盾斧の騎士   作:リールー

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超!お久しぶりですね!




第三一話 高貴なる紅 前編

 

 機動六課が始動して、四日が過ぎた。

 新設部隊であり、陸海共同部隊という極めて特異な部隊である六課の滑り出しは、まずまずと言ったところだ。

 組織として如何なものかという声が他部署から囁かれていた、親交の深い人物で固められている上層部が軒並み優秀な人物で、親しいが故に風通しも良い。

 縁故部隊と揶揄されることもあるが、組織的な腐敗が起きていないのであれば、機動六課の人員配置はある種の理想的な形でもある。

 

 そんな中、

 

「――皆、午前中はゆっくりできたかな?」

 

 機動六課が誇る、訓練用の空間シミュレーターによって再現された市街地フィールドの一角で、航空隊の白制服姿のなのははにこやかに問いかけた。

 その視線の先には、訓練着を着込んで準備万端の四人の新人フォワードの姿がある。

 この四日間、彼女たちはなのはによる『基礎トレーニング』を続け、全身の筋肉痛に悩まされていたのだが、今日は午前中の訓練はなく、機動六課内のオリエンテーションを受けていた。

 僅かばかりとはいえ、しっかり体を休めることが出来、これから始まる本訓練への気合いもバッチリである。

 

「これから第一段階に入っていくわけだけど、まだしばらく個人スキルはやりません。コンビネーションとチームワークが中心ね。四人ともそれぞれの得意分野をしっかり活かして協力し合うこと!」

 

『はい!』

 

 うん、いい返事だね、と笑みを深める。

 

「――それじゃあ、早速始めていこう。今日の目的は、『今の自分達に何が出来るのか』だね」

 

 その言葉を聞いて、四人は更に気合いを入れた。

 この四日の間に、目の前の教導官がどれだけ『鬼教官』なのかは嫌という程理解している。特に今のようなにこやかな時が、一番無茶振りがくるのだ。

 警戒心を滲ませる新人達のその予想は、残念なことに外れていなかった。

 

 

「皆にはこれから、笹原3尉相当官と4対1の模擬戦をしてもらいます」

 

 

『……』

 

 四人の心境を一言で表すならば、

 本物の無茶振りが来てしまった、だ。

 

 

 

 

 

 顕正は後程合流予定のプリメラとナハティガルと共に分隊編成されるため、今はロングアーチに仮所属しているのだが、執務官として動き回らなければならないフェイトが分隊長、フォワードの交替部隊の隊長を兼務するシグナムが副隊長のライトニング分隊の指揮も頼まれている。

 今のところ現場への出動は掛かっていないので現在の主な職務は、なのは、ヴィータによる新人達の訓練を補助することだ。教導資格は取得したものの、経験が浅い顕正は熟練であるなのはの指示通りに動いているが……。

 

「――それじゃ、方針を決める前に状況を整理しましょう。それぞれ知ってることを言って、ケンセイさんの情報を共有するわよ」

 

 四人の纏め役となっているティアナを主体にして、『作戦会議』が始まった。作戦を決めるのに与えられたのは10分という短い時間だったが、四人の認識を一つにするためには必要な問答だ。

 

「まず私から。皆知ってる基本中の基本だとは思うけど、古代ベルカ式の使い手で、『盾斧の騎士』の騎士名を持ってる。防御が硬くて火力も高い、騎士のお手本のような戦闘スタイルね」

 

 円になって集まる四人の中心に置かれた端末に、『ベルカ式』『騎士』『高防御、高火力』の文字を入力する。

 次は、スバルの番だ。

 

「えっと、接近戦だけじゃなくて、中距離遠距離で砲撃戦も出来るよね。騎士としては異例なほどに砲撃魔法の適性が高い、って雑誌で読んだことあるよ。……今回は気にしなくてもいいんだけど」

 

 エースオブエースVS盾斧の騎士の、ミッド全域で中継された2年前の戦技披露会は今でも語り草になっているが、スバルが自分で付け加えたように今回はその点を無視してしまって構わないだろう。

 端末に『砲撃魔法←なし』と入れて、ついでに『飛行魔法←なし』と追加する。

 

 まだまだ個人技能も発展途上で、チームワークに至っては言わずもがなの四人と、すでに聖王教会最強候補の一角に数えられている顕正とでは、人数では埋められない歴然とした差がある。

