十二月二十四日、クリスマス前日の午前十時。
雪降りしきる中、私は片手に食べ物が入った袋を持ち、もう片方を愛犬に引かれゆっくりと街を歩いています。
「さ、寒い…………」
ええ、ものすごく寒いです。
特に自分は目を使わない分、他の感覚が鋭くなっていますので本当に辛いです。
明日はさぞかし綺麗なホワイトクリスマスになるでしょうが、私にとっては地獄ですね。
ならばおとなしく家にいなさい、と言われるでしょうがそうにもいかない訳があります。
今日は私の唯一の友達、八神はやてちゃんとクリスマスパーティーをする予定なのです!
…………まあ、私とはやて、二人っきりのパーティーですが。
これは仕方ないのでしょう。
結局、あのトラック事故があった後もはやて学校に来ていないから半ば忘れられているのです。
最初は何人かお見舞いに行った人もいたみたいですが、今はもう私だけです。
「バウバウッ! ガウ!」
お、そんなことを言っている間についたようですね。
私の手を引くのは我が家の飼い犬『てぃんだろす』です。
……正直母をいろいろと疑いたくなる名前ですが、もう決まってしまったので取り返しはつきませんね。お父さんも概ね賛成のようですし。
しかし、ふざけた名前とは裏腹に、目的地に近づくと吠えてくれるので私的にはとても助かります。
えっと、チャイムチャイム……、ありました。
――ピンポーン――
「はーい!」
元気な声が聞こえると、ガチャりと音がした後、扉が開いてはやてが現れた。
「あー七海ちゃんよう来たな~、ささ、上がって上がって!」
「うん、あ、ちょっと待って、てぃんだろすの足ふくから」
てぃんだろすの足を綺麗にした後、リビングルームで私たちは食材を眺めていた。
目の前の並んでいるのはネギ、たぶん鳥肉、豆腐、人参、キャベツにきのこ。
「う~ん、やっぱ無難にお鍋かなぁ」
「材料的にも、そうでしょうね」
あ、もちろんてぃんだろす用の犬缶もありますよ。私たちだけ美味しいもの食べるなんて可哀想です。
「じゃあ取り敢えず何を手伝えばいい? 一応野菜を切るくらいならできるよ」
「いやいや、七海ちゃんにそんなことさせられへんよ! 間違って手切ったら危ないし」
むう、そんなこと音が見える私には滅多にないのですが……、しかし、はやては一度言ったら聞きませんので大人しく材料を渡すだけにしておきましょう。
「ねえねえ七海ちゃん」
「なんですか?」
適当に材料を手渡しながら、私は応える。
「親御さんと一緒に京都行かんくてよかったん? そっちの方が楽しそうやと思うんやけど」
「ああ、そのことですか……」
本当なら私は今日から三日間、京都のとある名所行くことになっていたのですが、私は無理を言ってそれを断り、はやてちゃんの家に泊まることにしたのです、てぃんだろすも一緒に。
断った理由についてですが、大きく二つあります。
一つ目ですが、一年の時はすっかり忘れていたのですけど、はやての両親は既に死去しており、このままA'sまでずっと一人のクリスマスどころか、一人ぼっちの一年間を過ごしてしまうことに気がついたからです。
流石にこれはあんまりです。
担当医の先生やヘルパーさんがいるとは言え、思春期の子供にこれは酷すぎるのです。
だからせめて、彼女らが来るまでの間は私がはやてちゃんの支えになりたかったのです。
原作ではそれを乗り越えていましたので私がいなくても大丈夫なんですが、だからと言って私がそれを無視することはできません。
私のことを今も見ている提督に知られるデメリットはありますが、能力さえ使わなければ問題ないのです。
……まあ、何度も足を運んでいるので今更ですが。
そして二つ目、これはもっと自分勝手な理由です。
この八年間、あの二人と一緒に旅行に行くと大抵ロクなことにならないのです。
