第8話
「でなあ、本当に変な夢やったんよ」
「そうですね、中々興味深かったです」
私が三年生になった四月のある日、はやての家に行くと彼女見た夢の話をしてくれました。
なんでも、なのはが無印一話で見ていたあの夢を、彼女も見ていたらしいのです。
まあ、彼女も闇の書にリンカーコアを食われているとは言え、資質は十分にありますから、届いていても不思議ではないですね。
…………もし、先にユーノを見つけていたのがはやてだったら、魔法少女リリカルはやてが始まっていたかもしれませんね。ギャグが多そうですが。
「魔法なぁ~、私も魔法使えたら足も動くようになるんやろうか…………」
はやてちゃんが悲しそうに呟きます。
その言葉には悲嘆と諦めが含まれており、今の医学では自分の足が治る見込みがないということを彼女が思っているのです。
「はやてちゃん、そう諦めることはないのですよ、いつか必ず、はやてちゃんは自由に歩けるようになるのです」
「七海ちゃん……」
これは原作知識があるから言えることですが、そんなものなくても私は彼女にそう言いたかったのです。
ああ、今はこの記憶が恨めしい。
原作知識が邪魔をして、彼女とちゃんと向き合えない。
どんな言葉を言っても、それには原作知識と言う名のレッテルがつきまとう。
今すぐ帰って、記憶を封印してしまいたいが、この世界には原作知識なしでは避けきれない危機が大量にあるのです。
主にクローンとかクローンとかクローンとか。
悔しいけれど、記憶をなくした私があのマッドサイエンティストの目を逃れられるとは思えません。
ですから、私がこのまま記憶を維持したままの方が巡り巡ってはやてちゃんたちの手助けになるのです。
…………言い訳ですけどね。
本当に彼女と向き合いたいなら迷わず記憶を消すべきなのでしょうね。
単純にそれをする勇気が、私にないだけなのです。
~八神はやて~
「じゃあね、七海ちゃん」
「ええ、また……」
七海ちゃんが帰って、私は今日の彼女のことを思い出す。
最近、彼女は悲しい顔することが多くなった。
本人は隠しているつもりなんやろうけれど、私にはわかる。
だって、入学した時からずっと友達やもん、わからへんはずがない。
「…………何か、あったんやろうか」
彼女が悲しそうにする時は、本当に突然。
例えばグレアムおじさんの話をしている時。
例えば将来の話をしていた時。
今日は、私の足の話をした時。
多分、彼女は私のことを哀れに思ってあんなことを言ったんやないと思う。
七海ちゃんは本当に私の足が治ると思ってる、けれど、彼女しか知らない何かが彼女を苦しめているんや、と思う。
それが何なのか、私は知らない。
いつか、私が死ぬ前に話してくれたら嬉しいけど、どうしたらいいんやろう………………。
~高町なのは~
「ふぅ、今日はこれで終わりだね」
飼い犬にとり憑いたジュエルシードを封印して、私は杖を下ろす。
「うん、この辺にもう反応はないし、今日のところは帰って大丈夫だよ」
私の肩に乗っているフェレット、ユーノ君がそう話す。
「じゃあ、他のところを探してもらってる二人に連絡入れて帰ろうか」
そう言って私は足早に階段を下りる。
「今日のご飯はシチューなんだ♪」
「それは美味しそうだね、あ!」
「え?」「きゃ!?」
ユーノ君が気づいた時には手遅れでした。
道角を曲がったところで、私は同じくらいの女の子とぶつかってしまったの。
「あいたたた……、あ大丈夫ですか!?」
私は急いでその子に手を差し伸べる。
しかし、彼女は私の手を取らず、何かを探している。
「えっと、その……、この辺に杖が落ちていないでしょうか?」
結局見つからなかったようで、私にその在り処を聞いてくる。
そして、私はこの時初めて気がついたの。
彼女の両目が閉じていることに。
