小会議室のモニターにパレットライフルを乱射し、沈みゆく初号機の姿が映る。
今、俺はエヴァ初号機が第12使徒の虚数空間、ディラックの海に囚われて以降の記録映像を見ていた。
『アスカ、レイ、後退よ! 下がりなさい!』
『ミサト! シンジが、シンジがあの中に居るのッ!』
『碇くん、初号機がまだッ!』
俺の消失によってパニックに陥ったアスカが撤退命令を無視。
初号機のアンビリカルケーブルを必死で手繰り寄せようと引っ張っていて、綾波は使徒に4、5発撃つと呆然自失。
ディラックの海との境界線からスパッと消失しているケーブルを見て、弐号機は膝をつく。
『そんなっ! シンジは、初号機はッ!』
『レイ! アスカを引きずってでも良いわ、後退させて!』
『……了解』
『レイ! シンジが、シンジが居なくなっちゃったッ!』
零号機に羽交い絞めにされて前進指揮所まで弐号機が後退した後、国連軍の戦車大隊により現場の封鎖が行われる。
ネルフの輸送ヘリから見た街には黒い沼のようなものが広がり、ビルが傾いて沈んでいる。
「現在1715、目標の全容を上空確認中。エヴァ初号機を取り込んで14分間はビルも沈降していたものの、現在沈降はストップ。直径600メートルで拡大も停止」
撮影者である作戦課の大野二尉の声で時間が読み上げられ、俺の消失から3時間が経過していた。
国連空軍の偵察機が低空で情報収集をしているのだろうか。
「現在、1920。技術局、赤木博士による第一回報告会。参加者は作戦部とP二人、赤木博士」
アニメで見たことのある光景で、ホワイトボードに様々な図や計算式が描かれていき赤木博士の解説が入る。
目標が直径680メートル、厚さ3ナノメートル、そして虚数空間の維持にATフィールドを用いている。
球状の浮遊物体は虚像であり、虚数回路の発動にて浮かび上がるという事から上部球体に対しての攻撃は無意味である。
初号機の内部電源による生命維持装置が最大16時間しか持たない。
「現在、2145。初号機サルベージ作戦試案。参加者は作戦部、技術局、P二人、国連軍
初号機サルベージ作戦の試案が発表された。
エヴァ2体のA.Tフィールドを用いて使徒の虚数回路に1000分の1秒干渉させる。
そこにN2兵器992発分の爆圧を電磁フィールドで指向しディラックの海ごと破壊、内部の初号機のサルベージを実施する。
実現性に関しては、N2兵器の輸送時間と電磁フィールドジェネレーター調整等で生命維持限界を超過してしまうという点とエヴァ初号機が破損してしまう点を除けば一番高いものである。
同席の国連軍LOの見解としては、第二方面軍のN2であれば合衆国三沢基地や岩国弾薬庫に322発即応弾があり、ネルフ特別災害協力法にてただちに輸送ができるものである。
他の方面軍からのN2兵器の提供は時間がかかり、アフリカ・ヨーロッパ方面がすんなり提供してくれるかどうかもあやしいので、定数が揃わないのでは?
N2弾頭プラットフォームによって起爆プロセスが違うが、どのように空中投入にまとめるのか?
