金剛(壊)   作:拙作者

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ついつい衝動のままに書いてしまいました…
しかもそれをハーメルン様に投稿するという暴挙。
皆様のお時間の僅かな足しにでもなれましたら、それだけで幸せです。
取扱説明書や規約は読んだ上で投稿したつもりですが、もし不手際がありましたら何らかの処理をとります。

H26.1.2 一部改訂しました。独自・捏造設定色が強いため、苦手な方はご注意ください。


0 ぷろろーぐ

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いつから、どこから奴等が現れたのかは解らない。

禍々しく軍艦に宿る恐るべき怪物--深海棲艦。

その力の前に今までの武器の一切が通じず、成す術もなく敗退していく人類。

 

だが、そんな彼らの前に救世主とでも言うべき存在が現れる。

人ならざるモノによって現代に甦った、かっての大戦の折に力を振るった軍艦と。

そこに宿る女性や少女達--艦娘たち。

 

彼女達の力を借り、心を通わせることのできる人物--提督を中心として。

人類は反撃に出た。

 

艦娘達と、深海棲艦との間で繰り広げられる、いつ終わるともしれない激しい戦い。

 

 

-これは。その最中に生み出された、ある艦娘の話である。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

人類が奴等--深海棲艦に牙を向けられて、どれくらい経ったのか。

救世主である彼女達--艦娘達と共に戦い始めてからいかほど経ったのか。

 

そんな中で、今日も世界中で絶えることなく両者の争いが続いている。

 

 

-この戦場も、その1つ。

 

激しく砲火が交わされ。

砲弾が入り乱れ、火花が舞い散る。

普段は平和な姿を見せている海原は、今、激戦の地と化していた。

 

2つに分かれた陣営。

少女達が宿る軍艦--艦娘達と。

化け物が宿る軍艦--深海棲艦。

 

互いに退く様子もなく、戦意の応酬を繰り広げる両者。

 

…しかし。よく見ると、明らかに両者に戦力に開きがある。

艦数は互いに5隻。

だが、その内訳は。

深海棲艦側は戦艦級が核に居座り、その周りを重巡級で固める。

大型艦艇を中枢に据え、その周りを中型艦艇で固めたその陣容は、押し潰されるかのような重圧感がある。

 

一方の艦娘側はと言えば。

5隻の内、4隻までが軍艦としては最軽量クラスである駆逐艦。

淀みのない動きから、かなりの戦歴を積んでいることが窺えるが。

それでも、深海棲艦艦隊と比べれば迫力不足は否めない。

 

一見して、圧倒的な戦力の差があることが一目瞭然な両者。

 

…が。

そんな状況でも、艦娘達に全く怯む様子は無い。

 

「艦列乱さず、そのままよ!」

 

縦一列に並んだ駆逐艦。

その先頭に位置する艦に宿る艦娘--暁が、甲板上で長い髪を風に乱れさせながら、小さな身体を震わせるようにして子供らしさを多分に含んだ声で叫ぶ。

 

 

 

「解ってる。やるさ」

 

2番目の艦に宿る艦娘--響が冷静さを失わず、静かな声で応じた。

声と同じく、沈着な瞳には何の揺らぎも無い。

 

 

 

「りょーかいっ!行っくわよー!」

 

続く3番目の艦に宿る艦娘--雷が、活力そのままに勢いよく答える。

声を聞くだけで伝わる活発さは、この局面でもまったく曇っていない。

 

 

 

「な、なのですっ!」

最後尾を務める4番目の艦に宿る艦娘--電が、どもりながら、けれど懸命に返答する。

内気で争いを好まず、心優しい眼差しを。今は怯むことなく戦いに向けている。

 

 

 

 

かっての大戦の折に第六駆逐隊として編成を組んだ暁型駆逐艦の4隻。

その艦娘として顕現しているのが彼女達だ。

顔立ち・体躯はいずれも幼さを色濃く残した少女のもの。

 

圧倒的な敵戦力を目の前にしている彼女達だが…その表情には絶望など一片も浮かんでいない。

 

なぜなら、あれくらいの敵など恐れる必要はないのだから。

 

 

 

『みんな、行けるな?』

 

彼女達に通信が入ったのはその時。

低く、けれど柔らかい青年の声。

それは、彼女達にとって最も身近な人間である、提督のもの。

兵器である自分達にも対等に、そして心を開いて接してくれる。

優しく、頼りになる人物。

 

その彼の声も、今、自信に満ち溢れている。

彼とて通信を介して、両軍の陣容を把握している。

が。

把握してなお、この落着き。

つまりは、彼も自陣営の勝利を微塵も疑っていない。

 

そして、それは彼女達も同様。

 

「当然よ!見てなさい!」

 

4人を代表して答えた暁の視線が前方に向けられる。

それを追うように他の3人の視線も。

そして提督の意識も、そちらに向けられる。

 

第六駆逐隊のさらに前。

単縦陣の先頭に-【彼女】は、いた。

 

 

