問題児たちと一人の神が異世界から来るそうですよ? 作:異山 糸師
あれから四人は黒ウサギについて行き、待ち合わせ人に会いに行くことになった。そんな中、十六夜が俺の隣まで下がってきて話しかけてくる。
「なあ、零。お前は中々に面白いやつだ。結構好きだぜ? そういう奴」
「それはありがとう。俺もお前みたいな奴は好きだぞ? あ、でもそっちの趣味は無いからな」
「あたりまえだろうが。それよりも、お前もこれから世界の果てお見に行かないか?」
「え~。めんどくさ…「まあいいじゃねえか! 行こうぜ! 二人はあとよろしくな!!」…おうっふ」
面倒くさいから断ろうとしたのに、強制連行。これは所謂拉致ってやつだろ? 俺を掴んで黒ウサギにバレないように走りだした十六夜…俺が最後に見たのは同情したような耀と飛鳥の眼だった。
◇◇◇
所変わって森を抜けた大河の岸辺。身体を地面に水平になって進んでいた俺は、十六夜の急停止と共に手からすっぽ抜けて大河に向かって飛んで行く。景色が流れていく中、チラッと視界の端に大蛇が見えたのと同時に、水面に突入。
流れに身を任せる中、俺はなんでこんなとこにいるのか考えることにした。
あれだろ…とにかく十六夜のせいだろ。大体何なの? 何でまたびしょ濡れになってんの俺。しかも水面上から聞こえてくるのはドンドンという、大きな音。それに連れて水流が激しくなり荒れ狂う。勿論、水中にいる俺も巻き込まれるわけで、ぐるぐる渦みたいに回ってるから目が回るわけで。そしたらイライラするわけで。
あ~もう、ウザい! 取り敢えずこの場から脱出、元凶を潰す。これに限りますな。
ということで、腕を振るい、大河に存在する大量の水を吹き飛ばす。
ドッパアァァァァンッッ!!!!!
そんな轟音と共に水が無くなる。
「「『なっ!!?』」」
なんか黒ウサギまで居るし…連れ戻しに来たのか? まあいい、知らん。元凶は…成る程ネ、この蛇か。
「まったく…ドンパチするなら他所でやりな、ガキ共!!」
叫ぶと同時に蛇の尻尾の先をむんずと掴み、軽く振るって滝の壁面に叩き付けてやる。
追加の衝撃により、辺りにある水が根こそぎ無くなり、木々が衝撃により吹き飛んでいく。ついでに黒ウサギが尻餅をついたが、ま、関係ないことだ。
少しして再び流れ落ちてくる水を背後に、川底を歩いて大蛇まで行って生死を確かめてみるが、なんだ、死んでないのか。まあ、それもそうか、弱く振るったし、死ぬわけないもんな。
それを確認してから呆然としている十六夜と黒ウサギのもとにまで、濡れて額にくっついた髪を掻き上げながら歩いて行く。
「よう、十六夜…邪魔したか? だがまぁ、これくらい構わんだろう? 拉致ってここに連れてきたのはお前だし、それなら俺が何をしようと勝手だもんなぁ?」
「あ、あぁ……そうだな、悪かったよ」
「ん、まぁいいとしよう。それより黒ウサギ、大丈夫か?」
ぺたりと座り込んだままの黒ウサギのもとに行き、手を貸してやる。俺の手を借りて立ち上がった黒ウサギは、小さく返事をした。
あ、そうだ。ついでにここではっきりさせておこうか。いやな、こいつなんか隠し事してるんだよね。気になったついでにここで聞いておこうかと思ってさ。ま、大体は想像出来てるんだが。
「あと黒ウサギ」
「な、なんでゴザイマショウ……?」
「ついでだからここでハッキリさせておこう。お前のところのコミュニティは弱小チームであり、それを強化したいが為に俺たちを呼んだ……そうだろう?」
「……ッ!!」
「どうせ何らかの理由で負けて搾り取られたとかそんなんだろ。仲間も居なくなり、今居る場所を維持したいから強い力が欲しい…どうだい?」
「………確かに私達のコミュニティ、“ノーネーム”は誇りである旗印をもっていません。しかもゲームに参加できるギフトを持っているのは黒ウサギとジン坊っちゃんだけなで、あとは十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」
「「もう崖っぷちだな!」」
「ホントですねー♪」
十六夜と共にツッコんだら、黒ウサギはどこか吹っ切れてように笑いながら肯定した。いやはや、ここまでとは思ってなかったわ。なんて言うか、そうだな…ドンマイ?
