ハリー・ポッターと魔法の天災   作:すー/とーふ

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第五話

 エピソード5 スリザリン寮にて

 

 ホグワーツの一年生は授業カリキュラムの都合上、金曜 の午後は全て休校となっている。

 その休みの時間を利用され、あの破天荒なデビューを飾った魔法薬学の話は学校中に広まっていた。

 中には眉唾物として信じない生徒も多くいるだろう。けれども彼らは直ぐに現実を目の当たりにすることになった。

 例えそれが件の天才振りでなかろうとも、その規格外なやんちゃ振りを目撃するという意味でだが。

 

「クラッブ、ゴイル。アリィはどこに行った?」

 

 自室。談話室。大広間。

 本日最後の授業である魔法薬学が終わり次第、彼は突然と姿を消した。思い当たる所を探してもルームメイトの姿が見えず、談話室で菓子を貪っていた子分二人に訊くも、彼らも見ていないと言う。

 舌打ち混じりに悪態を吐き、ドラコは面白くなさそうにソファーにもたれ掛かった。

 

「まさかポッターのところではないだろうな」

 

 アリィがあの有名人と仲が良いという噂は最近よく耳にする。その真偽を確かめるためにこうしてわざわざ探しているのに、あの天災児はどこにいるのだろうか。

 夕食の時間も過ぎ、談話室にはかなりの生徒が集まり、寛ぎを求めて自由な時間を謳歌している。

 その中に彼はいない。しかし、その幸せタイムに旋風を巻き起こすのは、やはりこの暴風小僧だった。

 

「出来たぞドラコ&取り巻き二人ッ! これが俺の全力 だぁああっ!」

 

 壁がせり上がる独特の開閉音が響き、扉が開ききる前に談話室へ颯爽と飛び込んだ元行方不明者を皆が凝視する。

 まだアウェー感が抜けていない不穏な空気が部屋に漂うが、それも直ぐに霧散することになった。原因はアリィの周囲。そこにあった沢山のお菓子達の所為だ。

 涎が零れ落ちそうになる甘そうな糖蜜パイに、絶妙な焼き加減で黄金色に輝いているプレーンクッキー。

 バケツのような器に入った特性バニラアイスと、甘さと苦さを兼ね揃えるコーヒーゼリー。そして極めつけは親玉のようにアリィの背後を陣取る特大ケーキだ。

 それは高さ五十センチに及ぶ五段ケーキ。周囲をホワイトクリー ムで覆い、苺でデコレーションされたシンプル・イズ・ ベストの体言者。しかも苺のケーキだけでなく同タイプのチョコケーキまで用意しているのだから消費者のニー ズに応えている。

 まだ物体浮遊の魔法すら学んでいないのに、更に高度な物体移動の魔法で力作の数々が宙に浮かぶ姿は圧巻の一言に尽きた。

 

「……これを今まで作っていたのか?」

「双子に厨房の場所を教えてもらったからね。今まで ずっと篭ってた」

 

 この時、初めてドラコ達三人はウィーズリー家の者に感謝の言葉を送ったという。

 そして菓子の甘い匂いが漂えば、人が集まるのは自然の理。

 

「これ……本当にアンタが作ったのかい?」

「ミリセントも食べる? まだ沢山あるし食べて良いよ」

 

 元々そのために大量に作った力作達だ 。ちゃんと食器類もある程度用意済み。

 こと遊びや料理に限り、彼は不備など起こさない。

 

「アンタ、アタシの名前を知ってんの?」

「そりゃ同じ寮の仲間なんだし覚えてるさ。まだ一学年 だけだけど」

 

 穢れを知らない純粋な子供のような――実際に外見は子供だが、とにかく向日葵みたいな笑顔を見せられ、大柄な女生徒ミリセント・ブルストロードが『う……っ!』 と呻き声を上げて顔を背ける。

 今まで邪険にしていた手前、彼の無垢な表情が心に突き刺さった。他のスリザリン生にも同じような仕草が見受けられる。

 いくら傲岸不遜な態度が目立つスリザリン生でも罪悪感で心を痛める時があるのだ。

 