 そのため、今日の模擬戦では大幅なハンデを付けると笑顔の教官から通達があった。

 模擬戦の内容としては、4対1で、顕正に有効打と認められる攻撃を一度でも入れられれば、フォワード陣の勝利。また、模擬戦終了の30分後まで一人でもリタイアしていない場合でも、勝利である。

 顕正にはハンデとして、『飛行魔法禁止』、『砲撃魔法禁止』が課せられた。

 そしてもう一つ。これはなのはからではなく、顕正自身からの申し出だったのだが……。

 

 

「――高町一尉。その二つではハンデとしては不十分かと思いますので、管理局の開発課に依頼されていた、試作デバイスの性能評価も併せて行いたいのですが、よろしいですか?」

 

 

 顕正は、相棒であるグランツ・リーゼを使用しない。

 古代ベルカの戦乱期から現代まで、『盾斧の騎士』の由来となったロストロギア認定寸前のデバイスであるグランツ・リーゼは、笹原 顕正にとって唯一無二とも呼べる重要な武装だ。

 取り回しの良い長剣形態でエネルギーを溜め、一撃必殺の威力を持つ大斧の炸裂砲撃で数多の敵を屠ってきたデバイスが、今回使用されないというのは、かなり大きなハンデだろうと、ティアナ含め4人は確信していた。

 

「……まぁ、正直な話、このメンバーでグランツ・リーゼの炸裂攻撃を受けても持ちこたえられるのはスバルくらいだし、助かるわよね」

 

「わ、私でもアレは直撃を一発貰っただけで行動不能だよ……?防御が成功しても、なんとか動けるくらいだと思う」

 

 四人の脳裏にはこの四日間、そして昨日の訓練の終り際、オフシフトのシグナムと試合をしていた顕正の姿が浮かんだ。

 飛び交う蛇腹剣を潜り抜け、引き戻された直剣と斬り結び、果ては爆炎を撒き散らす一矢を大斧の炸裂技で粉砕し、火の粉踊る中獰猛な笑みを滲ませる。

 ……確かに、これまでの訓練で彼の厳しさは良くわかっていた。

 なのはが監修した『基礎トレーニング』は魔法技能基礎とフィジカルトレーニングに分かれていて、比率としては3:7程度。

 そのフィジカルトレーニングをメインで担当したのは、教官陣の中でも最も屈強な肉体を持つ顕正であり、その訓練は過酷を極めた。

 端から見ていると拷問かと疑うような肉体的負荷を掛けてくるもので、初日の午後から始まったそれは、訓練校と実戦部隊を経験しているティアナとスバルであっても、今までに体験したことのないレベルの激しいトレーニングだった。

 ともすれば鬼教官No.1に数えられそうなものだが、顕正は四人に殺人的トレーニングを施す側で自身も必ず同じだけのトレーニングを行い、この様に動けばより効率的だ、という見本をそれとなく提示してくれる。

 しかも顕正が厳しさを見せるのは勤務時間においてだけだ。課業時間外では元来の誠実さと気遣いで、元々病院で親交のあったスバル、フェイトを通じて顔を合わせ、タイミングの合った時には小旅行も共にしたことのあるエリオ、キャロだけではなく、六課稼働前日からしか付き合いのないティアナも気負うことなく話が出来るほどになっている。

 他の二人が、優しいということは知っているが管理局と言う組織において雲の上の存在である高町なのはと、小さい体に鉄血の意思を凝縮し、訓練中は当然、それ以外でも厳しいヴィータということもあって、教官陣の中では顕正が最も接しやすいのだ。

 だからこそ、昨日の顕正の闘いを目にしたギャップが響く。

 

「……あの人、実は二重人格だったりしないかしら」

 

 ポツリと漏らしたティアナの声に残りの三人は反射的に否定しようとしたが、今までの顕正の言動を鑑みた結果、否定の言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

「そ、それはそれとして!作戦会議を続けましょう!」

 

 キャロの意見で、ティアナも我に帰る。確かに今は、それよりも作戦を立てる方が先決だ。

 

「そうね。じゃあ、次はエリオの番だけど……あんた六課に来る前に、何回か指導して貰ったことがあるって前に言ってたわよね。ケンセイさんの弱点とか、知ってたりしない?」

 

「じゃ、弱点ですか?」

 