山かと見間違えるような巨大な艦影。

動く要塞とでも言うべき分厚い装甲。

何者も近づかせないかのような大量の武装。

破壊の権化とでも言うべき、大きな砲口を広げる主砲。

 

-軍艦の中での最大カテゴリー、戦艦。

その中でも、旧式ながらも速力を兼ね備えた高速戦艦。

-金剛型1番艦、金剛。それが、この艦だ。

 

 

…だが。この艦の艦娘として顕現している【彼女】の姿は。

通常種の艦娘とは明らかに異なる、異質だった。

 

風にたなびく、透き通るよう繊糸のような艶やかな長い髪。

側頭部付近で編み込まれた髪塊。

美しさと凛々しさで形作られた可憐な容貌。

繊細さとしなやかさを合わせ持つ体躯。

その体躯を包むのは和と洋の融合衣装とも言うべき、清廉な巫女服と靡くスカート。

 

-ここまでは、通常の金剛の艦娘と同様だ。

だが、決定的に異なるのは-その瞳と、表情。

 

透き通った瞳。

…ただ、そこには熱がまるで無く。

無機質さをそのまま形にしたかのよう。

 

そして、それは表情についても同様。

真一文字に結ばれた口元。

彫像のように固まった頬。

 

冷静さでも冷徹でもなく、そもそも意志をまるで宿していない顔。

能面のようなその有り様は、顔立ちが整っているだけに。

より一層の近寄り難さを放っている。

 

 

 

 

 

かっての大戦時に活躍した数多の軍艦。

その情報を写し取って作り上げられた船体に、女性の管制人格が付随した存在。

それが、艦娘である。

 

いわば、大戦時の物言わぬ艦艇であった頃の情報こそが原本で。

それを元に、女性人格を伴って顕現した艦娘はコピーとでも言うべき存在だ。

 

原本は1つしかないが、コピーはいくらでも取れる。

故に艦娘については1艦娘1人というわけではない。

例を挙げれば、金剛という艦娘は他の鎮守府にも幾人か存在しているし。

艦隊の戦力として用いている提督も幾人か存在している。

 

そして、艦娘という女性人格についてであるが。

元の艦によって外見・性格が定まっている。

例えば金剛の艦娘は、巫女服とスカートという和洋折衷の衣装に身を包み、底抜けの明るさが特徴だ。

所属している鎮守府での待遇や、管理している提督の接し方によって多少の差異は出てくるが、根幹の部分は共通している。

 

 

…―けれど。【彼女】は、どうだろうか。

外面こそ金剛という艦娘のものだが。

その在り様は、まるで違う。

 

 

そこに、よく知られている金剛という艦娘の姿は無い。

快活で溌剌。

積極性と行動力に長け、周囲の雰囲気を高揚させる抜群のムードーメーカー。

そんな、金剛という種の艦娘の共通特徴が-

【彼女】にはまるで無い。

 

 

表情を変えず、言葉を喋らず。

底知れない不気味さ。

得体の知れない、計り難さ。

 

 

 

…けれど、そんなことは。

この第六駆逐隊と彼女達の提督にとっては何ら問題では無いのだ。

 

彼らは知っている。

【彼女】が、その機械のような瞳の下にどれだけの思いを秘めているのか。

無表情な顔の下にどれだけの温もりを持っているのか。

その強さに。その優しさに。

今まで、どれだけ救われてきたことだろうか。

 

…彼らにとって、【彼女】は。

出会ってからずっと共に戦ってきた、何よりも頼りになる「仲間」なのだ。

 

 

「(あの時からだった、な。俺達の流れが変わったのは-)」

 

通信を介して戦場と繋がっている鎮守府に身を置きながら。

青年提督は、過去に思いを馳せる。

少しずつ追い詰められていた自分達が新たな道に踏み出すことができた、そのきっかけとなった、あの日。

【彼女】と、出会った日のことを思い起こす-・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…さてさて。

人の心を完全に知ることはできないとはよく言われるが。

 

…実は、この場面もその例外では無い。

青年提督と第六駆逐隊の面々が確かな思いを胸に、決意を固めている一方で。

その中心に据えられているはずの【彼女】は。

 

-いや、正確には。

金剛の姿を形取ったナニかに宿った「彼」は。

何を思っていたのか。

 

言えることは1つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の心は何時だって擦れ違いなのである。

 

 

 

 

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海は広いな、大きいなー…

っていう歌は、実に良くできた歌だと思う。

そう、海は広くて大きい。

人間のちっぽけな悩みなど、丸ごと呑み込み、洗い流してしまうほどに。

 

思うに、人間には海に対する憧れが根付いているのではないだろうか。

時として人の掛け替えのない命を、いとも簡単に奪ってしまう無慈悲な自然の体現者。

それでも。人はどこかで海への憧れと親しみを持ち続ける。

きっと、それは人間が海から生まれたから。

 

人間だけでなく。

全ての生命の素となった、海。

正しく、命の母。

 

ああ、母よ。

そんなアナタに包まれていれば。

今のこの状況だって、きっと、なんとかできる。

 

-平凡な男であったはずの自分が。

どういう訳か、戦艦の分身であり、そのものでもある女の子になってて。

化け物どもからの容赦のない敵意と砲弾を浴びせかけられてるような、こんな状況でも。

きっと。なんとかできる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…訳ないですよねー。

 

ああ、母よ。

あなたでも、こんな俺の状況を変えることはできないのですね…

 

 

-ああ、もう…

畜生ぉぉぉぉぉぉぉっ!!

