仮面の英雄、つまりは私?   作:虚灯

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気まぐれに連続更新。


打算的同盟とお母さん。

「……は?」

 

いきなり何を言い出すのやら。というか一体何がどうなってそうなった?

私が胡乱気な目で見上げると、少年は慌てたように説明をしだした。

 

「え、ええっとね!

 君ってさ、確かに小学生としては友だちも多いし、充実した毎日を送ってるけどさ。

 転生者として考えたら、完全に孤立してるでしょ? まあ、僕が言えた話じゃないけど……」

 

そうして、自分で言ってちょっと落ち込む。

なんだこいつ。めんどくさい。

 

「だけど、僕はチートも使って色々情報収集してるから、状況は分かってるんだよ。

 ……でも、君は違う」

「それは……」

 

確かに、こいつの言うとおりだ。

私は、今他の転生者が何をしているのか全然知らない。

知らなくても別に問題なかったし、そもそも興味なかったからな。

だけど、さっきこいつが言ったように、今後巻き込まれることが必須だとしたら、

今のままじゃちょっとマズイことぐらい、私にもわかる。

 

「でもね? 僕も結構似たような状況なんだ」

「? どういうこと?」

 

さっきこいつ、私と違って状況は把握出来てる、的なことを言ってたよな?

つまり、情勢を見て自衛することぐらいは出来るはずだ。

それなのに、私と同じって……?

 

「つまり、完全に蚊帳の外。主な出来事の動きには、全く関われないんだよ。

 確かに現状は分かる。でもそれはあくまで最低限でしかない。ちょっと不十分なんだ。

 一応原作と深く関われる年代からは外れてる……

 ……他の人に言わせると、ハズレの年に生まれはしたけど。

 でも、それだけで我関せずを決め込めるほど、この街の状況は単純じゃない」

 

……つまり、今のままだとめんどくさいことになる可能性がある、ってことか。

いや、麻帆良にいる限り、転生者である限り、なかなかそれらから逃げることはできないだろう。

 

「……それで私と組んで、ちょっとでも影響力を増しておこうって算段か」

「正解。さすがだね。君なら他の人と違って、変に頑張らなそうだし」

 

にっこり笑ってそう言われるが、あまり褒められた気はしない。

だって要するに、やる気がなさそうと言われたようなものだ。

 

「でもさ、私は原作組と同い年だよ?

 他に無所属の奴からパートナー探したほうが、厄介ごとは避けられると思うけど」

「うーん、確かにそうなんだけど……」

 

ちょっと気になったところをつついてみると、考えこむような素振りを見せた。

 

「……いや、やっぱり君がいいと思う。他にいる無所属って、なんか得体が知れなくって」

「そりゃ、私も同じだろ。あんたが言ってた噂からするとさ」

「噂はただの噂でしかない。実際にこの目で見てみれば、君ほどわかりやすい人はいないよ」

 

……それは、狙いがわかりやすいって意味だろうか。

それとも単純だって言いたいんだろうか。どっちにしろ嫌な気分だ。

 

「……あんた、結構あけすけな物言いをするんだね」

「君ほどじゃないと思うけど」

 

にっこりと、笑う。イケメンなので、明るい笑みを見せると本当に絵になった。

 

「……はあ。私程度じゃ、何もできないと思うけどね」

「そんなことはないさ。じゃあ、決まりだね」

 

観念したように呟くと、こいつはようやく手を離してくれた。

というか、若干痛い……

私が掴まれていたところをさすっていると、秀才王は感心するように言う。

 

「へえ。ちょっと痛いぐらいで済むなんて、まだ6歳なのに、ずいぶん体が丈夫なんだね。

 実は途中から、結構手加減忘れてたんだけど……」

 

何を言いやがるかこいつは。というか忘れるなよ。

……くそ、道理で痛いと思った。

 

「これから組もうって相手に、ずいぶん扱いが酷いんじゃないの?」

「ごめんごめん、悪気は無いんだ」

 

軽く睨みつけるが、反省の色はゼロ。

全く、気が弱いと思ったら図太いし、バカだと思ったら腹黒いし……

こいつのことは、よくわからん。

 

「はー……全く先行きが不安だよ」

 

わざとらしくため息を付けば、微笑ましいものを見るように苦笑される。

ああ、本当にやり辛い。

 

「あ、そうだ。あんた名前は?」

 

ふと思い出して尋ねたら、秀才王はきょとんとした。

 

「名前だよ。お互いまだ名乗ってないじゃんか。

 それとも何? ずっと会話ではあんたで、モノローグでは『秀才王』って呼ばれたい?」

「え……ちょ、僕のことそんな風に呼んでたの?!」

 

さっき適当に付けたあだ名のことを口にすれば、面白いぐらいうろたえる。

それをニヤニヤと眺めていたら、今度は秀才王が盛大なため息をついた。

 

「……光希だよ。竜胆 光希(りんどう みつき)」

「そ? 私は橘 真尋(たちばな まひろ)。これからよろしくね? 光希」

 

