家に帰りたいだけです」

 

 

 

 

 

「か、艦むす側から嫌われるなんて…屈辱だわ…」

 

「ま、蒔絵、落ち着け!?」

 

「不幸だわ…」

 

ちょっ、何この反応!?

少女は手をプルプルと震わせながら、怒りを我慢しているって感じになるし、イケメンはオロオロするし。

大人の女性は、何か良く分からないが目が死んでる気がする。

 

何が起きているか良く分からないが、物凄く失敗してしまった気がしますよ。

 

 

----------

 

 

先程の工場のような場所とは違い、執務室のような立派な部屋に連れてこられました。

でも、先程の変な空気は今も続いています。

イケメンは物凄い困り顔、そして少女は喧嘩中の猫のように「フー!!」っといった感じで、こっちをずっと睨んでいます。

 

私がいったい何をした!?

 

少女に涙目で睨まれるというのは、一部の人にはご褒美ですが、私としてはとても辛いです。

どうにかしたいのですが、少女もイケメンも、とても話しかける雰囲気ではありません。

もう一人の人、大人の女性に助けを求めようと思いましたが「山城、大丈夫?砲戦よ!!」とか、壁に向かって喋っているので諦めました。

 

この状態がこのまま続いていたら、私はプレッシャーに耐えられず確実に吐いていたでしょう。

ですが、私は吐きませんでしたよ。

何故なら、それどころでは無い事実が判明したからです。

 

目が覚めてからずっと、何だか視線が低いなーと思っていたのですが、背が縮んでいました!

というか…

 

紺のクラッシックなセーラー服。

小さな人形がつけられた、学生鞄。

背中に三本の煙突状のものと、二本の柱のようなもの。

ベレー帽と黒髪のツーサイドアップ。

ちょっとつり目。

エメラルドグリーンの瞳。

幼くも、女性を感じさせるしっかりとした綺麗な目鼻立ち。

凹凸の少ないスレンダーな体。

 

という、出で立ちの小学生ぐらいの女の子になっていました!!

 

 

ナニコレ…

認めたくないが、私の周りにいっぱいいるフィギュアのような可愛い生き物が持っているのは手鏡で…

位置から考えて、それに写っているのは間違いなく私です。

 

「この姿はいったい何だ?」

 

しまった、思わず独り言を言っちゃった。

これじゃまるで、不審者じゃないか…

 

 

 

 

と思ったのですが、おかげで状況が少しだけ分かりました。

「その件は僕から説明します。

 まず最初に何の説明も無く、船から少女の姿に変えて申し訳ありません。

 これには深い理由がありまして…」

何故なら、イケメンが私の言葉の何をどう捉えたのか、色々と説明してくれたからです。

 

イケメンによると、世界は突如現れた深海棲艦という奴らに海を荒らされ、大混乱に陥っているとのこと。

これら深海棲艦に対し人類は結束して戦ったものの、通常兵器が効かないため、人類は敗北を重ねることになったそうだ。

そんな時、人類の切り札として現れたのが艦むす。

第二次世界大戦時の艦の魂を妖精さんの持つ神道の技術と人類の霊力で実体化した九十九神。

この艦むすによって、何とか5分5分にまで持ち込み、今もそれが続いているとのこと。

 

 

そして、目の前のイケメンと少女は提督。

提督とは、霊力を注ぎこむことによって艦むすを呼び出し、そして共に戦う存在。

イケメンはかなり優秀な提督らしく、100隻以上の艦むすを部下に持ち、日々深海棲艦と戦っているとのこと。

因みに少女はイケメンの妹であり、イケメン曰く士官学校の成績はとても優秀だったが、霊力が低くこれまで艦むすの呼び出しに失敗し続けていたとのこと。

しかし霊力を補うために、通常の100倍近くという莫大な資源をイケメンがつぎ込んだところ、今回初めて成功したとのことだった。

 

つまり、私は少女が初めて呼び出すことに成功した艦むすであり、少女の部下ということらしい。

なるほどー。

 

 

 

 

 

 

 

船が少女になるわけないだろ!!

