「お、重い……」
両手に持った荷物が私の足を止める。
サイド6を出る為に港へと向かっているのだが……私の歩みは遅かった。
「私服や生活用品は今朝方、先に船に送ったと言うのに……。何故バッグ二つも引きずっておられるのですか」
呆れたように……いや、心底呆れて言うのは前を歩くソフィアーネだ。
「仕方ないじゃない。持って行きたい物がまだあったんだから」
「ご参考までに、苦労して持って行きたがってる物をお聞きしたいですね」
「そ、それは……人形とか抱き枕とか……」
「……」
荷物の正体に言葉もなく呆れるソフィアーネ。
呆れるのもわかる。
今は戦時中。そして私は戦後を見越して、これからアクシズで戦力を蓄えようとしてるのだ。そんな私が人形や抱き枕を苦労してもって行こうとしてれば呆れるだろう。
でも私にも言い分はある。
ただでさえ悩み多き年頃なのに、前世の記憶のせいでさらに悩む事が増えたのだ。ひっそりと自室で癒しを求めたくなるのも当然の事だろう。
言い分はあっても恥かしいものは恥ずかしいので、意趣返しに彼女の大きな荷物を指摘する。
「ソフィアーネだって私の背丈はあるバッグを持ってるじゃない?」
「これはお嬢様専用のノーマルスーツでございます。お人形を大事に運んでおられるハマーンお嬢様の代わりに、必要になるであろうパイロット用ノーマルスーツをご用意したのですが」
「あ、ありがとう。ソフィアーネ」
意趣返しは失敗した。その上、更なる追撃にお礼しか言えなくなる。
私がMSの操縦に興味があることを知っているので用意してくれたのだろう。
そつが無い彼女には頭が下がる。口の悪さは直して欲しいけれど。
不利を悟り話題を変える。
「そう言えば、どんな船で行くのかしら?」
「おや? お教えしてませんでしたか。最新鋭艦リリー・マルレーンでございますよ」
「へぇ、可愛い名前の船ね」
リリー・マルレーンとは可愛らしい名前だ。
リボンでもついてそうな船を想像してしまう。
……なんだかどこかで聞いた事があるような気はしたが、思い出せぬまま港へ向かう。
リリー・マルレーンに搭乗すると真っ先にブリッジに案内された。
そして現在、先日別れたばかりのシーマ中佐が目の前に立っている。
「お前達っ! 今日からあたしらのボスになるハマーン様だっ! 挨拶しなっ!」
シーマ中佐の檄を受けてブリッジクルーが全員起立し、私に向かって敬礼をした。
一人一人が真剣な眼差しで私を見つめている。
「こ、これは……」
ザンジバル級に乗ってみればブリッジに案内され、シーマ中佐が居たと思ったらブリッジクルーに敬礼された。状況についていけない。
再会はアクシズでと思ってた相手の船に乗っている事は理解できるんだけど……。
困って視線を彷徨わせると、シーマ中佐と眼が合い説明してくれた。
「次の任務が決まりましてねぇ。ある要人をアクシズまで護送する事とアクシズの現状調査、場合によっては現地幹部の粛清任務。裏切りに近い内諜さね」
「それはつまり……」
私をアクシズまで連れて行くこと。
それとお父様やアクシズの幹部がザビ家に翻意でもある場合、粛清すると言うことだろうか?
秘密裏にしなければ成り立たない内容を私に話すと言う事は……。
「ガラハウ中佐は内情ではハマーン様に従う事を確約してくれました。ですので、アクシズにいけるように手配したのです」
「内容は辺境に行って味方を疑い、ザビ家に逆らうならば粛清しろってクソッたれな任務だけどねぇ。まぁ今回は謹んでお受けしたわけさ」
ソフィアーネとシーマ中佐がお互いを見てニヤリと笑う。
極秘の策略や諜報が得意そうな二人。何か通じ合うものがあるのだろうか。
やっと事態を理解した私は、シーマ中佐に向かって手を出した。
「私に協力してくださると言うことですね。よろしくお願いします。シー……ガラハウ中佐」
「嫌われ者のあたしらを部下にしたいって言われるとは想像外だったから驚いたけどねぇ。シーマで構いませんよ。ハマーン様」
私の手を握って離すと大げさに頭を下げてくる。
よく見ればブリッジクルー全員頭を下げていた。
直接会ったシーマ中佐はまだしも、なんでクルーまで私に敬意を示すのだろうか?
シーマ中佐に倣ってるだけなのかな。
内心が顔に出ていたのか、私の疑問に中佐が再び答えてくれた。
「昨日例の動画を念の為に確認した後に、うちの艦隊員全員に見せたんですよ。あたし以下、シーマ艦隊全員がハマーン様に忠誠を誓っています」
丁寧な口調で説明され、意味が頭に染みこむにつれて顔が赤くなる。
例の動画って、シーマ中佐の艦隊の事をお父様にお願いした動画よね。
変な事は言ってないはずだけど……言ってないよね?