ニヤリと笑ってやると、なんだかげんなりされた。

 

 

  ***

 

 

それから一週間は、本当に何もなかった。

せいぜい、交換したメアドで連絡取り合ったぐらい。

……そう、ここ麻帆良では、小1でも携帯を持ってるのが普通だったりするのだ。

まあ、実は色々と危ない街だしねぇ……原作でもそうだったかは、思い出せないけど。

 

今日は土曜日。学校は休みだ。

そして、あれから初めて光希と会う約束をした日でもあったりする。

まあ、場所はあいつの家なんだけど……

 

「よっ。久しぶり」

「おはよう。ちゃんと来れた?」

「当然。見た目幼女だからってなめんなよ」

 

駅前で待ち合わせてから、竜胆家に向かう。

並んで歩いていると、周囲から微笑ましい目を向けられた。

……まあ、見た目は近所に住んでるお兄ちゃんと遊ぶちびっ子だからな。

兄妹には見えないのは、見た目の印象がかなり違うからか。

 

金髪に赤い目という、明るい系の色彩の光希は、穏やかな笑みと相まって、太陽のような印象だ。

対する私は、暗い空色の髪に深緑の目。無邪気さとは無縁だし、どちらかと言えばクール系?

って、それは私があのヒカリアメーバに頼んだからか。

まあ、目付きが尖めなのは同じと言えなくもないけど……

 

「ついたよ」

 

と、色々考えているうちに目的地に到着していたらしい。

 

「おー、ここが」

 

意外とおしゃれな一軒家だ。

私があちこち眺めていると、光希は家の扉を開ける。

 

「母さ―ん! 友達つれてきたよー!」

 

その声は歳相応の子供のもので、私はちょっとびっくりした。

だって、こいつなんか考え読めないし……

あっけに取られている間に、奥からは光希のお母さんらしき人が現れた。

 

「あらー! 可愛いお友達ね。お名前は?」

「たちばな まひろ、6歳です!」

「まひろちゃんっていうのね。どう? 光希は優しくしてくれる?」

「うん! メールでまいにちおはなししてるの」

「あら、素敵ねぇ! これからも光希のことをよろしくね?」

「うん!」

 

しゃがんで目線を合わせられたことで、一気に子どもスイッチが入った。

ハキハキと、元気いっぱいに応対をする。頭をなでられて、ちょっとくすぐったかった。

光希のお母さん、優しそうだなぁ。

 

「さあ、上がって上がって。

 光希、キッチンにクッキー用意してあるから。まひろちゃんと食べるのよ」

「うぇっ?! あ、うん……」

 

そして、そんな私たち(というか主に私)を見て目が点になっていた光希は、

竜胆さんに言われて慌てて動き出す。

 

「あ、橘さ……まひろちゃん。2階上がってて」

「わかった!」

 

うっかり苗字で呼ぼうとしたので、睨みつける。年下をさん付けする小3男子があるか。

おかげで子どもモードが解けてしまった。だから最後のセリフは演技だ。

軽くシニカルな笑みを向けてみせると、光希は苦笑いを浮かべた。

 

 

「お待たせ―……って、何してるの」

「ん? エロ本でもないかなーと。男子の部屋来たときは鉄板だろ?」

「無いよっ! さすがに小学生の部屋にはないよ!」

 

暇つぶしに家探しでもしていると、お盆にクッキーとアイスティーを乗せて、光希が戻ってきた。

軽く漫才のようなやりとりをして、床にお盆を置く。

 

「ごめんね。今ちゃぶ台持ってくるから……」

「いや、いいよ。このままで」

 

なんだか手作り感のあるクッキーを一つかじると、バターの香りがした。

おお、美味しい。見た目はちょっと歪だけど、味は店売りとも遜色が無いよ。

 

「光希のお母さん、料理上手いんだねー」

「そ、そうかな? そんなことはないよ」

 

思ったままに口にすると、何故か真っ赤になって照れた。

そして、誤魔化すようにクッキーを一つ、口の中に放り込む。

……反応が謎だ。これが年頃の男子という奴なのだろうか……

 

しばらく、会話もなしにおやつを食べる。あ、このお茶も美味しい。

アイスティーを飲み干し、一息。

それから、ようやっと私は口を開いた。

 

「……で? 今日は一体なんの用なわけ?」

 

そう切り出されて、光希は初めて要件を思い出したようだ。

 

「えっ? あ、ああ。そうだった。 ねえ橘さん」

「まひろ」

 

即座に訂正すると、「え。」と固まった。

 

「だから、真尋でいいって。そもそもあんたのが年上なんだからさ。

 どっかでまた、さっきみたいなポカやらかされたらたまんないし」

「え、ああ、うん。わかったよ」

 

若干ビックリしていたようだが、素直に頷く。

というか、あんたは私をなんだと思ってるんだ……

 

「えっと。ねえ真尋ちゃん。真尋ちゃんって、能力使ったこと……

 ……というか、鍛えたことってある?」

 

……What?


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