ハリー・ポッターと魔法の天災   作:すー/とーふ

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第二章 秘密の部屋?編
プロローグ


 プリベット通りはロンドン郊外にある閑静な住宅街だ。いや、閑静と言うには語弊があるかもしれないが、去年の九月から翌年の七月下旬までは『静かで平和な生活を貴方に』という謳い文句通りの生活は保障されていた。

 

「静かなのは良い事なのだけれど……なんだか物足りないわねぇ」

「いなくなって分かる寂しさというのもあるものじゃのう」

 

 とは、プリベット通りに住む老夫婦の言葉である。

 プリベット通りは外観とは裏腹に普通ではなかった。老若男女の一般市民が住んでいるという点では普通だが、その中に異常が紛れている事を大多数の人が知らない。

 その異常とは――魔法使い。

 この住宅街には二人の少年魔法使いが在住している。夏になって戻ってきた二人の内、一人が起こす騒動は直ぐにこの住宅街を元の騒がしい姿に戻し、パズルの最後のピースが嵌るかの如く住民達の心の隙間を埋めていった。

 

 さて、そんな喧騒に塗れた日々が戻った七月三十一日の晩。今日が十二歳の誕生日である一人の魔法使い――ハリー・ポッターは、隣人にして親友、共にホグワーツ魔法魔術学校に通う天災魔法使い――アルフィー・グリフィンドールの家を訪れ、二人だけで盛大な誕生日パーティーを執り行っていた。

 料理が趣味のアルフィー――アリィの手料理に舌鼓を打ち、今は食後の談笑もといゲームの真っ最中だ。

 種目はカード。世界中で人気を誇っている日本産のカードゲームである。

 

「――最後に《ブラック・マジシャン》で攻撃っ! 《黒・魔・導(ブラック・マジック)》! 僕はこれでターン終了!」

 

 高らかに攻撃宣言をした黒髪の少年が件のハリー・ポッターである。

 十二歳にしては背も小さく、痩せ気味な体型。フレームの細い丸眼鏡の奥には母親譲りの綺麗な碧眼が姿を見せ、前髪からは稲妻形の傷跡が覗いている。

 計三体の上級魔法使いモンスターを操る彼は、魔法界では生き残った男の子と呼ばれる大変な有名人だ。

 対して、カーペットの敷かれた床に座り、ハリーの対面で不敵に笑う少年は、

 

「ふっふっふ、甘いぞハリー。悪いけど俺の勝利は揺るがない!」

 

 背の低いハリーよりも更に小さい。ハリーと二日違いで生まれた少年は、パッと見七・八歳と思うぐらい幼い容姿をしている。

 綺麗なイエローブロンドの髪は短く、その空蒼色の瞳はキラキラと輝いている。幼いためか愛嬌のある笑顔を振り撒く向日葵のような少年。

 唯一の同居人だった曽祖父の形見である砂時計のペンダントを首から掛ける少年が、この縦に細長い二階建て一軒屋の主、アルフィー・グリフィンドール――ホグワーツでは天災と呼ばれるお騒がせ発明家だ。

 

「俺は伏せていた《死者蘇生》を発動! 俺の墓地からモンスターを特殊召喚!」

 

 リビングは相変わらず訳の分からない機械製の発明品達に囲まれ、更に遊んでいるのがマグル――非魔法使いの総称――の遊ぶゲームなため魔法使い要素など皆無だが、それでも二人はファンタジー世界の住人である。

 魔法使い族デッキを操るハリーの場にモンスターは三体。その点アリィの場にはモンスターも、そして魔法・罠カードすらセットされていない真っ平らな状態。

 蘇生カードの効果でアリィのモンスターゾーンにモンスターが出現する。

 白さを帯びた青い鱗が光沢を放つ巨大な龍。その神々しい姿と人気キャラのお気に入りモンスターという事もあり莫大な人気を誇る一体の名は、

 

「ブルーアイズ!? え、いつの間に……まさか!?」

「《メタモルポット》の時に捨てておいたのさ!」

 