撮る前に身だしなみも整えたはずだけど……はずよね?
緊張しつつ用意した物だけに、見られたと思うと恥かしい。
「それと手土産を一つ用意しました。出しなっ」
シーマ中佐がクルーに命令するとブリッジのモニターにどこかの部屋が映る。
部屋の中で静かに佇む少女が一人。
短髪の青い髪をした10代に見える少女。
「マリオン・ウェルチ……」
NTであるマリオンが映っていた。
それを見てすぐにソフィアーネに視線を向ける。
「お嬢様がご用命でしたので、ガラハウ中佐にお願いしたのですよ」
「そんな、連れて行けないって言ったじゃない」
「えぇ、正規の手段では。と、申し上げましたね」
それは不正な手段で連れて来たと言うことだろうか。
つまりはシーマ中佐達に誘拐させてきた……?
疑惑の眼を向けても否定しないソフィアーネを睨む。
誘拐をさせるとは、これでは私は現在シーマ艦隊へ汚れ仕事を命じる連中と同じではないか。
憤りを篭めて睨んでいた私に、ソフィアーネは諭すように言ってきた。
「ハマーンお嬢様、信頼と言うのは片方が与えるだけでは成り立ちません。そのような歪な関係はどこかで破綻いたします。お嬢様は既にガラハウ中佐へ身柄の保護確約と具体的な証拠となる物を渡しております。ですので、ガラハウ中佐達がお嬢様の為に身を削るのは当然の事なのです」
「でもっ」
納得いかない私を止めたのはシーマ中佐だった。
「そっちの女の言う事ももっともさね。それにまぁ、あのお嬢ちゃんも誘拐されたがってたようだしねぇ。抵抗は一切なかったよ。よほど酷い実験でもされてたんじゃないかい? それが分かってたから、連れて来るように言われたのかと思ったんだけどねぇ」
NTに対抗する為に狂気に取り付かれたらしいモーゼス博士。
実態は知らないけど、彼の実験がマリオンを気遣って行われてたという事はないだろう。
「同じ汚れ仕事と言っても根っこが違えば別物さ。あたしらの事を分かってくれて見捨てないハマーン様の為なら、多少の汚れ仕事くらいするさ。脅してあたしらを使うキシリアよりやる気だって出るってもんだよ」
シーマ中佐から逆に励まされるような事を言われてしまった。
ソフィアーネとシーマ中佐は納得済みらしく、まるで私が駄々を捏ねているようだ。
自分が甘い事は自覚しているけど、二人の様子に納得が行かない。
「ソフィアーネ、次からは私に相談して欲しいわ」
「承りました」
余計な事を言わず恭しく頭を下げるソフィアーネ。
彼女が私に向ける忠誠は疑わないけど、今以上に手綱を握る必要を感じる。
一度息を吐き、気持ちを改める。
「それでは、アクシズまでよろしくお願いします。シーマ中佐」
「ハッ!」
敬礼で応えてくるシーマ中佐。
中佐からは忠誠――というより感謝の気持ちを感じる。
感じる気持ちから、今までがよほど辛かったのだと察してしまう。
私とシーマ中佐が生んだブリッジの静寂をソフィアーネの声が破る。
「補給と試作機の受領、それとハマーンお嬢様にはマハラジャ様の名代としてのお仕事がございますので、まずはグラナダへ向かってもらいます」
「お父様の名代?」
試作機も気になったが、お父様の名代の方に反応した。
アクシズ司令の代わりにする仕事。
まさか艦隊指揮やどこかの拠点攻略でもやらされるのだろうか?
未だ実戦を経験した事のない我が身に緊張が走る。
ソフィアーネは一度瞬きしてから、はっきりと私に告げた。
「グラナダで行われるパーティーに参加していただきます」
感想で皆様のガンダム作品とキャラクターへの愛を感じます。
皆様の好きなキャラクターを全部だせない未熟さが恨めしいです。
感想で上げられたキャラや作品を調べたり見直したりしているんですが~。
中でも未視聴だったMS IGLOO、面白いですね。渋くて。
さて……貴重な実戦レベルのNTを奪ってやりました。
EXAMどうなるのかなぁ……。
気のせいか、理解者を得たからかシーマ様がとっても大人の良識人になってしまいました。
女王様系の方のはずですが……「ぶつよ」の台詞を言って欲しいものです。
グラナダでの試作機、或いは実験機になるのかな。
何を持って帰るか決めてはいますが、つい予定と違う物を持ち帰るのを想像してしまいます。
ビグザムとか持っていけたら最高なんですけどね~。拠点防衛的には。
(*´ω`)あんなデカブツ、私ならガンダムに乗ってても倒せる気がしません。