魔眼の少女   作:火影みみみ

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第21話

 私は、化物だ。

 

 この世界に生まれて、最初は盲目でも楽しく生きていけると思っていた。

 

 でも、それは間違いだった。

 

 私の瞳に宿る力は人間の領域を遥かに逸脱したものだった。

 

 それを実感したのは六歳の時。

 

 私は、初めて、人を殺した。

 

 驚く程あっけなく、人の命を刈り取った。

 

 私が目を向けただけで、人が死んだ。

 

 けれど、私は何も感じなかった。

 

 悲嘆も、後悔も、恐怖も、喜びも、何も感じなかった。

 

 私にとって殺人は、まるで蛇口をひねるかのように当たり前にできてしまう。

 

 この時、私は悟った。

 

 ああ、私は化物なんだ、と。

 

 私は化物とは、中身によって決まるのだと思う。

 

 外見や能力が人間離れしていても、分かり合えるのなら、それは人間。

 

 むしろ、猟奇殺人を行う奴らこそ、化物と言えるでしょう。

 

 

 

 だから、あの男が月村さんを化け物と呼んだ時、私は少し怒っていた。

 

 あの程度が化物のはずがない。

 

 優しいあの子が化物であるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 もし、あの子がだと化物言うのなら、私は、何?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………嫌な夢です」

 

 上半身を起し、私は頬についた汗を拭う。

 どうやら、昨日のことが思ったより響いているようですね。

 また、あの日のことを思い出すことになるとは、思いもしませんでした。

 

「ああ、憂鬱ですね…………」

 

 昨日、神父さんには両親に言わないでくださいとお願いしたのですが、月村さんたちに口止めするのを忘れていました。

 まあ、あのお二人のことです、きっと言いふらすことはしないでしょう。

 けれど、最低でも月村家、ひいては高町家にも私のことが知られてしまったかもしれません。

 化物だから、と討伐されることはないでしょうが、警戒はされるでしょうね。

 それが当然の反応です。

 けれど、警戒されたまま、というのもなんだか釈然としませんね。

 

「近いうちに、挨拶に行く必要がありそうです」

 

 その際に彼女らの詳しい事情を教えてもらいましょう。

 この街に住んでいるのですから、色々と裏知識があっても困ることはないですし。

 あ、でも、手ぶらというのもなんですね。お茶菓子は何がいいでしょう?

 吸血鬼、なら人間の血液が定番でしょうが、生憎そんな物は用意したくありません。

 

「…………ここは無難に翠屋のケーキでいいですね」

 

 その日になったらツナに買いに行かせましょう。

 私が行くよりも、段違いに早いですし、何より楽です。

 

「ななちゃ~~ん! 朝ですよ~!!」

 

 ああ、今日も元気にお母さんが呼んでいます。

 私だけを呼ぶということは、ツナはもう起きているのですね。

 義理とはいえ、姉の私が寝坊とは、些か格好がつきません。

 

「今、行きます」

 

 私は小さくそう呟くと、杖を手に取り、ゆっくりとお母さんのもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元航行艦船アースラ内、通信室。

 そこに、二人の人影があった。

 

「昨日の子達すごいね、最低でも魔力量がAA、最高でSクラス、逸材ぞろいだよ!」

 

 茶髪の女性、エイミィ・リミエッタが興奮したように話しかける。

 彼女たちが見ているのは、大型モニターに表示されたなのはたちの映像であった。

 

「ああ、だがまだまだ彼らも初心者、所々詰めが甘い」

 

 黒髪の少年、クロノ・ハラオウンは彼女をたしなめる。

 

「あらら、お厳しい……、まあ確かにクロノ君ってばあの八人相手に楽勝だったもんね、物足りなかったかな?」

 

「いいや、流石の僕でもあの八人の動きを止めるのは無理だ、彼女から預かったデバイスがなかったらしなかったよ」

 

 クロノはそう言って右手に持ったカード型のデバイスを見つめる。

 

「確か新型の……なんだっけ?」

 

「S2U3改、僕が使っているS2Uの最新型だ、今回の事件に役立つと言われて無理やり持たされたが、早速役に立ったよ」

 

 クロノはどこか諦めた表情で、彼の上司のことを思い出す。

 彼女は一言で言うと面白ければどんなこともするというハチャメチャな人物であり、彼女のいたずらの被害者であるクロノには、彼女に助けられたことがとても複雑な思いだった。

 

「ああ、あの人ね……、まあ、ご愁傷様?」

 

「人ごとだと思って…………、柊の奴がいれば全部そっちに向くのに、なんで出張中なんだ」

 

「仕方ないよ、蓮司くんも毎日アンゼロットさんの相手だと流石に体がもたないって」

 

 柊蓮司とは時空管理局に所属はしていないが、かなり実力のある騎士であり、同時に世間ではアンゼロットの右腕と名高い。

 また、彼は「下がる男」と呼ばれており、彼の周囲ではあらゆるものが下がると言われている。

 ただ、それを本人に言うと怒る。

 

 話がそれた。

 

「それに、まだ厄介事は残ってる」

 

 クロノは懐からマル秘と書かれたカードを取り出す

 

「あ、それが例の予言?」

 

「ああ、僕には何のことだかさっぱりわからないが、状況的にここで間違いないだろう」

 

 彼はゆっくり、正確にそれを読み上げる。

 

『九十七番目の星に五人の異邦人が現れる

 それを機に、物語は歩み始め、誰も逃れられはしない

 黄金と剣は白 

 闇は黒

 命は夜

 それぞれを守るために、力を振るう

 瞳はその力をもって、汝らをあるべき方向へと導く』

 

 それを聞いて、エイミィは映像内の彼らに目を移す。

 

「映像を見る限りだと四郎君が剣だね、となると見た目的には白はなのはちゃん、黄金が岐路君かな?」

 

「そうだね、それと多分相手の黒い魔導師二人、あの二人を黒と闇と当てはめるとしっくりくる」

 

 闇と言った時、クロノの顔が僅かに曇る。

 何か、遠い過去のことを思い出しているようだった。

 

「でも、だとすると後二人、いや、夜も一緒に数えると三人いるんだよね、その人たちも探すの?」

 

「いいや、彼女はついででいい、と言っていたからまずはジュエルシード優先だ」

 

「そなんだ…………、で見つけたらどうするの?」

 

 エイミィがそう言うと、クロノは苦笑いして言う。

 

「彼女が言うには、『味方になりそうなら即ゲット、敵ならふん縛って即連行』だそうだ」

 

 それを聞いたエイミィも「あはは、アンゼロットさんらしいや」と苦笑いを浮かべていた。

 

 


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