それに深海棲艦?

聞いたこと無いぞ!?

異世界とでも言うのかよ!!

信じられるか!!

 

と言う所かもしれませんが、この自分の体を見せ付けられたら信じるしかないです。

健全な日本人の男が、少女になっているなんてねぇ。

それに、最初に謝った理由は分からないが、イケメンはとても真剣で、嘘を言っているような雰囲気じゃなかったからな。

 

しかし、困ったな。

いきなり平和な日本から、戦乱の世界に連れて来られただけでも大変なのに、戦うことまで求められているとは。

 

武器を持って戦うとか。

正直勘弁してもらいたいデス。

いっそのこと逃げようか。

でも、どこに逃げればいいのか。

そうが、武器の使い方が分からないとか言って、雑用係とかにしてもらうのはどうだろうか。

 

私の武器は鉄砲ではなく『掃除機です!』とかいいかもしれない。

 

あれ?

そういえば武器ってどこだ?

 

「武器、無い」

 

「どういうことよ、本当だわ!?

 あなた、主砲も魚雷も無いじゃない!?

 駆逐艦の癖に、主砲も魚雷も無いとかどうなってるのよ!!

 あなたいったい何なのよ!?」

 

ぐわっといった様子で少女が近付いてきたかと思うと、胸元を持ってカックンカックンと私を揺さぶります。

動揺しているのは分かりますが、そんなこと私に言われても。

 

 

だって私は…

 

 

 

私は…

 

 

 

ただの一般人…

 

 

じゃない。

何だ、心の底から名前が湧き上がってくる。

そうだ、この体の持っている名前は…

 

 

「私は……標的艦攝津」

 

 

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我が世の春が来ましたよーーーー

妖精さん可愛いなーーーーよーしよしよしよし!!

 

「キョウシュクデアリマス!!」

 

そうかそうか、恐縮しなくてもいいよ、可愛いのは正義だからーーーー

 

ハイになっていますが、別に危ない薬をやっている訳ではありません。

ヤケになっているだけです。

何故ヤケかって?

それはこれから、演習と言う名のリンチを受ける予定だからです!!!

 

アハハハ…

 

ハハハ…

 

ハア…

 

 

こうなったのは一時間ぐらい前に原因があります。

それでは回想です。

 

「標的艦、そんな艦種聞いた事が無いわ!?」

 

「摂津、いったい何者なんだ!?」

 

私の名前を聞いて混乱するイケメンと蒔絵提督。

そんな二人を助けたのは、壁と会話していた大人の女性、扶桑さんでした。

 

「大先輩が来てくれていたのに、気が付かないなんて…。

 きっと制裁されるわ、不幸だわ…」

 

不穏なことを言いながら説明してくれた内容は、私すら知らないものでした。

簡単に言うと、私は現在確認されているどの艦むすよりも古い船で。

元は河内型戦艦の二番艦というれっきとしたド級戦艦。

そして史実では、戦艦から標的艦へと改造され、演習の標的として活躍し、太平洋戦争の終戦間際に空襲で沈んだのだという。

 

この話を聞いた後の皆の様子は三者三様でした。

私はフーンといった様子で、イケメンは考え込み始めました。

ここまでは良かったのですが、蒔絵提督が落ち込んでしまいました。

蒔絵提督の予想外の行動にどうすればいいか分からず、内心オロオロしていましたが、何かできるわけが無くそのままにしてしまいました。

結局、イケメンが何か言ったらしく蒔絵提督は立ち直ったのですが…

 

「演習、演習よ!とにかく演習よ!!

 演習で私達の力を見せてやるわ!!!!」

 

と蒔絵提督が騒ぎ始め、そのまま今に至るという訳です。

妙にハイテンションだったが、あのイケメン何を言ったんだ?