 突如現れた高攻撃力モンスターに慄くハリー。

 見る者に絶望を与える青眼の白龍のプレッシャーにモンスター達は冷や汗を垂らす(注:イメージです)。

 手っ取り早くブルーアイズを召喚するためにメタモルポットで手札を墓地へ捨てたアリィの猛撃は、まだ終わらない。

 

「更に《ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの支配者》を召喚! ついでに《ドラゴンを呼ぶ笛》も発動! 手札からドラゴン族を二体まで特殊召喚!」

 

 ローブを着た龍神官の奏でる笛に誘われ、アリィの手札から更に二体の上級ドラゴン族が召喚される。どれも同じ白龍の姿。白龍達の雄叫びが幻聴となってハリーを襲う。

 ハリーには、アリィの姿がとある社長と被って見えた。

 

「《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)》三体で攻撃! 滅びのバースト・ストリィイイイイイイムっ!」

 

 攻撃力3000というパワーの前に魔法使い達は無力だ。

 完膚無きまでに叩き潰され、今度はハリーのフィールドが更地となる。

 生命線であるライフポイントも残り100。正に風前の灯のハリーの額を薄っすらと汗が伝った。

 三体の強力モンスター。更にそのドラゴンに対して魔法・罠・モンスター効果を無効化するロード・オブ・ドラゴンの布陣は、アリィの得意とする有名コンボの一つだった。

 

「悪いなハリー! 夕飯の後片付けは君に任せた!」

 

 本来なら主賓であるハリーに誕生日会の後片付けをさせるのは色々と間違っている気はするも、そこは遊び好きな二人だ。

 アリィの影響で色々とノリの良いハリーもその提案を受け入れ、現在危機に陥っている。

 勝利の勝ち鬨を掲げて暢気に高笑いするアリィを尻目に、ハリーは震える手をデッキに向ける。緊張が全身を支配する中、引いたカードを見て――ハリーの震えは止まった。

 そしてハリーが見せるのは、勝利を確信した者が見せる笑み。

 

「――君ともあろう人がミスを犯したね」

「…………なんですと?」

 

 勝利の美酒として紅茶を飲んでいたアリィが止まる。

 連動して口へと運んでいたティーカップの傾きも止まった。

 怪訝な視線を受けるハリーの口はこの運命的な幸運に孤を描いた。

 

「勝利を前に高笑いなんて敗北フラグを自分で立てたって事だよ」

 

 そしてハリーは五枚の手札をオープン。遊戯王において手札をオープンする理由は限られている。そして、魔法でも罠でも無く現状を打破出来る方法など一つしかない。

 

「今――勝利の鍵は全て揃った」

「ぶっ!?」

 

 目を丸くして紅茶を吹き出すアリィの視線が手札に注がれる。身体だけのモンスターに、似たような両手足のモンスターカード四枚。

 そのカードは、

 

「エ、エエ……エクゾディアぁああっ!? 何でハリーが持ってんの!?」

 

 ハリーの持つカードは全て元を辿ればアリィの物。膨大にあるカードを共有する事でハリーはデッキを作っている。

 その中にエクゾディアパーツと呼ばれる、特定のカード五枚を手札に揃える事でデュエルに勝利する特殊勝利条件カードをアリィは持っていなかったのだから、マグルの通貨を所持していないハリーがそのカードを所持しているのは不可解だった。

 

「ディーンから貰ったんだ。アリィに勝つにはどうしたら良いのか相談したら、ブルーアイズ三体を屠るのにこれ以上最適なカードは無いってね」

「だからってこの土壇場で封印カードを全部揃えやがりますか!?」

 

 悠然と、そして誇らしげにエクゾディアを並べるハリーの所作を見届けるアリィの口はワナワナと震えている。

 なんというか、彼は初めてとある社長の気持ちが分かった気がした。確かにコレは特大級の絶望だ。新たはトラウマとなってもおかしくない。

 

「馬鹿な……こんな事って……ッ!?」

「運命が僕を選んだんだよ。これで終わりだ! 怒りの業火 エクゾード・フレイム!」

「ぬわぁあああああああああーーーっ!?」

 