例としては、四歳の春に行った外国のパーティーでは爆弾事件に巻き込まれ。
その年の夏、海に行けば波に飲まれ。
五歳の冬、吹雪の中の登山なんて死ぬかと思いました。
…………そして去年、あの夏の日を私は絶対に忘れない。
以上のことにより、私は絶対にあの人たちとは旅行に行かないと心に決めたのです。
まあ、あの年中相思相愛な二人ならいろいろと大丈夫でしょうが、……家族が増えそうなのは気にしない方がいいでしょうね。
ともかく、簡潔言えば私の命とはやてのために私は今ここにいるのです。
一人で持ちきれない着替えなどは先にお母さんが届けていてくれたので問題ありません。
「別にいいのです、たまには夫婦ふたりっきりで楽しむ時間も必要なのですよ、…………私の命のために」
「?」
最後の方は聞こえなかったのかはやてが首をかしげている。
「いえ、……あ、鍋が吹きこぼれてますよ」
「え? ああ、ほんまや!!」
慌てて火を弱める彼女。
「まあ、今はそんな些細なことはどうでもいいのです、今日はせっかくのクリスマス・イブを楽しみましょう」
「些細、なんかなぁ……」
納得いかなさそうなはやての足元にてぃんだろすがジャレついてくる。
ナイスです。
「ほら、てぃんだろすもはやてと一緒がいい、と言ってますよ」
「んん~、まあいいんかなぁ」
渋々ながらも納得してくれたようですね。
彼女にとって最後の普通のクリスマス、一人と一匹では限界がありますがとことん楽しませて見せましょう!
~どこかの管理外世界~
海鳴市に穏やかなクリスマスが訪れようとしていた時の頃。
管理外世界のとある遺跡。
――カツン、カツン。
岩を砕く音だけが辺に響く。
かつて栄華を極めたであろう建造物は見る影もなく、今は只のガレキとして無残な姿を晒している。
「……多分、ここであってるはず」
少年は一心不乱にある一点だけを掘り続ける。
十分、いや一時間だろうか。
時間の感覚はなく、何度も何度も同じ場所を掘り続けた結果。
――キィィィン。
何かに弾かれ、採掘道具が彼の腕からこぼれ落ちる。
「……………………」
彼は手で慎重に砂を取り除いていく。
「あった」
彼はそれを拾い上げる。
太陽の光にかざすとそれは透けていて、水晶のような物体だとわかる。
ただ違うのは、その中央にローマ数字で「21」と刻印されているところだけだった。
~第1管理世界・ミッドチルダ~
「……………………」
暗い部屋の中、空中に浮かぶ監視用の映像だけが彼を照らしている。
映像の中の少女は盲目の少女と楽しいそうに言葉を交わす。
「父さま……」
「……アリアか」
彼は振り向かずに返事だけを返す。
「また、見ていたのですか……」
「……………………」
彼は何も言わない。
けれど、少ししてゆっくりと彼は口を開く。
「最近、この子がやって来てからはやてはめっきり明るくなった、少し前まではどこか陰りがあったが、今はもうそれも目立たなくなった……」
「…………」
アリアと呼ばれた女性は、黙って彼の話を聞いている。
「これを見ていると、私は本当に正しいのか、こんな少女の人生を奪っていいのかと、何かが私を責め立てるのだよ」
「父さま……、しかし「わかっている」」
アリアの言葉を遮り、彼は続ける。
「頭ではわかっている、これが最善だと理解しているんだ」
そう言って、彼は手元にあるカードを見つめる。
「闇の書の因縁はいつか誰かが断たねばならない、それが私だっただけのこと……」
「たとえ、誰を犠牲にしても、成さねばならないんだ」
ちょっと短めな今回
思ったより無印開始まで時間かかるなぁ…………。
でも、ちょっと見ない間に
お気に入り数500以上
びっくりです。
もっともっと面白くかつ自然にネタが仕込めるように頑張りたいですね!
「てぃんだろす」
ニャル子が拾ってきた飼い犬
大人しくて主に忠実なただの犬?