「とりあえず皆、心して敵(お菓子)を倒せ(食 せ)!」

 

 暗くてバツが悪そうな表情を取る連中の闇を振り払 う、光に溢れているような快然たる号令。

 作り主からのお達しに、罪悪感を押し潰すように無理矢理テンション を上げた者達は、武器(フォーク)と盾(皿)を持った戦士に変貌を遂げて敵の軍団に殺到する。

 菓子への評価は聞かずとも良く分かった。

 

「美味いっ! 普通に美味いっ!」

「こんな美味いケーキ、俺初めて食ったぜっ!? つーか コレ、本当に手作りなのか!?」

「ゼリーの味わいが絶妙すぎる!」

「ま……負けた。お菓子作りには自信があったのに…… しかも男子に負けるなんてっ」

 

  宴会さながらのテンションで菓子を貪る寮生達。

 そんな一団とは少し離れ、暖炉の前では、

 

「はい、ドラコ。あ~ん」

「……あー……パーキンソン、だったか? 僕は自分で食 べ……何で僕のフォークを奪うんだ? そして何で僕の口に無理矢理ケーキをねじ込もうとしているんだっ!?」

 

 一目惚れという事故にも似た衝撃を受けて愛に盲目恋愛戦士と化した女生徒と、スリザリンの一学年生でリー ダー格っぽい男子生徒との甘い一時が繰り広げられる。

 それを見たアリィは一言、

 

「リア充は爆発しろ!」

 

 とりあえず日本で有名な言葉をドラコに送る。

 女性と仲が良い男を見たら即座に叫べという掲示板の指示に従ったのだ。

 特に羨望する感情は無く、ノリ以外の何ものでもない他意の無い叫びだが、それは人々の関心を集めるのに充分だった。

 

「な、なんだその言葉はっ!? 僕が何だってっ!?」

「これは彼女がいるような、リアルが充実していそうな男に送る言葉。さあ皆も一緒にっ!」

『リア充は爆発しろこの野郎っ!』

「クラッブ、ゴイルっ、お前達もかっ!?」

 

 しかし恋愛等に興味が無く、特に彼女も欲しいとは思 わない精神分野でお子様な所が残るアリィと違い、モテない男子達は『リア充』という言葉の生まれた訳を正確に察し、魂に刻み、心の底から嫉妬を込めてドラコに叫ぶ。

 彼の横で身体をクネクネさせながら「彼女だなん て……きゃっ!」と喜ぶおマセな女生徒――パンジー・ パーキンソンは、お世辞にも美少女とは言えない。

 しかしそれでも羨ましいと思うのが男心というもの。

 

 

 

 ――後にこの言葉が学校中に広まり、カップルの幸せな一時を目撃したら男子目掛けて『爆発花火』や『糞爆弾』を投げ込むのが流行化するが、それはまた別の話である。

 

 

 

 そしてその流行原因を『アリィがまた何かやったんだ』と理由も無く断定する少年がいたが、それもやっぱり別の話だ。

 

 このイベントを経てアリィの評価は上昇。主に女子の支持を得て、大体のスリザリン生に仲間として受け入れられたのだった。お菓子とは、やはり偉大なのだ。単純、とは言ってはいけない。

 

 

 

 エピソード6 予期せぬ来訪者

 

 外は暗闇のベールに包まれ、その中でぽっかりと輝く満月がホグワーツを淡く照らす。

 今、外からこの城を眺めたのなら、それはもう記憶に刻み込みたくなるほどの神秘的な光景が見られることだろう。

 夜間の外出を禁止されている生徒は少々気の毒だ。

 

「ハリー、魔法薬学のことを気にしてるの? 僕の所為でゴメン……」

「気にすること無いって。スネイプは意地悪だって説明しただろ?」

 

 窓際近くのベッドに腰掛け、ルームメイトのシェーマ ス・フィネガンとディーン・トーマスのチェス勝負を観戦しているも目の焦点が合っておらず、どこかぼんやりとしているハリーをネビル・ロングボトムとロン・ ウィーズリーが気に掛けている。

