盾斧の騎士   作:リールー

9 / 33
 日常が来るたびに、文字数が少なくなるのは、会話文が苦手だからに他ならない。





第九話 首都クラナガン

 顕正のミッドチルダ滞在も、残すところあと二日となった。

 充実した夏休みとすることができた今回の滞在の、ほぼ全てを聖王教会の中で過ごした顕正だったが、今日は違う。

 この一月でだいぶ着慣れた、最近では普段着のように感じていた聖王教会の騎士服ではなく、外出用の少し小洒落た私服を着た顕正は今日、ミッドチルダの首都、クラナガンを訪れていた。

 久々に都市部に来て、周囲の喧騒を少し鬱陶しく感じつつ、事前に待ち合わせ場所として決めていた駅前の広場に行けば、そこには約束の時間の20分も前だというのに、既に『相手』の姿がある。

 

 道ゆく人に注目されているその少女は、自身が目立っていることに気がついていないのか、手元の携帯端末を操作して時間を潰しているようだ。

 ともすれば、引っ切り無しに下心のある男から声をかけられてもおかしくないが、ナンパ男もおいそれと声をかけられないほどに少女は美しい。

 初対面の時の管理局の制服ではなく、首元に白いフリルをあしらった黒いワンピースは、少女の長い金髪と白い肌を際立たせている。

 10人に聞けば、10人が美少女と返すようなその少女が、今日の待ち合わせの相手である。

 時間より早めに到着したにもかかわらず、既に相手を待たせていたことに困りつつ、顕正は彼女に近付き声をかけた。

 

「悪い、ハラオウン。待たせたな」

 

 その言葉で顔を上げた少女、フェイト・T・ハラオウンは、

 

「大丈夫、顕正。私も今来たところだから」

 

 顕正の姿を確認して笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 ことの発端は、先日フェイトが聖王教会を訪れた日のことだ。

 最近まで海鳴に住んでいたというフェイトと、地元話に花を咲かせ、アリサとすずかの小学生時代の話を聞いたり、逆に顕正から今の2人のことを話したりとしているうちに意気投合した顕正とフェイト。

 連絡先を交換しようとなったとき、顕正が次元通信可能な連絡手段を持っていないことが分かったのである。

 通常、他次元間で連絡を取る時、デバイスに組み込まれている通信機能を使用するのだが、顕正の相棒たる『光輝の巨星』グランツ・リーゼにはそのような便利なものが搭載されていない。歴史ある古代ベルカ式デバイスとは、言ってしまえば骨董品でしかない。

 どうしたものかと考えた顕正に、フェイトがいいことを思いついた、と提案したのだ。

 

「顕正が地球に戻る前に、クラナガン案内してあげるよ!」

 

 アリサとすずかを助けたお礼、ということで、顕正の携帯端末を買いに、共に首都クラナガンに行こう、と。

 顕正も一度は観光に行きたい、と思っていたが、地理もわからない魔法都市を一人で散策する気になれず、またカリムやシャッハに案内を頼むのも心苦しかったので諦めていたのだが、同年代のフェイトになら頼みやすい。

 シャッハに聞けば、それくらい言ってくれれば対応する、とのことだったが、せっかくの機会だから行ってみるといい、と許可も下りた。

 今の所フェイトに急務もないので、一日有休をとって顕正の観光に付き合うという約束をしたのだった。

 

 

 

 

 平日であるにもかかわらず人通りの多い都市部を、二人並んで雑談しながら歩く。

 

「――でね、有休取ります、って言ったら、部隊長が、『ハラオウン執務官が有休だなんて、その日は槍でも降ってくるんじゃないか?』とか言うんだよ?失礼だよねー」

 

「いや、それはお前が休まなさ過ぎなんじゃないか?暗に『もっと有休使え』って言ってるんだよ……」

 

「あ、そういうことなんだ。確かに前からそんな感じで言われてる気が……」

 

 顕正が接していて、フェイトは少し真面目過ぎる印象がある。他の用事があったとはいえ、わざわざ聖王教会まで礼を言いに来るくらいだ。恐らく有休もたまり続けていて、上司も困っているのだろう。

 

「あ、でもね、部隊の人に、『平日に有休なんて、もしかしてデートですか?』って聞かれたから、はい、って答えたら、なんか皆大騒ぎしちゃって面白かったなー」

 

 笑いながらそう言ったフェイトに、顕正は固まった。

 

「……待て待て。え、これってデートって分類に入るのか?観光案内じゃねぇの?」

 

「え?違うの?」

 

 きょとん、とした顔のフェイト。

 そのしぐさは大変可愛らしいのだが、顕正の頭はそれどころではない。

 確かに、約束をした後に『これデートなんじゃ……』とは思ったが、善意から案内を買って出てくれたフェイトに失礼だと思い直したのだ。

 それを彼女はあっけらかんと『デート』扱いするので困る。

 それでいいのかと考えたが、ふと気がつく。

 