 そう言われても、とエリオが頭を悩ませる。

 確かに何度か指導してもらった事はあるが、実戦形式の模擬戦をしたのは一度だけしかない。しかもその時は、顕正は『バリアジャケット以外使用禁止』という条件で、ストラーダを使うエリオは傷一つ付けられなかった。

 火力、防御力、機動力と三拍子揃っており、教会騎士として前線で力を振るってきた豊富な経験もある。

 顕正の弱点らしい弱点と言ったら……。

 

「――そういえば」

 

 ふと、思い出したことがある。

 

「ケンセイさん、索敵系の魔法は得意じゃない、って言ってましたね」

 

 普段の教会騎士の任務について聞いた時だ。

 警護任務や遺跡探索において重要視される魔法だが、顕正はその適性が低く、その辺りはコンビを組んでいる教会騎士に頼ってしまっている、と。

 

「……そう、確かにベルカ系の使い手って、補助系魔法が苦手な人が多いわよね。その辺りも典型的な『騎士』ってことか」

 

 作戦会議を始めてから、ようやく光が見えてきた気がする。

 そして少し表情を緩めたティアナへ、更なる朗報が。

 

「あ、そういうのでしたら、私もケンセイさんに聞いたことがあります。砲撃適性は高いけど射撃適性は低くて、特に誘導弾はほとんど使えない、って言ってました」

 

 キャロの言葉に、スバルとティアナは目を丸くする。

 

「え?そうなの?砲撃が使えるから、てっきり射撃系も使えるんだと思ってた」

 

「……そういえば、戦技披露会の時も昨日のシグナムさんとの模擬戦の時も、射撃してるところって見てない気がする」

 

「射撃自体は出来るって言ってましたけど、それもナイフ型の実弾系で、物体加速の直射弾だけらしいです」

 

 キャロがそれを聞いたのは、以前顕正、フェイト、アルフと共に管理世界の温泉宿に旅行に行った時のこと。

 顕正一人が男湯なので、寂しいだろうと一緒に温泉に入っていた際に雑談として言っていたのだが、彼はベルカの技術に誇りを持っているが、それだけでは飽き足らず、ミッドの長所も積極的に学んでいるらしい。自身に適性がないため射撃を扱う事は出来ないが、相対した時のために、また、別の部分で応用するために、だそうだ。

 

「……直射だけとはいえ、あの人の戦い方だと何か『仕込んで』きそうね。でも、これで……大体の目標は見えてきたわ」

 

 各人の話から、作戦の骨子は固まった。

 これが実戦で、顕正が万全の状態であったのなら、勝ち筋もへったくれもなかったのだろうが……。

 

(――これは訓練で、ケンセイさんも大幅に手加減してくれてる。それならやり方によっては、あの『盾斧の騎士』相手にだって勝ち目は、ある……!)

 

 訓練校からずっとコンビを組んでいるスバルはともかく、エリオとキャロとはまだまだ上手い連携は取れないだろう。しかし、ここ数日である程度は力量と性格も把握出来ている。ならばそれを活かすも殺すも、チームの司令塔次第だ。

 

「……もう時間も少ないし、簡単に作戦を決めるわよ。あくまでも私の意見だし、他に良いアイデアがあるんなら、いつでも言ってちょうだい」

 

 やるからには、勝ちを目指す。

 それは負けん気の強いティアナに限ったものではない。

 新人たち四人は、それぞれ目的を持ってこの機動六課に入ってきた。

 訓練だから、相手が歴戦の騎士だから、と言い訳をして『流す』なんてことは、断じてあり得ない。

 

 決意を胸に、ティアナたちは勝ちを求めた作戦を固めた。

 

 

 

 

 

 

「――良い感じに気合い入ってきたな。これもケンセイのトレーニングの成果か?」

 

「まぁ、この四日間のフィジカルトレーニングの結果もあるけど、元々が事情を抱えた子達ばっかりだからね。顕正くんの『教育』で、前から持ってた熱意にさらに火が着いたって感じかな」

 

 訓練地域から少し離れた地点で、新人フォワードの指導官二人が話していた。

 各所に展開したサーチャーで散会した四人の姿を見守りつつ、デバイスを変えて佇む顕正にも目を向ける。

 