 午前中を丸々費やした魔法薬学の授業で言い掛かりにも似た理不尽を突きつけられ、自寮の点数を減らしたことをまだ気にしているのか。暗にそう訊いている。

 午後にハグリットのお茶会に出席したことで気分転換が出来たと思っていたロンは、ハリーの表情が気がかりだった。

 

「違うんだ。なんでもないよ」

 

 皆を安心させる笑み。それでも顔が強張って見えるが二人は気付かないフリをした。ハリーにとって、今はその気遣いが凄くありがたい。

 放っておいてくれることに感謝する。これで思う存分思考に耽っていられるのだから。

 

(あの時……組み分け帽子は何であんなことを言ったん だろう)

 

 いや、自問するが答えはもう分かっている。

 

 勇気に満ち溢れ、頭も 悪くなく、才能もあると自分を褒めてくれたボロボロの帽子。その帽子にハリーは問われた。

 

《グリフィンドールとスリザリン、君はどちらを選ぶかね?》

 

 結果はご存知の通りだ。

 ハリーは親友のいる所ではなく獅子寮を選択し、今に至る。

 本心を言えば親友と離れるのは心細かった。一緒の寮で学校生活を送るものだと疑わなかった。

 

 いつも問題ばかりを起こして大変な目に遭わせる幼い親友。けれども一緒に居て心から楽しいと思える親友。

 彼がいるなら、自分から両親と温かい家庭を奪った仇敵が出身だという寮でも楽しく過ごせる。 きっとそうだと確信が持てる。

 だからハリーは、本当はスリザリンを選ぶつもりだった。そう、自分が向うことになるだろうテーブルに座る、彼の眼を見るまでは。

 

(きっと、あの時の選択は間違ってない。僕は無意識にアリィを頼っていた)

 

 通っていた学校でクラスメイトと会話をする時は、毎回アリィが近くにいた。ダーズリー家に居た頃は何度も彼の家に逃げていた。

 

(だから僕がグリフィンドールに行くことをアリィは望んでいたんだ)

 

 チェスの攻防に一喜一憂する友人達の声を聞きながら思い出す。

 アリィの目は確かに何かを願っていた。それは一緒の寮になりたいという願いではなく、自分と別の寮になれば良い、という期待を孕んだもの。

 それは子供の巣立ちを願う親鳥のような目で。それは弟の自立を願う兄のような目で。ハリーにはそう感じられた。

 

《ふむ。そう思うのなら、君の進む道は一つだ》

 

 こうしてハリーはグリフィンドールを選択した。

 アリィがそう願っている気がしたから。

 

(……機会があれば今度訊いてみよう。僕って無意識 にアリィに縋ってた?って)

 

 同時に思う。もし推測通り彼が自分の自立を願っているのなら、彼を心配させないように、楽しく学校生活を謳歌している姿を見せつけよう、と。一人でだって友人を作れるんだ、と。存分に見せ付けてやる。

 自分が選んだのはスリザリン(依存)ではなくグリフィンドール(自立)なんだと。胸を張って言えるようになる。

 これがあの帽子の問いに対する最上級の返答だと思うから。

 

 そう新たな決意を心に宿した所で、ハリーは一度思考を脱線させる。

 

(そういえばアリィはもう知ってるのかな。 僕達が初めてグリンゴッツに行った日、最後に寄った金庫で強盗事件があったことを)

 

  一度思考に整理を付けて切り替える。三人でグリンゴッツに行った日、最後に寄った金庫でハグリットはあるものを回収した。

 金庫破りの犯人が侵入したのはその金庫だ。今なら分かる。取り出したのは事前に敷いた防護策だったのだ。

 

(アリィなら何か思いつくかも)

 

 あの常軌離れした閃きの塊なら何か思いつくかもしれない。ことの真相を知りたいハリーは近い内にアリィと接触することを決めた。

 

「――なら訊いてみようよ。ハリー、そのところどうなの?」

「……え?」

 

  気付けば、質問してきたネビルだけでなく、チェスを中断してまで、二人やロンがハリーを見ていた。

 

「ハリー、ネビルの話を聞いてなかった? アリィのことだよ」

「何であんなに天才なのかって話」

 

