魔眼の少女   作:火影みみみ

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第14話

 とても平和な喫茶翠屋。

 平日の午後四時。

 

「…………(あむ、もぐもぐ)」

 

 そこで私は一人、窓辺でゆっくりとチーズケーキを味わっていました。

 

 いやー、久々の翠屋のケーキは最高ですね!

 最近は魔眼の調整だったり、ジュエルシードだったりで特に忙しかったので中々ここに来る時間ができなかっただけに、いつもより美味しく感じます。

 

 え? ツナの修行ですか?

 そんなのは基礎体力がついてからの話です。

 死ぬ気時間が三分未満なんて話になりません。

 やりにくいので最低でも五分以上になるまで基礎の繰り返しです。

 それまで全部リボーンさんに丸な……、お任せして私はのんびりすごします。

 

 それにしてもほんと、ここのケーキは美味しいです。

 

「あら! 七海ちゃんじゃない!」

 

 聞き覚えのある元気な声。

 それがレジの向こう側辺りから聞こえてくる。

 

「二週間ぶりですね、桃子さん」

 

 一旦フォークを置いて、彼女の方に振り返る。

 

「それくらいだったかしら? 私はもうちょっと長いと思ってたけど」

 

「大体それくらいですよ、前に来たのは四月の最初くらいでしたので」

 

 よく覚えていませんが。

 

「……七海ちゃんはなのはと同い年だったわよね?」

 

「? 急にどうしたのですか、あったことはないですがお嬢さんとは同年代だったはずですよ」

 

 急に声のトーンが沈みました。

 きっと今目を開ければ真剣な顔の桃子さんがいるのでしょうね。

 

「最近、なのはの様子がおかしいのよね、恭也たちが言うには夜遅くに出かけてるみたいだし、何か怪しいおまじないでも流行っているのかしら?」

 

「ふむ…………」

 

 なるほど、ジュエルシード事件の影響がこんなところまできているのですね。

 主人公さんはジュエルシードを集めるために夜遅くに外出しているのですが、家族としてはそれが心配なのですね。

 しかし、主人公さんはその理由を家族に話さず、いつも通りの態度を取っているため、誰も深く尋ねることができないわけですね。

 

「私が知る限りそのようなものはありませんが、いつ頃からそのような感じなのですか?」

 

 とりあえず私は知らないフリですね。

 

「確か……、フェレットを拾ってきた日くらいからかしら? だけど、あの子が原因だと思えないのよねぇ」

 

 まあ、流石にそれだけでは分かりませんよね。分かられても困りますが。

 

「この時期の女の子はデリケートですので、理由もなく親に隠し事をするのは不思議ではないと思いますよ」

 

「そうかしら? なのははいい子だからそんなことはないと思うけど……」

 

 なにか納得がいかないように考え込む桃子さん。

 

「太陽から見た地上のように、全てが見えているつもりでも影があるところまでは見えません、同じようにあなたからは見えない影、あなたの知らないお嬢さんの一面もあるものですよ」

 

 私がそう言うと桃子さんは少しの考えた後に、口を開く。

 

「…………そうよね、今までなのはのこと全部知っているつもりだったけど、あの子の頭の中まで分かるはずないわね」

 

 今度は納得したようで、声の調子が元に戻る。

 

「ありがとう、やっぱりあなたに相談して良かったわ」

 

「いいえ、私は何もしていませんよ」

 

「ふふ、あなたはいつもそう言うわね」

 

「そうですか?」

 

 私は本当に何もしていないのですが。

 

「そうよ、いつも的確なアドバイスをくれるから私はとても助かっているのよ」

 

 はて?

 他愛ない世間話しかしていない気がしますが、桃子さんにとってはそうではなかったみたいですね。

 

「それは……、お役に立てたようで何よ「お母さん!」、!!?」

 

 桃子さんの背後から、聞きなれない声が聞こえる。

 

 え、嘘、何で!?

 

 私の頭は真っ白になる。

 この日、この時間、いつもの彼女なら友達と遊びに出かけているはずだ。

 私が調べたのだから間違いはないはずだった。

 あの二人がこの娘を放って置くはずがない。

 

 そんなはずはない、そう思ってはいても、目の前の現実がそれを否定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は逃げ場のない状況で、主人公さんとエンカウントしてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

~高町なのは~

 

 私は高町なのは、九歳の女の子。

 最近は魔法少女もやってます!