きっと、私の手を取らなかったのも、取らなかったじゃなくて取れなかったの。
彼女は、目が見えないから。
そう考えると、私は彼女になんて悪いことをしてしまったのか、十分すぎるほどに理解できた。
彼女はただ普通に道を歩いていただけ、何も悪くない。
私が、ちゃんと前を見ていなかったのが悪いの。
「きゅー、きゅぅーー」『なのは、こっちこっち!』
ふと気がつくと、肩にいたはずのユーノ君が少し離れた所で杖の側で鳴いているの。
『あ、ユーノ君ありがとう!』
私はそれを拾い上げて、彼女に手渡す。
「あ、あの……、ごめんなさい!」
そう言うと彼女は少し困ったようにこう返してきたの。
「いいえ、それほど気にすることではありませんよ、それより杖を拾っていただきありがとうございます」
そう微笑む彼女。
「うう……」
この人は、自分より大人なの。
髪も綺麗で、口調も丁寧。私が勝てるところが見当たらないの
「あの? どうかしました?」『なのは? どうかしたの?』
「え、な何でもないの!」
二人に同時に聞かれて、ちょっとびっくりしちゃった。
「そうですか……、では最近何かと物騒なので、あなたも気をつけて帰ってくださいね」
「あ、はい!」
そう言ってゆっくりと去っていく彼女。
私はその人の姿をずっと見ていることしかできなかったの。
~八坂七海~
「ビックリしたなぁ……」
まさか帰り際に主人公と遭遇するとは思いませんでした。
流石にちょっと動揺しましたが、問題ありません。
今の私に魔力はありません。
つまり、傍から見れば目が悪いただの一般人なのです!
きっと今日のことも、明日になれば忘れるでしょう。
モーマンタイなのです。
「シチュー……」
ふと、彼女がつぶやいていた料理を思い出す。
そう言えば、今日のご飯はなんだろう?
今日はお父さんがいるのでSAN値が減るような創作料理ではないのは確かなのですが、少し不安ですね。
BLTサンドですら、お母さんはクトゥルフ要素を混ぜ込みますからね、油断できません。
「バウ! バウ!」
「……おや?」
聞き覚えのある声が、前方から近づいてきます。
「てぃんだろす? どうしてここに?」
いつもは鎖に繋がれているはずなのですが、外れてしまったのでしょうか。
「まったくしかたないですね」
私はしゃがんで、彼を撫でる。
「…………おや?」
彼は、一度頭を背中に回すと、何かを加えて私に差し出します。
「私に、ですか?」
「バウ!」
そうだよ、と言うように元気に一回鳴く。
取り敢えず刺もなさそうなので、私はそれを受け取ることにします。
「ありがとうです、てぃんだろす」
それを手に取ると、それがどんな物質なのか手から伝わってくる。
何かひし形のような形をしていて、材質は結晶でしょうか?
最初は冷たかったのですが、私が触るとほんのり温かくなる。
………………何やら、すごく嫌な予感がします。
私は、サードアイを出し、それを見る。
それは、青く綺麗な結晶で、何か力を感じる。
無印にて一番重要なキーアイテム、ジュエルシードでした。
「…………てぃんだろす、ありがとです」
私は優しく彼の頭を撫でる。
ほっておいても勝手に主人公たちが回収してくれるので、私は何もしないつもりでしたが、まさかそっちから勝手に寄ってくるとは思いもしませんでした。
しかし、手に入れたものは仕方ありません。
これがどんな風になっているのか気になりますし、ちょっと帰って分析してみましょう。
ちなみに、今日の晩御飯はヤギ肉を使ったカレーでした。
…………あ、もちろん普通のヤギですよ、多分。
う~ん、年末は忙しくなりそうですので。
今年は後三回しか更新できません。
それまでは全力で頑張りますので、楽しんでくださると幸いです。
では
2013/12/22
誤字修正