エヴァ体験系   作:栄光

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存在意義

 ミサトマンションでの歓迎会から数日が経った。

 引っ越し作業で段ボール4個分しか私物ないのかとドン引きしたり、射撃訓練をやったりする間に転入手続きがされていたようで、第三新東京市立の第壱中学校に通うことになった。

 

 実年齢28にもなって2度目の中学校生活に俺はワクワクしていた。 

 数学とか、英語の文法なんて一般曹候補生の試験以降使った(ためし)がない。

 そういったこともあって、授業はそのうちかったるくなってくるだろうけどな。

 

 地図を片手にFブロックの自宅から出て、旧市街のほうの中学校まで向かう。

 カッターナイフのようなビルがいくつもそそり立つ要塞都市の外には昔ながらの民家や商店が立ち並ぶ地方都市が広がっている。

 ここが鋭角で近未来の“第三新東京市”になる前の佇まいがなんとも郷愁を誘った。

 

「転校生を紹介する、碇君、入りなさい」

「はい」

 

 俺は職員室で持ってきた書類を見せ、そこで学年主任の先生から学校生活の説明を受けるとホームルーム中の教室へと入って行った。

 黒板の前に立つと、クラス中の好奇の視線が集中する。

 ざっと目を通すと後ろの方の席にメガネと茶色がかった髪の少年がおり、黒髪にリボンが似合うお下げの少女もいた。

 しかし、ジャージに身を包んだ彼はまだ登校してきていないのか居ない。

 

「親の都合で、こちらに引っ越してきた碇シンジです。よろしくお願いします」

 

 当たり障りのない自己紹介をして、空いている席に座る。

 机の上には、ちょっと分厚いノートパソコンが置かれており、それで授業を受けるらしい。

 近未来的ィ! と言いたいところだが、この手の共用パソコンの性能は何とも言えないものだ。

 起動が遅い、学校サーバーへの接続に時間がかかる……大学時代のパワーポイントやら何やらを使った授業を思い出す。

 ウィンドウズ10に慣れていた俺は、未知のOSに困惑しながらもなんとか授業に参加することができた。

 限定的なチャット機能とかついてるみたいだが、授業中に手紙を回すアレみたいなことにならないんだろうか。

 女子がよくそんなことをしていたな、なんて思っていると案の定通知画面が開く。

 

 碇君があのロボットのパイロットってホント? Y / N

 

 ここでイエスと答えたら原作同様、注目を浴びた後にトウジに殴られる。

 しかし、数日前に公然の秘密となってしまったとはいえ、エヴァの運用は()()()()()()だし口外しちゃだめだな。

 秘密の保全意識から俺の手は“N”を打ち込み、松代からきたネルフの関係者家族という事にする。

 一応、嘘はついていない。

 エヴァは()()()()であり()()()()ではないし、総司令の実子であるのだから()()()()()だ。

 とくに前者は気を付けないと赤木博士に猛烈に抗議もとい講義されることになってしまう。

 露骨にがっかりしたような様子を見せるケンスケ。

 

 休み時間になり、男女ともに何人かのクラスメイトに話しかけられ、気づけば気安く話せる人ができていた。

 シンジ君はなかなかに美少年であり、周りの人を惹き付ける効果があった。

 しかし、家庭環境があまりにもひどすぎた。

 

 “ヒトの生きた証”を求め、息子と夫を置いて自分の思うがままにエヴァに消えた碇ユイ。

 ゲヒルンの業務上過失致死で妻殺しの汚名を着たゲンドウと、その評判から冷たい親類。

 漫画版の描写では預けられた“先生”の家でも一線を引かれていた。

 そんな小学生時代を送ってたらああなるな。

 

 ひどい環境(仕組まれた物かも)と対人恐怖と不信が彼を孤立させ、根暗イメージを作ってしまっていたのだろう。

 笑顔で挨拶のできる美少年転校生、シンジ君には趣味がある。

 そう、散歩のついでに自販機でよく分からない飲み物を買ってみるという誰でも出来そうな趣味だ。

 

「ネルフとコラボしたUCC缶もあるんだって~」

「へえ、今度探してみようかな」

「碇君、お父さんに頼んであげようか?」

「僕もネルフ施設の近くに住んでるから、買いに行けると思う」

 