N2爆雷とN2戦略地雷では信管や爆縮レンズ制御が異なるため、後付け制御装置付きで同時投入しても起爆タイミングがどうしてもズレる。
ミーティング映像の中で、リツコさんは多くの質問や意見をさばいていた。
だが、葛城三佐とアスカの発言回数がやたら多い。
内容としては機体サルベージに成功しても搭乗員が死亡するのではないか、という物だ。
リツコさんは機体のサルベージと使徒殲滅が主たる目的だから、パイロットの生死は問わないという。
まあ、俺が死んでもエヴァが回収できて使徒が殲滅できるならおつりが来るんじゃないか。
「あんた、何言ってるのかわかってんの!」
「だから、あくまでエヴァの回収と使徒の殲滅が主目的です……たとえ、機体が大破しても」
「シンジ君が乗ってんのよ!」
「あのバカを見捨てろってぇの!」
「ミサト、アスカ、落ち着きなさい! ……少しでも助かる可能性があるなら、それにしてるわ」
どうしても納得できないのか、アスカと葛城三佐が衆人環視の前でリツコさんに詰め寄るシーンがあったが途中でカットが入った。
国連軍のLOの意見はもっともで、どこも虎の子の大量破壊兵器をポンとは出してくれないだろう。
ゼーレの強権などでゴリ押せても物理的に時間がかかるし、あと数時間じゃ無理。
弾道ミサイルと戦略地雷、航空爆弾タイプ、戦略防空ミサイルタイプといったいろんな種類のものを掻き集めて同時起爆は難しそうだよな。
先に爆発した弾によって
リツコさんはMAGIのシミュレータ計算と単純エネルギー量から行けると思ったんだろうな。
特に最後の人達は陸の武器科の出身や、防衛庁技術研究本部の研究員でその手の専門家だろう。
N2集中投入って俺が思ったより、実現が難しかったんだな。
「現在、2345。空自の戦略輸送団および戦略航空団による即応弾調達が開始、以降指揮権は技術局第一課が掌握、作戦課は補助に回る」
どうやら第二東京の技術研究本部、誘導武器担当の技術開発官も多く合流したようでリツコさんがああだこうだと、その道のプロフェッショナルと作戦計画を詰めていく。
使徒キャッチャーやら、フィールド発生器といった、俺の居た世界では見たこともない電磁フィールド技術も発展しているようだ。
板状のプレーナアンテナや皿型のパラボラアンテナがいくつもついた特殊車両が使徒の縁にいくつも並び、電源車や制御管制車といった車と太いケーブルで繋がれている。
そこからは徹夜で作業が進んでいき、タイマーの上ではいよいよ俺の命が尽きようとしていた。
外ってこんなに晴れてたんだな、透き通るような青空に先の見えない漆黒の沼の対比がまるで天国と地獄だ。
漆黒の巨大ステルス爆撃機がN2兵器満載で編隊を組み、その時を待っている。
当初予定よりも数百発足りないが、そこは爆発制御と電磁フィールドによる指向性でカバーするらしい。
「投下まであと10分、電磁フィールド車出力最大、各員衝撃に備えよ」
「エヴァンゲリオン準備はよいか?」
「弐号機、準備オッケー」
「零号機、準備完了」
その時、異変が起こった。
黒い沼がいきなりひび割れて赤い血を噴き出したかと思うと、虚像の球が引き裂かれた。
紫色の腕が生え、バシャンとおびただしい血と共に大地にエヴァが立った。
力強い咆哮、紫色の鬼神がそこには居た。
『作戦中止! 作戦中止!』
「おい、活動限界はどうした! あれはなんだ?」
「知らねえよ、暴走してるんだろ」
「パイロットを保護したいところだけど、止まるのを待とう」
「エヴァが取り押さえに行ったぞ!」
「ツバキよりホンブ、使徒と思われる球体が裂けた、中から出て来たぞ。射撃の可否を問う、送れ」
「ホンブよりツバキ、あれはネルフの人型だ、撃ち方まて!」
画面外のリツコさんの声や国連軍の隊員、ネルフスタッフの緊迫した声が入っている。
使徒が内部より引き裂かれたという光景に加え、中から返り血を浴びて現れたのは恐怖すら感じる紫の巨人だった。
105㎜砲を10発、20発喰らったところで暴走するエヴァを止める事なんてできないわけだが、撃たれていい気分はしない。
誤射される前に零号機と弐号機によって使徒の死骸である黒い沼より引きずり出された初号機は、そのまま沈黙した。
防護服を着た救護班にプラグから搬出された俺はそのまま救急車に乗せられたわけだが、ミサトさんにしがみ付かれていた。
意識完全に無くてわからなかったけど、こんな原作再現があったのかよ!