 ロンとシェーマスの補足説明で漸く質問の意図を察するハリー。色々と逸話のある彼だが、訊いているのはきっと魔法薬学への質問が主に違いない。

 座学だけでなくその後の実習まで完璧に仕上げたアリィの天才性を彼らは知りたがった。

 

「アリィは基本的に凄いけど、多分あそこまで凄かったのは魔法薬学……と、後は薬草学くらいだと思う」

「そうなの?」

「うん。自分の興味のあることにしか積極的にならないから」

 

  その興味対象が『魔法』なだけに全ての教科で凄まじいことになっている、とは別に言わなくても構わないだろう。アリィの凄さなど話し出したらキリが無いのだから。

 そしてそれはハリーの推測通りだった。

 デイモンの影響でモノ作りが好きなアリィの中では、魔法薬学と薬草学が科目の中で一番の興味対象であり、発明家として一番知っていてタメになる学問。

 知的好奇心を満たすために知識を詰め込んだ結果、いつの間にかO・W・Lにまで達していたのがこの二教科だ。

 他は今のところ三学年くらいまでの知識に留まっている。もちろん、それでも充分過ぎるぐらいだ。

 

(でもアリィのことだから、初めての実習でも恙無 く完璧以上にこなすんだろうな)

 

 

 

 しかしハリーは知らない。授業外で色々と試したアリィでも、たった一つ、どうも成果が芳しくない教科があったことを。

 

 

 

「……ねえ、アレって何だろう?」

 

 その後も魔法界入りを果たす前のアリィネタで盛り上がりを見せた時、そう発言したのはハリーの話に全力で耳を傾けていたネビルだった。

 彼の指差す方角はハリーの方――ではなく、彼の後ろの窓ガラス。話を聞きながらもチェスの決着を付けた二人も、アドバイスもとい試合を検討していたロンも顔を向け、ハリーも背後を振り返る。

 そこには暗闇を背景に一本の線が垂直に走っていた。いや、これはロープだ。それも細く、縄ではない金属性が見え隠れする細いワイヤー。

 それはグリフィン ドール塔の屋根まで伸びている気がする。

 

 ハリーの知る限り、こんなことをしそうな人物は一人しか該当しない。

 

「……まさかっ!?」

 

 窓ガラスを開け、下を覗き込もうとした時、

 

「アリィ!?」

「よう親友、元気でやってる?」

 

 右手に銀色の拳銃を持ち、左手に小さな風呂敷を持つスリザリン生が下から上がってきた。

 頭上に掲げる拳銃の銃口からはシュルシュルという音が聞こえてくる。銃口から伸びるワイヤーが自動で巻き取られる音だ。

 実に数十メートルもの高さを上がってきたアリィ窓の高さまで来ると上昇するのを止めた。

 

「まさかここがハリー達の部屋だったとはラッキーだったな。これも日頃の行いが良いからだ」

 

 窓枠に足を掛けて中に侵入。ベッドに着地してから右腕を勢い良く振り下ろす。その動作で屋根に取り付けてあったフックが外れ、しばらくした後、ワイヤーが全て銃身内に巻き取られる。

 

「お邪魔しまーす」

 

 急に現れた他寮の生徒に皆は言葉を失った。

 

「アリィ! もう外出時間はとっくに過ぎてるんだ よ!?」

『ツッコミ所はそこじゃない!?』

 

 復活して早々の言葉がそれかとハリー以外の常識人がツッコミを入れる。

 指摘しなくてはならないのは侵入方法とその目的であって、時間なんてこの際どうでも良い。下手にアリィへの耐性が付いてしまっているハリーはどこか抜けていた。

 

「ロン以外ははじめまして。俺の親友がお世話になってます。これ、つまらないものですが」

 

 お互いに簡単な自己紹介をしつつ近くにいた黄土色の 髪を持つ男子――シェーマスに渡すのは風呂敷に包まれた糖蜜パイ。蛇寮用に作ったモノの中で一つキープしていたのだ。

  ハリーのルームメイトに会うために彼は未だ菓子パーティーを繰り広げているだろう寮から抜け出し、事前に入手していた情報からグリフィンドール寮の場所に当たりを付け、こうして侵入を成功させた。

