問題児たちと一人の神が異世界から来るそうですよ? 作:異山 糸師
今の状況は十六夜が低迷していて、黒ウサギとペストが靴とニーソを脱いで素足を水に付けながら魚釣り、俺が開花させようとするとこ。
答えは水中深度の変化だろう。蕾が水中にあるのだから開花後に浮上するはず。何らかの異変で蕾自体に危機が迫ったとき、種の保存のために急性開花して咲く。
ならば種の保存を行わせるような危機を迫らせればいい。
「よし、やりますか」
「なに? 零、分かったのか?」
「ああ」
「ほう? それならば開花させてもらおうか」
「「ん?」」
なんか聞き覚えのある声がしたので振り返って見る。
背後の木陰から現れたのは見覚えのない女性だった。艶のある長く黒い髪を三色の花の簪で纏め、白い生地に雅な花柄を施した着物を着用し、憂鬱気に袖を左右に揺らしながら歩く美しい女性は、何やら呆れたように俺を見てきた。
互いの前髪と吐息が触れる距離まで顔を覗き込んできて、悪戯っぽく威圧的な笑みを向けてくる。
ちょっと近すぎや在りませんこと?
見ろ、黒ウサギとペストがなんか怖いぞ。
「やれ、本当に珍妙な小僧だ。我を掴みあげて振り回すだけではなく、頭も回るようだな。答えを聞かせて貰おうか」
「……………………いや、誰? お前」
おかしいなぁ、気配は蛇と同じなんだが美女だし………。
「十六夜知り合いか?」
「いや、こんな美人の知り合いは居ねぇよ」
「そうか、こいつから蛇と同じ気配がするんだよなぁ…」
「よくわかるな……」
呆れたように十六夜が言う。
「確かにその通りだが、蛇蛇と五月蝿いぞ。我は白雪姫だ」
「あの毒りんごを食べた間抜けな?」
「違うッ!!」
「間抜けは言い過ぎだぜ、零」
なんだ、違うのか。じゃあ夜叉ヶ池に祀られた生贄の方か。まあいいか。
「そんなことより、謎が解けたのだろう? 早くせぬと時間が無いぞ?」
クックッと袖で口元を隠し笑う白雪姫。焦ってないことから勝ちを確信しているのか………
甘いな、俺が開花させることができないと言うなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!
「いいだろう…開花させてやる」
っと、その前に。
「十六夜」
「あん?」
「………いいな?」
「………ああ、もう負けだろう。いいさ、また零には勝てなかったのかー。次は勝つからな!!」
「いつでも来い」
ヤハハ! と笑っている十六夜。諦めがいい子は、お兄さん好きですよ。わがまま言う奴はシメる。
「お主ら、一体なにを言って………」
白雪姫…ああもう、長いから白雪な!
白雪が何を言っているのかわからない表情をしているが無視して開花させる。
一つ思い出してほしい。以前俺は植物とも話せるといったはずだ。既にこの蕾とも話しているが中々に強情で咲いてくれないんだ。
だから無理やりにでも咲かせることにした。
掌に蕾を乗せ、目を細めてそれを無表情に見る。
ペスト達が息を呑むのが分かる。
「(零さん、何をするのでしょうか?)」
「(さぁなぁ……だが、あんな顔の零は見たことねぇ。正直言って怖いぜ)」
「(そうね……)」
そして蕾に命令するように一言だけ呟いた。
「『咲け』」
次の瞬間、掌の上にある蕾がポンッと咲いたと同時に周りに生えていた花を咲かせることができる植物全てが、季節関係なしに咲き乱れペスト達四人が一斉に膝をつく。
やったことは簡単、言葉に殺気と霊力を乗せただけ。所謂危ない言霊。挨拶じゃないが、魔法の言葉でポポポポ~ン。
周りは一気に桃源郷。十六夜の手の中に合った蕾も水中に未だあった蕾も全て咲いた。草木が花を咲かせて甘い匂いがあたりに充満する。
十六夜達は殺気に中てられたのだろう。大して出していなかったんだが。
「どうだ? 水中深度の変化関係なしに咲かせたぞ? まあ、他の草木も咲いてしまったが……」
季節でもないのに無理やり咲くって、どんだけ~。
って、あれ? 皆汗垂らして動かないんだけど?そんなに怖かったかなぁ……しょうがないな。
今度は優しく暖かい、気持ちが安らぐような霊力を流し込む。直ぐに険しかった表情が解れ、ほんわかした表情になった。
いち早く立ち上がったのは十六夜だった。
「おい零。お前無闇矢鱈に殺気を出すの禁止な」
「何処構わず殺気なんて出さないわ。俺って殺気だけで相手殺せるし」
「絶対だからな!? 約束しろよ!!」
「はいはい」
幻想郷でウザい妖怪にやって以来してないさ。やると辺り一面焦土と化すし。霊力の完全開放何て以ての外。勿論神力も。
無限にあるっていうのも考えもんなんだよ。
「こ、殺されたかと思ったわ………」
「は、はい……黒ウサギは寒気が止まりませんでした…」
「こ、この小僧…規格外すぎる……」
