問題児たちと一人の神が異世界から来るそうですよ?   作:異山 糸師

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一つだけ皆に謝っておきますね―――悪い…真面目に書くとか無理ですわ。
あ、ハッピーハロウィーン! ……今日ハロウィンだよね? 



第36話 蝶が出現するそうですよ?

 

 

 ――――“アンダーウッド地下大空洞”大樹の地下水門。

 

 主賓室に案内されている俺達だが、どうもここの部屋は樹にできている大きな瘤を繰り抜いて作られているらしく、俺達が行く部屋はその中でも特上の部屋らしい。

 

 それにしても樹の中に部屋とは、なんでだろうな。本当になんでかは知らないがポケモンの秘密基地のことを思い出した。他の作品にもあるだろうに、これを一番に思い出したんだけど。

 

 キャロロが主賓室の扉の前に来て止まった。

 

「はいさ、それではお立ち会い! 此方が大河を跨ぐ巨躯の大樹“アンダーウッド”が誇る大水門! 二千体もの樹霊と水霊達を鑑賞できる、最高主賓室でございます!」

 

 バタン! と勢い良く開かれた扉。すると主賓室の窓から吹き抜ける風が川辺に薫る匂いとともに極少精霊郡を招き入れた。

 

「わぁ…………!」

「へぇ…凄いじゃないの」

 

 飛鳥の感嘆とペストの呟きが風にのる。まるで蛍の光のようにユラユラ揺れる水霊たちは、ここら一帯の景色を更に美しく際立てるかのように光り輝いていた。

 

 飛鳥が掌に迎え入れて黒ウサギに話しかけているとき、俺とペストと十六夜は凄まじいことになっていた。

 ……いや、なっているのは俺だけだった。

 

「マスター…人型の光みたいになっているんだけども……」

「おいおい、まさか外で飛んでいた精霊がわざわざ来るなんて……というか、お前精霊に好かれすぎだろッ!!」

 

 ああ、知ってる。

 

 今の俺は精霊に纏わり付かれて人型の光る精霊みたいになっているだろう。十六夜が驚いた声を出したのに気づいた黒ウサギ達は、俺を見て叫んでいた。

 

「れ、れれれれ零さんッ!? 精霊が…! くっついて……!」

「あまりにも好かれすぎじゃないですか!? どうなっているんですかこれ!!?」

 

 纏わり付かれている本人にはわからないことだ。ぷるぷると震えて精霊達を飛ばすと、俺の姿が現れる。しかし、精霊達は外に行くわけでもなく、俺の周りをふよふよ浮いていたり、身体にくっついたりしている。

 

 幻想郷に居る時から精霊が多い場所は大体こうなっていた。精霊だけじゃなかったし。動物もだったか。

 

「まぁ、昔からこうだから放っておいてくれ。ほら、お前たちも少しは散らばれ」

 

 そういう俺の言葉に反応してか、小さな光は部屋中に散らばっていく。俺の近くだったら別にいいのだろう。それと少しばかり俺の霊力を部屋全体に満たすと、精霊達の大きさが一回り大きくなった。

 

「嘘…この一瞬で精霊達の霊格が上がった!?」

「それに、大樹が何やら震えていますよ!」

 

 進化させるほど与えてないから大丈夫だろう。それと霊力を大樹が無意識に吸い取って歓喜しているようだ。少しばかり元気になったんじゃないか?