 ちなみに情報源は双子と、そして寮決めの際に賭けに負けた敗北者からだ。今その者は素知らぬ顔でパイを頬張っている。ちなみに接触したのはハリーが花を摘みに行っていた時だ。

 

「アリィ、それって拳銃……だっけ? ほら、マグルが使う杖みたいなモノ」

 

 スリザリン生を意味無く嫌うグリフィンドール生は多い。その中でもロンは典型的なそのタイプと言える。

 しかし彼の性分や性格をハリーから聞かされ、今こうして変わらない姿を見ているため、問いかけたロンに侮蔑や不快な感情は皆無だった。

 そしてロンどころか全員の関心を集めたのは、やはりアリィの持つ銀色の拳銃だ。

 銃身が大きく、まるで辞書にそのままグリップとトリガー を付けたみたいな特殊な形。ハリーや黒人の少年――ディーン以外はマグルの知識に乏しいが、それが一般的な拳銃でないことは大体理解出来る。本来の拳銃が鉄の塊を射出することくらい彼らは知っていた。

 

「コレ? これはワイヤーガン。夢だったんだよね、コレ 使って窓から入るの」

「アリィはあの映画が大好きだものね」

 

 光の剣やレーザー銃で戦うSF超大作が大のお気に入り。 ワイヤー強度の関係で今まで製作出来なかったが、エピソード1のワンシーンを再現出来てアリィもご満悦だ。

 ちなみにこのワイヤーガンの基本機構は単純で、洋装店やオリバンダーの店で見た自動巻尺の巻き取り機構を改造エアガンに加えただけのお手軽構造。しかし使用しているワイヤーは魔法界でも屈指の強度を誇るウェクロマンチュラという大蜘蛛の糸を加工して作られた一級品。

 直径一ミリ以下の極細で一トン以上をカバーでき、 市場価格は一メートルで5ガリオン。今回用いたのは全長五十メートルなので占めて250ガリオン、日本円で約21万円也。

 ウィーズリー家が聞いたら卒倒するだろう。こんなものが制作費250ガリオンなのかと。

 

「……それで、いったいこんな時間に何しに来たの?」

 

 コイツなら将来ジェダイの武器まで作りそうだと未来予想をしてしまいつつ、挨拶がしたかった訳ではな いでしょう、という意味を言葉に潜ませるハリー。

 

「もちろん遊びに来たに決まってんじゃん。明日は土曜で休みだし」

 

 これはまあ、予想出来た答えだった。意外と普通なので一安心。

 しかし、ハリーがホッ とするのも束の間、

 

「あとさ、今晩泊めて」

『…………ハアっ!?』

 

  これだけは予想外だった。

 

 

 

  エピソード7 好敵手(ライバル)

 

 遊びに来たのは百歩譲って許すとして、何故そこで泊まりの話が出てくるのか。この中で彼と一番付き合いが長い少年が一同を代表して問うた所、

 

「俺は空気の読める男なんだよ親友」

 

 不敵な笑みを零しつつ、彼は見事なドヤ顔を決め込ん だ。

 

 一方その頃、スリザリン寮のとある部屋では。

 

《アリィはどこだ!? 元はといえば全部君の……ッ!》

《きっと私達に気を遣ってくれたのよ。ね、ドラコ?》

《何で君は男子部屋まで付いてくるんだ!?》

《ドラコ……私達、二人っきりね》

《僕の質問は無視なのか、パーキンソンっ!?》

《……私ね、本当はもっと早く貴方と話したかったわ。 でも恥ずかしくて勇気が出なかったの。そうしたらあの子が親密になるきっかけを作ってあげるって言うから、 だから私は勇気を出して貴方にケーキを……っ!》

《……ちょっと待ちたまえ、いや、待ってください。パーキンソン、何で君は部屋の鍵を閉め……分かった。ちゃんと君のことは名前で呼ぶから! だから上着を脱ごうとするなぁあああああっ!?》

 

 

 

 本当にマセている恋愛猪突猛進少女とまだまだ初心な少年の夜は長い。

 ちなみに彼はこの後暴走する少女の説得に成功し、結局徹夜でお話をするだけになったとか。

 まあ、流石に十一歳で大人の階段を昇るのは早いだろう。というか道徳と情操的観点からもそれは認めら れない。

 

