問題児たちと一人の神が異世界から来るそうですよ?   作:異山 糸師

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第5話 水も滴る何とかになるそうですよ?

 “ノーネーム”・居住区画、水門前。

 

 俺達は廃墟を抜け(俺が乾燥するからさっさと出たいと言った)、ジョジョに…違った、徐々に外観の整った空き家が立ち並ぶ場所に来た。

 まあ素通りして水樹の苗を貯水池に入れるのを見に行く。

 

 正直、俺が【無限にする程度の能力】で水の一滴でも増やせば良かったんじゃあないだろうか。

 別に言わないけど。貯水池にはコミュニティの子供達とジンが清掃道具で水路を掃除していた。

 

「あ、みなさん! 準備は整っていますよ!」

「ご苦労様ですジン坊っちゃん♪ 皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

 ワイワイと騒ぎながら返事をする子供たち。子供って嫌いなわけじゃないけど苦手なんだよね。だから気配を完璧に絶って居ないふりでもしておこう。幻想郷は合法ロリ(ロリババア)だから別に大丈夫だったし、大人の奴らばっかり相手してたからなぁ。

 

 二十人くらいの子供たちが一糸乱れぬ軍隊バリの動きで並んでいた横を通りぬけ、俺は水路を見ることにした。ふぅ~む…やっぱり子供の力じゃそこまで綺麗にはならんか……よし、俺が掃除しよう。能力で消せばいいんだろうけど、俺は家事も完璧なこともあり、掃除は結構好きな方だ。デッキブラシを腕輪から取り出して水を水蒸気より生成、床を濡らして擦り始める。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、月神零さん………零さん? あれ!? 零さんが居ません!!」

「あら、さっきまで居たのに」

「……瞬間移動?」

「俺にすら悟られず居なくなるなって…やっぱり零は面白いな」

 

 なんか上で言ってるけど無視無視。あ、これあれじゃね? たわしを俺の力で投げたら滑った所は一瞬で綺麗になるんじゃね?

 ということでやってみよう。たわしを取り出し、俺は水路の端っこに言って腕を振りかぶる。気分はボーリングだ……っし、行きますか!

 

「せい!」

 

 ッュィィィィインッッ!!

 

 そんな音を出しながら音速並みの速度でたわしが走る。音速の貴公子、TA☆WA☆SI! ここに推参!!

 

 縦横無尽に駆け回る貴公子は、あっちこっち壁にぶつかって跳ねまわる。すげぇ…これって狭い所に便利だなぁ…今度からしてみるか。

 その貴公子は暫く駆け回っていたんだが、ちょっとした窪みにあたって向きを変える。俺に当たらないように計算し尽くして投げたんだが、窪みのせいで俺に向かって飛んできた……いいだろう、今度は野球か? 俺はホームランしか打たん!

 

 カッ……キィィィンッ!!!

 

 今度はそんな音を出しながら、我らが音速の貴公子は飛んで行く。そして行き先は……

 

「ふぎゃぁッ!!」

 

 ゴスッといい音を出しながら黒ウサギのおでこにぶつかってノックアウト。周りの奴らは慌てふためいている。

 

「あやや……まさか当たるなんて、黒ウサギも運が無いねぇ」

「「「零さん!?」」」

「何やってんだよ……」

「掃除」

 

 気配を解きながら黒ウサギの所に行って見ると、額を赤くしながら目を回していた。いやぁ、面白い姿だけど、なんか悪かった。

 

 仕方ないので、目を覚ますまで膝枕してやり、赤くなったおでこと頭を撫でてやりながらウサ耳を堪能しとくことにした。

 

 

◇◇◇

 

 

 一時間後、黒ウサギが目を覚ました。威力ありすぎたのかね?

 

「ぅ…ぅうん……あれ? なんで零さんのお顔がこんな近くに?」

「あ、おはよう黒ウサギ。いやぁ、さっきは悪かったな」

「さっき……」

 

 ぼんやりした目で撫でられている黒ウサギは、漸く頭が正常に動き出したのか、ものすごい勢いで顔を赤くして俺から離れた。

 おっと、なんか言われる前に黒ウサギに行動をさせるか。他の奴らを待たせたしな。

 

「黒ウサギ」

「………は!? は、はい! 何でございましょう?///」

「いや、もうさっさと水樹植えろよ」

「そ、そうですね! 黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれませんか?」

「あいよ」

 

 水樹は十六夜にあげた。だって俺のカード出したら色んな意味で危ないもん。魔王は来る前は龍の瞳を水珠にしていたらしい。お取り上げを喰らったそうだが。水を通す場所は本拠の屋敷と別館だけで、今までは数キロ先の河の水をバケツで運んでいたらしいんだが、

 

