魔眼の少女   作:火影みみみ

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第12話

 

 

「ケケケ、スグニクタバッテクレルナヨ、ソレジャ俺ガ楽シメネエシナ」

 

 そう言って彼女、絡繰茶々零は腰に差した日本刀を抜く。

 その刀身は怪しく光り、まるで刀そのものが生きているかのような錯覚を覚える。

 

「は、そんなこと言ってられんのも最初だけだ!」

(今すぐになのはのサポートしなきゃならねえのに、こいつと遊んでられるか!)

 

 士郎は先程まで握っていた雷喰剣を消し、錆色の剣を創りだす。

 

(とりあえず相手は機械、この腐蝕剣(アシッド・ソード)ならなんとか――)

 

 そう考えた士郎だが、その考えは甘かったとすぐに実感することになる。

 

(いない!? どこに)

 

 手の中の腐蝕剣から視線を戻すと、そこには茶々零の姿はなく、ただ彼女がいた所の地面が異様に抉れていた。

 

「ケケ、隙有リダゼ」

 

 その声を聞き、彼は急いで振り返る。

 彼の視界に映ったのは刀を振りかぶり、狂った笑みを浮かべた茶々零だった。

 

「くそ!?」

 

 彼は剣を交差し、彼女の一撃を防ぐ。

 しかし威力は完全には殺しきれず、そのまま吹き飛ばされる。

 

「が、あ!」

 

 彼はそのまま背後にあった木に叩きつけられ、肺の中の空気をすべて吐き出す。

 その衝撃で手に持っていた剣は彼の手から離れ、そのまま彼共々地面へ落ちる。

 その様子を見て、茶々零は呆れたように呟く。

 

「ア? コノ程度ダッタノカ? ダッタラアイツノ見込ミ違イダナ、コンナノガ2人ナラ、オレ1人デモナントカナルゼ」

 

「あ、いつ?」

 

 彼は痛む体に鞭を打ち、落ちた剣を拾い立ち上がる。

 

「オレノ御主人サマノコトダガ、残念ダガソレ以上ハ言エネエナ」

 

 そう言って、彼女は再び刀を振り上げる。

 

「ジャア大人シク寝テナ、起キタ頃ニハモウ終ワッテルゼ」

 

 そして、彼女がそれを振りおろそうとした時だった。

 

「右に跳べ!」

 

 誰かの声が、辺りに響く。

 

「!?」

 

 それを最初に理解した士郎は、言われた通りに力強く右へ跳ぶ。

 

「ア? 一体何ガ――」

 

 それ以降の言葉は、突如彼女に降り注いだ無数の剣によって遮られた。

 天空から降り注ぐそれらの威力は凄まじく、彼女がいた場所は既に荒地と化していた。

 

 未だ土煙が舞う中、この惨状を作り出した張本人、忍野岐路が降り立つ。

 

「大丈夫だったか?」

 

「ああ、なんとな」

 

 そう問いかける岐路に、士郎は苦しげに答える。

 彼は出血こそしていないものの脇腹を押さえ、脂汗がにじみ出ている。

 おそらく、肋骨辺りにヒビがはいったのだろう。

 

「まったく、嫌な予感がして無理やり抜けてきてみれば、何がった?」

 

「……そうだ、こんな所で呑気に話してる場合じゃねえ! 急がねえとなのはが「負ケチマウ、ッテカ」!?」

 

 突然響くその声に、二人は土煙の向こう側を凝視する。

 

「ケケ、油断シスギダッツーノ、オレガソンナ簡単二クタバルワケネエダロ」

 

 ゆっくりと土煙が収まり、彼女の姿が現わになる。

 

 彼女の体には傷一つなく、その体には土煙から出てきたとは思えないほど綺麗に輝いていた。

 

「王の財宝で傷一つ付かないか、これは厄介だな」

(土汚れもないことを見ると防御結界の類か)

 

 先ほどの爆撃で少しは手傷を負っていると期待した岐路だったが、彼女の姿を見て考えを改める。

 

「ケケ、完全二仕留メルマデ油断スルナッテ、コッチノ親ニハ習ワナカッタカ?」

 

「普通は習わないな」

 

 そう呟き、空中に数多くの宝具を待機させる岐路。

 

「俺も、そんな危ねえ親の元には生まれちゃいねえよ」

 