「で?何でそんなことに?」
「それはですね…全てを奪われたからです。箱庭を襲う最大の災厄―――“魔王”によって」
魔王と聞いた瞬間、隣の十六夜が声を上げた。
「マ……マオウだと!?」
「ラオウ?」
「え、ええ……。でも十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があるかと……。零さんのは流石に違います…」
「「な~んだ。つまんね」」
だけど魔王か…なんか強そうだな。
あれだろ? RPGとかに出てくるラスボス的なやつなんだろ? え、じゃあ俺達レベル上げしなきゃならんのか? 俺は完ストしてるんだけど……多分、と言うか絶対に今戦っても俺なら勝てるぜ?
「私達はコミュニティを再建し、何時の日か名と旗印を取り戻して掲げたいのです!! どうかそのためにその強大な力を我々に貸していただけないでしょうか………!?(これを断られたら…私達のコミュニティはもう………)」
ここで十六夜とアイコンタクト。凄え、俺達ってこんなことが出来るほど相性が良いんだな。
どうする? なんか面白そうじゃね?
そうだなぁ…俺達が掻き乱してやろうぜ。十六夜ガンバ!
俺だけ!? いやいや、零も参加しろよな。見たところかなり強そうだし……じゃ、入るってことで。
うぃうぃ、自由気ままに行こうぜー。
オー。
アイコンタクト終了。
一瞬のはずがちょっと長くなって黒ウサギ涙目。十六夜、言っておしまいなさい。
「おい黒ウサギ。いいぜ」
「―――――……は?」
「HA? じゃねえよ。俺も零も協力するって言ったんだ。なあ?」
「ああ。だからさっさとヘビからギフトを貰って来い。俺たちは確か“世界の果て”に行く予定だったはず。俺は無理やり拉致されたが」
「は、はい!」
それを聞いて黒ウサギは嬉しそうに跳躍すると大蛇の上に乗り、顎の辺りで何やら話し始める。遠巻きに見ていると、青い光が周囲を照らす。
「これでよかったのかねぇ?」
「いいんじゃねえか?」
二人で黒ウサギを見ながら呟く。黒ウサギはというと、なんか木の苗みたいなのを抱いて嬉しそうに戻ってきた。
「きゃーきゃーきゃー♪見てください! こんな大きな水樹があればもう水に困りません! みんな大助かりです!」
それからはおおはしゃぎする黒ウサギと十六夜と共にトリトニスの大滝という滝を見に行った。太陽が沈むにつれて色濃く朱に染まるトリトニスの大滝は確かに美しかった。
やっぱり異世界には異世界特有の美しさがあるからいい。こう見えて、綺麗な景色や絶景や大自然が好きだからな。
◇◇◇
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!」
誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。
それをニヤニヤと見ていた十六夜が止めに入る。
「別にいいじゃねえか。見境無く選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」
「そうだな。三人とも頑張りなよ。…勝つんだろう?」
「「「勿論」」」
「ならいい。この話はお終い。分かったな? 黒ウサギ」
「うぅ……。わかりましたよ……」
「よしよし」
しぶしぶ許した黒ウサギの頭を撫でる。なんかウサ耳見てると撫でたくなるんだよな。鈴仙のせいかな?
暫くは赤くなりながら撫でられている黒ウサギとニヤニヤしながらそれを見る四人という構図が出来上がっていた。
今回はあんまり変わってないかもしれませんね。