TOLOVEりんぐ   作:ぽつさき

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八つ当たり肉体言語

「話は解らないけど、フリティは宇宙人だよ? それもとびっきり有名人」

 

「もういいわかったララ。もうそれトドメですら無いから。ちょっと静かにしてて」

 

 いつまでも隠し通せるものでは無いとは思っていた。小学校の頃のあるあるネタなんかで話が盛り上がった時も話を合わせることしか出来なかったし。中学校の時の思い出話なんかでも共感を得られたことなんて無かった。

 

 地球に来たときの睡眠学習で一定の常識と知識は頭に入れていたが、思い出を捏造することはできない。自分の中で設定を決めて嘘をつくことはできただろうがそういった器用なマネが有里にできる筈もなかった。

 

 来る時が来た。覚悟を決める時だ。元はリトを危険に巻き込まないための嘘だった。しかし隠し通す覚悟が有里には無かった。真実を告げる勇気も。それほどに有里にとってリトの存在は大きなものだった。だからこそ巻き込みたくなくて嫌われたくなくて。その上嘘もつきたくなくて。

 

 だから真実を話そう。たとえ友人を失うことになろうとも。

 

 

 

 

「リト……オレ実は宇宙から来たんだ」

 

 

 

 

「ふーん」

 

「え、それだけ?」

 

「うん。だって地球人じゃなかったってだけだろ?」

 

「うん」

 

「じゃあいいじゃん」

 

「いいのか。いいのか? あれーおかしいな。もっと口論になったり喧嘩したりしてより絆が深まる的な展開だと思ってたんだけど」

 

「有里は喧嘩がしたかったのか?」

 

「いや別にしたくない」

 

「じゃあいいじゃん」

 

「いいか」

 

 恐ろしきは結城リトという人間の大きさだろうか。そりゃ大きな存在に感じるわけだ。相対的に有里の悩みが小さく感じてしまう。実際小さな悩みだったのだ。有里は肩の上辺りにあった何か大きな塊が霧散していくのを感じていた。真実を話すというのはこんなにも気が楽なのかと。

 少し泣きそうになって。というか目じりには小さな滴が溜まってきていて。何だかそれを見せるのはすごく恥ずかしい気がしてポリポリと頭を掻くついでにさっと薬指でぬぐう。

 

「話は終わったのかな?」

 

 すっかり状況から忘れ去られていたララ。つまらなそうに近くにあった小石を集めて足で積み上げていたがどうにも飽きたらしく会話に入ってきた。

 

「とりあえずオレの話は終わったよ」

 

「気になってたんだけど二人は知り合い?」

 

「うん。ララとも会ったことあるんだけど、その親父が元々の知り合いなんだ。知り合いなんて小綺麗な仲じゃないけど」

 

「なんでー? フリティとパパは仲良しじゃん。よく喧嘩してるし。ほら地球の言葉であるんでしょ、喧嘩するほど仲がいいって」

 

「オレと誰が? 冗談やめてくれってあいつの顔が殴りやすいいい顔だなって思ったことはあるけどいい奴だなって思ったことは一度も無いわ」

 

「なんか話を聞いてると有里がすっごい年上の人みたいな感じなんだけど」

 

「あぁそうか。それも言わなきゃなんだ」

 

 フリティこと有里の見た目は高校生程度。あふれ出る雰囲気から大学生と答える人もいるかもしれないが大体そのぐらいだろう。が、これは彼の本当の姿ではない。宇宙で色々なことをしていた頃はもっと歳相応の見た目をしていた。しかしある事件を切っ掛けに力を使い果たしてしまいこうして青年程度の見た目になってしまっている。

 これでもかなり回復したほうで地球に来たころは小学生か中学生のような外見だった。ここまで回復したのは同居人の力があってのものである。

 

「へー。それって地球で言うと何歳なの?」

 

「えっと……宇宙でも年齢を表す計算式がいくつかあって、ララが使ってるのに合わせるとそれこそララの親父と同じくらいかな。地球の年齢でいうと……ちょっと計算が解んない。まぁでも地球にいるときはリトと同じってことでいいよ」

 

「なるほど。地球へはいつ頃来たんだ?」

 

「そろそろ五年になるかなぁ。初めの二年くらいはずっと寝たきりで外に出たのは数える程度だったけど。んで健康になったから外見相応のことしたいと思って高校に通うようになったってわけ」

 

「ちょっとちょっと! また二人とも私のこと忘れてる!」

 