編集してなお3時間半にわたる記録映像を見せられたのには訳がある。
人類補完委員会の“直接尋問”会に参加するためだ。
原作シンジ君は心身が衰弱していたためミサトさんが代理で行ったわけだが、俺はピンピンしていたので参加と相成ったのだ。
わざわざ指名されての呼び出しで、葛城三佐から伝えられた俺は即行リツコさんの所に行き、どういう事を聞かれるのか、どんな回答が不味いのかという事を聞いた。
そこで、作戦部の記録映像を見て自分なりに纏めろという指示を頂いたのだ。
よし、見たまま、聞いたまま、原作知識が使えそうと思ったところは“わかりません”という方針で。
指示された日時に、本部施設の上部階層にある“ブラック・ルーム”に入室する。
ドアの中は真っ暗で、人の気配が全くしない。
俺があるところまで歩くと「ブッ」とスピーカーが作動する音が聞こえた。
今からオンライン会議もとい、オンラインつるし上げ会の開催である。
「初号機パイロット、碇シンジに対する直接尋問を始める」
「まずは貴様の姓名、役職の申告からだ」
俺の立っているところだけがライトアップされ心理的威圧効果を生んでいる。
闇の中から複数の声が響いてきて、何人この場にいるのかも分からない。
アニメで聞いたキール・ローレンツのものであろう声と「
「碇シンジ、エヴァンゲリオン初号機パイロットをしています」
「碇の息子よ、此度の事件、使徒との接触、どう考える?」
キールが今回の使徒との接触について質問してきた。
「使徒側が、人の精神性に興味を持ったのではないかと感じました」
「どうしてそのように感じたのかね」
キール、左様とは違う低い声の男が理由について尋ねてきた。
「使徒が“私の自問自答”という形をとって、何かしらの回答を引き出そうとしていたように感じます」
「どういったことを聞かれた?」
「人間は自分が知覚できる自分と、そうでない他人の中の自分があってそれに対し恐怖しているかと言ったことです」
「なるほど、貴様はどう答えたのだ」
「他人にどう思われているかわからないがゆえにヒトはヒトであり、それを想像する社会性、つまり
ホントは「自分ってもんはないのか、肩書にすがって自分らしく生きてない!」なんて自分探しの大学生のような事を言われたわけだが、その説明をすると憑依の事まで口を滑らせかねないので、適当にそれっぽい回答をする。
他人にどう思われているかという事を気にしない状況で恥の概念は登場しないのだ。
「他人の目を気にして、恥を知る。あの碇の息子とは思えんよくできた発言だな」
キールは「お前の父親は面の皮が厚いぞ」と言っているのだ。
日本人は「恥の文化」なんだよ。他人の目を気にして格好を付ける。
最近の日本人はそうでもないけど、未だに周りの目を気にして行動するのが多数派だ。
そして“しつけ”は身を美しく見せるから“躾”なのだ、と教わり、意識して振る舞えと教わるのが自衛隊だ。
肩から袖までプレスを当ててラインを入れ、靴の先に顔が映るほどつま先を磨き上げ、居室の整頓から髭の剃り残しまでうるさく言われるのは品位を保つ義務によるものだ。
他国の軍隊ですぐ汚れてしまう戦闘服のブーツを鏡面仕上げにして磨き上げるという話は聞かない。
端正で綺麗に見えるのは“精強さのバロメーター”という考え方なのだ。
「これまでの使徒が単独行動である事は明らかだが、今後予想されうる使徒とリンクしている可能性はあるのかね」
左様が次来る使徒にその特性が受け継がれるのかと聞いてきた。
当たり前だろ、あいつらなりに進化してるんだから。
「今まで単独だった使徒が“他者”、とりわけ人類の存在に関心を持ったのだとすると何かしらの接触はありえます」
「接触、それはエヴァを取り込むことかね」
低い声の男が使徒との接触について聞いてきたので、私見を述べる。
「そうですね、知性があるならソフトウェアである精神への攻撃、そうでなければ機体などのハード面を汚染するパターンです」