(夜通し語れば仲も深まる。良いパジャマパーティーにしなよ、二人とも)

 

 俗に人はこれを『余計なお世話』と呼ぶ。今回は不幸な少年一人に対してのみだが。

 

「……まあ、泊まるのは別に構わない、のか?」 

「バレなきゃ大丈夫」

 

 シェーマスとディーンは泊まるのに賛成派。あの魔法薬学で天才デビューを果たした少年に興味津々の様 子。

 彼らにとってもアリィがスリザリンなのは些細な問題らしい。ネビルはビクビクしながら皆がそれで良いならと承諾し、ロンも当然オーケーした。

 残りはハリーただ一人。

 

「確かに君がここから出なければ先生にはバレないだろうけど……本当に遊びと泊まりに来ただけ?」

「あとは実験。試したいことがあるんだけど失敗して惨事になったらルームメイトに悪いでしょ?」

「その優しさを僕達にも向けてよ!?」

「ドラコを下手に刺激したくないんだよ。目的がアレだから」

 

 惨事と言っても九分九厘以上の確率で惨事は起こらないと考えている。

 失敗しても被害は無い。それでもわざわざ大袈裟に言ったのは、魔法の実験では何が起こるか 分からないからだ。

 魔法の重ね掛けをすることでどんな事態になるか想像出来ない。確証が持てない限りいくら確率が高くても断言しないのが発明家だ。

 

「大丈夫だって。失敗しても大惨事にならないよ……多分」

 

 止める暇も無く、アリィはその実験を始めてしまう。

 

「『バテスタ 泡で包め』」

 

 アリィが唱えたのは『泡頭呪文』。

 自らの頭を泡で包み、新鮮な空気を確保する魔法。

 授業では習わない魔法の一つで、魔法自体は簡単なので誰でも出来るように なるだろう。一年生でも沢山練習を積めば扱える代物 に過ぎない。しかし次に唱える魔法は一年生のレベル を超えていた。

 

「次はこれ『エンゴージオ 肥大せよ』」

 

 その紅葉のような手に持つ杖を向ける先にあるのは、 頭を包む気泡の塊。

 それが次第に、ゆっくりと巨大化を始める。泡の膜は全身を覆うだけでは飽き足らず、ハリーとディーンを巻き込んで肥大する。三人とベッドなど、部屋の半分を占める程度まで巨大化し、変化は直ぐにストップした。

 

「おっし! 大成功!」

「……アリィ、これの意味は?」

 

 泡に閉じ込められながら困惑するハリーを、アリィは笑顔で振り向いた。

 

「俺の今後の学校生活を左右する、実に大切なことだよ。ハリー・ポッター君」

 

 なにせコレが失敗した場合、アリィはまた新たに方法を考えなくてはならない。

 それこそ新しい魔法具か魔法を開発するくらいの努力と閃きが必要になってくる。

 

「ここに来てからずっと考えてたんだよね。どうやってホ グワーツでゲームをしようか」

 

 ホグワーツ内で機械が使えない理由は城の中に充満する魔力の所為と言われている。空気中に含まれる高濃度の魔力が機械等の電気製品を狂わし、まるで壊れたかのように機能させなくするのだ。

 

「ならさ、こうやって魔力に侵されていない新鮮な空気の中でなら、ちょっとは機械も使えるんじゃないかなって思ったんだ」

 

 空気中の魔力の所為で使えないなら、無菌室ならぬ無魔力室を用意すれば良い。

 様々な魔法の施されている建物や施設に、魔法具から漏れ出す魔力を、この泡の膜で防御し、膜内への空気の侵入を拒む。

 この『泡頭呪文』 自体や杖に込められた魔力が空気に浸透して直ぐに機械が作動しなくなる可能性もあるが、それでも少しは猶予があるだろうとアリィは考えていた。

 

「さあ、どうなるかなー」

 