「あぁごめんごめん。ララはなんでこの星に?」

 

「だってパパが無理やりお見合いとかさせてきたり習い事とかやらせてくるんだもん。嫌になって逃げてきちゃった」

 

「ちょっとした家出で来られるような距離じゃねーぞ。そんで偶然リトのところに?」

 

「うん。ぴょんぴょんワープ君使ったらリトの家に跳んじゃったの」

 

「そうなんだよ! 風呂に入ってたらいきなりララが現れてさ」

 

 言いながらリトの顔が真っ赤に染まる。美柑からリトが変なことを言っていたと聞いていたがどうやら本当のことだったらしい。

 ぴょんぴょんワープ君というのはララの発明品だ。小さな頃から自分の欲しいものは自分で作っていたララ。その内に何かを作ることが好きになっていつの間にか色んな物を発明するようになった。そのどれもが世の科学者が見たら卒倒するような理論や発想でできているのだが、ララの発明品はどうにもネジが一つ抜けているらしい。

 このぴょんぴょんワープ君も携帯できるワープマシンということで宇宙でこれを商品にすれば遊んで暮らせるほど稼ぐことができる発明だ。が、彼女の発明はそれだけで終わることが無い。今回の欠点は身に着けているものは一緒に跳ばせないというものらしい。

 

「そこでピンポイントにリトのお風呂に来ちゃうあたり、ララの巻き込み属性が強いのかリトの巻き込まれ属性が強いのか。まぁ両方があるからこうなったんだろうけど」

 

「他人事みたいに言うなよ。ララの奴、家に住むとか言ってるんだぜ」

 

「なんで?」

 

「だってパパが勝手ばっか言うんだもん。だから私も勝手するの」

 

「その勝手がなんでリトの家に住むことになるの?」

 

「私、リトと結婚するから!」

 

「な、ふざけんな! そんないきなりで出来るか!」

 

 ララはデビルーク星という星の王族の娘にあたる。王族の結婚といえば物凄い大事で重要な意味を持つのだろうがララにとっては彼氏を作る程度の感覚でしかないんだろう。そして恐らくただ帰りたくない一心で結婚と言っているだけでリトに対する恋愛感情なんてないんだ。

 

 リトとしても西連寺という想い人がすでにいるのでじゃあ結婚でとは言えない。勿論付き合っていって互いの良さを知ってそのゴールに行き着く可能性はあるが、女性が苦手なリトにこの状況を冷静に処理しろというのは少し酷だった。

 

「結婚なんて言ったら結局一回帰らなきゃじゃんか。したらもう戻ってこれないぞ」

 

「そうだ! それに、いやララがダメとか嫌いとかじゃなくて……その俺には好きな人がいるっつーか」

 

「それにそんな無茶ばっか言ってるとお目付け役のあいつが来るんじゃないの」

 

 有里には一つ気にしていることがあった。ララがいきなり風呂に現れて驚いたんだろう。その後とりあえず服を着て部屋に行った筈だ。そこでララの話を聞いてというのであれば態々外に出なくていい。そして有里に掛けてきたあの電話。

 

「んーん。その部下の人が追ってきたけどまだ来てないよ。リトの部屋まで来たんだけどリトが逃がしてくれたんだ」

 

「ふーん。でもその部下の人がここまで追ってきてなくてこれだけ時間が経っていれば……」

 

「お察しの通りです。フリティ様」

 

 まるで登場する機会を窺っていたようなタイミングで新たな人物が現れる。彼の名前はザスティン。ララのいたデビルーク星に仕え王族の新鋭隊をしている。が、今はララの世話役をしているらしい。世話役といえば執事みたいでカッコいいが、やっていることと言えばララのお転婆の尻拭いが主だろう。

 

「ザ、ザスティン!」

 

「お迎えに上がりました。帰りましょう、ララ様」

 

「ヤダ! 私リトと結婚するからこの星に住む!」

 

「あまり我がままを仰らないでください。王にも何をしてでも連れて帰れと言われております」

 

「だ、誰この人」

 

「ララの付き人っていうか世話人みたいな人」

 

「なんかすっげー格好だな。ファンタジーっていうか」

 

「一応戦闘用の鎧だしなー。生半可な攻撃じゃビクともしないすげーのらしいぜ」

 

「へー。ますますファンタジーだな」

 

「いいじゃんザスティン。可愛い子には旅させろってこの星の言葉であるくらいだし、友達の家に泊まりにいったぐらいの軽い気持ちでさ。ララだってホームシックになれば自分で帰るって言い出すよ」

