では!
~月村邸にてお茶会があった日の早朝~
どこかの森の中、刃がぶつかる音が響く。
戦っているのは褐色の少年と、黒い服に身を包んだ女の子。
二人の実力は互角であったが、少年の持つ剣が彼女の攻撃を打ち消していく。
「おりゃあ!」
「あ!?」
そして遂に、彼女の手から武器がこぼれ落ちる。
それはくるくると回ると、森の中へ消えていく。
「さ、デバイスもなくなったが、どうする?」
「…………」
少女は答えず、ただ少年を睨みつける。
「ユーノ、悪いがこいつを「させない!」、な!?」
女の子は右手をかざし、その手から光の槍が現れ、少年を貫くべく突き進む。
「おっと」
しかし、その一撃は虚しく彼の剣に吸い込まれる。
少女はその隙に逃げ出そうとするが、
「させないよ!」
側にいたフェレットのような生き物が地面に魔法陣を映し出す。
魔法陣からは無数の鎖が伸び、彼女の体を拘束する。
「こ、の!」
少女はそれを引きちぎろうとするが、強靭な鎖はビクともしない。
「悪いな、少し気絶してもらうぜ」
少年はそう言うと右手で鉄砲の形を作り、人差し指に魔力を集中させる。
「じゃあな」
そう言って彼はその小さな魔力弾を放つ。
「あ」
当然全身を拘束された彼女に避ける術はなく、額に魔力弾を受け気絶してしまう。
「さて、それじゃあ―――」
「――――」
「――――――――――――」
声が歪む。
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――
景色が歪む。
色をなくし、輪郭が薄れ、全てが消えていく。
そして数瞬後には、只の暗闇だけが残った。
とある週末の、朝の目覚めは最悪でした。
「…………これはひどい」
まったく、朝から少女がなぶられる夢を見させられるなんて最悪以外の何者でもありません。とても嫌な気分です。
…………ええ、これが何なのかわかっていますよ。
あれです、私の無数の瞳の中にあるうちの一つ、”未来視”ですね。
多分おそらく、近うちにこれが起こるのですね。
最悪今日起きるとして、これ、どうやって止めましょう?
直接私が介入すれば済む話ですけど、それじゃあ私の正体がバレますし、かと言って変身魔法も覚えて…………、あ!!
私は寝るときも身につけているジュエルシードの存在を思い出しました。
確かこれ、生物を変化させる効果もありましたよね。
原作でもワンワンを化物ワンワンに変化させてましたし、これを使えばなんとかなるのではないでしょうか。
「………………やはり今日でしたか」
海鳴市のどこか人気がないビルの屋上。
少し前に起きた通称『海鳴の怪樹』により、ここら周辺に近づく人間は少ない。
あの海鳴の七不思議に数えられる程の奇怪な事件は解決の様相を見せず、未だ原因不明の事件として扱われている。
まあ、無理もないでしょう。
いきなり街中に巨大な木が現れるなんて普通は思いませんしね。
ちなみに、七不思議と言っても七つ揃っていません。
確か全部で『人喰いビル』、『歪む空間』、『夜の怪物』、『謎の少女』、そして『海鳴の怪樹』の五つです。
これらはここ数年できたようでして、古い七不思議もあったようですが、実害やインパクトがあるこちらに取って代わられたようですね。
閑話休題。
とりあえず私がここで何をしているのかと言うと、千里眼で主人公組の様子を伺っていたのです。
今日が週末だったのでもしやと思い高町家を監視していれば、思ったとおりです。
恭也さん、主人公、転生者二名、フェレットの五名がバスに乗り込みました。
「テストもなしにいきなり実戦とは、泣きたくなります」
せめて少しは練習すべきでしたね。
「多少不安が残りますが、予定通りに進めるとしましょう」
幸いジュエルシードで変身できるのもは、あまり常識はずれでなければ何でも良いみたいですし、外見は「ネギま」の茶々丸にしましょう。……性格までは合わせる必要はないですが、面白そうなのでチャチャゼロを参考にでもしましょうか。
これは単純に私の趣味も入っていますが、もう一つ重要な意味があります。
それは、もしあちらの転生者がネギまを知っていれば、茶々丸の主=エヴァンジェリンというミスリードを与えられるかもしれないからです。
そうすればあちらさんは金髪の吸血鬼を探し回るはずなので、こんな盲目少女など目に入らないはずです。
では、早速。
「ジュエルシード、起動」
私がそう呟くと、手に持つジュエルシードがほのかに温かくなる。
その温かさは次第に体のすべてをを包み込み、私はどこか穏やかな気分に満たされる。
ここで、私の意識は途絶えた。
~月村家襲撃後~
廃ビルから出て、家に帰る途中。
魔法少女みたいなことをしてしまったなと私は落ち込んでいました。
何ですかあの変身は、まるでコンパクトで変身する古き良き魔法使いではありませんか。
それに茶々零も茶々零です!