 

 目の前を漂う精霊達を手の振って払い、備え付けのソファに座り込む。俺が座った後に隣にペストが座り、十六夜もその反対の俺の隣に座り込んだ。

 

「それにしても、どうするんだ? 十六夜」

「ん? どうするって、何のことだ?」

「水源開発や自由区画の発展のことだ」

「ああ…確かに、白雪姫じゃ勝ち目がないしな…どうするか」

 

 その話に疑問を持った黒ウサギは十六夜に質問をしている。

 

 以前、十六夜や白夜叉とこのことを話していたんだよ。白雪を祀る社を造り、水路を開拓して清流の都市にでもしようかという話をしていたんだが、どうも此処の都市を見る限り今のままでは負けるのは目に見えている。

 

 “アンダーウッド”は下層でも三指に入る水の都…まあそれも納得できる光景だ。それに比べて東の俺達のいる場所は華やかさがないし、田舎っぽい。

 

 気候や土地の豊かさは悪くないが…もういっそ街ごと改造してしまったほうが早いのでは? いや、純和風にしてみるというのもいいかもしれん。京都のような街並みにしてみてはどうだろうか。

 

 まあここらへんは十六夜に丸投げしているから別にいいか。何か言われたら手伝ってやるだけだ。

 

「幸い、枯れた大地は零がどうにかしてくれるし、どうにかしてくれたからな…十年以内には必ず追い抜いてやるさ」

「それが十六夜の最後の台詞になろうとは…今、誰も思いはしないのであった…」

「ちょっと待てこの後俺に何があった!?」

「そうだ、黒ウサギのエロいフルカラーの像でも作って置けばいいんじゃね? 後はフィギュアでも作って名物にするとか」

「俺に何があったか気になるけど、零…それ滅茶苦茶いいアイデアじゃねえか! 決まりだ!」

「お待ち下さいお馬鹿様方! 何言ってくれちゃってるんですか!? 絶対に許しませんからね!?」

「勿論、スカートの中は見えるようになっているんだよな?」

「当たり前だ。何ならキャストオフも可能で全裸にもでき、着せ替えも可能。材質はシリコン製で触り心地も抜群に…」

「なりません!」

「「なるんだな、これが!」」

「させてたまりますかぁーーーーッッ!!!!!」

 

 スパァァァンッ!! とハリセンのいい音が部屋の中に響き渡り、精霊達が吹き飛ばされていった。段々ハリセンの威力が上がってきているのは絶対に気のせいではないだろう。

 

「「俺達の街…男の夢の街……“ブラックエロラビットシティ”に…はい決定! 乞うご期待!」」

「お、おぉ…! なんだか私、わくわくしてきたわ!」

「なるほど、作ってワクワクということですねわかります」

「わくわくしないでください飛鳥さん! お二人は永眠しててください!」

「ねえ二人共…精巧に作るのならもしかして…」

「「ああ、剥く」」

「ウガァァァァッッ!!!!!!!」

 

 うわ、黒ウサギがキレた。迫り来るハリセンを弾きながら十六夜を笑い合い、ハイタッチを交わす。十六夜と息が合いすぎて怖い件。

 ジンなんてもう慣れてしまったのか、笑って見ているだけである。慣れって怖いね。

 

 さて、それから話を切り替えて作戦などの話になったのだが、まずは城まで行く足の話なのだが、これはグリーに頼むことになった。

 

 確かにグリーは賢いやつだから、この件は大丈夫だろう。隣で十六夜も腕を組んで少しだけ考えたが特に何も言わないことから賛成だと伺える。ここは黒ウサギに任せるとしようか。

 

「よし。これは黒ウサギに任せるとして、後は待機組と攻略組の編制だな。巨人との戦いが予想される待機組はペストを中心にして、攻略組は俺と零が―――」

「―――私も行くわ」

 

 続きを遮るように飛鳥が言葉を挟んでくる。それにしても俺が攻略組か…俺が攻略したら一瞬で城について、龍も殺してしまうんだが、いいのかね?