やっぱりあれだろうか、気に入らないなら演習で痛めつけてやれとでも吹き込んだのでしょうか。

原因がさっぱり分かりませんが、蒔絵提督には嫌われているようですからねw

 

 

…笑い事じゃないだろ。

聞くところによると、演習の標的艦っていうのは、実際に弾を打ち込まれるそうです。

演習弾を使うので大丈夫とか、艦むすだから体の使い方は分かるはずだとか蒔絵提督は言っていますが、艦むすでもない人がそんなことを言っても説得力が無いのです!!

 

演習弾とはいえ弾なんですから、撃たれたら痛いに決まっているじゃないですか!!

おまけにこちらはド素人級標的艦なのですよ!!

艦むすとは中身が違うのです、中身が!!

柔道だって、上手い人が同士が試合すれば怪我しませんが、片方が素人だったら当たり所が悪くて死んじゃうこともあるんですよ!!

 

『摂津、演習相手は来た?』

 

「蒔絵提督、まだそのような姿は見えません」

 

でも、基本的に人と喧嘩したり、言い争うのが苦手でチキンな私には、止めて下さい死んでしまいます、と拒否することはできませんでした。

唯一の救いが、無表情と感情のこもっていない口調のおかげで、凄く嫌がっているのが蒔絵提督にばれないぐらいでしょうか。

 

あ、因みに蒔絵提督とは少女のことです。

演習は提督室から無線で指示を出すことになっているらしく、一旦別れることになったので、別れる前に自己紹介を済ましました。

それと、イケメンは春人という名前で春人提督と呼んでくれとのことでしたが、心の中ではイケメンのままにしようと思います。

意味は無いですけど。

 

おっと、色々と思い出していたら五人ぐらいの人影が港に現れました、あれが演習相手か。

あ、一人は最初に出会った大人の女性、扶桑さんだね。

扶桑さんは「航空戦艦」というカテゴリーの船です。

つまり空を飛ぶことが出来る戦艦という、どっかのアニメに出てくるような凄い艦むすで、秘書艦という提督に次ぐ地位を与えられています。

そして残りは、小学生ぐらいの女の子が四人で、初めて見る顔です。

 

これは何とかなるかもしれない。

扶桑さんは突然演習が決まった経緯を知ってるので、全力全開ではなく手応えを確認しながら戦ってくれるかもしれない。

そして残りの小学生ぐらいの女の子達は、見た目から考えてあまり激しい攻撃はしなさそう…だと思う。

 

「司令官のために頑張っちゃうね!」

 

「みんな頑張るのよ!

 相手は演習専用の標的艦よ、きっと鬼軍曹よ!

 成績が悪かったら精神注入棒でお仕置きされるに決まっているわ、不幸だわ!!」

 

「精神注入棒!?

 そんなものでお仕置きだなんて、レディのすることじゃないわ!!」

 

「はわわ!?卑猥なのです!!」

 

「恥ずかしいな…」

 

何ですかそれは。

扶桑さんが変な気合を入れていますよ!?

そして、小学生ぐらいの女の子達も同じく変な気合が入っているような…

これはやっぱり、やばいかもしれない。

 

 

----------

 

 

やれることはやりました。

さっきまでヤケになっていましたが、流石にそのまま演習を始めて死んでしまったり、大怪我をしたら後悔してもしきれませんから。

といっても、海の上に立つ方法すら分からない私に出来ることなど限られています。

まず最初にやったことは、作戦を蒔絵提督に丸投げすることでした。

 

「蒔絵提督」

 

「な、何よ」

 

「作戦、全てお任せします」

 

「っ!?

 

 

 分かったわ、やってやろうじゃないの!!」

 

これまでの雰囲気から「楽をしようとしているんじゃないわよ!!」って感じで怒られるかと思いましたが、意外なことにすんなりと受け入れてくれました。

これで多分死ぬことは無いでしょう。

素人の私が作戦を立てれば、事故が起きて死ぬ可能性があります。

ですが、蒔絵提督はプロです。

例え私を痛めつけようと思って演習を組んでいて、私を痛めつけるような作戦を立てたとしても、多分半殺しで済みます。

痛めつけるのが目的ですからね。

 

半殺しは嫌だけど、死ぬよりマシなのです!!