 

 そんな私は今、家業の喫茶店のお手伝いをしているの。

 本当は今日は岐路君や士郎君と遊ぶ予定だったのだけれど、二人とも用事が出来たらしく、急いでどこかに走って行ってしまったの。

 ちなみにアリサちゃんとすずかちゃんはお稽古なの

 そんなわけで今はレジについているのだけれど、すぐ横にいるお兄ちゃんが怪訝な様子でどこかを見ているの。 

 

「また、か」

 

「どうかしたの?」

 

 不思議に思った私は、お兄ちゃんに尋ねる。

 

「……ああ、そう言えばなのはは知らなかったな、ちょっとそこから覗いてみるといい」

 

「?」

 

 言われた通りにレジから身を乗り出して見てみると、お母さんが誰かと話しているのが見えたの。

 

「お母さん、誰とお話してるの?」

 

「流石になのはの身長では相手まで見えなかったか……、話し相手は翠屋の常連さんだよ、なのはと同い年の」

 

「そうなの!?」

 

 私と同い年の常連さんなんて知らなかったし、お母さんがあんなに話しているのもあまり見たことがなかったので、私は驚いた。

 

「ああ、あの子が来ると母さん、いつも長話するんだよな、あの子も迷惑じゃなさそうだが、あまり長くなると営業に支障が出る……、なのはちょっと呼んできてくれないか?」

 

「うん、わかったの」

 

 レジから離れ、私はお母さんに近づく。

 お母さんは私に気づかず、その常連さんとお話している。

 

「お母さん!」

 

、声をかけると、やっと私に気がついたようで私の方を振り向く。

 

「あら、なのは、今日はなのはが呼びに来てくれたの?」

 

「うん、お兄ちゃんに呼んできてほしいって頼まれ、た……の」

 

 お母さんが振り向き、体に隠れて見えなかった常連さんの姿が見えた。

 白髪で、盲目の美人。

 それは私が見たことのある人だった。

 

 

 

 

 それは神社からの帰り、曲がり角でぶつかった人だった。

 

 

 

 それはサッカーの試合の時、河川敷で見かけた人だった。

 

 

 

 彼女は、私が会いたかった人だった。

 

「なのは?」

 

 お母さんの声で、私は我に返る。

 

「あ、ううん、なんでもないの」

 

「そう? なら恭也が呼んでるみたいだから先に行くわね」

 

 そう言ってお兄ちゃんの元へ向かうお母さん。

 しかし、私は目の前の彼女から目が離せない。

 

「……………………」

 

 彼女も私を見つめている。

 いや実際には、こちらを向いている、とした方が適切かもしれない。

 

「……………………」

 

 私は何も言えず、ただ彼女を見つめるだけしかできなかった。

 彼女にあったらいろいろ言おうとしていたけれど、実際に会うと何も言えなくなった。

 

「あなたが、高町なのはさん?」

 

 少しの沈黙の後、最初に話し始めたのは、彼女だった。

 

「え!? 私のこと知ってるの?」

 

「ええ、桃子さんから話は聞いていますよ、自慢の娘さんだそうですね」

 

 そう言われて、私は無性に恥ずかしくなる。

 

「えへへ、そうだと嬉しいの」

 

「しかし、あまり家族に心配をかけるものではありませんよ」

 

「!」

 

 そう言われて、私はここ最近のことを思い出す。

 まさか、ジュエルシード探しのことで私はお母さんたちに何か心配させているの?

 

「きっとあなたにもなすべきことがあるのでしょうし、部外者である私が口を挟むべきではないのでしょうが、…………そうですね、助言くらいはできますか」

 

 そう言うと、彼女はカバンからカードの束みたいなものを取り出す。

 彼女はそれを机の上において、滅茶苦茶にかき混ぜた後、適当に一枚引く抜く。

 

「ほう、やはりこれが出ましたか…………」

 

 彼女はおもむろにそれを私にも見えるように向ける。

 

 そのカードには可愛い女の子が丸い輪の上に乗っている絵が書かれており、その下には十という数字とWheel of Fortuneと書かれている。

 よく見るとそのすぐ側に凹凸があり、彼女はこれで何のカードかを判別していると思われる。

 

「このカードの正位置が示すのは、転換点・幸運の到来・チャンス・変化、そして出会い」

 

「!?」

 

 声には出なかったが、私は心の底から驚いた。

 だって、それは私が魔法と出会ったことをそのまま示していたのだから。

 

「あなたは今、人生の転機にいます、もしこのチャンスをモノにすることができれば更にあなたは掛け替えのないものを手に入れることができるでしょう」

 

 そう彼女は言うと、いつの間にか食べ終わったのか伝票を持ってレジの方へ向かう。

 

 その姿に見とれながらも、私は彼女に声をかける。

 

「あ、あの!」

 

「? どうかしましたか?」

 

 彼女はゆっくりとこちらに振り返る。

 

「お名前、聞かせて欲しいの」

 

「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね」

 

 そう言うと、彼女は右手を差し出して、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

   「私は、八坂七海と申します、これからよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ ~八坂七海~

 

ふう、なんとかやり過ごしましたか。

急なエンカウントに私の心臓はばくばくなのです。

 

 翠屋を出て、私は胸を撫で下ろす。

 

「しかし」

 

私は懐から先ほどのカードを取り出して、見つめる。

 

「ここでこのカードは、少し残酷ですね」

 

 先程は言いませんでしたが運命の輪の正位置の意味は転換点・幸運の到来・チャンス・変化・結果・出会い・解決。

 

 

 

           そして「定められた運命」。

 

 

 

 

 

 

 

 




2014/1/15 誤字修正

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