 かくして激戦が終わりを迎える。

 大きくガッツポーズを取るハリーの前で崩れ落ちるアリィの言葉は、凄くか細いものだった。姿も何となく真っ白に燃え尽きているように見える。

 

「負けた……漫画的展開で負けた……」

「それじゃあアリィ。後片付けはよろしくね」

 

 意気揚々と、スキップでもするようにウキウキ気分でタオルを持ったハリーは、後片付けを家主に任せて浴室に消える。ハリーが居候するダーズリー家では上客を招いてパーティーが開かれているため、元々彼は今日泊まる予定だったのだ。

 ダーズリー夫妻から邪魔者扱いされているハリーはこれといって不満を言う事も無く、むしろ嬉しそうにアリィの家へと泊まりに来ていた。

 

「……なーんでサーチ系のカードも使わずに封印パーツを五枚揃えられるんだよ。ハリーの運って変な所でチートだよな、相変わらず」

 

 カチャカチャと食器を洗う音が軽快なリズムを刻む。

 石鹸の香りを鼻孔一杯に感じながら、アリィは幼い頃からの親友を改めて考察した。

 幼い頃から見知っている親友。飛行術が得意で、魔法成績も悪く無く。勇気のある者が集うグリフィンドールに所属する生き残った男の子。

 つい数週間前も二十世紀最凶最悪と呼ばれた闇の魔法使いから賢者の石を守りきった少年。

 あの事件に関わった一人として、そして親友として、彼の勇気ある意志と行動は間近で見ていた。

 

 だからこそ思う。

 

「……はい、ごめんさない。ダンブルドアとの約束を破って凄く反省してますハーさん様……」

 

 フキンで食器を拭いていたアリィは疫病に掛かったかの様に青褪め、何度も額を水洗台に打ち付けながら謝罪を口にする。

 

 あの日、一緒だったからこそアリィは比べてしまう。あの時の自分の行いと、ハリーの勇猛さを。

 

 悪いのはヴォルデモートとクィレル。この事実は変わらない。

 しかし、あの夜にアリィがポチ太郎へ会いに行かなければクィレル達は最初の罠を突破出来ず、ハリー達は危険な目に遇わなかったかもしれない。

 ハリーの病室で起こした騒動のついでにハーマイオニーから説教された事を思い出し、何も無い空間に許しを請うアリィ。

 あの時の説教は騒音行動とダンブルドアとの約束を破った事に対するモノ。アリィに甘い校長先生に代わって彼女が説教したに過ぎない。それも普段の彼女にしてみれば随分と甘い口調でだ。

 

 《まあ、私達が言える事じゃないんでしょうけど、約束は破っちゃダメよ。貴方が約束を破ってポチ太郎へ会いに行かなかったら、クィレルは多分最深部まで辿り付けなかったと思うから》

 

 自分達が危ない目に遭ったのはお前の所為だと咎められた訳ではない。彼女にも、側で聞いていたロンも、勿論後から知ったハリーも、微塵もそんな事を考えていないと断言出来る。

 どんな理由であれ校則破りで廊下へ侵入したのは自分達も同じ。そもそも命の危険を承知で侵入したのだから、それを人の所為にする程ハリー達は愚かではない。そう考えたからこそ彼女達は何も言わなかった。

 それにあのままクィレル達が第一の罠で手こずっていたらハリー達と接触する可能性もあったのだ。結果論としては、こちらの陣営に死者が出なかった現状は上々の出来だと言えるだろう。

 

 それでもアリィは自責の念に耐え切れず、大切な人達を喪っていたかもしれない事実に改めて恐怖する。

 

「ホント……無事で良かった」

 

 今までの微笑ましい悪戯とは違う、本当に死の危険性を孕んだ事件。

 きっかけはハーマイオニーの説教。そして事件の発端も自分の不注意な行動がきっかけかもしれない。

 今回の事件は流石のアリィも色々と考えさせられた。特にペットに会いたいという欲求に駆られて親友達を危険に晒したという事実は、自分自身に多大なショックを与えたものだ。