 士郎は腐蝕剣を捨て、エクスカリバーを構える。

 

「ケケケケ、ソレジャア御主人サマハトンダハズレヲ引イタラシイナ、イヤ、ムシロ当タリナノカ?」

 

 ケタケタと笑う彼女。

 その異様さに、二人は言葉に表せない恐怖を覚える。

 

「御主人と言ったか? そいつの目的は何だ?」

 

 先ほどの恐怖を振り払い、岐路は彼女に問いかける。

 

「ケケ、ソンナ簡単二言ウ訳ネエダロ? 知リタカッタラオレヲ倒シテミ「では、そうさせてもらおう」、ア?」

 

 岐路がそう言うと、彼女の四肢を光るリングが拘束する。

 

「ッチ、バインドカヨ、ダガ、コンナノスグニ解ケ――、!?」

 

 体に力を込めようとした彼女は急激な魔力の高まりを感じ、その発生源、士郎を凝視する。

 彼は愛剣エクスカリバーを掲げ、彼女を正面から見つめている。

 

「王の財宝でもだめなら、これでどうだ?」

 

 そう言う彼の体からは無数の光が立ち上り、まるで戦場で散った命が天に帰るように、空へと消えていく。

 

「オイオイマジカヨ」

 

 今まで余裕だった彼女に、僅かながら焦りが見え始める。

 

「安心したまえ、一応あれも非殺傷設定くらいはできる、……まあ、それが機械人形にも通用するかはわからないがな」

 

 そう言って、バインドの数をさらに増やす岐路。

 首、手首、腰、頭など、が次々に拘束され、遂には光の繭のような形になってしまう。

 

「いくら貴様でも、この厳重なバインドを解くにはそれ相応の時間がかかるはずだ、士郎!」

 

「ああ、わかってるぜ」

 

 彼の持つ剣が光を放つ。

 その光は辺りを照らし、まるで小さな太陽がそこにあるかのように輝き続ける。

 

「いくぜ、……約束された勝利の剣(エクス・カリバー)!!」

 

 彼は剣を振り下ろす。

 すると、剣に込められた魔力は巨大な光の奔流となり行く手を阻む全てのものを破壊しながら進み、茶々零を飲み込む。

 この魔法は、元はfate/stay nightの魔法だが、彼の持つデバイス・聖剣エクスカリバーによって擬似的に再現されたものである。

 威力はこの時点でスターライトブレイカーと同等、この攻撃に耐えうる者など存在するはずがなかった。

 まともに喰らえば、だが。

 

「アハハハハっハハハハハハハハッハハハハハッハハハアハッハハハハハハ」

 

 その狂った笑い声は、光の中から聞こえてきた。

 

「嘘だろ!? これくらってまだ無事なのか!?」

 

「…………いや、違う」

 

 士郎が混乱する中、額に汗を浮かべた岐路が告げる。

 

「彼女を拘束していたバインドが消えた、まるで吸収されるかのように魔力を分解されて……」

 

 その時、異変が起きた。

 

「………………嘘だろ」

 

 光の奔流が歪んだ。

 

 先程まで一直線に進んでいたそれは、グネグネと歪み、小さくなり、ある一点へと消えていく。

 

「ハハハハハハ、……ウマカッタゼ、オマエノ魔力」

 

 そう笑う彼女の瞳には、理解できない文字のようなもので書かれた円、その中央には奇妙な十字が浮かび、彼らを見つめていた。

 

「……殲滅眼、そんなものまで持っているのか貴様は」

 

 口では冷静な岐路だったが、内心は穏やかではなかった。

 

(最悪だ、これではそこのエミヤもどきやなのはたちミッド魔導師では手も足も出ない)

 

 殲滅眼の前では、すべての魔法は無力化される。

 これで魔力攻撃重視のミッド魔導師や士郎のエクスカリバー、場合によっては岐路のエアすらも通用しないかもしれない。

 岐路の王の財宝での攻撃や士郎の投影ならばまだ有効だが、目の前の機械人形にはどちらとも通用しない。

 

 そう考えていた岐路に茶々零は更に衝撃的な事実を伝える。

 

「ケケ、コレハオレノジャネエヨ、元ハ御主人サマノ瞳ダ」

 