「……ちなみにハラオウン。お前にとって『デート』ってどういうものだ?」

 

「?仲のいい人と一緒に、街でお買い物したりご飯食べたりすること」

 

「あぁ、やっぱり」

 

 フェイトの認識は、これは友達同士で遊びに行くことと変わりがないのだろう。

 それを総称してデート、という言葉なのだと思っているのだ。

 きっと友達と何処かに行く時にその言葉を使っているのだろうな、と顕正は理解した。

 とはいえ。

 

「ハラオウン。これからは『デート』って言葉は使うな。誰かに聞かれたら、ちゃんと『遊びに行く』って言えよ……」

 

「う、うん、わかった」

 

 釈然としない顔をしているが、顕正には全てを説明する気力はない。この場で理解させれば、お互いに気まずい思いをすることだろう。

 願わくは、フェイトの純粋無垢さの犠牲となる人間がこれ以上出ませんように。

 フェイトの言動で騒ぎになったという部隊の人間に、御愁傷様と心の中で言葉を送る顕正だった。

 

 

 

 

 

 

 クラナガンの有名所を巡り、改めて魔法文明の発達具合を目の当たりにした顕正。未来都市、といっていいほどに洗練された魔法科学は、ベルカ自治領にいては味わえないものばかりだった。

 目的である顕正の携帯端末を購入したデパートには、小規模ながらもデバイスパーツのショップもあり、もしやグランツ・リーゼの強化も行えるのでは、と若干興奮しながら店内を見回ったのだが、古代ベルカ式デバイスに組み込めるようなパーツがそう簡単に見つかるはずもなく、落ち込む顕正の姿があった。

 また、女性向けのブティックが気になっているようだったフェイトとともに店に入れば、すぐさま店員に目をつけられ、あれこれと着せ替え人形のように服を進められるフェイト。様々なバリエーションに着飾ったフェイトを見ることができて非常に眼福といえたのだが、ふと手近な服の値札を見れば桁を間違えているんじゃないかと思える金額が提示されていた。一着ぐらいプレゼントと調子に乗っていた顕正はそれを見て肝を冷やし、店員の隙をついてフェイトとともに脱出した。

 

 ブティックで気疲れした二人はデパートを出て、一休みするために通りにあるカフェテリアに入ることにした。

 魔法文明の都市とはいえ、メニューには顕正にも親しみのあるコーヒーや紅茶などが書かれており、そういえば聖王教会でも普通に紅茶が出てくるな、と今更ながらに思う顕正。文明の発展の形が違えども、共通する点は多く、違和感なく過ごせている。

 顕正がブラックコーヒーを注文するのを見て、対抗意識を燃やして同じ物を頼んだフェイトは、顔を顰めながら黒い液体を啜っていた。

 それを見て笑い、備え付けのコーヒーフレッシュとスティックシュガーを渡しながら顕正は言った。

 

「今日はありがとうな、ハラオウン。俺一人じゃ、わからないことだらけだったから、案内があって助かったよ」

 

「ううん、こちらこそ。今日みたいなのだったら、いつでも誘って。いつもは女の子同士でしか遊びにいかないから、新鮮で楽しかった」

 

 フレッシュと砂糖によって、ようやく普通に飲めるようになり、顰めていた顔を綻ばせながら言うフェイト。

 

「男友達と、こうやって遊びに行くことってないのか?」

 

「んー、ない、かな。そもそも、男友達っていうのがあんまりいないし」

 

 ユーノは男友達っていうのかな、とつぶやくフェイト。顕正にはその人物が誰かはわからないが、男友達で連想されるに相手が一人ぐらいしかいないことに驚く。

 

「友達って言ったら、海鳴に住んでた頃からの友達ぐらいしかいないんだ。管理局で正式に働いてから知り合った人は、みんな仕事仲間って感じだし」

 

「それもそうか。俺とは違ってもう社会人だもんな」

 

 学生という身分の顕正に対し、フェイトはすでに管理局の執務官という職に就いている。『友達』が簡単に増える状況ではない。

 

「だから、今日顕正とデート出来て楽しかったよ?」

 

「……お、おう」

 

 純粋なその笑顔を見て、この笑顔はノックアウトされても仕方が無い、と思ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 クラナガン観光を終えて、聖王教会に戻った顕正を、カリムが出迎えた。

 

「おかえりなさい、顕正さん。どうでしたか、今日のデートは?」

 

 ニコニコしながら問うカリムに、ただいま戻りました。と返し、少し悩んでから、

 

 

「――人を誤解させる言動ばかりなので、タイミングを見て注意しなければならないと思いました」

 

 

 顕正は真顔で言うのであった。

 

 

 

 

 




 甘さはちゃんと出ているのか…?
 こんなものしか書けないぞ。

※2014/3/16誤字修正
誤グラナガン
正クラナガン

ご報告ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。