「なるほど、物事を考える
「これからも己の職責を忘れず励め。以上だ、下がりたまえ」
第13使徒はハード感染攻撃型、第15使徒は精神攻撃型、第16使徒はハード乗っ取り型だ。
爺さんがたの“死海文書”やら“裏死海文書”にはどういった流れが記されているんだろうね。
聞きたかったことを聞いたのか、キールの一言でいきなり回線が切れた。
電灯が灯ると、明るい緑一色の壁面だった。
この部屋で動画撮影、クロマキー合成でもやっているんだろうか。
ゼーレのモノリス登場とかあれ、カッコいいけどどうやってんだろうね。
思ったより、すんなり終わったことに拍子抜けたものを感じた。
これならまだ営業職の“必達会議”の方がきつそうだ。
ゲンドウやリツコさんは管理職なんで、営業が「今月のノルマ未達だぞ、お前らどうやって新規契約とるんや」と言われるようにめちゃくちゃ詰められてるんだろうなあ。
ヒラの下っ端が委員会の老人共と話をするというレアな、それでいてロクなことにならなそうなイベントは無事終了した。
第12使徒戦から数日、委員会の尋問を終えて久々に学校に行くと教室に空き座席がいくつかあった。
駆け寄ってきてくれたショートカットの女子、宮下さんと話をする。
「碇くん、無事だったんだね」
「そうだね、色々と大変だったけどね。ところで人少ないけど、どうしたの?」
「この間の騒ぎで、ユウコもカナも富岡君も疎開して行っちゃった」
「疎開か……いつも一緒の岡島さんは?」
「岡ちゃんは、第二新大阪の伯母さん家に行ったみたい」
「そうか。寂しくなるな」
あのとき漆黒の沼に取り込まれた建物で働いていた人も多く、避難して命こそ助かったものの職場を失った人はすぐさまツテを使って妻子共々疎開していくか、就職支援センターに行って再就職のために第三東京を離れていった。
赤いリボンとポニーテールが特徴の岡島さんの家もネルフ関連企業再就職組だそうだ。
「碇くんは、どっか行っちゃったりしない?」
「多分、僕は最後までいるよ。親の仕事でここを離れられないからね」
「そうなんだ」
そう、俺はエヴァパイロットだ、ここを離れる級友を見送るしかできない。
俺が朝からそんな感傷に浸っていた時、後ろから声を掛けられた。
「おう、シンジ朝から浮気かいな」
「バカ鈴原、そんなんじゃないよっ!」
「トウジ、田舎の中学生じゃないんだから……」
そこまで言って気付いたが第三新東京市は都会であって都会ではなく、充分田舎の中学生だった。
「ワシはイナカもんやないわ!」
「ええ、ここは都会だよね。ムサイジャージの鈴原はわかるけど」
「なんでや! シンジ、宮下に言うたれ! ジャージはイナカもんちゃうて!」
「ジャージ関係なく、ここは山と湖の綺麗な田舎だと思うよ」
授業開始まで宮下さん、トウジ、途中から委員長も加えて第三新東京市は田舎かどうかという話題で盛り上がる。
環状線があって電車が5分おきに来るから都会論とか、スーパーが近隣に数店舗あるから都会論とか、逆に、ほとんどネルフの建物(迎撃要塞都市)で実居住区画が少ないから実は田舎だよ論と主義主張を交えた激しい戦いだった。
結局使徒さえ来なければ、なんだかんだ住みやすい街ではあるという結論に達したのだった。
ネルフ内部の情報誌によると、使徒襲来から遅れていた第七次建設も終わりようやく完成するらしい。
祝賀パーティーも無いどころか、情報誌読まないと第三新東京市の“完成”にすら気が付かないな。
授業中、参号機とフォースチルドレンのことばかり考えていた。
そういや、こないだアイス持ってトウジの家に行ったけど妹ちゃんケガ治って元気そうだったな。
転院を条件に承諾を得ることができないんじゃあ、参号機パイロットどうなるんだろうな。
うちのクラスって“マルドゥック機関”が候補者ばっかり集めているのでトウジ、ケンスケ、委員長、宮下さん誰がなってもおかしくない。