ペストと黒ウサギには悪いことしたので頭を撫でておく。もう頭撫でるの癖だよ。
「咲いたからクリアでいいよな?」
「少しせこいが、この世界でこういったことはまあ、あるだろうからいいだろう。約束通り……………この白雪姫。心身ともに、喜んでお前に隷属しよう」
「ああ、うん、そうだな………取りあえずお前今から白雪な。姫とかないわ、何様のつもりだっての」
てっきり蛇が手に入ると思ったんだが、また女の子増えたよ。チッ、ペットにしようかと思ったのに。レティシアにペストに白雪。三人いるぞ。
ペストと黒ウサギからの視線が痛い………。十六夜が勝てば十六夜に隷属する約束だった。つまり、勝った方に隷属するってことだな。どんだけ自身があったんだよ。
「そんなに睨むなって、ペスト」
「むぅ…………」
「捨てやしないから」
頬を膨らませるペストを抱きかかえる。猫みたい。
「そういえば小僧。ソレは元魔王だろう?」
「そうだが? 今じゃ俺のパシリだけど」
「魔王まで隷属させるとは………」
呆れたように言ってくる白雪。そんな中、
「………」
「どうした? 黒ウサギ」
「………早く帰りましょう!!」
ムスッとして何故か怒っている黒ウサギが帰るために歩き出した。意味が分からないので十六夜を見ると苦笑だけされた。解せぬ。
まあいいや、帰るか。
「帰るか、十六夜」
「おう、そうだな!」
「あ、ペストに白雪。クーラーボックス持たなくていいぞ。流石に数が数だし、俺が持つ」
ペストは気づいたように手を離すが、白雪だけは不思議そうにしていた。
「それはどういう………」
ことだ? に続く前に腕輪に数十個のクーラーボックスを収納した。
「さて、行くぞー」
ペストと十六夜を引き連れ、白雪の手を引っ張りながら黒ウサギの後を追った。
◇◇◇
「クソッタレ。箱庭に来てからずっと水難続きだ」
「ヤハハ、いいじゃねぇか、前にも言ったように水も滴るいい男だぞ?」
「どうでもいいが、そろそろ真似るのやめやがれ」
「だが断る」
十六夜とペストと共に三人で荒れた小道を突き進み、今は誰も住んでいない廃墟街に着く。
十六夜の真似していたら怒られちった。
怒られた直後、家屋が倒壊するような地響きが鳴り響いた。
「………なんだ? 今の音は」
「さあな……だが、気配的に飛鳥がいるな。敵は居ないようだが……」
「よくわかるな」
「十六夜も頑張れば出来るって」
「「普通は出来ないから」」
ペストにまでツッコまれた。普通に出来る…よな? かくれんぼのときとか便利だぞ。逃走中では負けなしだろう。ハンターに出会うことなく終われるはずだ。
出来ないことに不思議な顔をしながら行ってみると、やはり飛鳥とディーンがいた。ディーンが叫んでいて飛鳥に怒られているところだったがな。
聞いてみたところ、此処を放置しておくわけにもいかないので廃屋を解体して整備していたらしい。頑張ってるなぁ……主にディーンが。
これから帰る所らしいのでディーンに乗せて貰う事にした。
「失礼するぜ、お嬢様」
「失礼するなら降りなさい」
「じゃあ失礼しない」
「ならいいわ。………それで、成果はあったの?」
「おう。………と言いたいところだが、参加者じゃない奴に全部持っていかれたぜ」
ヤハハと笑う十六夜に訳が分からないような顔で首をかしげる飛鳥。俺の事ですね、わかります。
「どういうこと?」
「着いてきた零に勝負を吹っ掛けたんだよ。負けた方が問答無用で留守番って感じで。まあ、結果はあと少しってところで負けちまったから留守番だ」
「それはドンマイとしか言いようがないわね。成果ゼロなのかしら?」
「いや、それでも獲ってくるもんは獲って来たぜ」
そう、あの後俺が白雪の注意を引きつけ、十六夜がその間に華を数個ほど拝借してきたのだ。まあいいじゃん、俺が咲かせたようなものだしさ。
飛鳥と十六夜がディーンの肩に座り俺が頭に座る。結構揺れているが、これ位の揺れなら別に大丈夫だ。
和やかに会話をしていると、強い風と共に耀の声がする。
「四人とも、今帰る所?」
「春日部さんも?」
「うん。私は………乗る所ないね」
既に座る場所を占領しているからな。俺が譲ってやろう。
「此処に座ればいい……よっと」
ディーンの頭の上から飛び降りて耀に譲る。
「……いいの?」
「ああ。頑張って来た若者に譲るべきだろう」
「ありがとう……」
耀は大の字になる様にディーンの頭にへばりつく。……なんかへばりつくって表現はおかしいな。蟲が壁にへばりつく的な。抱き付く、が正しいか。
さて、耀に頭を譲った俺は歩かないといけないわけだが、正直面倒くさい。
「ディーン、右掌に座らせてくれ」
「DeN」
ディーンが右手だけ曲げて座れるようにしてくれる。土とかで汚れていたので能力で消して綺麗にしておいた。