 こっちで流行ってるテレビやゲームの話題がわからなかったので、俺は引っ越してきて早々に見た変なジュースのネタをクラスメイトに振ったのだ。

 すると、意外に好感触だったようで、第三新東京市の自販機には色々変な飲み物がある事を教えてもらった。

 “砂漠の嵐”とかそういうパロディ商品みたいなやつと“ナタデココINおしるこ”みたいな不思議ドリンクが多い。

 ……第三新東京市ではナタデココブームでもあるのだろうか。

 

「あっ、もう授業始まっちゃうな」

「碇も色々飲むんだな、つぎは俺のとっておき教えてやるよ」

「碇君、またお話ししよーね!」

「うん、じゃあ次の休み時間に!」

 

 こうして、とっつきやすく明るいシンジ君は好意的に受け入れられて半日もすればクラスでもまあまあの人気者ポジションとなった。

 クラスメイト達と話すようになってアニメではモブ生徒だった彼、彼女らにも人生があり、生活がある生きた人間だと認識し始めていた。

 戦闘が起こってこのクラスの誰かが巻き添えで死んだら俺はおそらく落ち込むし、泣くかもしれない。

 顔見知りになるという事は、そういうことなんだろう。

 平時なら「何をバカなことを、中二病乙」で済むかもしれないが、ここは戦場になる街なんだから俺含む誰かが数日後に死ぬ可能性は十分あるのだ。

 

 学校で中学生としてワイワイやって、ネルフ本部でシンクロテストをしてから帰宅する。

 そんな生活を始めて数日後、昼前になってようやく黒いジャージの彼が登校してきた。

 

「おはようさん、なんや見いへん顔やな……」

「おはようございます、転校してきた碇シンジです」

「おう、ワシは鈴原トウジや」

 

 バッチリと目が合って自己紹介をするが、元気がない。

 そこにケンスケがやってきて、登校してきたトウジの様子に気づいた。

 

「トウジ、どうしてたんだよ」

「妹がな、ケガしてもうてな……病院への見舞いや」

「アレかぁ」

「そうや、逃げとるところに破片が落ちてな」

 

 トウジの妹は使徒襲来時にケガをしたらしく、その見舞いがあったところを見ると結構な重傷らしい。

 転校と使徒襲来のタイミングが合っていることで、ケンスケはまだ俺がエヴァパイロットではないかと疑っているようで、意味深な目線を送って来た。

 

「そういえば、碇はあの日に何があったか知ってる?」

「僕は親父に呼び出されて、N2地雷の爆発とかの中で避難したよ」

「N2地雷?」

「昼過ぎに山の方でドカンと火柱が立って、爆風でひどい目に遭ったぜ」

「ワシの妹が怪我したのは夜なんや、ロボットが足元も見いへんと殴り合いやっとったわ」

「ちょっと、トウジ!」

 

 ケンスケが慌てて止めに入ろうとするが、怒りのトウジは怪我した状況について語り出す。

 使徒を地面に引き倒し、マウントポジションを取ってコアを殴りつけている時だ……。

 どうやら、シェルターがその近くにあったらしく強度の限界から移動指示が出たという。

 俺がヘッドショットを喰らう直前に、シェルター付近のコンクリ壁が度重なる衝撃で剥離して飛散、運悪くも脱出しようとしたトウジの妹サクラに当たったと。

 その時使徒を殴ってた俺も責められるだろうけど、使徒戦を前提とするシェルターの耐震性とか設計にも問題あるだろ。

 

「転校生、ホンマはオノレがパイロットちゃうんか」

「関わりがないと言えば嘘になるな、場所を変えよう」

 

 授業を終えた俺は話しかけてきた三人のクラスメイトに断りを入れて、渡り廊下に居た。

 結果をいうと、俺はトウジに力いっぱい殴られた。

 

「今度から、よう足元見て戦えや」

「やっぱり、パイロットだったんだな」

 

 やり場のない怒りを発散して去っていくトウジ、ケンスケはその後ろについて行く。

 俺は何も言わず、頬をさする。

 怒っている人に言い訳がましくなにかを言うのはかえって怒りの炎に油を注ぐようなものである。

 あと、ミリタリー趣味を続けるならケンスケは「保全教育上、秘密を喋れない」という答えに行きついて欲しいものだ。

 熱くなった頬を風に当てて、口の中に血の味を感じているところに綾波レイがやって来た。

 