「まったく、まさか意識まで変化するとは予想外でした、次からはもう少し気をつけるべきですね」
記憶は問題なく引き継いでいるのですが、どうにも茶々零は油断しすぎです。
余計な情報をペラペラペラペラと、絶対に彼らの中の私のイメージが確実にラスボスクラスになっているでしょうね。
ちょっとテスタロッサさんを手助けするつもりが、とんだ宣戦布告をしてしまったものです、ちくせう。
まあ、今回は仕方なく私が出ることになりましたが次もこうだと少し疲れますね。
たしか次は温泉宿?でしたか。
流石にその位置を特定するのは面倒です。
……それに夜遊びはお母さんに止められているのですよね。
密かに外に出ようものならてぃんだろすが、たとえ彼を退けたとしてもその間に確実にお母さんがやってきて私を捕獲するでしょうね。
能力や変身して一気に脱出、というのもありますが、そんなことをすれば最悪私の正体が両親にバレます。それは絶対に避けなければなりません。
……まあ、杞憂ですかね。
どうやらテスタロッサさん側にも転生者がいるようですし、後のことは彼女に丸投げしましょう。
……ん? この感じは、
「おや?」
「あ、七海ちゃんや!」
見覚えのある気配を感じそちらを向いてみると、はやてちゃんがそこにいました。
「はやてちゃん、買い物ですか?」
「うん、ちょっと材料を切らしてもうてな、七海ちゃんは?」
「私は、散歩です」
流石に、魔法少女してましたなんて言えません。
「そうなんや、こんなところで出会うなんて偶然やね」
「そうですね、私たちはよほど相性が良いのでしょうね」
「あ、相性!?」
?
何やらはやてちゃんの心拍数が上昇したような。
「そ、それってお似合いってことなんかな?」
「? まあ、そうでしょうね」
こんな所に来るなんて思考が似通っているとしか思えませんし。
「そうなんや、ならもっと勇気を出してもいいかな、でも私も七海ちゃんも女の子やし、常識的にありえへんし、法律も許してくれへんやろな、けど私はどうしても七海ちゃんが――」
「あの、はやてちゃん?」
何やらはやてちゃんが小声でつぶやいているようですが、早すぎて聞き取れません。
しかし、とても身の危険を感じます。
「ロープ、地下、首輪、調教、新婚生活、邪魔する人は――」
「はやてちゃん! 何やら危ない方向へ行っているので早く戻ってくるのです!」
「は! 私は何を……」
危ない危ない。
あのまま放置していれば、きっとロクでもないことになっていたでしょうね。主に私が。
「ちょっとぼーっとしていたのです、心配なので今日は送っていきますね」
「お、おおきにな、七海ちゃん、……そんなんやから私は(ぼそり)」
「? 別にいいのですよ」
何やらはやてちゃんから妙な気配を感じます。
「あ、そうや!」
はやてちゃんはゴソゴソと荷物をあさり、私にも見覚えのある気配を放つ物体を差し出した。
「これな今日拾ったん、キラキラ光って綺麗やし七海ちゃんにあげるな」
「あ、ありがとです、はやて……」
私は恐る恐るそれを受け取る。
こうして、私は望まずして二つ目のジュエルシードを手にいれてしまいました。
~おまけ~
はやて「ふふ、今はこれくらいしか出来んけど、大人になったら婚約指輪を――」
七海「はやてちゃん?」
はやて「ん、何でもないよ?」
~おまけ2~
帰宅後
七海「ただいま帰りました」
ニャル子「お帰りなさい、ななみん!」
七海「誰がななみんですか、……それより妙にご機嫌ですね何かあったのですか?」
ニャル子「ふふ、ふふふふふ! 遂に、遂にできましたのよ!
七海「何ができたのですか? 新たな創作料理ですか?」
ニャル子「待望の二人目です! 真実さんが新しい子供を拾ってきましたよ!! これからは四人家族です!
七海「……………………ふぁ!?」
絡繰茶々零
正体:八坂七海のジュエルシードによる変身
メリット:身体能力の向上
デメリット:七海は三つまで瞳を同時使用できるが、茶々零の時は一つまでしか使用できない。
機能:ステルスモード、アサルトモード、ノーマルモード
なお、今回はノーマルモード
2014/1/11
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