 

 なんて言っているが、先程も言ったように今回はこいつらを主役にさせてやるから俺はそこまで手を出さない。ちょっかいは出すけどな。

 

 レティシアが攫われた時にも言ったように、俺は今回そこまで怒っていないし、何かあってもすぐにクリアして龍を殺すことくらい容易いことなので、こいつらのことを見ていようかと思ってな。

 

 それにしても飛鳥が攻略組に入るか…ちょいとばかり無理があるように思えるな。

 

 空の上で戦闘が起こった場合、飛鳥はただの的…足手纏にしかならないだろう。しかし待機組に入るのであればディーンなども使えるし、俺が鍛えたペストがいるから最悪の可能性はまず無いと言ってもいい。

 

 十六夜も似たようなことを考えているだろうし、俺は何も言わないように黙っていようか。

 腕と脚を組み、目を瞑って続きの話を聞くことにする。薄く目を開けて目だけでペストを見てみると、俺と同じ体勢をとって半眼になっていた。可愛い。

 

 何を見ているのかと思えば、両腕に挟まれた黒ウサギの巨乳をじっとりと焼きつくさんばかりの視線で見ている。どうした、ペスト。お前大丈夫か? 目は二人を見ているのに黒ウサギのウサ耳は視線を感じ取ったのか勝手にわさわさ動いているんだけど。

 

 あっちもこっちも可愛いな。

 

「黒ウサギはゲームに参加できないから待機組でペストは巨人に有効打…残る私は十六夜君と空へ…ベストな采配じゃないかしら?」

 

 真剣な飛鳥に対して十六夜は無表情だ。スマン、なんかどうしても悪戯したくなってきたから動くわ。シリアス?ムードは俺には合わんのだ。

 

 精霊、集合!

 

 片手を背後で上げて精霊に命令を出すと直ぐ様集まってくる光の粒子。黒ウサギがぎょっとしている姿が見えるが、どうも二人は余程真剣なのか周りが見えていないようで。

 

 ふむ、ではお前ら、十六夜の後ろに集まって光の翼になってくれ。そうそう、少し大きめの…バサバサ翼、精霊の、翼。

 そして頭の上にもバレないように集合させて蝶のような触角を形成する精霊達に、俺は笑いが漏れそうになった。まるっきり蝶じゃないか。十六夜蝶。

 

 わはは、ただの阿呆にしか見えないぜ! ブホッと小さく吹き出しかけた黒ウサギは手で慌てて口を抑えて、俺の後ろまで静かに瞬時に来たと思ったら肩を叩いてきて首筋に顔を埋めてきた。

 

 どうやら笑いが堪え切れないらしく、首に腕を回してぎゅうっと抱きしめてきた。おいジン、お前笑わないようにしているとはいえ、口を大きく開けて顔を動かさないようにして上を向くのは流石に…お前も面白い顔ではないか。

 

「十六夜君。貴方が大一番のゲームで、私を危険から遠ざけ………と、遠ざけ、るように…フッ、さ、采配してきたこてゃ……ことは……………わ、私なりに、気がついているつもりよ…気がついちゃったわ、クッ…き、気が付かなければよかったぁああぁぁ……はにゃっ」

 

 飛鳥が笑いそうで笑えないこの状況に耐え、笑うことを堪えて顔が歪み、変な声を出している。はにゃって、お前。

 しかし、十六夜は真面目に聞き取り目を細める事で返している…その姿がまたなんとも滑稽で…おいペスト、俺の手で自分の口を押さえて笑うのを耐えるな。柔らかい感触がする。

 

「れ、レティシア…春日部さんんっ…ふへっ、の安否がわからない。私の安否もどうにかしてぇえへっ……た、多少無理をしてでも敵地に乗り込まないと、でも自重も必要…頼むから自重してあはっ…た、助けたいから連れて行って……もう嫌ぁ、て、天国行きそう……ゲホッゴホッ」

 

 笑えないもどかしさ。今飛鳥は過去で一番の苦境に立たされているかもしれない。

 

「そうか…だが、俺は連れて行きたくない」

 

 否定された飛鳥は怒ることよりも笑うことを耐えていた。そして十六夜は前傾姿勢で飛鳥の顔を覗き込むようにし、諌めるように静かな声を出す。

 

 しかし飛鳥はそれどころじゃないだろう。覗きこまれたことにより触角を生やした十六夜蝶の顔がドアップで映り込むのだ。軽く死ねる。む、ジンがクッションに顔を埋めたぞ。

 