「非常呼集、私、行くから」

 

 綾波に続いて駆け出すと迎えの車に飛び乗り、ネルフ本部に急行する。

 赤黒いイカのような第四使徒が伊豆諸島方面から来襲したのだ。

 原作ではシェルターから抜け出したトウジとケンスケをプラグに同乗させ、命令違反で突撃したアイツだ。

 

 今回よりミサトさん……葛城一尉と共に作戦会議に参加する。

 どうして参加することが認められたかというと、偵察情報もなしに“いきなり接敵”がいかに無謀かと訴えたのである。

 攻撃手段はともかくとして、せめてコアの位置や移動形態といった外観上の特徴だけでも知らないと厳しい。

 俺には原作知識こそあるが、命令を下す葛城一尉や分析に入る赤木博士には前情報が一切ないのだ。

 決死の訴えに最初こそ困惑していたものの、射撃訓練や戦闘訓練をするたびに説得力が出てきたのかようやく許可されることとなった。

 こうした布石を打っておかないと、次の第5使徒戦で即射出からの釜茹でとなる。

 

「税金の無駄遣いね」

「この世には弾を消費しとかないと困る人たちがいるのよ」

「いや、艦砲うん十発喰らって平然と飛んでるアイツがデタラメなんじゃないですか」

 

 赤木博士が冷たく言い放ち、葛城一尉は国連軍の出動に嫌味で返す。

 元自衛官で心情としては国連軍の74式戦車乗員に近い俺はイラッとし、思わず口を挟む。

 

 例え敵性体が化け物であったとしても侵略、国民の生命・財産を侵害するならば、何かしら対応して“国の平和を守る”のが軍人・自衛官の存在意義なのだ。

 ネルフの表向きの存在意義は使徒の撃滅だが、裏の顔は補完計画の実行機関だから、出動についてとやかく言われたくないんだよなあ。

 

 中継画面の向こうの使徒は擬装35㎜機関砲どころか105㎜戦車砲、127㎜単装速射砲の射撃を浴びてなお悠々と飛んでいる。

 丸みを帯びた胴体部には避弾経始(ひだんけいし)の作用があるのか、砲弾が結構弾かれているようだ。

 

 74式戦車の装弾筒付翼安定徹甲弾(そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)は実際に撃ったことがあるのでいかに敵がデタラメな硬さを持っているかわかる。

 APFSDSは1,490m/sで飛び、ユゴニオ弾性限界を超える超高圧で押し付けられた弾芯が装甲を()()()させ溶かしもって貫くのだ。

 十字の穴を遥か2キロ先の的に穿つ避弾経始もほぼ役に立たない戦車砲弾や護衛艦の艦砲である127㎜5インチ砲弾を数十発喰らって耐えているんだから、エヴァの携行火器ごときで抜けはしないだろう。

 

 同期と見に行った“シン・ゴジラ”でも思ったけど、リアリティある実在装備を比較対象にする方法はつくづくよく出来てると思うよ。

 「戦車は噛ませ犬じゃない」と息巻いてた俺たちも、見ていて「あんなもん勝てるか!」という結論に達したものだ。

 

 

 

 地上設置型の無人砲塔群や戦車大隊の集中射が止むと、いよいよ第三新東京市の外縁に奴はいた。

 何かの気配を感じたのか飛行姿勢から立ち上がって、腹の節足を蠢かせながら辺りを警戒しているようだ。

 

「シンジ君、射出後に兵装ビルからパレットライフルを取って射撃、良いわね」

「コアを重点的に射撃ですね」

「そうよ、効果がなかったらその時に追って指示するわ」

「了解」

「エヴァ初号機、発進!」

 

 初号機が地表に着くと俺は兵装ビルからせり出したパレットライフルを手に取って装備する。

 何十回目かのシンクロテストにより、シンクロ率は35パーセントを超えた。

 暴走前の対話以降シンクロ率が見る見るうちに上がっていき、40パーセント近い今、動きもだいぶ滑らかになっている。

 訓練でやった通り、直立している目標のコアをセンターに入れてスイッチ。

 

「目標、正面の()、三点射、てっ!」

 