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

 

 とのこと。ご苦労さんである。そして黒ウサギが貯水池の中心にある柱の台座まで大きく跳躍した。

 

「それでは紐を解きます! 十六夜さんは水門を開けてください!」

「あいよ」

 

 十六夜が水門を開けると、根を包んでいた布から大量の水が溢れ返り、激流となって十六夜を襲う。いいこと考えた。

 

「ちょ、マテや! 流石に今日はもう濡れたくねぇぞ!」

「いいや、ラストポッチャンだ。行って来い、十六夜」

「なっ!?」

 

 慌てて石垣まで跳躍してきた十六夜を、俺はすぐにそこに回りこんで無情にも蹴り落とす。驚いながらも激流に飲まれていった十六夜を見て、俺は静かに笑ってやる。あれだ、蛇の時のお返しだ。あれより流れの勢いが酷いかも知れないが、そんなの知ったこっちゃない。

 

「ちょ、零さん何をしてるんですか!?」

「怖いもの知らずね、貴方」

「好奇心の為せる業だ」

「…なんかデジャヴ」

 

 さて、怖い怖い十六夜くんが戻ってくる前に屋敷に入ってしまおう。踵を返し、歩き出そうとした所で十六夜が俺に向かって突っ込んでくるのを気配で感じる。あと、それを見て三人が驚いているのにも。

 俺は余裕を持って、後ろも見ずに首を傾けるだけでその拳を避けた。

 

「なっ!?」

 

 十六夜が避けられたことに驚愕している。これくらいで? 

 俺は振り返りながら十六夜を見ていると、

 

「クハハ、水も滴る良い男ってか? 濡れネズミの間違いじゃね?……プククッ」

「……殺すッ!!」

 

 あらあら、怒っちゃったよ。なんか猛スピードで殴りかかってきたが、俺にとっては遅い、遅すぎる。身体を傾けるだけで避けていたんだが、途中から面倒くさくなって手ではたき落とすことにした。ペシペシと目の前の蠅を叩くかのように、十六夜が疲れ果てるまで付き合ってやった。

 

 空では、そんな俺達を十六夜の月が照らしていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 屋敷に入った後、風呂に入ろうと思ったんだが黒ウサギが真っ青になりながら掃除しに行ったので、俺が未だに持っていたデッキブラシをあげた。真っ青になるほど汚いって……どんだけやねん。

 

『お嬢………ワシも風呂に入らなアカンか?』

「ダメだよ。三毛猫もお風呂に入らないと」

「………ふぅん? 聞いてはいたけど、オマエは本当に猫の言葉が分かるんだな」

「うん」

『オイワレ、お嬢をオマエ呼ばわりとはどういうことや! 調子に乗るとオマエの寝床を毛玉だらけにするぞコラ!』

「毛玉だらけって…地味に嫌な嫌がらせだな。何個吐くつもりだよ。ていうか、完璧にヤクザだな」

 

 見た目に反して、なんて猫なんだ。

 

「……零さん、三毛猫の言葉分かるの?」

 

 なんか凄い驚いた感じで耀が見てくる。

 

「ん? ああ、動物の言葉はわかるぞ?ただ、植物なんかの言葉はちょっと頑張らないと聞こえないがな」

「凄い! 私以外で分かる人に初めて会った!」

 

 キラッキラした目で見てくる。

 

 これはあれだな…ようやく初めて同じような奴が見つかったことによる、同族意識だな。こんな奴は何人か見てきたが…大体は長年寂しかった奴ほどそいつへの依存度が高くなる。

 見た感じ人間の友達が居なかったようだし、これはぐいぐい来るかもな。

 

 でも、黒ウサギとかも分かるんだからそっちでいいんじゃないか? 人間じゃないと親近感がわかないとか? 俺、人間じゃなくて神なんだけど。

 

 そこで、黒ウサギの声が聞こえた。

 

「ゆ、湯殿の用意が出来ました! 女性様方からどうぞ!」

「ありがと。先に入らせてもらうわよ。十六夜君、零さん」

「ごゆっくり~」

 

 三人は真っ直ぐに大浴場に向かう。二人になった俺たちは暫く話しながらのんびりして、

 

「十六夜。外の奴らはお前が話つけてこいよ」

「…気づいてたのか。お前も来いよ」

「ヤダ。面倒くさい。そういうのは嫌いなんだよ。十六夜が適任だ」

「はぁ…仕方ねぇな。ちょっと行ってくるわ」

「行ってら~」

 

 貴賓室から出ていく十六夜を見送り、俺も動き出すことにした。

 

 




濡れネズミじゃなくて鼠男とか言ってたらもっとキレてたのかな?

「キレてないっすよ」(某芸人風に十六夜が)

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