「お嬢様は言っちゃ何だが弱い…何かの脅威に出会ったらその瞬間にゲームオーバーするくらいにはな。今までは偶然と相性の産物でどうにかなったが…これからはもう通用しねえよ」

「…………な…くふっ」

 

 十六夜がその場で立ち上がり、触角の付いていない頭を掻く。衝撃でバサリと翼がはためき、触角がゆらゆらと揺れていた。それに笑いかける飛鳥。

 

 もうこっちの奴らも持たねえぞ…黒ウサギなんて見るたびに俺の髪に顔を埋めて声にならない声で何やら言っており、髪が口によってわしゃわしゃなる。あとはついにペストが俺の前腕を咥えて声を出ないようにしだした。

 

 ジン…酸欠で死なないようにな。

 

「けど、もしもお嬢様がペストと戦える実力があれば、それなら話は別だ」

「そ、そうなの…」

「そうなんだよ。零、ペストを……って、お前ら何してるんだ?」

 

 ついに俺達の方に気づいた十六夜が、不審なものを見るかのような目で此方を見てくるが全然怖くない。まぁ…黒ウサギとペストがおかしいもんな。それに、ジンにも気がついたようだ。

 

 飛鳥も此処ぞとばかりにクッションに顔を埋めてジタバタしていた。良かったな。

 

「あ~…その、な? フッ、十六夜蝶がな? クスッ…飛鳥頑張ったな」

「物凄く頑張ったわよ! アハハハハハハハッ!!!!」

「な…お嬢様、ついに気が触れたか!?」

「「「「あはははははははッッ!!! お、お腹が……!!」」」」

 

 その驚く姿に、今度こそ耐えられないとばかりに俺以外の全員が声を出して十六夜蝶を指差して笑い始める。十六夜蝶も十六夜蝶で困惑しだしてあたふたするし…此処でちょっとネタばらし。

 

 実は飛鳥と話しているときに精霊を集合させて十六夜に悪戯をしていたことを伝える。勿論、その間に笑いを堪えていたこともな。

 

 自分の姿を見れないだろうからと思い、こっそりステルス機能のあるサーチャーで撮った映像を見せてやる。スクリーンを出して大画面でな!

 

 再び笑い出す全員に、十六夜はといえば死にそうなほど恥ずかしいのか真っ赤になって俯いて震えていた。漸く絞り出した言葉が…

 

「ちょっと…死んでくるわ……」

 

 死ぬな。

 

 おい待て、何処に行く。

 

 転げまわっている四人を無視してどこかに行こうとする十六夜の腕をとっさに掴んで引っ張る。すると、そのままソファに座り込んで隣の俺の太ももに顔を埋めてきやがったので、慌てて太ももを閉じてクッションにし、負担を無くしてやる。

 

 しかも顔を見られたくないというように右腕で太ももを抱きしめ、左腕で腰を寄せる。

 そ、そこまで恥ずかしかったか……なんか、すまん。初めて見る十六夜のこんな姿にちょっと罪悪感を感じた。

 

 他の奴らは腹抑えているだけだし…はぁ、と小さくため息をついてこの光景と十六夜の姿に微笑みながら悪かったというように頭を撫でてやる。十六夜も子供だし、撫でられても甘えてもいいんだが、少し早めに大人になっているから無理なんだろ。

 

 今の十六夜は歳相応に可愛らしいが、これ、後で思い出して悶えるパターンだと思うのは俺だけかね? 

 

 こんなことしてるからお母さんとか言われるのだ。まあ、これは仕方ないってものだ。さて、このカオスな状況…話し合いはまた少し後になりそうだな。

 

 




十六夜蝶……それは十六夜の月の夜にだけ飛んでいるという伝説の蝶。

夜に夜空を見上げて月を見てみると、月に被るように羽と触角を生やした十六夜が飛んでいるとかいないとか……。

その夜は見上げてみよう!

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