 引き金を引ききらず、小刻みに三発ずつ撃つ三点制限射撃で狙う。

 コアに数発命中したものの効果はなくて、怒ったのか第四使徒は光る触手のようなものを振り回し始めた。

 思わず飛びのくと、そこに触手がやってきて兵装ビルをズバッと輪切りにした。

 そこから牽制射撃をするも、使徒の体表で劣化ウラン弾芯が砕けて煙が上がるだけだ。

 

「葛城一尉、射撃するも効果見られず、次の指示を!」

「シンジ君、そこから2ブロック東に兵装ビルがあるからそこで……」

 

 新しい武器をという言葉を聞く前に、エヴァは武器を失った。

 振り下ろされた触手がパレットライフルの銃身を両断したのだ。その流れで近くの迎撃ミサイルビルが砕ける。

 2本の触手をブンブンと振り回し、ガンやビルといった遮蔽物を切り裂く威力を持つために近接しての攻撃は困難。

 

 まいったね。

 原作シンジ君の“腹で止めてコアを突く”戦法が最善手に思えるくらいに。

 

 第四使徒は何かを探すような素振りではなく、明確に邪魔者を消そうと初号機を狙ってきている。

 初号機の動きに合わせて触手を振りかぶり、薙ぎ払うように攻撃してくる。

 ビル一棟を身代わりにして避けたとたん、コンソール内の電源警報装置が残時間表示と共に鳴り始める。

 

「初号機、アンビリカルケーブル断線!」

「ケーブル断線! 指示を乞う!」

 

 男性オペレーターの声と、俺の声が被った。

 背中のソケットに電源を供給している電源ビルが触手でやられたのだ。

 

「そこから南のE-5区画に電源ビルがあるからそこで再接続!」

「了解、それまで何かでアイツの気を引けませんかっ!」

 

 大縄跳びで、回転する縄に飛び込むには回転の周期を掴む必要がある。

 そこでアイツの振り回しかたを確認し、触手先端がビルに当たるまでの時間を数えるとおおむね3秒弱のラグがある。

 シンクロ率38.2パーセント、ハーモニクス正常の(エヴァ)じゃ逃げ出すモーションでズバンだ。

 ミサトさんの言う電源ビルまでたどり着けない。

 ただ、奴は左右一方向に一度振ったら“振り抜くまで触手の動きは変わらない”のだ。

 それこそ縄跳びの綱と同じで、やり過ごせば一定時間安全地帯が生まれるッ……。

 

「何か、何かっ……ミ、ミサトさん速射砲っ!」

「わかったわ! 近くの迎撃ビルを作動させて!」

 

 時間がない、内蔵電源の残りは3分45秒を切った。

 

 作戦中は階級で呼ぶというのを忘れるほどに俺は焦っていた。

 ビル影に潜む俺に左からの一撃を与えようと奴は触手を振り上げた。

 

「サン、ニ、イチ、今っ!」

 

 弾かれるように走り出して左からの一撃を回避、このままでは右から来る触手に捉えられる。

 その時、毎分120発の連射速度で射撃できるイタリア製のスーパーラピッド砲が一斉指向して火を噴く。

 ビルに据え付けられた4門の無人砲塔から放たれる76㎜砲弾がコア周りに集中することで注意が逸れた。

 使徒に対する威力こそないものの目つぶし程度には機能し、逃げる背中を打ちすえようとしていたヤツは鬱陶(うっとう)しそうに攻撃のあった場所を探る。

 

 走りながらコネクターをパージ、そして電源ビルについている新しいコネクターを接続。残り時間1分11秒。滑り込みセーフだ。

 4門の76㎜速射砲が弾切れを起こしたタイミングで、迎撃ビルは使徒の反撃を受けて炎上した。

 

「第21速射砲ビル沈黙!」

 

 電力は解決した、だが、使徒殲滅の決定打が無い。

 兵装ビルから武器を取ったところで、最初のパレットライフルによる射撃の焼き直しにしか過ぎない。

 近隣の迎撃ビル群は未完成の物が多く、数少ない完成品もあの一瞬のために粉砕された物かしかない。

 いよいよ手詰まりかな。

 

「葛城一尉、援護射撃の下で使徒に肉薄してこれを撃破する作戦を現場判断から進言いたします」

「シンジ君、それは無茶だわ。いったん最寄りの回収口から後退して」

「アイツの位置取り的におそらく、回収地点に辿り着く前に背中からやられます」

「そうね……」

 

