魔眼の少女   作:火影みみみ

4 / 27
第3話

 

 

 こんにちは、八坂七海、五歳です。

 この歳になり私もようやく外出許可をもらえたので、早速この街を探索してみようと思います。

 さあ、どんな不可思議な現象が私待っているのでしょう!

 とても楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………平和ですね」

 

 何もありませんでした。

 いえ、ちゃんと喫茶店や公園や図書館など便利な場所はたくさんありましたが、面白いものや物語のヒントになりそうなものはありませんでした。

 幽霊のようなものは見かけるのですけど、あまり関係なさそうです。

 

「…………まさか、この世界にはファンタジー要素がないのでしょうか?」

 

 となると残りは料理もの、喧嘩もの、恋愛もの、探偵ものくらいしか思いつきません。

 ……恋愛ものだったら最悪ですね、何も面白くありません。

 盲目少女との恋愛、と言えば涙アリの物語になりそうですけど、中身がコレですからね。残念もいいところです。

 まあ、私に惚れる変わり者がいたらの話ですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、収穫がなかった、というわけではありません。

 その中でも一番の収穫と言えるのは!

 

「やってきました、喫茶翠屋!」

 

 

 なんでもこの街で一番人気の喫茶店らしいのです。

 評判もいいし、味も素晴らしいとのことです。

 今日はここで疲れを癒し、探索は終わりといたしましょう。

 いざ、めくるめく甘味の世界へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! 何勝手になのはと話してやがる! 人の嫁に手を出すたぁいい度胸だな!!」

 

「どうして彼女と話すのに君の許可得を取らなければならない? 勝手に嫁認定している君の方が迷惑だろうに」

 

「ふ、二人共落ち着いて~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入って二秒で後悔しました。

 最後の最後でこんなトラブル発生中なんてとことんついていません。

 ちくせう。

 

「あら! 可愛いお客さんね~、お嬢さん一人?」

 

 呆然としていると、店員さんが話しかけてきました。

 

「はい、私一人です」

 

「じゃあこっちね、……あ、もしかして目が」

 

 お姉さんは私の持っていた杖に気づいたようで、その声からは私に同情しているのが伺えます。

 

「はい、ところでオレンジジュースとチーズケーキはありますでしょうか?」

 

 一応盲目ということになっているで、こういうことは先に店員さんに聞いておくにかぎります。

 

「ええ、その二つでいいの?」

 

 私はコクりと頷きます。

 

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 

 そうして奥へ去っていくお姉さん。

 フレンドリーなのはいいのだけれど、従業員としてそれはどうなのだろう?

 いや、それもここが人気の一因なのかもしれない。

 そう考えれはこういうのもありなのだろうか?

 

 

 

「表にでろ! 今日こそ決着つけてやる!」

 

「ああいいとも、今度こそそのねじ曲がった思想を叩きのめしてくれる!」

 

 

 

 ……ああ忘れてました、そんなこと考えている場合じゃありませんでしたね。

 とりあえずこっそり観察してみることにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この、く……、そ…………」

 

「いい加減……、諦め、たまえ……」

 

 

 

 どんぐりの背比べという言葉がぴったり当てはまるほど、この二人の実力は拮抗していました。

 ……いえ、そう言うと聞こえはいいのですがただの幼児の殴り合いなんてそんなもんですよね。期待する方がおかしいです。

 

「チーズケーキとオレンジジュース、お待たせしました~」

 

 おっと、ようやく来ましたか。

 正直飽きてきたところなので助かります。

 では、頂きま

 

「ねえ、君って小学生?」

 

 食べようとしたところに、お姉さんが声をかけてきます。

 嘘をついても仕方ないのでここは正直に答えておきましょう。

 

「いえ、まだ五歳児ですが」

 

 私がそう言うとお姉さんは驚いたように話してきます。

 

「え、そうだったの? ごめんさないね、ちょっと小さいけど大人びてたからつい」

 

「いえ、よく言われます」

 

 実際よく言われたりする。

 

「……という事はなのはと同い年なのね」

 

「なのは?」

 

 はて、どこかで聞いたことがあるような気がします。

 それと同時にすごく嫌な予感がします、寒気まで……、風邪でもひいたのでしょうか。

 

 

「ええ、外の二人の男の子と一緒にいるのが私の娘なの」

 

 娘!? 娘と言いましたかこの人!?

 声の感じから二十歳くらいだと思っていたのに驚きです。

 まさか! この人もお母さんと同じ神話生物なのでしょうか?