 顕正の装いは、今まで使っていた鎧姿のものではなかった。

 白が基調の新しいバリアジャケットは騎士服をモチーフにしたものであり、以前の堅実さよりも清廉さが前面に出されている。管理局所属になることを受けて、よりクリーンなイメージになるように新規作成したのだ。

 鎧姿よりも防御力は下がっているものの、最近の戦闘傾向から機動力を重視している。狙ったわけではないのだが、ちょうどなのはとフェイトの中間の様な仕上がりになった。

 

「……あれから『アレ』になるのか。もはや詐欺だな」

 

「……うん、仕方ないよ。ナハティガルさんの仕様だから」

 

 今はまだ聖王教会にいるユニゾンデバイスのことを思う。風の噂に聞いたが、ナハティガルとの完全融合状態は評判がよろしくないらしい。清廉なイメージを保ちたい聖王教会と管理局から揃って、使用を控える様にと通達があったとまで言われている。

 

「んで、デバイスも変更か。手ェ抜きすぎじゃねえか?」

 

「んー、そう、かな?これでちょうど良いくらいだと思うよ。結局のところ、ちょっとスタイルが変わって火力が落ちたくらいだし」

 

 二人の視線の先で、顕正がデバイスを構えた。

 首から下げた鋼色ではなく、手にした赤色のものを。

 

 

 

 

 

「――『ノブレス』、セットアップ」

『All right,set up.』

 

 女性型の音声が流れ、デバイスを展開する。

 その形状はほとんどグランツ・リーゼと変わらず、違いといえばカラーリングと細かい意匠程度。

 

 管理局の開発課がテストを依頼してきたその『盾斧型デバイス』は、そもそもの思想段階から顕正も参加しているものだ。

 

「……」

 

 起動試験や初期設定の際に握って感じていた違和感は、調整によってかなり小さくなっている。

 それでも若干不安に思ってしまうのは、普段手にしている『相棒』ではないからか。

 顕正の視線を受けて、何か?と剣の柄に埋め込まれた黄色のデバイスコアが明滅した。

 なんでもない、そう小さく伝え、これから始まる模擬戦に向けて意識を集中する。

 まだまだひよっことはいえ、それぞれポテンシャルは十分な新人たちだ。この四日間の訓練を指導していて、よくもまぁこれだけ才気溢れる人間を集めたものだと感心した。管理局の人手不足とは一体何だったのかと思うが、聖王教会とは管轄する規模が違うのだから当然ではある。

 彼らを教え導くことこそが、ここでの顕正の仕事。

 故にこの模擬戦で行うべきことは……。

 

『――全員、配置に着いたね。それじゃあ、カウントで始めるよ』

 

 訓練場全域に、なのはからの念話が響く。

 5、4、と数える声を受けて手にした長剣を握り締め、

 

『3、2、1、……スタート!』

 

 開始の合図を聞き届けた。

 

 

 

 

 

 

 顕正のスタート位置から離れた場所で、ティアナとキャロはサーチャーによる偵察を行い、前に出たスバルとエリオに情報を送っていた。

 

『……グランツ・リーゼじゃないけど、盾斧型デバイス?』

 

『えぇ、カラーリングが違うけど、形はほとんど一緒。さすがに炸裂打撃も一緒とは思えないから、何か別の機能があるんじゃないかしら』

 

『……炸裂打撃は普通のデバイス強度だと、撃った瞬間デバイスが砕け散るって聞いた覚えがありますし、多分ティアナさんの言う通りですね』

 

 訓練場を駆けながら、エリオが補足する。

 スバルはそれを聞きながら、自身が作ったウイングロードを走る。飛行魔法を禁止された顕正にとって、上から強襲するこの魔法はかなり有効なはず、と満場一致で突撃役を任された。

 

(まずは私が強襲して戦線を作る……あとの流れは、作戦通りで!)