 退却、肉薄攻撃どちらにしても敵の触手攻撃を浴びる。

 動きのノロいエヴァではかわし切れないし、銃火器も効果が認められないときた。

 葛城一尉もその事実がわかるだけに言葉に詰まる。

 もはやこれまでか、そのときオペレーターの日向マコトが声を上げた。

 

「戦略航空団が近接航空支援を打診してきていますがどうされますか?」

 

 どうやら、偵察機による情報で初号機の苦戦ぶりが伝わったのか国連軍の航空自衛隊部隊が支援を打診してきているようだ。

 通信画面で発令所内にあるホットラインの受話器を取ったミサトさんが、司令に確認を取る様子が見える。

 ちらりと見上げると、遠くの空に偵察ポッドを懸架したRF-4EJ偵察機やOP-3C哨戒機が飛んでいるのが見えた。

 今となっては懐かしい緑と茶の森林迷彩塗装、グレーと白のツートン塗装から航空自衛隊、海上自衛隊機とわかる。

 両方とも画像情報の収集や長距離監視のために飛ぶ機体だ。

 OP-3CやRF-4に向かって手を振ってみるが、そこに触手が来て慌てて飛びのく。

 

 

「構わん、やりたまえ」

「ありがとうございます……シンジ君、肉薄攻撃を許可します」

 

 総司令の許可が下り、国連軍航空隊の士官との打ち合わせの最中に俺はというとひたすら、逃げ回っていた。

 すぐ隣のビルが身代わりとなって砕けて、高く打ち上げられた破片がパラパラとエヴァに当たる。

 奴は触手を横薙ぎから縦への打ち上げに変え、これを貰ったら原作のように空高く吹き飛ばされるだろう。

 山肌へ落下して二人を敷き潰すなんてゴメンだ! 

 

「聞こえるかね、人型兵器のパイロット君」

「はい、感明良好です」

「よろしい、我々は君の援護を行う」

「ありがとうございます……つっ!」

 

 発令所を経由した音声のみの通信だが、国連軍航空隊の指揮官と繋がったようだ。

 

「君の様子は画像伝送されているから、航空支援のタイミングは君に任せる」

「わかりました、攻撃開始3分前に呼びますので、空域接近タイミングでオーケーだしてください」

 

 俺が触手攻撃を間一髪で避けているのも空から見られている。

 支援施設やその他ビル群を盾にし、街中を逃げて時間を稼いでる様子も。

 

「了解、今そっちに空中待機の爆撃機が向かっている。5分後に空域に辿り着く」

「攻撃手段は?」

巡航誘導弾(ALCM)精密誘導爆弾(JDAM)だ」

「了解」

 

 空中待機とはやけに用意がいいな。

 例え使徒に痛打を浴びせられないとしても、“税金の無駄遣い”と言われてても出動してくれているなんてとてもありがたい。

 空の彼方から大型の巡航ミサイルを抱いた戦略爆撃機4機、通常の爆撃機12機と護衛機であろうF-15数機がやって来ていた。

 

「こちら“ハンマー42”、空域に突入後、一度上空をパスする。いつでもどうぞ」

「了解、もう丸裸だ。照準後すぐにでも投弾(おと)してください!」

「ラジャー(了解)」

「トゥ(二番機)」

「スタンバイ、スタンバイ、ナウ!」

 

 4機の爆撃機から大型の巡航ミサイルが4発発射され、残りの12機は高度を上げて散開、爆弾倉を開いた。

 第3使徒に握りつぶされたり、弐号機に受け止められたりする印象のある大型ミサイルは第4使徒目掛けて加速していく。

 俺もプログレッシブナイフを抜いてビル影から飛び出し、走る。

 エヴァかミサイルかの選択に、使徒は接近するミサイルを落とそうと慌てて振る。

 しかし、当たらずに胴へと突き刺さり、爆発。

 巡航ミサイルの爆炎の中に高高度からパラパラと落とされた精密誘導爆弾が飛び込んでいく。

 二機一組の爆撃隊は数回に分けて爆弾を投下することで爆発を途切れさせない。

 第三使徒に対して瞬間火力集中がまったくもって効かずに、逆襲されたことから主目的を使徒の撃破ではなく継続火力によって光学的な視界を奪うことにしたのだろう。

 俺の役目は爆撃編隊が危険を冒して作ってくれた隙に突入して使徒を撃破することだ。

 アンビリカルケーブル、パージ。

 コネクターが抜け落ちたと同時にプログレッシブナイフを構え、敵に向かって走る。

 

