問題児たちと一人の神が異世界から来るそうですよ? 作:異山 糸師
翌朝、なんか目が覚めたので未だに寝ているレティシアを弄ることにした。サラサラの髪にぷにぷにのほっぺ…抱きまくら決定!
暫く堪能してから、寝ているレティシアを置いて皆が居る部屋まで行く。どうやらもう起きているようだ。
「よう、お前ら。朝早くからご苦労なことで」
「あ、おはようございます。零さん」
「ああ、おはよう黒ウサギ。それで?どうしたんだよ」
なんかよくわからない雰囲気になっている。なんか面倒くさそうだから戻ってもう一回レティシアと寝てこようかな? お通夜みたいになってると思ったらただ怒ってるだけだった。カルシウム足りてないのか?
「え、ええ……なんと言いますか、私達ノーネームの仲間が景品にされるゲームがあったのですが、その話が無くなったと言いますか……」
「無くなったのならいいじゃないか」
「そうなのですが、それが妙なのです。昨晩、そのお方が“ペルセウス”というコミュニティに攫われたのでサウザンドアイズに行ったのですが、そのことについて話すと白夜叉様は「大丈夫だ、問題ない」の一点張りでして……。渋々帰って来たのです」
「まったく、白夜叉の奴…心配も何もなく白々としてやがった。いけすかねぇ……それより零。昨晩はどこに居たんだよ」
十六夜が不機嫌そうに言うと、周りの飛鳥や耀も少し不機嫌そうに顔を顰めた。黒ウサギも表情には出してないが、ウサ耳引っ切り無しにピクピクさせてる。
あ、それより俺のことだっけ?
「昨日の夜は、黒ウサギ達にプレゼント渡して……色々あって寝た」
「色々? 何かしたのか?」
「ああ、ちょっと虐めt…ゲフンゲフン! ちょっとアソンできただけだ……」
「そ、そうか…まあ、零だから心配いらないだろうが、無事ならいいさ」
チョロイオス君のことを思い出してしまってイラッとしてしまったじゃないか。そう言えば、チョロイオス君から無理やりギフト…確か、アルゴールの魔王とか言ううるさいやつを無理やり奪ってきたんだっけ? あれ、どうしようかな……今度暇な時にでも出そう。叫んだら殴る方向で。若しくは蹴り砕く。
それにしても、白夜叉の所に行ったのに会わなかったということは、入れ違いになったのか? それに誰か攫われたねぇ…物騒そうじゃないか。
しかも主犯格はチョロイオス君だし、もう一回拷問するか?
そんなことを考えていたら、後ろからレティシアが現れて、寝ぼけ眼擦りながら隣まで来た。
「どうした?」
「いや、曲がりなりにもノーネームの一員と主殿の下僕……何かしたいのだが、なにかやることはないか?」
う~む……まずは目を覚ましてほしいと言いたい。口調はしっかりしてるけど、ふらふらじゃないか。それとしてほしいことねぇ……
「じゃあ、取り敢えず何故か固まっている皆さんをこのハリセンで叩き起こしてあげなさい」
「りょ、了解した…」
いつも黒ウサギが使っているハリセンを拝借してレティシアに渡す。
少し戸惑いながらもレティシアは俺の言う事をしっかり守り、結構な力でそれぞれの頭を叩いている。そして最後に黒ウサギのだけ、少し飛び上がって全力のハリセン。
スッパアァァァァァンッ!!