 笑顔の裏で、表情を落とすぐらいには盛大に落ち込んだ。しかし、どん底の気持ちから直ぐに復活するポジティブ思考もアリィの長所である。

 

「……ま、過ぎた事だし。今後は気を付けよう、うん」

 

 暗いのは自分らしくない。失敗を次に生かすのが発明家。今後の悪戯や行いも、ほんのちょっとばっかし自重しようかと思わなくも無い。

 人とは学び、成長する生き物なのだ。

 

「アリィ、あがったよ」

 

 洗い物をしながら反省会を終えると同時にハリーも上がり、髪をタオルで拭きながら交代を促してくる。

 

「はいよ。じゃあパパッと入ってくる。そしたらまたリベンジだ」

「ゲームくらいしかやる事も無いからね」

「まあ、そもそも折角の誕生日会に勉強なんてやる気になれないけど」

 

 二人は既に長期休暇の宿題を終わらせているため遊び以外にやる事がない。

 帰宅後直ぐにハリーの杖や教材諸々がダーズリー家の物置部屋に封印されるという事件があったものの、それは既にアリィ直伝のピッキングでハリーが鍵をこじ開け、天災印のフェイクを放り込む事ですり替えに成功している。

 アリィは先程の暗い考えを感じさせない表情で笑い、浴室へとまっしぐら。身体を洗ってから浴槽へダイブし、自作したゴムのアヒルを浮かべて心の芯から温まるアリィの顔は、信じられないくらい蕩けていた。

 日本贔屓だったデイモンの影響でヨーロッパ圏にしては珍しく、この家の風呂は湯船がメインなのだ。

 当然この狭い風呂場もデイモンが設計・製作したものだった。決して浴槽の縁に設置された髑髏のボタンは触れるべからず。

 

「あー、極楽極楽。やっぱりシャワーより気持ちいい」

 

 頭にタオルを乗っけて極楽モードに移行。もう一人の親友であるダドリー・ダーズリーが夕食会に拘束されているのを残念に思いつつ、それでも遊び通す事を改めて決意する。今日はハリーの誕生日なのだから。

 

「にしても、何で皆と連絡取れなかったんだろ? せっかくの誕生日なのに」

 

 彼等の学友達と最後に出会ったのはキングズ・クロス駅。というよりも、魔法界と最後に交流があったのは長期休暇に入った次の日。ハリーと共にフラメル夫妻の家を訪れたのが最後だ。

 その日以来、魔法界とは交信が途絶えたまま。

 二人揃って誰からも手紙が来ず、また予め教えてもらったハーマイオニーの家に電話を掛けても繋がらない。ハリーのペットであるフクロウのヘドウィグも外に出たっきり何日も帰ってこないので手紙を送るのも不可能。

 アリィがいなかったら本当に魔法なんてものがあるのかと疑心暗鬼に陥っていたかも、とはハリーの言である。

 あの友人達が自分達の誕生日をシカトするとは思えなかったため、何かあると探偵モドキになりかけているアリィだ。

 

「遊びにも来ないし行けない。双子やドラコからお泊りの日程状も来ない。どうなってんだか」

 

 そしてホグワーツに残してきた愛犬と愛蛇も気になるところ。そろそろ本格的に調査へ乗り出すかと、顔の半分まで湯船に浸けて画策している時だ。

 リビングから爆発音が聞こえ、アリィは浴槽から飛び上がった。

 

「ちょ、いったい何事!?」

 

 腰にタオルを巻いて直ぐにリビングへと飛び込み、目の前に広がった光景は、端的に表せば悲惨。

 テーブルは砕け、カーペットはズタボロ。デイモンの遺作達に傷が無いのが不幸中の幸いといった有様で、何があったのか皆目検討も付かない。

 そして一番の被害は、

 

「カ……カードがぁあああああああああ!?」

 

 焼け焦げ、バラバラになったカードだったらしき紙片達。魔法には修復魔法があるため元通りにする事は出来るが、一人の決闘者としてカードバラバラ殺人事件は精神に多大なダメージを負わせた。

 訳が分からない。そしてハリーも見当たらない。

 玄関のドアが開けっ放しなので外に飛び出したのだと当たりを付け、泣き顔で裸のまま外へ出ようとした時。アリィは窓から何かの羽ばたき音を聞いた。

 

「……フクロウ?