吶喊(とっかん)! うわあぁぁぁぁあああ!」

 

 アドレナリンを出し、恐怖や痛覚を鈍らせるために叫びながら突撃する。

 上空に居る戦略爆撃機からの誘導爆弾を薙ぎ払おうと触手がブンブンと振り回されるところを低い姿勢で走り抜ける。

 少しは学習したようで、爆撃編隊の航過方向を向いて触手を振り始めた。

 上空で2発の爆弾が炸裂し、黒煙と破片を撒き散らす。

 エヴァの防御力なら数発誤爆されても大丈夫なので爆発の中へ突っ込む。

 

「最終弾落下まで40秒!」

 

 対空迎撃中の使徒まであと一歩という所で、奴がこっちに気づいた。

 しかしもうプログナイフを腰だめにして回避不可の突入コースだ。

 

「あああああああ! 死ねええ!」

 

 航空爆弾を無視して慌てて触手を振るが、もう内側に入っている。

 振られた鞭の先端速度は音速を超えるような速さだが、根元に近づくにつれ速度は落ちてゆく。

 一度インレンジに入ってしまえば触手の攻撃力は表面に纏ったATフィールドだけだ。

 興奮状態でさえ背中にヒリつくような熱さを感じる、クラゲに刺された時のような。

 使徒の鞭が背中を捉えたのかもしれない、それでもナイフを突き出す。

 

「初号機、背面装甲融解!」

「シンジ君!」

 

 握り込んだナイフの刃先から火花が出ている。

 コアの中央を捉え、バシバシと背中を叩く使徒の鞭は次第に力を失っていった。

 第4使徒が事切れるのを見届けるように初号機も電池切れとなった。

 

「内蔵電源、活動限界です!」

「パターン青消滅、使徒殲滅っ」

 

 マヤちゃんと日向さんの報告をプラグ内で聞いた俺は、痛痒い背中に手を伸ばそうとして悶えていた。

 

「国連軍より通信、繋ぎます」

「はい」

 

 映像回線が開き、指揮所と思われる部屋に座る男性軍人が映った。

 

「国連第二方面軍第6戦略航空団、団司令の塚田一佐だ」

「特務機関ネルフ、エヴァンゲリオン初号機パイロットの碇シンジです、この度は援護ありがとうございます!」

「そうか、部下にも伝えておくよ。使徒撃破おめでとう」

「ありがとうございます」

「ところで、体の方は大丈夫かね」

「多少背中が痛いですけれど、刺し貫かれたわけではないのですぐ治ると思います」

「まったく、タフな中学生だ」

「本当ですよ、刺されたり光線で焼かれたり……」

「聞くだけでもゾッとする話だな」

「まあ、出来る限り使徒の攻撃を喰らわないように、頑張りますよ」

「息子くらいの子がこうして戦ってるという事に驚いたよ」

「僕としても、共に戦ってくれる軍人さんがいて力強く感じます」

「また、奴らが出てきたら頼むぞ」

「はい」

 

 機密に触れないような賛辞とお礼の会話をしているところに回収用電源車やその他の支援車両がやって来て、エヴァの回収作業が始まる。

 再起動したエヴァを動かして、丘陵地帯の斜面に設けられた回収用ハッチに向かう。

 その最中に見慣れた二人組がネルフの装甲警備車に乗せられているのを見つけてしまった。

 ズームするとメガネは飛び、白い夏服シャツ、トウジのジャージが茶色く変色している。

 取り押さえられるまでに、もみ合いでもやったのか? 