ただし、保有制限条約のある新劇場版みたいにアスカが乗るというのもないだろう。
アニメならポッと出のモブがいきなりパイロット選出っていうのはないはずだ(一話限りの使い捨て除く)が、現実と化したこの世界じゃどうかはわからない。
ケンスケならチルドレン任命に喜びそうではあるけど、参号機の末路を知っているだけに乗って欲しいとは思えない。
父親の端末情報を抜いてエヴァパイロットに志願するんだろうなあ、あいつ。
そのケンスケは本日、新横須賀に入港しているイージス護衛艦『いそかぜ』……ではなく、『みょうこう』を見に行ってる。
こっちの世界ではこんごう型イージス4隻体制からの国連海軍編入、セカンドインパクト後の混乱期によって俺の知っている2010年代の護衛隊群と違う。
イージス護衛艦『あたご』型が居ないうえ、ヘリ搭載型護衛艦『ひゅうが』型も居ない。
代わりに『はるな』『ひえい』といった古いタイプのDDHが現役だ。
セカンドインパクト直後で建艦している余裕が無かったんだろうな。
あと『あたご』型に代わり『ゆきなみ』型ヘリ搭載駆逐艦とか、『改はたかぜ』型ミサイル駆逐艦という見たことも無いような船がいて別世界という感じがする。
ハワイ沖でタイムスリップしたり、工作員によって占拠反乱が発生したりしないことを祈るばかりだ。
使徒が来るアニメ世界では何が起こっても不思議ではないのだ。
その知らせを受けたのは昼過ぎだった。
「アメリカの第2支部で爆発事故発生」という葛城三佐からの連絡にアスカを伴って、本部に駆け付ける。
錯綜する情報、至る所で鳴る電話、待機室で即応待機のチルドレン。
俺は原作知識で何が起こったか分かるけれども、前知識なしのアスカはどうして呼ばれたのか分からずにイライラしていた。
綾波はというと俺が貸した三部作の小説の二巻目を黙々と読んでいる。
「ちょっとシンジ、どうしてヨソがヘマやらかして爆発したのにアタシたちまで」
「仕方ないよアスカ、何が原因で起こったかわからないんだから」
「備えあれば、憂いなし」
「あーっ、いつになったら終わんのよ!」
「おまたせ、あなた達にも見てもらうわ」
アスカが叫んだタイミングでリツコさんが入って来て、作戦室へと案内される。
すると、そこにはポッカリと大穴が空いたネバダの砂漠が広がっていた。
「なによこれ……」
「北米の第二支部よ」
「これって、破片が広範囲に散ってないところを見ると消滅ですよね」
「そうよ、先日のシンジ君のようにね」
「赤木博士、どういうことですか?」
「ドイツで修復していたS2機関の搭載実験中に暴走してディラックの海に飲みこまれたのよ」
さっきまで文句を言っていたアスカがその惨状に言葉を失った。
綾波が「よくわからない」と尋ねるとリツコさんはわざわざコマ送りの写真まで見せてくれる。
「よくわかんないモン使うからじゃないの?」
「ミサトみたいなこと言うのね、アスカ」
「それを言っちゃ、エヴァもよく分かんないことだらけだよ」
「そうね、シンジ君の言う通り私たちでもわからないことばっかりよ」
そうして、リツコさんは我々に直接関係する内容に入った。
単に白銀の4号機の消失という労災事故発生の全社通達をしているわけではない。
アメリカは第一支部を失いたくないようでもう一機の黒いエヴァ、3号機をこちらに押し付けてきたということである。
材質の強度不足から妨害工作の類まで想定される要因が多すぎて、安全大会どころではないからヨソへ移動しようという丸投げだ。
「この件で、アメリカで建造中のエヴァ3号機の起動試験をこっちでやることになったわ」
「大丈夫なの?」
「それを松代で確かめるのよ」
「ところでパイロットはどうするんですか、僕たちの中から乗り換え?」
「あなた達からの乗り換えは無理ね、新しいパイロットがそのうち選定されるわ」