 この方法を試すために肌身離さず持ち歩いているバッ クは自室に置き、ワイヤーガンだって泡の範囲外に逃した。膜内に置く魔法関連絡みのモノは最低限に留める。

 皆が見守る中、ローブの袖口からゲーム機を取り出した。震える手でスイッチを入れ、そして、

 

  「「おっしゃああああああああっ!」」

 

 アリィだけでなく、もう一人の歓声も木霊する。

 彼と一緒になって喜ぶその人物は、

 

「ディーン!?」

 

 そう、歓声を上げ、アリィとハイタッチをかますのはディーン・トーマス。

 父親が魔法使いであるにも関わらず諸事情により魔法を知らなかった、マグル出身の少 年。彼もアリィと同じ犠牲者だったのだ。

 持ち込んだゲームを使用出来なかった、彼と同じゲーム魂を持つ同志。

 しかも、

 

「アリィ! もしかしてそれって!?」

「ディーン! それってまさか!?」

 

『泡頭呪文』が自分のベッドを覆っていたことに便乗してトランクの底に埋もれていたゲーム機を取り出したディーンは、アリィの起動させたソフトを見て。アリィは彼の差し込もうとしたソフトを見て驚愕する。

 偶然にもそれは、カラーバージョンが違うだけで全く同種のソフトだったのだ。

 

「――マンダの龍星群は!?」

「強い!」

 

 アリィの問いに間髪入れず答えるディーン。

 周囲を置き去りにして、彼等の確認は続いていく。

 

「――燕返しは!?」

「ヘラガッサにピンポイント!」

 

 これはお互いの実力を確かめるための通過儀礼。この問答に答えられるかどうかで彼らトレーナーは相手の実力を推し量る。

 

「――ピンクの悪魔と言えば!?」

「ハピナスorラッキー!」

 

 結果はパーフェクト。

 最低限の確認を終え、あとやることはただ一つ。

 

「「バトルしようぜ!」」

 

 あとは、直に実力を確かめるだけだ。

 

 

 

 ラストエピソード 唯一の天敵

 

 その光景は端から見て異常だった。

 新入生ならまだしも二学年以上の在校生であの光景を見た者は、まず最初に幻覚や妄想の具象化を疑った。

 始めからこれが現実だと決め付ける人はいなかった。それは教員も同じだ。教職員で一番の嫌われ者、管理人のアーガス・フィルチだけは復活が早かったと耳にするも、今となっては確かめる術も無い。

 

 これは夢の中だと判断して頬をつねる者が五割。

 新手の幻覚魔法か毒薬を盛られたと医務室に駆け込む者が四割。

 あとの一割は様々で。幻覚は自分の弱き精神が原因だと精神統一を始める者。この騒動を記録したいと急ぎカメラを取りに行く者。巻き込まれるのを恐れて自室に引き籠る者。便乗するべきだと教員に進言する者。

 実に沢山の人が程よく混乱させられた。

 

 事件は新学期初めての休日。土曜の夕方に発生した。

 

「待て待て待てー!」

 

 綺麗な夕日をバックにホグワーツが一番輝く時間帯。

 廊下から大広間にかけて子供の声が木霊する。時間帯は夕食時には少し早いため人の存在に乏しいが、決して誰もいない無人の空間という訳ではない。各々好きな席に座っていた者達は、例外無く声の方に注目した。

 段々と近付く大声と、ドタバタと慌ただしい足音。

 大広間の扉をすり抜けて現れたのは、彼等の度肝を抜く人物だった。

 

「待てと言われて待つ奴がいるかぁああああっ!? 大大大の大変人、おチビでお馬鹿の天災アルフィー!?」

 

 ポルターガイストのピーブス。

 このホグワーツに住み着くゴーストの一人で、いつも悪戯ばかりをして生徒や学校に被害を浴びせる厄介者。

 そのピーブスが、あのスリザリン寮憑きのゴースト『血みどろ男爵』以外は御しきれないと呼ばれているあのポルターガイストが恐怖に駆られて爆走している。

 彼が扉をすり抜けて一瞬後、扉をぶち破ったような衝撃音を響かせながら現れたのは、この一週間で一躍有名人となった時の人、アルフィー・ グリフィンドールその人である。

 