 

「葛城一尉」

「なにかしら」

「なんか、クラスメイトが保安部の車に乗せられてるんですが」

「それねぇ……避難所を抜け出してたみたいよ」

 

 トウジとケンスケは鉄帽とボディアーマーに身を包んだネルフ職員数人に連行されていく。

 あの爆風に破片飛ぶ中でよく無事だったな。

 使徒の位置が遠かったから助かっただけで、もう少し近かったら下敷きにならなかったとしても援護の爆撃で死ぬ状況だったのだからよく反省してほしい。

 エヴァの格闘でひび割れるシェルターであっても、至近弾の破片や爆風から身を守るには十分だ。

 原作ではケンスケがエヴァを見ようとして、トウジは殴ったシンジの事を知らなくていいのか? とケンスケにそそのかされて出たんだっけか。

 ただ出て厳重注意じゃその後もしこり残りそうだし、面会だけでもするか。

 

 そして第4使徒戦の翌日、俺はネルフ本部の取調室にいた。

 

「で、どうしてシェルターの外に居たんだ?」

 

 ケンスケとトウジは留置施設で一泊したらしく、しおらしくなっていた。

 

「俺は……エヴァが戦ってる姿を見たかったんだ」

「ワシは、転校生がどんな思いして戦ってるのか知らへんと殴ってもうた」

 

 原作や、事前に保安諜報部の職員に聞かされていた供述内容と同じだった。

 

「エヴァや各種装備品が見たいってのもわかるし、相手のことをロクに知らずに殴ったことを気に病むのはわかるよ」

「そうなのか」

「……ホンマか」

 

 俺も自衛隊に入るまではミリタリーオタクだったし、駐屯地祭も見にいったよ。

 トウジも筋を通すためなのはわかるが、一歩間違えれば永遠に分かり合えなくなる。

 

「ああ、でもシェルターを出てまですることじゃない、君らが死んだらそれまでだ」

「悪かった、碇」

「すまん、昨日から何べんも言われたわ」

「格闘でひび割れるようなシェルターでも、爆弾や建物の破片からは身を守ってくれるんだからな」

「ああ、俺は戦場をナメてたよ、あんなとこから飛んで来るなんてな」

「耳はキーン、ホコリでドロドロになるし、エライことになった」

 

 使徒が触手で打ち上げた建物の破片が森に降り、ドッカンドッカンと遠くで爆撃があるたびに爆風に乗って土埃が飛んできたようだ。

 昨日の戦いについて撮影したカメラのデータは没収されたものの、使徒の攻撃や巡航ミサイル、爆撃の凄まじさは二人の心にはしっかり焼き付いていたから、いかに危険か説明する手間が省けた。

 

「説教は十分されただろうし、これ以上言わないけどさ」

 

 そろそろ面会時間が終わるとあって、俺は席を立とうとした。

 

「……転校生」

「なにかな?」

「ワシを殴ってくれ」

「なんで?」

「ワシはお前のことをよぉ知りもせえへんで、殴ってもうたんや」

 

 トウジに呼び止められて椅子に座ると、罪の告白が始まってしまう。

 

「ワシは最初、弱くっさいなんてゆーとったけど、それは間違いや。転校生はあんなバケモンとやり合っとったんやろ」

「トウジはそんなこと言ってるけど、碇が怪獣の攻撃をかわして、爆撃があるまで必死で応援してたんだぜ」

「アホ!」

「艦砲も爆撃も効かないような化け物と戦うのは、きついな」

 

 使徒の防御力、攻撃力はいずれも現用兵器をはるかに凌ぎ、時に人知を超えた能力で攻撃を仕掛けてくるけども、俺たちの負けは許されない。

 たとえ、ネルフの裏の顔が怪しかろうが、ゼーレの手先だろうが“俺たち”が戦わなくて、誰が戦うのか。

 

「でも、()()使徒の撃滅が任務だからさ、ワシを殴れと言われても困るぞ」

「碇、トウジはこういうやつなんだよ。頼むよ」

 

 罰されないとトウジの気が済まないんだろうが、俺としてはもう過ぎ去った話だしなあ。

 気が進まないけど、殴ってチャラにするというのが一番すんなりいくのかな。

 

「わかった、じゃあ、その場に立って歯ぁ食いしばれ」

「おう!」

 

 周りに居た保安部の職員が身構える中、俺はトウジの右ほほを殴った。

 

「っつ! ええパンチや……これでチャラや!」

 

 逃げ出した先での原作シンジ君とは違う状況だけど、この一件からトウジやケンスケとの関係は一気に近いものとなっていった。

 

 




俺たち≠ネルフ

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