 

 スタート地点からぐいぐい迫り、偵察していたキャロからの通信が入った。

 

『スバルさん、そろそろケンセイさんとコンタクトします!』

 

『……うん、こっちでも見えた。このまま突撃するよ!』

 

 顕正はデバイスを展開して歩いている。ちょうど背後に回る形で道を作ったため、まだ気付かれてはいないようだ。

 

『作戦通りで頼むわよ。あんたが崩されたらその後も全部吹き飛ぶんだから』

 

「了解!」

 

 やり取りをしつつ、顕正の様子伺う。やはり索敵は得意ではないという情報は正しかったらしく、まだこちらを振り向かない。

 先手を取るなら、今しかない。

 母の形見のリボルバーナックルを握り締め、意識を集中した、その時だ。

 

「……っ!気付かれた!」

 

 死角を取って回り込んでもなお、視線を感じたのか、顕正がくるっとスバルに向き直る。その表情は完全に抜け落ちていて、考えは一切読めなかった。

 とはいえ、スバルがやることは変わらない。気付かれていようがいまいが、突撃する。

 

「――うおおぉぉ!!」

 

 気付かれているのだからと、自身を奮い起こすために吠えながら、スバルは顕正に突っ込んだ。

 それはウイングロードを駆け抜けて加速した突撃で、破壊力はかなりのもの。ビルの壁くらいは余裕で貫通するような拳だ。

 それでも、

 

「……初手はスバルか。セオリー通りだが、当然だな」

 

 赤い盾が拳をいなし、衝撃を逃す。

 スバルもこんな見え見えの一撃で顕正にヒットするとは思っていない。反撃を食らわぬように無理せず流れに身を任せ、いなされた勢いそのままに地面に着地し、顕正から距離を取った。

 

「さて、こっちも行くぞ」

 

 顕正は長剣を構え、後ろに引いた。

 この構えはスバルも知っている。戦技会でも、昨日の模擬戦でも使われた、顕正の十八番。

 

「――『燕返し』」

 

 魔力を伴った伸びる斬撃二連。

 しかし事前にくると分かっているなら、その範囲から抜けることも容易いことだ。

 スバルは構えを見た瞬間には、前に駆け出していた。

 二度の斬撃は距離があっても相手に届くように、前方に伸びる。

 故に、『横』への範囲はそれほど広くない。

 ローラーブーツの推力によって前に、より正確に言うならば、『右斜め前に』飛び出したスバルは、燕返しの範囲から既に逃れている。

 

「リボルバーぁぁ!」

 

 ガシャリ、とシリンダーが回転。カートリッジをロードする。

 近接格闘が主体のスバルだが、射撃が使えないわけではない。ショートレンジで離れた位置からよく使う魔法を放った。

 

「シュート!!」

 

 ナックルスピナーの回転による衝撃波を、前に飛ばす。

 威力は拳に劣るが衝撃波の有効範囲は広く、近距離なら威力減衰も気にならない。

 対して、顕正は慌てることなく斬撃を飛ばした長剣を戻し、逆の手に持つ大盾によって正面から受け止めた。

 そしてその隙にスバルは更に接近し、防御を固める顕正を盾の上から追撃する。

 

「……甘い。そんな攻撃じゃ俺の防御は抜けないぞ」

 

 叩きつけられる拳を、飛んでくる蹴りを、顕正は両手のデバイスを駆使して受けきる。

 長剣形態の盾斧は極めて防御力が高く、生半可な攻撃ではダメージを与えられない。

 

「っ、それくらい!分かってます!」

 

 返答するスバルは、それでも攻撃の手を緩めない。

 その様子に疑念を抱いた顕正は、自分の背後に出現した気配に気が付いた。

 

 スバルの攻撃を受ける方向とは逆方向から、槍を構えたエリオの姿。

 

 それはいくら顕正がスバルを見ていたからと、この距離に近付くまで気付かない訳がないほどに近い。

 

 一瞬目を見開く顕正に向かって、エリオの突撃が迫る。

 前方からはスバルの打撃。

 後方からはエリオの突進。

 長剣形態の盾斧は防御的だが、実のところ顕正は『防御魔法』が得意ではない。

 本人のタフネスが高いため、普段はほとんど影響がないが、一発有効打を受けたらおしまいのこの模擬戦では、多方向から攻められれば防御が難しい。

 当然、顕正もそうならないようにスバルと競り合いながら周りを観察していたが、間違いなく数瞬前までエリオの姿はなかった。

 

(……なるほど、ティアナの幻術をキャロがブーストしたのか)

 