 

そして次にやったことは、私の『動き』をどうにかすることでした。

例え作戦が上手く立てられてても、私がまともに動けなければ意味がありません。

実はこれが一番心配でした。

何故なら、艦むすというのは海の上を走ったり滑ったりしながら戦闘をするそうです。

つまり、元が船ではなく一般人の私にとって全て初体験であり…

 

いきなりできる訳が無いのです!

 

ということで、できないのなら、できる人達に助けてもらうことにしました。

 

私が助けを求めた相手は。

 

「君を艦長に任命する」

 

「カンドウデアリマス!!セイイッパイガンバルデアリマス!!」

 

艦むすになってから、ずっと私の周りにいるフィギュア…ではなく、妖精さん達でした。

演習海域に扶桑さん達が向かい、港でただ一人(どうやったら海の上に立てるのだ…)という根本的な問題にぶち当たっていた時のことでした。

私が困っていることに気がついた妖精さん達が「コノママ、スイメンニトビオリレバイイノデアリマス!!」と教えてくれたのが切っ掛けでした。

話を聞いてみると、妖精さん達は過去に何度も出撃を経験しているので色々と知っているとのこと。

経験値ゼロの私より、歴戦の妖精さん達の方が絶対にまともな判断ができると考えた私は、妖精さん達に『私』を指揮して欲しいとお願いすることにしました。

 

船を人間が動かすように、艦むすである私を妖精さんが動かす。

このアイデアに対し妖精さん達は「ユルサレナイデ、アリマス!」「カンムスニシジヲダスナンテ、オソレオオイデアリマス!!」と最初は及び腰でした。

妖精さんの常識では、艦むすの方が格が上らしく、戦闘時に負傷した艦むすをサポートすることはあっても、妖精が艦むすを動かすなんてありえないそうです。

でも、そんなことは正直どうでもいいのです。

私の中身は艦むすではなくただの一般人ですし、このままじゃ大ピンチなのですから。

だから「妖精さんの実力を信用している」「君達だけが頼りなんだ」とペコペコと頭を下げてお願いしました。

その甲斐あってか、最後には「ヨウセイミョウリニツキルデアリマス!」「ココマデタノマレテコトワッタラ、オンナガスタルデアリマス!!」と引き受けてくれました。

 

その後、航空戦艦日向と行動したこともある、一番経験の長い妖精さんを艦長に。

そしてそれ以外の妖精さんも経験と得意分野を聞いて、操舵士、航海長、見張り員等など、必要な人員を配置しました。

因みに、見張り員になった妖精さんは一人なのですが、頭の帽子の上で10人に増えましたよ。

分身の術だそうです。

妖精さんって凄い。

 

「リョウゲンゼンシンゲンソク!シュツゲキデアリマス」

 

「リョーゲンゼンシンゲンソーク、ヨーソロー」

 

「ミンナ、セッツサンノキタイニコタエルヨウガンバルデアリマス」

 

「「「「オーーー!!」」」」

 

 

----------

 

 

いやー無事に終わった終わった!

全て無事に終わりましたよ!!

 

まず蒔絵提督主導のリンチ説は間違っていたようでした。

蒔絵提督は、中々優秀でした。

今回の演習は、私の性能を調べるのが目的だったそうで、演習シナリオとしては扶桑さん達が私をいかに早く捕捉し沈めるかというものでした。

この場合、提督は何もやることが無いのが普通らしいのですが、蒔絵提督はこんな指示を出してきました。

 

「演習海域の端ギリギリに移動してそこで戦うように」

 

相手の数は五隻で、しかも艦載機までいるから攻撃方向を限定して少しでも戦い易くするんだそうです。

演習条件の穴をついた卑怯な技と言えばそれまでですが、こういった柔軟な発想はとても大切です。

硬直した考えでは、ルール無用の戦争には勝てませんからね。

 