「な!? 貴様の主は何者だ! 機械に魔眼を与えるなんて聞いたことがないぞ!」

 

「ハ、オレガ簡単二教エルハズネエダロ、……一ツダケ言ウトスレバ本気ノ御主人サマハオレノ何十倍モ強イッテコトダケダ」

 

「マジかよ……」

 

 岐路と士郎、両者に焦りの色が生じる。

 今二人がかりで手傷も負わせられない茶々零、その彼女すら手も足も出ない彼女の主、得体もしれないその人物に彼らは喉元に刃を突きつけられているような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 彼女の主はその気になればいつでも彼らを殺せる、そのことに気がついたのだ。

 

 

 

 

 しかし、そうなると一つ疑問が生まれる。

 

「……なぜ」

 

「ア?」

 

「なぜ、君の主は自分で行動しない? わざわざ君という駒を使わなくても、主とやらが動けば全て解決じゃないか?」

 

 ただ彼らを倒すだけなら茶々零を使う必要はない、彼女がここにいる意味がわからなかった。

 

「……アア、ソンナコトカヨ」

 

 茶々零はつまらなさそうに言う。

 

「一番ノ理由ハ、御主人サマハ闘イガ好キジャネエンダヨ、ダカラオレガココニイル」

 

「闘いが嫌い? なら何で「オット、時間切レダ」!?」

 

 意味がわからない彼らに茶々零は右手の人差し指を立て、彼らの背後を指差す。

 

「まさか!?」

 

 いち早くその意味に気がついた岐路は急ぎ振り返る。

 

「きゃあああああああああああああああ!?」

 

 そこには、黒い少女に負け、地面へ落下しているなのはの姿があった。

 

「なのは!?」

 

 士郎が魔法を発動させようとするが、間に合わない。

 そのまま地面に衝突するかに思われたが、直前にシールドを張り、ダメージを軽減させるなのは。

 安心した二人だったが、茶々零のことを思い出し、振り返る。

 

「ケケケ、ジャアナ」

 

 そこには誰もおらず、ただ声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノを確保し、再び月村邸へ戻ろうとする彼ら、士郎と岐路はなのはに内緒で会話していた。

 

『あの野郎、攻撃するだけしてジュエルシードも奪っていかないなんて、何考えてやがるんだ?』

 

『……わからないか?』

 

『お前はわかったのか!?』

 

『ああ、おそらく、彼女は今日なのはを負けさせることが目的だったに違いない』

 

 岐路の言葉に士郎は首をかしげる。

 

『? なんでそんなことする必要があんだ?』

 

『…………これは、原作の流れ通りだよ』

 

『あ!?』

 

 そう言われて、士郎も気がつく。

 

 原作では今日、なのははフェイトと戦い、そして敗れていた。

 この世界では岐路や士郎といったイレギュラーが存在したため、彼女が来なければ負けていたのはフェイトの方だっただろう。

 

『となると、ssよく見かける転生者同士の殺し合いが目的じゃないかもな』

 

『ああ、もしそうならもっと前に私たちを始末できたはずだ』

 

 二人を原作介入派とするなら、茶々零たちは傍観派と言ったところだろう。

 

『今回のように、原作からかけ離れなければ、彼女が危害を加えることはないだろう、しかし……』

 

『おう、やられっぱなしは性に合ねえ!』

 

 二人の心に、強い意思が灯る。

 今まではなのはを守り、ジュエルシードを集めるだけだった彼らに、強くなるという新たな目標が生まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サテト、ココラデイイカ?」

 

 月村邸から遠く離れたとある廃ビルに、茶々零が降り立つ。

 

「一応オ願イ通リノ結果ノハズダゼ、御主人サマ」

 

 彼女がそう呟くと、彼女の体が光に包まれる。

 そして少しずつ光が彼女の体から飛び立ち、彼女の姿は杖を持った九歳の女の子へと変わっていく。

 

「そうね、問題ないわ、茶々零」

 

 光が消え、そこに現れたのは八坂七海、その人だった。

 

 

 




あけおめ!
どうも、三が日は地獄だったみみみです
一週間くらいpcに触ってないと書き方を忘れてしまいそうで少し焦りました
一応今日から更新再開です
用事やテストで絶望的な点を取らない限り、更新は続けますのでご安心ください
では、今日はこれで、
やっと次から七海視点……

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