TOLOVEりんぐ   作:ぽつさき

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甘くて苦くて

 開けっ放しの窓から暖かな風が入り込む。まったりとしたリズムを刻むように揺れるカーテンから朝日が差し込んでいる。童話に出てくる貴族のお城を彷彿とされるその部屋に一際目立つキングサイズのベットが一つ。

 部屋のどこからか無機質な優しい音が流れてくる。その音に呼応してベットの布団がもぞりと動いた。ひと目で高級品とわかる布団から出てきた右手が目覚まし時計を叩いた。しばらくして起き上がってくる下着姿の女性。

 

「……」

 

 朝が苦手なのを全身で表しながら頭をもさもさと掻いている。有里の同居人である御門だ。自分から同じベットで寝たいと言うことができず有里が寝てからそのベットに忍び込み、有里の香りに包まれながら腕の中で眠る。そして彼が起きるより早く起きてベットから抜け出す。

 それをしていることを有里はもちろん気付いているし、気付かれていることを御門も知っていた。互いあえてこのことを言及していないし誰も損していないのでそのまま毎夜行われている。ある種のプレイみたいなものだろうか。

 

 小さくアクビをしながら腕に付けた端末を起動する。一見高級時計にしか見えないそれには宇宙でも最先端の機能が搭載されていた。その中で最も重要な用途が有里のバイタルデータの管理だ。有里専属の医師である御門は常にこの機能で有里の健康状態を把握していた。

 毎日朝と夜。端末から空中に表示されるデータに目を通し以上が無いかをチェックする。先日のザスティンとのトレーニングで少し不調になったものの、地球に来た時と比べればかなり安定している。しかし彼の体質は宇宙でもかなり特殊なので気は抜けない。

 

「ふぅ」

 

 息を吐き御門の肩が下がる。今日も異常は無いようだ。有里の体は高校に行くようになってから目に見えてよくなっている。御門にできるのは体の治療だけ。リトに出会い、美柑と出会いそしてララ達が来て賑やかになった高校生活が有里にとって大きくプラスになっていることがデータに表れている。御門にはそれが嬉しくて寂しかった。

 

「んー」

 

 そんな御門の気配に気付いたのか隣に寝ていた有里がもぞもぞと体を動かした。起こしてしまった、と顔を覗き込む。そこには気の抜けた寝顔があった。何となく寝返りを打っただけらしくまた寝息を立てている。

 御門は勇気を振り絞り、愛しのご主人様に心で謝りながら頭を撫でる。有里からすれば好きにしてくれといった感じだが、基本的に有里の命令のみで生きていたい御門にとってほんの少しの行動もかなりの冒険だった。

 

 有里には色んな顔がある。今のようにあどけない寝顔もあればリト達といれば年相応の男の子のような顔になる。時折何故か大人びたように見えたり、いざ戦いとなれば全てを超越した戦士のような顔に。

 

 御門にはある計画がある。

 

 いつかその全ての顔を愛せたら。この想いを伝えよう。そしていつか、誓いのキスを捧げよう。

 やるべきことは沢山ある。やりたいことはそのあとだ。

 

 有里を撫でていた手を強く握る。静かにベットから体を起こすと御門は朝食の準備をするのだった。

 

 

 

 

 

 放課後。いそいそと荷物をまとめ部活へと向かう人たちを見送りながらキャラメルを一つ口に放り込む。ミルクの甘さを舌で転がしながらリトへと視線を向けた。

 

「有里、帰ろうぜ」

 

「どっか寄らない?」

 

 部活に入っていないリトは基本的に学校が終わると同時に帰宅する。特になにも無ければ一緒に帰る雰囲気になっていた。

 

「夕飯作らなきゃだからちょっとならいいよ」

 

「なになに? どこか出掛けるの?」

 

 話を聞きつけたララがトコトコっと近寄ってきた。チラっと視線を教室の端に移す。そういえば未央達が今日はテニス部が休みだと言っていた。

 

「ちょうどリトと服買いに行こうって言ってたとこなんだ。ララも一緒に行く?」

 