そして妖精さん達もかなり優秀でした。

 

「遅いのに、どうして当たらないのよ!?」

 

「瑞雲もっと頑張って!」

 

うん、私もそう思う。

ってぐらいに、妖精さん達は私をうまく操艦してくれます。

私は攻撃してくる艦むすの半分ぐらいの速度しか出せないのですが、攻撃を先読みしているか如く艦を動かして避けてくれます。

 

「コウクウキノウゴキヲミレバ、ドコニバクダンガオチルカイチモクリョウゼンデアリマス」

 

「エンガノミサキオキニクラベタラ、ナマヌルイデアリマス!!」

 

意味が良く分からないが、まだまだ生ぬるいらしい。

そして扶桑さんも空を飛ぶことなく、手を抜いてくれました。

 

そんなこんなで演習終了。

それなりに被弾はしましたが、撃沈判定は出ませんでした。

しかも、演習では全然痛くないことが分かりました。

艦むすにはシールドが張られていて、ダメージを食らっても艤装が破損するだけだそうで、シールドが消失しない限り体にダメージは無いんだそうです。

おまけに演習弾の威力はとても低く、ダメージらしいダメージを食らっていませんでした。

蒔絵提督…艦むすでもない人が言っても説得力が無いとか考えてごめんなさい。

 

妖精さん蒔絵提督ありがとう!!

よぉーしよしよしよしよしよしよし!!!!

 

先程とは違った意味でハイですよ。

 

標的艦=演習向けの船=演習の日々=安全=平穏な生活

 

蒔絵提督=思った以上にまともな人っぽい=平穏な生活

 

という方程式が成り立ったからです!!

 

「摂津、私はあなたの提督とし、ギャー何するのよ!?」

 

だから、妖精さんと一緒に蒔絵提督を『よしよし』してしまったのは、不可抗力だと思います。

 

 

----------

 

 

ぐちゃぐちゃになった髪の毛を整えなおす。

髪の毛をぐちゃぐちゃにした犯人の名は摂津。

筆記はトップ、だけど霊力は最低レベルと馬鹿にされた私がやっとの思いで手に入れた艦むす。

 

深海棲艦に復讐を誓ったあの日から、艦むすを手に入れるために人一倍努力してきた。

だから、自分の霊力が艦むすを呼び出せる可能性がゼロではない程度、しかも呼び出せたとしても一人を従えるのが精一杯と判明した時には絶望した。

 

それから一年、絶望の中で私は更に努力した。

そんな努力と、大型建造級の資材を惜しげもなく投入してくれた兄の献身が今日、ついに実った。

 

私にはずっと暖めてきた言葉があった。

初めての、そして最後の艦むすにかけるべき言葉。

 

「呼び出しに答えてくれてありがとう。

 私とあなたの二人だけの鎮守府だけど、二人三脚で栄光を掴みましょう!」

 

そう私は言うつもりだった。

なのに…

 

「家に帰る、ここがどこか教えて」

 

彼女の表情には嘲りも失望も無く、ただ拒絶の言葉だけがあった。

だからこそ、私は屈辱と敗北感でいっぱいになった。

自分は相手にすらされていないのかと。

 

その後兄が、らしからぬ丁寧な言葉で現状を説明する。

兄なりに私を気遣い、彼女を説得しようとしてくれたのだろう。

そんな兄の気遣いに感謝し、少し心が落ち着いた時に、思わぬ事実が明らかになった。

 

「私は……標的艦攝津」

 

彼女は、艦むす史上初めての艦種であり、経験豊かな艦だった。

それだけなら良かった、たった一隻しか従えられないのなら、強い艦であるのは大歓迎だから。

しかし彼女は非武装だった。

 

私は自分の霊力が判明した時と同じぐらい絶望した。

戦えなければ、どうやって深海棲艦に復讐すればいいのかと。

 

そんな時に助けてくれたのは、また兄だった。

 