 

「失礼フリティ様。王からはこうとも言われております。試してもらえと」

 

 そう言ってザスティンは剣を抜き構えた。和やかだった空気が変わった合図のように外灯の光りがチリチリと揺れる。何なんだとリトが疑問を口にしようと有里の方を見た瞬間、彼の姿が目の前から消えた。

 

「え、消」

 

 突然展開から置いて行かれたリトの声をかき消すように八つの音が鳴り響く。それがザスティンの剣と有里が拾った鉄パイプが打ち合った衝撃音であることをリトは知る由も無かった。二人の闘いを何度も見ているララですら二つ目の打ち合いまでしか捉えることができなかった。

 

 さらに三合を打ち、リト達の目の前で鍔迫り合いの形になる。光学兵器であるザスティンの剣を鉄パイプで受け止めている姿は何とも嘘くさいが、鉄パイプにエネルギーを送り込んで強度を強化するという非常に地味で高度なテクニックでその差を埋めていた。

 

「なかなか強くなったじゃないかザスティン」

 

「私も日々修行していますので」

 

「あまり運動すると主治医に怒られちゃうんでね。ちょっと終わりにしようかな」

 

 弾くようにして距離を取るザスティンと有里。ザスティンは今だ構えを解いておらず何が起きても瞬時に対応できるように気を張っている。対照的に有里はだらんと力を抜いて立っている。

 

 ふと有里が不敵に笑った。勝利を確信したような、悪戯を思いついたようなそんな笑顔。怪しげな瞳でザスティンを射抜きながら右手に持った鉄パイプを頭上へと掲げる。

 

「っ!」

 

 それは一瞬の出来事だった。どんな些細な動作も見逃さないつもりでいたザスティンの視界から有里が消えた。それは途中までしか書いていないパラパラ漫画のように自然に、不自然に。

 

 しかしさすが親衛隊長。動揺で真っ白になった頭を冷やし冷静を取り戻そうとする。が、有里からすればその一瞬だけで充分だった。

 

 トラックで冷蔵庫をハネたような轟音とともにザスティンの体が吹き飛ぶ。恐らくその衝撃に耐えられなかったのだろう殴ったはずの鉄パイプの半分も一緒に飛んでいた。

 

 そして連撃。地面に落ちることも叫ぶことも許されず空中で行われる拳劇の嵐。それはザスティンの意識が刈り取られるまで続けられた。

 

 

 

 

 

 

「え、なにそれ有里。強くないか?」

 

「宇宙で旅する人って大体こんなもんだよ。やっぱりちょっと疲れちゃった、リト肩かして」

 

 最後にとどめの一撃をザスティンの鳩尾に叩き込んだ有里がまるで何事もなかったかのようにリトの所へと戻ってくる。

 リトとしては色んな疑問が多すぎてどれから聞こうか迷っていたくらいだが、少し顔色の悪くなった友人を見て質問達を飲み込んだ。

 

「フリティは強いって言ったでしょリト。多分宇宙でもトップクラスなんじゃないかな。ザスティンがフリティとパパ以外に負けてるとこあんまり見たことないし」

 

「へー。学校じゃ病弱だらけキャラなのになぁ」

 

「体が弱いってのは本当みたい。何かパパがそんなこと言ってたし」

 

「体育とかよく見学するのはただめんどくさいだけじゃ無かったんだなぁ。っておい有里本当に大丈夫か?」

 

 有里はリトの肩に頭を乗せて休んでいたが、いつの間にかその呼吸が荒くなっていたことに気付く。顔色も先ほどより悪くなっているようにリトには見えた。詳しいことは解らないがどうやら家に連れて行って横にした方が良さそうだ。

 

「ララ、有里を家に運びたいんだけどあの人ってどうすればいい?」

 

「ザスティンのこと? だいじょーぶだよザスティン頑丈だしあんなのいつものことだもん」

 

「そ、そうなのか。まぁララが言うなら……良いのか?」

 

「ごほっげほっ」

 

「なんて言ってる場合じゃない。ララ手伝ってくれ」

 

「りょーかーい」

 

「ってそんな持ち方ねーだろ! 普通両肩を担いで持ってくとかさ」

 

「リトが上持ってるから私は足かなって思って」

 

「それでなんで片足だけ持つんだよ!」

 

 てんやわんやしながらも有里を両肩で担いだ二人は結城家へと急いだ。

 

 


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