「良いじゃんちょっとくらい身体を調べさせてくれたっ て! 減るもんじゃないでしょ!?」

「さっき『身体の一部でも奪い取れれば儲け物』って言いながら網を振り下ろした奴の台詞じゃなーい!?」

 

  生徒のプライベート保持の関係や教職員の秘密事項の漏洩を防ぐ目的でも、ゴーストが壁抜けを出来ない部屋というのが存在する。

 それは寮部屋だったり職員室だったり、各先生方の自室だったり、そういった指定されたゴースト以外を拒絶する部屋がある訳だが、それでも城内に限定したってピーブスの行動範囲は膨大だ。

 その広大な範囲内での追いかけっこが始まり早五時間。

 ゴースト対策が施された施設と同じように、もはや失われた魔法と呼ばれる『ゴースト除け』――つまりはゴーストとの強制的な物理接触不可能とする、四人の創設者や校長のみが行使可能と言われる古代魔法の掛けられた巨大網を持つアリィは、今日も自分の興味対象のために我が道を往く。

 

「い、いい加減諦めろぉおおおっ!?」

「せっかく城内を探検中に見つけたんだから使わない訳にはいかないっての! 身体を調べるなんて一週間もあれば終わるよ!」

 

 いくら撒いても、いくら逃げても、アリィはとある部屋で見つけた『ゴドリック製』と刻まれている巨大な網を振るい、諦めることなくピーブスを追いかける。

 この網は擦りぬけが出来ないので捕獲されたらば最後。アリィの気が晴れるまで囚われるしかない。

 そんな自由を賭けた追いかけっこを五時間も強制され、流石のピーブスも参っていた。

 そもそも自分からピーブスに近付こうとする生徒が今まで皆無だったため、アリィのようなタイプは彼にとっても未知との遭遇に近い。

 異常なまでに執着を見せる彼に、あの興味対象(新しい玩具)に向けるキラキラと輝く目の中に潜むマッドの意思を垣間見て、初めてピーブスはただの生徒に恐怖した。

 誰かから逃げるなど、ここ数百年体験した例が無い。

 

「お、落ち着こう! ねえ、可愛い可愛いアリィちゃん!?」

「だってさ、最初は手っ取り早く血みどろ男爵に協力を頼んだら『そういうのはピーブスにしとけ』って言うから!」

「閣下ぁあああっ!? このピーブスめをお売りになられたのですかぁああああーーーっ!?」

 

 その閣下は現在スリザリン寮に閉じこもり、他の寮憑きゴーストも同じように避難中。

 それ以外のゴーストはさり気無く『ゴースト除け』の魔法が施された部屋に集まり息を潜めている。基本的に『ゴースト除け』を適用され、侵入を禁止されているのはピーブスだけなのだ。これも日頃の行いが悪い所為と諦めるしかない。

 

「大丈夫! ピーブスの尊い犠牲はきっと世の中のゴースト研究を一歩前進させるから! 論文にはきちんと名前を載せてやる!」

「犠牲になることを前提で話を進めるなぁあああああ---っ!?」

 

 

 

 

 結局この騒動はダンブルドアが出張から戻る一時間後まで続けられ、事態を察しピーブス排除を狙ってアリィの行動を黙認していた教員達は、やんわりとアリィを止めてピーブスを庇うダンブルドアの優しさに内心で舌打ちをかましたとか。

 見つけた網は『そういえば調べるにしてもどうやったら良いんだろ?』と、捕獲後の具体的な計画を立てていなかったアリィがゴースト研究の一時中断を決めたため、一番欲しそうにしていたフィルチに譲渡して凄く感謝されたらしい。

 そしてピーブスは二度とアリィに近付かないと決め、彼の所属するスリザリン寮の生徒にも悪戯をすることを止めた。それをネタに絡まれる可能性を恐れたのだ。

 お陰でピーブス被害に毎年悩まされていた二年生以上の 生徒は皆、アリィに感謝の言葉を送り、敵視していた者も心の中で謝罪。認識を改めることになる。

 こうしてアリィは見事スリザリン生全員の支持を得て、仲間として迎えられたのだった。

 

 

 




この時代にこんなものねーよってツッコミは無しでお願いしたいです。

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