「サンキュ」
飛び乗って、掌に座る。おお、頭よりましだな。
「ペスト」
「なに?」
「おいで」
今までディーンの横で会話にも入らずに黙々と歩いていたペストに声を掛けて掌の余ったスペースに呼ぶ。
「じゃ、じゃあ……お邪魔しようかしら…」
俺が手を貸して上まで登らせる。足と足の間にちょこんと座らせた。
そのまま抱き付くようにしてもたれ掛かり、ペストの頭に顎を乗せる。
「ひゃっ!?」
「あ、すまん。俺って結構スキンシップ激しいけど大丈夫か?」
「え、ええ…少し吃驚しただけよ……私は既にマスターのものだし、え、遠慮しなくて、いいわよ……?///」
「ならそうする。ま、慣れるさ。レティシアがいい例だ。と言っても、激しいのは家族みたいなやつだけだし」
幻想郷の古参メンバーはほとんど家族みたいなものだしな。………よく考えたら俺ってそいつらの一部に襲われてたんじゃん。近親相k……やめとこ。これ以上は危ない。
そんなことを思ってぶるりと身を震わせていたら飛鳥と耀からお呼びがかかった。
「「零さん」」
「ん? なんだい?」
「「家族になろう」」
「…いや、なんでさ。突然どうした? 意味が分からないって。友達でいいだろ」
「「むぅ…………」」
今度はしかめっ面になりやがった。おい、そんなに俺と友達ってことが嫌か。俺は友達が少ない。小説が書けそうだぜ。
「十六夜は俺と友達だよな?」
「多分、零の考えていることは違うと思うが……勿論、最高の友達だぜ? むしろ親友」
それならよかった。未だ三人と打ち解けられてないのかと思ったぜ。杞憂だったようだな。
廃墟を抜けた一同は貯水池前に辿り着いた。真っ直ぐ本拠に向かおうとしたら、狐娘のリリから声を掛けられた。
「あ、皆様お帰りなさい!」
「ただいま、リリ。農園区の世話は終わったの?」
「はい。まだ植えたばかりなので簡単な作業しかできませんから。今は水路を確認していました。田園が整う前に整備しようと思ったので」
確かにリリの手は泥で汚れていた。日差しの中作業をしていたらしく、汗もかいている。それでも元気な笑顔で長い二本の尻尾をパタパタと振っていた。
ペストの顔がそれにつれて動いていた。可愛い。
「それはお疲れさん。綺麗にしてやるよ」
【消す程度の能力】で割烹着や手に付いた泥や汗を消し去ってやる。
「わっ!? 凄いです、綺麗になってさっぱりしました! ありがとうございます!!」
「いいさ」
勢いよく頭を下げてお礼を言うリリを見ながら再びペストにもたれかかる。リリが頭を上げた――――と、その時。
グウゥゥゥン! と俺以外の四人の腹が鳴り、次いでクウゥゥゥ……という小さな可愛らしい音がペストから鳴った。
「クスッ……ペストは可愛らしいな」
「………///」
ペストの肩から前に腕を垂らしていてお腹に手が当たっていたのだが、小さく震えたのが分かった。それを感じながらの音だったのですこしおかしかったよ。
それがペストにも分かっていたらしく、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに伏せていた。
それと、なんか十六夜が笑っていたので振り返ってみる。そこには真っ赤になった飛鳥と耀がいた。
「どうしたんだ? 十六夜」
「いやな? ペストと三人の腹の音の違いが可笑しくてな! これははっきりと違いが出たからなぁ……」
「…十六夜もだったもん……」
「十六夜君…デリカシーが無いわよ……」
「ううぅ…………」
なんだろう……三人には「なぁ……」の後が分かるみたいな言い方だな。
「じ、実は本拠に昼食のよういが出来ております! 私たちのだったので簡単なおにぎりですが、少しお時間を頂ければ種類を用意できますが、ご希望はありますか?」
「マジ? なら梅鰹醤油で」
「私はしそ昆布ね」
「………。シーチキンマヨネーズを」
「じゃあ俺は爆弾おにぎりな。中身は在るの全種類で形もちゃんとしてくれ。導火線も頼むわ」
「……私は焼きたらこでいいわ」
え? と驚いている。特にリリが。耀の言った具より俺が言ったおにぎりの方が衝撃的で意味が分からなかっただろう。
ボンバーマンの爆弾並に大きくなりそうだ。爆発する前に食い尽くしてやる。
「零はホントに愉快で自由な思考してやがるな」
「褒めてるのか? それは」
このままリリだけ歩かせる訳にはいかないので左手に乗せてやった。本拠に着くころには正午から一時間以上経っていた。
花を咲かせる方法、ちょっと無理やり過ぎましたかね?
私の考えが間違ってるようなら直さないといけない………なんて言うと思いましたか! さすがに書きなおすのは骨が折れるので、このまま突き進む!
全速前進だ☆