「標的艦は演習で力を発揮する。

 摂津を使って、他の艦むすを今より強くして、深海棲艦を倒せばいい」

 

兄の言葉にすぐに納得したわけではない。

正直に言って、今も自分の指揮する艦むすで深海棲艦を倒したいと思っている。

でも兄の言う方法しかないのも分かっていた。

だから私は空元気を出し、早速摂津を演習に出すことにした。

そんな私を、摂津は無表情でただ見ているだけだった。

その後の摂津は、必要最低限以外何も喋らなかった。

摂津はきっと、私に興味など無いのだと思った。

私が提督として摂津に命令を出したため、ただ従っている。

きっとそうなのだろうと思い、気分が重くなった。

 

摂津が私に話しかけてきたのは、そんな時だった。

 

「作戦、全てお任せします」

 

私は一瞬言葉に詰まった。

 

私に興味なんて無かったんじゃないの!?

あなたは演習のプロとも言うべき存在なのに何故私に全て任せるの?

陣形選択も武装選択も出来ないあなたに対して、提督のすべき仕事なんて何も無いじゃない!!

 

色々な考えが頭に巡る。

それゆえだろう、私の本来の性格に基づく答えにたどり着いたのは。

 

(摂津は私を試している)

 

私は負けず嫌いな性格だ、だから欠陥提督という烙印を押されても、ここまで努力することができた。

そしてその経験が、摂津の発言を私に対する挑戦だと受け取った。

 

私は単純かつ泥臭い作戦を考えた。

この短時間と非武装艦を使った演習という制約から、これぐらいしか出来なかったのだ。

それでも、演習場端まで安全かつ最短距離で移動できるコースを割り出すなど、出来る限りのことはやったつもりだ。

 

結果、摂津は兄の艦隊が演習弾を使い切るまで撃沈判定を出さずに逃げ切ることができた。

事実上の勝利だと言って良いが、これを素直に喜ぶ気にはなれなかった。

この勝利は私ではなく、摂津の力によってもぎ取れたようなものだからだ。

 

摂津の操鑑は、とても今日呼び出されたばっかりの艦むすとは思えないほど上手かった。

 

まるで全周囲に目があるかのごとく敵を察知し、攻撃に対しても攻撃がどのように行われるか知っているかのように回避し、敵との位置取り、つまり駆け引きも手馴れているようだった。

 

「呼び出されたばっかりの艦むすは、走る、撃つの二つで精一杯だと相場は決まっているんだけどな。

 なのに摂津は、戦争を知っている動きだな。

 もしかしたら艦の時代から九十九神だったりして」

 

兄がそんな冗談を言いながら「摂津は良い艦むすだ」と私を励ましてくれたが、私は摂津の動きを見て「自分なんて必要ない、私の立てた作戦なんて無くても摂津は勝てた」と思った。

摂津は私のような欠陥提督には勿体無いほどの優秀な艦むすだった。

 

だから、摂津を兄に預けよう。

私はそう決めた。

 

でも摂津は…

 

「摂津、私はあなたの提督とし、ギャー何するのよ!?」

 

まるで親が子供を褒めるかのごとく、私の頭をワシワシと撫でられた。

そしてその時の摂津の顔には、ほんの少しだけ笑顔があった。

 

ああ、私は摂津に認められたんだとその時分かった。

 

 

私の夢見た、提督と艦むすが二人三脚で栄光を掴む関係とは違う、生徒と先生のような関係だけど、凄く嬉しかった。

 

 

 

そして、いつか夢見た関係になってみせると心に決めたのだ。

 




ある日の会話。
P「ケッコンカッコカリできそう?」
友「金剛とあとちょっとかな…」
周囲の人たち「!?」
P「おめでとう!!」
周囲の人たち「ひそひそひそひそ…」

後日『友』が近藤さんという名の女性と結婚するという噂が流れていました。
結婚する予定の無い人に結婚の噂が流れるとか、不思議なこともあるものです。

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