 

…と叫びだしたくても、全く反応してくれない今の俺の(仮の)身体。

己の感情すら微塵も外に表すことのできない無表情金剛ボディー。

 

 

 

何の変哲も無い、平凡な人生を送っていたはずなのに。

目が覚めたら、艦娘の金剛の姿になってました。

はは、ワロスwww

…で済まされてないのが今の状況である。

 

 

 

ど う し て こ う な っ た 。

 

いや、確かに艦これには嵌ってたし。

金剛ちゃん来ないかな~とは思ってたけど。

 

だからと言ってこれはないだろ。

 

胸が湧き踊り、心が熱くなるような幻想。

それは、二次元の世界だからこそいいのであって。

現実は、平凡平穏が一番なのだ。

 

 

そんな俺にとっては、今、身を置いてる状況は非常によろしくない。

何が悲しくて、化け物-深海棲艦と命を懸けて張り合わねばならんのだ。

とっとと逃げ出すに限る…と行きたいが、残念ながらそれもできない。

 

 

後ろに視線を向ければ自分の船体の後ろ。

整然と列を形作って続いている駆逐艦と、その分身として顕現してる艦娘達。

第六駆逐隊の面々である。

懸命なその姿と、可愛さ全開な外見は正に至宝。

彼女達と出会えたことはこの世界に来て得た、数少ない幸福の1つだね。

もちろん、あくまで眺めるだけであり。彼女達の嫌がることはしない。

理由をつけて無理やり触るとか言語道断だ。

YESロリータ、NOタッチだ。

 

…それでも目がにやけちゃうのは止められない。

元の世界の元の外見で晒してたら通報ものだろうなってツラを晒すとこだけど。

今の、無表情金剛フェイスは微塵も動かないので、内心を悟られる心配は全く無い。

 

自分で見ても不気味な、機械みたいな目だけど。

こういう面でみれば感謝感謝だな。

いくら内心で鼻息荒くハァハァしててもバレないよ!やったね!

 

 

 

 

-え、提督?

…まあ、感謝はしてるのは間違いないな。

欠陥艦娘である俺を処分せずにいてくれてるし。

 

ただ、まあ。

奴に贈る言葉はこれ1つである。

 

 

 

-リア充は、敵だ!!

 

いや。

奴がこれまたよくできた人間なんだ。

すらりと伸びた身長と、凛々しさと力強さを合わせ持った顔立ち。

そんな紛れもないイケメンで、その上、性格も良いと来てる。

精神的な強さと他者への思い遣り。

自分に厳しく、他人に優しく-を体現してる男だ。

 

当然、モテる。

自らの艦娘である第六駆逐隊の面々は勿論。

他の数多くいる提督所属の艦娘の中にも好意を寄せる者が数多くいるらしいし。

同じ人間の女性からも熱い視線を送られてる。

奴にラブレターが届かなかった日は、ほぼないんじゃないだろうか。

 

 

…ここまでやられちゃ、悔しさすら湧かないよ、ははは・・・

 

 

 

――なんてことは無い。

 

他者の完璧さを許容できるほど、俺はできた人間(今は艦娘になっちゃってるけど)ではなく。

そんな俺にとっては。

外見性格共に超一級な奴は…妬ましくて、たまらないのである。

 

正直、感情が抑えきれず。

元の世界だったらもろに悪感情丸出しの表情だったろうが。

そこは安定の無表情金剛フェイス。

いくらマイナス感情を抱こうが、相手には全く伝わりません。

 

無表情な顔が、これほど便利だとは。

これで、いくら妬んでも大丈夫だね!

 

 

…まあ、正直な話。奴には心底感謝してるけどね。

奴がいなければ、とっくに俺はお陀仏だったろうし。

こちらを見下したりせず、対等な目線で接してくれるからな。

 

 

そんな提督とロリッ子達が頑張ってるし。

まあ、目立たない程度にお手伝いはしようか。

自分の命が危なくなったら直ぐにスタコラだぜー…なんて思ってたら。

 

変なフラグが立ち続けて、今に至る。

ここまで来たら、逃げたくても逃げれません。

 

 

 

 

いやもう。

どうしてこうなったのか。

どこで間違えたのか。

 

後悔で胸焼けを起こしそうになりながら、過去のことを思い起こす。

この世界に来た、あの日のことを。

 

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ここまで来ていただいた方、誠にありがとうございます。
金剛ちゃんファンの方、こんなの書いてすみませんorz
こんなの書いてるから私の所には金剛ちゃんが来てくれないんですね。

少しでも皆様の時間の足しになれましたでしょうか。
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました!

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