 」

 コツンコツンと嘴を窓へと打ち付ける梟を部屋に入れ、そしてアリィの視線はフクロウの足へと釘付けになる。

 

「手紙!」

 

 アリィは魔法界で伝書鳩扱いされているフクロウに飛び掛る。身の危険を感じたのか反射的に飛び立とうとするメンフクロウを捕獲。むき出しの肌につつく攻撃は大ダメージだがアリィは怯まない。

 引っ手繰るように手紙を奪い、内容に目を通してみれば――それは魔法省魔法不適正取締局からの、今から二分前にこの家で使用された爆発呪文に対しての厳重注意状だった。

 

「――は? いやいやいやいや、ツッコミ所満載でしょ魔法省!?」

 

 魔術学校に所属している十七歳未満の魔法使いは校外での魔法使用が禁じられている。

 それは校則ではなく立派な法律であり、マグルへの秘匿性を重視する彼等にしてみれば無視出来ない事柄。

 しかし、だからこそ真面目に調査してほしい。アリィの住居で魔法行使=アリィの仕業というのは安直である。

 法律対象魔法使いに予め魔法を掛けてその周辺をサーチするのは構わないが、検知された魔法の使用者も分かる魔法を採用して欲しいと切に願う。

 厳重抗議してやると意気込むアリィはいつの間にか『動物好かれ』の影響で大人しくなっていたフクロウを頭に乗せながらタオルで身体中を拭き、自室へ向かい、途中で調達した黄色のパジャマを着てから机に張り付く。窓を開けて外気と月明かりを取り入れてから抗議の書状を書こうとして、

 

 

 ――向かいのダーズリー家から聞こえてきた怒鳴り声に顔を上げた。

 

 

「……ハリーのこと忘れてた」

 

 途切れ途切れに聴こえてくる言葉を翻訳すればバーノン・ダーズリーが未成年の魔法禁止事項に関してハリーに怒鳴り散らしているらしい事が分かる。

 散々魔法云々を秘密にしたがっていたのに大声を出して良いのかと思うアリィは、仕方が無いので書状を後回しにしてダーズリー家へと向う。

 

「何がどーなってんのさ」

 

 小さな呟きを聞くのは頭のメンフクロウのみ。小さくホーと鳴く可愛らしい声が耳に残る。

 

 

 誕生日の夜は、今年の事件の幕開けに過ぎなかった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 魔法省から厳重注意を受けてから二日が経った。

 そしてあれからダーズリー家から話を聞き、自室へと監禁されているハリーと手紙のやり取りを経て、風呂場に消えていた間に起きた空白の時間をアリィは正確に把握している。

 あの晩、何でもドビーと名乗る屋敷しもべ妖精がアリィの家を訪れ、ハリーにホグワーツへと帰らないように説得するも失敗。問題を起こしてホグワーツを退学になれば良いと魔法を使ったが、ここはアリィの家なので責任はアリィに向くかもしれない。だからドビーはダーズリー家に向かい改めて魔法を行使。今度こそ魔法使用の責任をハリーに押し付けて消えたらしい。

 友達に忘れられたと思えば学校に行きたく無くなるのではと考え、アリィの分も含めて手紙を遮断してたのだから、彼にしてみれば完全なとばっちりである。

 

「じゃあダドリー。これが明日の分だから」

『分かった。それで、これはハリーからだ』

 

 もう大抵の人間が寝静まっている時間帯に糸電話で会話をしている者がいた。アリィとダドリーだ。

 二人の自室は共に二階。しかしアリィ宅の方が縦に長いため、彼等はこの高低差を利用して物品の運送を行っていた。今、二つの部屋は糸電話の他に一本のロープが行き来している。