 ……一つの街に神話生物が二体とは、カオスすぎます。

 

 まあ今はそのことは置いておきましょう。

 それより気になることもありますし。

 

「あの二人はいつもあんな感じなのですか?」

 

「ええ……、娘がモテモテなのは嬉しいことでしょうけど、いつもああなるのは困っちゃうのよねぇ……」

 

 幼い頃から周囲の男の子を虜にするとは、恐るべき五歳児です。

 

「そうですか、まだ小さいのに大変ですねぇ」

 

「……全員あなたと同い年なのよ」

 

 わぁお、ずいぶんとマセたガキどもですね。

 ……あ、私も人のこと言えませんか。

 

「それはそれは、これから先が大変そうですね」

 

「そうなのよ! 小学生まではまだいいとして、中学生から先がもう心配で心配で」

 

 あらら、どうやら触れてはいけないスイッチを押してしまったようです。

 

「同い年の友達もあの子たちしかいないみたいだし、これからどうなる「母さん」、あら、恭也? 何かあったの?」

 

 店員さんの話を聞いていると彼女の後ろに男性の店員さんが現れました。

 

「母さん、子供相手に何してるんだ? キッチンの人手が足りないから早く戻って来てください、って父さんが泣いてたけど」

 

 それを聞いた店員さんが何やら慌て始めます。

 それよりも、まだ子供がいたことに驚きです。

 声の感じからして私よりもかなり年上みたいですが、もし実子なら驚きの若さですね。

 もう神話生物でいい気がしてきました。

 

「ああいけない! ついつい話し込んじゃった、今行くわ! じゃあまたね」

 

 そう言って奥に引っ込む店員さん。

 それを見送り、申し訳なさそうに若い店員さんが話しかけてくる。

 

「すまない、うちの母が随分と話し込んでしまったようだ」

 

「いえ、それはいいんですけど、あの方は何歳ですか?」

 

 そこだけはとても気になります。

 

「確か今年で二十九だったはずだが……、それが何か?」

 

「……ちなみにあなたは?」

 

「今年で十五になる」

 

 

 

 

 

 

 店員さん、二十九

 

 店員さんの息子、十五

 

 二十九から十五を引くと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………十四………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、ありえませんね。

 きっとこの方は養子なのでしょう、そうでしょう。

 そうじゃなければあの人はドラマになるような人生を送っていることになります。

 ありえません、と信じたいです。

 

「? 体調でも悪いのか、顔色が良くないようだが?」

 

「い、いえなんでもないです」

 

 どうやら表情に出ていたようです。

 もうちょっと気をつけたようでしょう。

 

「お、あっちも終わったようだな」

 

 息子さんは店の入口の方を向いて呟きます。

 私もそちらに意識を集中させると、やけに行き絶え絶えな気配が二つと、その後ろにいる小さな気配が入ってくるのを感じました。

 

「ええ、そのようですね」

 

「……わかるのか?」

 

「こう見えても耳はいい方なので」

 

 実際そうですし。

 

「まあ、そんなものか……」

 

 やけにあっさり納得してくれるのですね。

 これってすぐに信じてくれる人なんて少ないのですけど。

 おや?

 

「隙有り!」

 

 何やらうるさい方が落ち着いた方の隙をついて何か飛ばしたようです。

 

「甘い!」

 

 彼はそれを完全に見切り、それを避けます。

 あれ? なぜかこちらに飛んできましたよ!!

 ……まあ、当然ですよね。

 誰かが避けたら投げたものはその先に飛んでいくしかありませんよね。

 

 取り敢えず射線上にケーキがあるので、そっと移動させておきましょう。

 

 カッ! とそんな音がしてケーキがあった場所を鉛筆みたいな何かが通り過ぎます。

 

 ……おや? 奥の方から何かが。

 

 

 

 

            「――二人共――」

 

 

 その声を聞いた途端、二人はガチガチに固まってしまいました。

 まあ、無理もないでしょう。

 澄んだ綺麗な声でありながら、その中には私でさえ全身が震えるほどの何かが含まれています。

 ただ聞いていた私でさえこの有様なのに、それを直に向けられている二人の状態なんて、想像したくもありません。

 

「あ、えっと、その」

「桃子さん、私は何も」

 

 

 

          「――ちょっとお話、しようか?――」

 

 

 

 !?

 なんでしょう、お話と聞いただけで全身の細胞が危険信号を発し始めました!

 ……これ以上ここに居るのはすごく嫌な予感がします。

 食べるものも食べたので、さっさと撤退することにしましょう。

 

 

 

 こうして、二人にお話している店員さんの脇を通り、お会計をすませた私は何事もなく家に帰ることができました。

 ……あのままいれば二人がどうなったのか知ることができたでしょうが、私は命を粗末にしたくありません。

 

「あ…………」

 

 そう言えば自己紹介するのを忘れていました。

 店員さんの名前は恐らく「モモコさん」というらしいのですが、あちらは私の名前を知りませんよね。

 

 ……今度お母さんと言った時にでも、改めて挨拶しましょう。

 

 

 

 

 

 

 あれ? 私何で出かけたのでしたっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「恭ちゃんどうしたの?」

 

「ああ美由希か、いや、今さっきここにいた盲目の子なんだが」

 

「ああいたね、結構可愛い子! なのはとお友達になってくれると嬉しいんだけど」

 

「それは同意するが、……あの子、背後から飛んできた鉛筆を完全に見切っていたみたいだ」

 

「え!? 勘違いじゃないの?」

 

「ケーキに鉛筆が当たる寸前、それを避けるように移動させていたから間違いない」

 

「……」

 

「まあ、偶然だったのかもしれないが、どうにもそう思えない」

 

「で、でもまだ子供だよ?」

 

「ああ、だからしばらくは様子見だな、一応父さんにも話しておくが、同じだろう」

 

「優しい子、だといいね」

 

「ああ、そうだな……」

 





七海はロックオンされました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。