 複合光学スクリーンによって対象を透明化する『オプティックハイド』は、かけられた対象が激しく動くか、魔力を大量に行使するとスクリーンの寿命が縮み、姿を現わす。

 データでその幻術が使えることは知っていたが、それでもティアナの技量であれば自分は見抜けると判断していた。

 だがその技量不足を、プリメラと同じく支援魔法を使うキャロが補ったのだ。

 スバルが正面から突撃し、その隙にステルスになったエリオが背後から強襲する。

 短い時間でよくここまで考えた、と素直に顕正は感心する。

 アタッカーの配置も良い。エリオの突撃が、途中で横範囲の斬撃に切り替えられることは知っている。顕正が長剣形態で回避に使うサイドステップでは、横のなぎ払いを避けきれない。

 

「――だが、惜しいな」

 

 ガチャン、という音が響いた。

 

 

 

 

『Sonic move.』

 

 

 

 

 瞬間、雷光が走り、二人の攻撃は空を切った。

 

 

「……は?」

 

「……え?」

 

 空振りの拳と槍を放った二人は、目を疑う。

 

 顕正の姿がない。

 ほんの一瞬前まで二人の間にいた筈なのに。

 

 その思考の隙を、顕正は突く。

 

『っ!?スバル、上!!』

 

「っ!?」

 

 戦況を見ていたティアナの声に、反射的に上に向けてプロテクションを張ったが、間に合わない。

 

『Blitz action.』

 

 魔法によって高速化された長剣の振り下ろしは、スバルの体を弾き飛ばす。

 

「――づあっ!!」

 

 飛ばされる……が、致命打ではない。スバル自身の頑強さで持ち堪えた。

 態勢を戻し、相手を見る。

 顕正は長剣を振り下ろした後に、突撃を回避されて棒立ちになっていたエリオに向けて、すぐさま盾で殴りつけていた。

 エリオはその一撃を受け、スバルのいる地点まで同じように飛ばされる。

 咄嗟に受け止め、

 

「エリオ、まだ動ける?」

 

「……ま、まだ大丈夫です。インパクトの瞬間に身体強化を上げました」

 

 ダメージはあるが、二人ともまだ戦闘は継続出来る。戦意も喪失していない。

 しかし、

 

「さっきの連携はかなり良かった。だが、相手の情報が確定していない段階で踏み切るべきじゃなかったな」

 

 会敵したときの無表情とは打って変わって、口角を上げて賞賛とダメだしをしてきた。ようやくいつも通りの雰囲気になっている。……それが余計に二人の不安を煽った。

 その手にある赤いデバイスに、自然と二人の視線が向く。

 

「……あの、ケンセイさん、そのデバイスって……」

 

 思わず疑問を口にしたエリオに、顕正は笑顔を見せた。

 

「あぁ、管理局製の試作品でな。グランツの機能を再現するのはまだ技術的に難しいと言う話で、これは別なアプローチを試している」

 

 

 カチャっと長剣を構え直し、

 

 

 

 

「名は『ノブレスオブリージュ』。――エミュレートミッド式の盾斧型デバイスだ」

 

 

 

 不敵に笑って、瞳に僅かながらも火を灯した。

 

 

 

 






お久しぶりです、まだ生きてます。
もはや言い訳はいつも通りなので割愛しますね!アイオワ可愛い!

さぁ、久しぶりなくせに前後編です。ぶっちゃけ次がいつになるのか分かりません!

本編中でエリオとキャロとの関係もちょっと出てきましたが、二人は原作通り六課に来るまで顔を合わせたことはありません。ちょっと書き方がややこしいと思いましたが、顕正とエリオ、顕正とキャロはそれなりに交流しています。


そして久しぶりに質問返しのコーナーへ。


Q 顕正のイケメン度が上がってる?

A ちょっと大人になりました。聖王教会でも注目株で、これからは指導する立場になるし、ということで気を張ってます。


Q 魔力至上主義は言い過ぎでは?クロノとかレジアスとかゲンヤとかいるし。

A クロノさんはメインの三人娘と比べると魔力少ない扱いされてますけど、十分エリートレベルの魔力あるんですよ…。
  レジアスさん、ゲンヤさんは現場からの叩き上げで来てて結構な年齢ですし、ゲンヤさんは三佐で止まってる間に一尉だったはやてに階級抜かれてますし…。まぁ、そこらへんはエリートコース行った人間と現場からのし上がってきた人間ってことで分かるんですが、やっぱり魔力量でそのエリートコースに行けるかどうか分かれてるのは、ミッドの魔法文化が見えるものだと思っています。



はい、ではまた次回。


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