盾斧の騎士   作:リールー

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前話よりも短くなるという…。




第五話 聖王教会

 誘拐事件から約二週間後、顕正は一人、第一管理世界ミッドチルダの北部、ベルカ自治領を訪れていた。

 

「……都市部とはえらい違いだな」

 

 

 月村邸に設置された次元転送ポートによって二度目の次元移動を体験した顕正だったが、次元移動する瞬間の不可思議な感覚には慣れることができそうにない、と確信している。

 ミッドチルダに到着した顕正は、仕事で案内に来ることができなかったはやてから渡されたメモを頼りにタクシーに乗り、ミッド北部にあるベルカ自治領に辿り着く。

 近未来的なビルが立ち並んでいた首都クラナガンからタクシーで数時間かけて移動し、辺りの自然溢れる田舎町、といった風景は、どことなくグランツ・リーゼに記録されたベルカの世界に似た印象を受ける。もっとも、記録の大半は戦乱の時代であり、平穏とは程遠い記録であったが。

 顕正は旅行鞄を片手に景観を楽しみながら、舗装された道を歩き出した。

 目指すはベルカの民が9割方信仰すると言われている、『聖王教会』の本部である。

 

 

 

 

 

 

 

 二週間前の月村邸、すずかとアリサと雑談に花を咲かせていると、はやてとシグナムが客室に戻って来た。

 突然席を立った謝罪もそこそこに、はやては真剣な眼差しで顕正に提案した。

 

「笹原くん、夏休みの間に、ちょっとしたアルバイトするつもりはあらへん?」

 

 

 はやての話によると、グランツ・リーゼに残された古代ベルカ時代の歴史というのは、学術的価値のある記録であり、聖王教会という組織がその記録を求めているのだそうだ。

 はやて自身は時空管理局の局員という立場にあるが、夜天の書の主として聖王教会にも関わりがあり、以前事件に関係して知り合った教会の騎士に確認したところ、顕正とグランツ・リーゼには是非一度聖王教会まで来て欲しい、とのことだった。

 高校生である顕正は学業もあって、気軽に次元移動してミッドチルダに行くわけにもいかないが、高校ももうすぐ夏休みに入る。まとまった時間の取れるこの機に、聖王教会の歴史検証に付き合ってはもらえないだろうか、もちろん、相応の謝礼は出る、と。

 

 

 顕正はしばし思考し、そして了承の意を返した。

元々時間のある夏休みには、アルバイト先を探すつもりであったし、ベルカ人の信仰する聖王教会には興味があった。怪しいアルバイトならいざ知らず、グランツ・リーゼの記録の時代にも存在した聖王教会ならば、ある程度の信頼も出来る。

 何より、夏休みの間長期に渡る住み込みのバイトであることが魅力的であった。

 実はしばらく前から、従姉が夏休みの間に海鳴の笹原家に泊まりに来ようとしていることを顕正は叔父から知らされていた。それも夏休みの間ずっと。

 せっかく貞操の危機を逃れて海鳴市にやってきたというのに、叔父夫婦すら存在しない笹原家に従姉と二人っきりの一ヶ月半など、恐ろしくて眠れもしない。一服盛られてはいおしまい、の可能性すら考えた顕正は、はやての提案に乗ることにした。流石の従姉であっても、次元世界を飛び越えて顕正に会いに来ることは不可能のはずだ。

 

 

 そうして顕正の聖王教会訪問が決定した。尚、その旨を――もちろん魔法関係を伏せて友人の紹介で長期アルバイトに行く、と――叔父に連絡すると、冬休みには一度帰ってくるように、という叔父の心配そうな声と、従姉が「やだー!夏休みはけんちゃんと過ごすって決めてたのにー!!」と悲鳴を上げているのが聞こえた。顕正はガッツポーズを隠せない。

 

 

 

 

 

 運悪く、はやてもシグナムも仕事で同行出来なかったが、顕正は聖王教会に辿り着いた。

 受付の女性に八神はやての紹介で来ました、と伝えると、女性は「はい、少々お待ち下さい」と笑顔で伝えてから手元の書類を確認し、固まり、書類を見直し、顕正の顔を見て、また書類を確認し、「しょ、少々お待ち下さいっ!」と慌てて走り去った。

 

「……」

 

 残された顕正。受付の周りに居合わせた人たちが何事かと顕正を見てくるが、顕正にもどういうことか分からない。

 受付にて待つこと数分、受付の女性が一人の修道女を連れて戻って来た。

 受付の女性が走ったことにより肩で息をしているにもかかわらず、修道女の方は息一つ乱していない。また、その立ち居振る舞いからただの修道女ではないのだろう、と顕正は判断した。

 

「お待たせいたしました、騎士ケンセイ。案内を仰せつかりました、シャッハ・ヌエラです。本来であれば出迎えに行きますところを、御配慮していただき……」

 

 年上であることは間違いないそのシャッハと名乗る修道女の謙りように、顕正のほうが焦ってしまう。

 確かにこの訪問の計画を立てている際、聖王教会から案内役を向かわせる、と申し出があったのたが、自分に対してそこまで手を煩わせるのは偲びない、と顕正は辞退していた。

 顕正にとって今回の聖王教会訪問は、あくまでも歴史検証のアルバイト程度の認識しか持っておらず、聖王教会側から見れば非常に重大な歴史の生き証人であるアームドデバイスを持ち込んでくれた『来賓』であることが、きちんと認識出来ていなかったのだ。

 

 

 

 シャッハの態度に焦りつつも騎士としての名乗りを返し、顕正はシャッハに連れられ聖王教会本部の来賓室に通された。

 少々お待ち下さい、とシャッハは退室し、顕正はまた一人残されることとなる。

 部屋を見回せば、目利きの出来ない顕正にも分かるような、高価な調度品の数々。それを見てようやく、顕正も自分が思っている以上にVIP待遇を受けていることに気が付いた。

 なんだこれ、と一人頭を抱える。

 思えば二週間前の事件から、自分の想像を超えたことばかりである。

 顕正はこうなった原因である自分の相棒に非難の眼差しを向けるが、そんなことをしてもどうにもならないことは理解している。

 寡黙なアームドデバイスが原因とはいえ、魔法文明のことをよく考えもしないで今回の『アルバイト』を承諾したのは自分なのだ。

 従姉から逃れられるから、と反射のように返事をしてしまった自分が悪い。そもそも月村邸での話し合いの際、グランツ・リーゼの記録している年代を話した時のはやての焦り様から察することが出来たはずである。

 結局自分の思考不足か、とため息をついていると、来賓室のドアがノックされた。どうやら待ち人が来たらしい。

 はい、と返事を返せば、失礼します、とシャッハがドアを開け、続いて一人の女性が入室してきた。

 

 

 流れるような金髪に柔和な笑みを浮かべた、シャッハとはまた別の意匠の修道服を纏ったその女性は顕正に一礼し、

 

 

「本日は御足労いただき、誠に有難う御座います、騎士ケンセイ。聖王教会所属騎士、カリム・グラシアと申します」

 

 と、たおやかな身のこなしのまま名乗ったのだった。

 

 

 

 

 




戦闘が、書きたいです…


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