アスカが怪訝そうな顔でリツコさんに尋ねる。
半径数十キロを消し飛ばす映像を見せられて、原因もわからぬまま押し付けられるのだから疑いの眼で見るのも当然だろう。
俺だって、第13使徒化するのを知っているせいで何かしらの仕込みでもあるんじゃないかと疑ってかかるわ。
使徒付きの不良品のタンパク壁といい、後に来るカヲル君といい人間が関与している疑いが濃い事案が多すぎる。
「また新しい子が来るの?」
「無人で出来たら一番いいけど、そういうわけにもいかないんですよね」
「そうよ。まだオートパイロットは技術的課題が多くて実用は無理ね」
アスカの主な関心はフォースチルドレンだったようだ。
原作の“エヴァが全て”なアスカほどではないけど、うちのアスカもエヴァパイロットに誇りを持っているのだ。
俺はリツコさんとの世間話でたびたび登場する“オートパイロットシステム”では動かせないのかと一応聞いてみたが、まだ実用は不可能だという。
“ダミープラグ”は電気的にパイロットが居るものとして信号を送り、エヴァを錯覚させて起動するという仕組みだ。
だけどエヴァには
初号機にはもちろん、零号機、弐号機にも。
俺達と対話して共に戦ってきたのだ、そんなところに割って入っても拒絶されるに決まっている。
ゲンドウには悪いが実際に乗って感じた初号機って寂しがりなところがあるから、話しかけてくれないと拗ねちゃうし、嫌だと思ったらやらないという気分屋な面もあるのでダミープラグは量産機みたいな真っ新な機体にしか使えないぞ。
「なんか、やだな」
「新しい子が来ることが?」
「それもあるけど、オートパイロットって。アタシたちがいらなくなるみたいじゃない」
「アスカ、安心しなよ。エヴァは戦闘機と違って電気信号
「そう、エヴァに答える戦闘知性体が出来ない限り」
「あなた達、やけにダミー……オートパイロットに否定的ね。戦闘知性体って何かしら」
「最近、綾波に貸してるSF小説の戦術コンピュータ群からなる疑似人格です」
「そうなの?」
「リツコさんも読みますか? 本職の人が読んだらいいアイディア浮かぶかもしれませんよ」
「シンジ君おすすめというわけね。時間があれば参考にするわ」
MAGIという人格移植型コンピューターがあり、エヴァという意思を持った兵器がいる世界なら戦闘知性体、そういう存在が現れるのもそう遠くないだろうな。
黒いエヴァにチルドレンが戸惑っている時に、操作系を奪って勝手に発砲……それダミーシステムか暴走じゃないか。
どこぞの深井中尉みたいに「初号機が
撃っても、
それが第13使徒戦なんだよな、ああ、嫌になるな。
第13使徒戦までのつなぎの話で難産だった。
委員会の直接尋問、ゲンドウと冬月の都市論、ケンスケの護衛艦ウォッチング、ダミープラグと4号機消失とアニメを見たままネタを挟みすぎて雑多になった印象。
元ネタ解説
みょうこう:DDG-175、こんごう型護衛艦3番艦、アニメでケンスケが見に行った艦。映画『亡国のイージス』では『いそかぜ』を演じた。
ひゅうが:作戦部の二尉……ではなく、DDH-181のほう。全通甲板のヘリ護衛艦。
はるな:DDH-141、ヘリ搭載型護衛艦で5000トン級にしてヘリを三機運用できる。洋上の第7使徒を発見した。
ゆきなみ型:漫画『ジパング』架空艦、あたご型(7700トンDD)の予想図が元ネタ。3番艦のDDH-182が“みらい”命名基準とは何だったのか……。
改はたかぜ型:小説版『亡国のイージス』架空艦、近代化改修でミニ・イージスという戦域ミサイル防衛システムを搭載したはたかぜ型の3番艦を指す。16セルVLSとターターが同居する不思議な船『いそかぜ』
戦闘知性体:小説『戦闘妖精雪風』異星人ジャムと戦うフェアリィ空軍のコンピューター群や特殊戦のコンピュータを指す。
対話ができるコンピューターであり、ジャムの罠などで生じた特異な状況にも対応するスパコン。