 クロスボウとロープを使って糸電話を渡すついでに橋渡し。その橋には一つの滑車が掛かり、その下には小さな小包が括り付けられている。

 児童相談所が飛んでくるような食事事情を迎えているハリーのために用意した保存食だ。

 魔法が禁止されている事を黙っていた事が明るみになり、バーノンおじさんの怒りに触れたハリーは監禁されている。本来なら外との連絡が取れない状態なのだが、そこは内部協力者であるダドリーのお陰で解決。

 こうして毎晩食事を渡し、ハリーからの手紙を受け取るのが夜の定番となりつつある。用心深いダーズリーおじさんも、流石に夜中はノーマークだった。

 

『アリィ、いったいいつアイツを脱走させるんだ?』

「うーん、明日の夜かなぁ。そん時はダドリー、手筈通りに」

 

 ハリーが気に食わないダドリーだが、親友に頼まれれば嫌とは言えない。欠伸を堪えながら手紙を吸盤付き弓矢に括り付けるダドリーを窓から覗きつつ、頭の中で明日の脱走計画を立てるアリィ。

 昼は会社を休んでまでハリーとアリィの監視をしているバーノンおじさんの所為で身動きが取れないため、決行は夜だ。

 ダドリーに玄関を開けてもらい中に侵入。鍵の掛かったハリーの部屋をピッキングでこじ開ける。このシンプルな作戦でハリーを救出する。

 杖や教科書といった魔法関連の荷物はアリィ宅に置いてあるので荷造りは楽だった。服やなんかは逃亡先のダイアゴン横丁で調達すればいい。

 

『でもアリィ、アイツを勝手に出したらパパの怒りがお前にも向くんだぞ』

「良いよ、別に。それにおじさんも本格的にハリーを監禁するつもりは無いんでしょ、きっと」

 

 もし本当にホグワーツにも返さない気なら昼の監視だけでなく夜も何かしらのアクションを起こす筈だと推測するアリィ。

 ハリーにはアリィという協力者がいる事をバーノンおじさんも知っているからだ。そして、そのアリィがダドリーに協力を仰ぐ事も容易に想像出来る筈。

 本気なら必ずアリィに対しても何かを仕掛けてくる筈だった。そもそもこんな夜の密談だって彼が本気ならとっくにバレている。それが無い時点でバーノンおじさんは本気で閉じ込める気は無く、彼の怒りは時間が解決してくれると考えられた。

 何だかんだ言って被害に遭った客人はケーキを被っても笑って許し、大事な商談は成功した訳だし。

 

「悪いねダドリー。あんま遊べないで」

『……ハァ、まあ、アイツがいるとパパもピリピリしてるから、早く連れて行ってくれよ』

「オーケー。じゃあお菓子大量に作っとくから後で贈んね。以上、交信終了」

 

 連絡を追え、ダドリー部屋の窓が閉まるのを見ながらリールでロープ諸々を回収。

 そしてベッドにダイブしながら屋敷しもべ妖精について考える。

 屋敷しもべ妖精は魔法使いに仕える召使みたいな種族の事で、ドビーと名乗った妖精は、ハリーを守るために行動に移したと云う。

 

「あー、ダメだ。こんなんじゃ分かんないって」

 

 判断材料が足りない事を嘆く。分かるのは、今年のホグワーツに危機が迫っているという点のみ。正体が分からなければ対策も出来ない。

 とにかく今後の方針としては、

 

「とりあえずアレだ。護身用グッズを沢山準備しとこう。あとダンブルドアに連絡」

 

 今後の方針を定めてから明日のため就寝に入る。

 照明ランプを消し、壁際を向いて目を閉じる。

 そして、

 

 

 

 

 

「なーんか不穏な発言を聞いたような気がするのは俺だけか?」

「いーや、俺も聞いたね」

 

 

 

 

 

 なんとも聞き覚えのある声が二人分、窓から聞こえてくる。

 

 

 

 

 

「「――で、今度はいったい何が起きたってんだ、兄弟?」」

 

 

 

 

 

 アリィの夜は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 




遊戯王ネタ、分からない方は申し訳ないです。
おそらく、もう今後デュエル描写はありません。

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