「なにをおっしゃるフリティ様! 衣服に関してはワタシがいます」

 

 リトには悪いが勝手に予定を決め、絶対乗ってくるだろうララを誘う。とペケが待ったをかけた。ララの服は全てペケが構成していて下着すらもその範囲だ。結城家にあるファッション雑誌をパラパラと見るだけであらゆる衣装を再現することができる。そのとにプライドがあるペケからすれば服を買われるショッピングは面白くないだろう。つまり嫉妬だ。

 しかし好奇心旺盛なララは何かと出掛けたり街中をウロウロするのを好む。そしてリトが一緒となれば。

 

「えー、でもリトが行くんだよ! わたしも行く」

 

「いやそもそも俺は服を買いに行くなんて一言も……」

 

「じゃあ決定ね。でもララが女の子一人じゃつまらないでしょ」

 

「たしかに。そうだ、春菜! 一緒に買い物いこ」

 

 ペケとリトを置き去りにして話はコロコロと進んでいく。いきなりララに誘われた西連寺は驚きしどろもどろ。あの、そのと言いながらララの勢いに押されている。

 

「ってことで春菜も一緒に行くことになりました」

 

「あの、えっと、なにをするの?」

 

「わったしたちもいきまーす」

 

「バイトが無いのでついてきまーす」

 

 楽しそうな臭いに釣られ籾岡と沢田も一緒に行くことになった。二人がチラりとこちらを見たことで同行を決めたらしいのだが、そのことにオレはまだ気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

「なんで買い物に来ることになってるの俺は?」

 

「猿山が言うには主人公は巻き込まれてなんぼらしい。首を突っ込んだり巻き込まれるのが主人公ですよ」

 

「お前が巻き込んだんだろ」

 

「いいじゃん。オレは邪魔者引き連れて西連寺との時間作るから頑張って褒めて話題ふって次の予定決めろよ。」

 

「か、簡単に言うなよ! 一緒に買い物だけでもテンパってんのに」

 

「簡単だよ。例えば水着買うでしょ、じゃあ今度海行こうってなるし。適当に服見るでしょ? 欲しそうにしてればプレゼントってなるし、金が無ければアクセでもいいし。それ付けてどこか出掛けよ、とか代わりにオレの買い物付き合ってよとかってなるじゃん」

 

「それが出来るなら今頃デートしてるよ……でも参考にはなったかな」

 

 

 

 

 

 

 少しやる気を出したリトを連れて一行はバスに乗り近くのショッピングモールへ。映画施設や流行りのブランド、軽食店やおしゃれなイタリアンレストランなど若者向けの店舗が揃っている。彩南高校の生徒もデートに遊びにと頻繁に使われている。

 

「うわー! すごいピカピカ! お店もいっぱいだねーリト」

 

「この辺じゃ一番のモールだからな。人気のブランドも沢山入ってるし東京のコーヒー店も最近入ったらしいぞ」

 

「なにげによく調べてあるなリト。じゃあオレ腕時計見たいからこっちね。沢田と籾岡も一緒に行こうよ」

 

「へー腕時計買うんだ。おっとなじゃーん」

 

「いいよー、ゆりっちにピッタシの腕時計を未央達が見繕ってあげる」

 

「いきなり別行動かよ!」

 

「じゃあリトあそこのぬいぐるみがいっぱいあるとこ行こ! ねぇ春菜も一緒にみようよ!」

 

「えぇ、いいわよララさん」

 

 早速二手に別れる一行。狙い通りリト達と別れることができた。あとはリト次第といったところか。西連寺と仲良くするもよし、ララと親交を深めるもよし。次の予定なんか決めてくれたらベストなんだけど。

 

「さ、いこっか」

 

 とりあえず沢田と籾岡を連れ出す口実の腕時計だったが、欲しいといえば欲しいものだった。近々御門を連れて買い物でもしようと思っていたのでちょうどいい。身に付けている小物などから沢田と籾岡はいいセンスをしているようなので見立ててもらってもいいかもしれない。

 

「んー、でも御門が怒るよなぁ」

 

「なにが?」

 

「いやなんでもない。んでどれがいいんだっけ?」

 

 モールの2階の位置する腕時計屋。ウン十万するものから5,000円のお手軽なものまで取り揃えているいい雰囲気のお店だ。店員さんも遠巻きに眺めている程度で無理な接客をしてこない。いつでもうぇるかむですよーと構えている。

 

「やっぱゆりっちは赤と黒って感じじゃない? このスポーティなのがいいと思う」

 

「それもいいけどここは銀だね。おしゃれな服にも合うしシュッとした有里っちの感じにも合う筈よ」

 

「ふむふむ」

 

「ゆりっちはがっつりセクシーに攻めるべきだよ」

 

「いやいやさっくりスマートの方が魅力的だね」

 

「自分で言っといてなんだけどこれ長くなるやつですよね」

 

「すみませーんこのケースのやつつけてみてもいいですか?」

 

「やい籾岡、それ0が5個くらいあるじゃん」

 

「いいものを付けるといい男になるんだよ」

 

 その後も0が沢山並んだ時計を付けては外し戻しては次へ。笑顔が張り付いた店員さんは籾岡と沢田の試着地獄は店員さんのシフトが変わるまで続いた。

 

「はー楽しかった」

 

「あれって営業妨害じゃないのかな。オレが店員ならプチキレそう」

 

 さすがに疲れたということで東京から進出したというコーヒー店で休憩をとることにした。どこからか輸入した豆の芳醇な香りを全て殺し、甘さとクリーミーさに特化したなんたらかんたらをストローで飲む。沢田チョイスということでお願いしたのでこれが何かは解らないがまぁ甘い。カロリーが気になるが甘いものを口にしたい時にはお手軽でいいのかもしれない。

 

「このなんたらかんたらの口直しにコーヒー飲みたいわ」

 

「キャラメルエクストラソースキャラメルマキアートね」

 

「カラクリカラムーチョストリームね。ちょっと甘すぎたかな」

 

「ゆりっちは苦いほうが好きなんだねー。メモメモ」

 

 二人も慣れた様子で甘そうな何かを飲んでいた。さすがに疲れたのか沢田は机に置いたカバンに顎を乗せ、籾岡はストローで啜りながら片手で携帯をいじくっていた。

 

「あ、いたいたー」

 

「……」

 

「……」

 

 しばらくして別行動をしていたリト達を合流した。3人も飲み物を購入している。慣れたものがいなかったからか3人とも普通のコーヒーのようだ。

 

「みて! これリトにとってもらったんだ!」

 

 そういってララが心から嬉しそうに差し出したのは熊のぬいぐるみ。首に赤いネクタイをしていた可愛らしい。見た目は美少女のララが持つことでさらにお互いの魅力が引き立っているように思える。ぬいぐるみを見たが高かったのでモールにあるゲームセンターでリトが取ったのだろう。

 ちなみに青いネクタイをした熊を西連寺も持っていた。リトが一人だけではあれだろうと西連寺の分も取ってあげたのだろう。相変わらず奥手なくせにイケメン力のある奴だ。西連寺も大事そうにぬいぐるみを抱えているところをみると嬉しいようだ。しかしどこか申し訳なさそうにも見える。

 

「なかなかやるじゃんリト」

 

「聞いてくれ、有里」

 

「いや当てて見せよう。ララのはすぐに取れたけど西連寺のは苦戦して結構使っちゃたんだろ」

 

「ま、まるで見ていたかのように! ララのは3発で取れたんだけどさ」

 

「いいんじゃない? でも西連寺は気にするだろうからお詫びに今度ケーキでも奢ってって頼めばいいよ」

 

「女の子に奢らせるなんてできねーよ」

 

「そういう男気をオレじゃなくて西連寺に見せろって」

 

 ここへ来たことは二人にとってかなりいい感じになったようだ。この流れを大事にして次のお出かけや行事につなげていきたいものだ。

 

「ちなみにそれ何飲んでるんだ?」

 

「えっとカスタマイズエクストリームマックスアナザーだったかな」

 

「なんだそれ必殺技かよ」

 


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