「ふぎゃぁ!!?」
「おお、いい声で鳴くではないか、黒ウサギ」
うむ、ナイス絶叫。叩き終わったレティシアは、俺の隣に来て座り、ハリセンを返してきた。
「これでよかったか? 主殿」
「おう、バッチリだ」
軽く微笑みながら頭を撫でてやる。少し驚いてから目を細めて気持ちよさそうにしだす。
言う通り出来たのならしっかり褒めてやらないとな。世話と躾けは最後まで責任を持ってやらないと。あと散歩も。
「……主殿。それでは犬と同じなのだが…」
「対して変わりはないさ。多分。愛情注いで可愛がればどんなものでも懐くはず」
「主殿のはいい人そうだし、昨晩のことから私の好感度はMAXだけど……」
「気にしない気にしない」
「舐めたし齧られた……」
「知らない知らない」
本当に知らない。寝ぼけて何かしたのかね? ま、気にしない気にしない……ゆっくりしていってね。寝てるから何するかは保証できないけど。
「レ、レレレレティシア様ッ!!?」
「そうだが、どうした? 黒ウサギ」
「ど、どうしたも何も……なんでここに居るのですか!! 石化されて攫われたはずでは……」
およ? もしかして攫われたのってレティシアの事だったのか? いやぁ~、全然気づきませんでした。いや、マジで。
「ああ、それは私が主殿のものだからだ」
「あ、主殿って……?」
「此処に居る零のことだ」
その一言で一斉に俺を見てくる。あの十六夜でさえ驚いていた。
「零…お前なんで……」
「実はカクカクシカジカでな」
「分かんないわよ! ちゃんと言いなさい!!」
「え~~」
「お願い零さん……教えて?」
「仕方ないな……」
しょうがないから簡単に説明しよう。
「えっとだな…個人的用事があったから白夜叉のとこに行ったらルイオスのやろうが居たんだよ。それはもうウザくてウザくて……だから拷m…O HA NA SHI をしたら報酬としてレティシアくれた。OK?」
「何をしているのですか! このお馬鹿様!!」
スパーンッと、黒ウサギにハリセン叩かれた。
なんだよ、俺別に悪い事してないんだが。むしろいいコトしたじゃん。ストレス発散。
「おいおい、そんな面白そうなこと一人でしてたのかよ。俺も誘えよな」
「別に楽しくなかったけどな。まあ、今度な」
「今度でもこんな無茶はしないでください!!」
「却下」
ムキーーッと怒る黒ウサギを適当にあしらいながら紅茶を飲む。耀と飛鳥は呆れてものも言えないようだ。
金髪ロリで吸血鬼…なるほど、だから美少女設定なのか。正直フランの方が強そう。
神格奪われたから弱体化したんだっけ? 戦えるのかね?
ま、今後に期待だな。
◇◇◇
ルイオス拷問事件から三日後の夜。
俺は水樹の貯水池付近で色々準備をしていた。
長机を幾つも並べてその上に料理が盛られた大皿を置いて行く。ズラリと並んだ料理は全て俺が作ったもの。俺たちの歓迎会のはずなのに俺が用意するとはこれ如何に。
しかもノーネームの財政はかなり悪いので、この豪勢な料理(和洋中華etc…)の食材は俺が腕輪から出して負担した。これを知った黒ウサギはペコペコとウサ耳を振り回しながら頭を下げてきた。貸し一つにしておいたけどな。
これで一回黒ウサギを好きに出来る。何時かなんか命令しよう。
用意が終わると同時にノーネーム総勢一二六人+一匹が来た。
「この度は本当にありがとうございます、零さん!」
「いいって。料理作るのは楽しいしな」
今回は流石に多かったので一通り作ったら【無限にする程度の能力】で増やしたけど。
「えーそれでは!新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」
ワッと子供達から歓声が上がる。その眼は料理に釘付けだった。今まで見たこと無いような料理ばかりだからだろう。
子供なんだからしっかり食べないとな。ノーネームの食糧庫だけは豊にしておいた。
「だけどどうして屋外での歓迎会なのかしら?」
「うん。私も思った」
「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねか?」
目の前で三人がこんなことを言っているが、強ち間違ってはいないな、うん。
「無理しなくていいって言ったのに……馬鹿な子ね」
「そうだね」
「いや、そうでもないぞ?」
なんか黒ウサギが無理してる、みたいなことになっていたので口を出す。
「この料理、全部俺が作ったものだ。食材も全て俺が負担している。気にせず楽しんでくれ」
腕を組みながら顎で料理の山を苦笑しながら指す。耀と飛鳥は驚き、十六夜の目はギラリと光った。
「これ…全部零の手作りか?」
「そうだけど」
「遠慮なく食っても、いいのか?」
「ああ、無くなりそうなやつから補充してやる。全員が食えなくなるまで食ってもいい」
「よっしゃ!! 食いまくるぜッ!!!」
ハハ…なんか凄い闘志を感じる。
苦笑しながら十六夜を見ていたら耀が傍に寄って来た。
「零さんって凄いね。何でも出来るんだもん」
「まあな。耀も遠慮するなよ? 結構大飯喰らいっぽいが、無くなることはない」
「うん……///」
丁度いい位置にある頭を撫でながら言ってやる。小柄なくせに良く食うからな。
そんな風なやり取りをしていると黒ウサギが大きな声を上げて注目を促す。
「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」
俺を含めた全員が上を仰ぎ見る。満点の星空……星空は何時幾ら見ても飽きることはない。それは月神だからとかではなく、万人に言えることではないだろうか。まあ、俺の価値観の話だけど。
それから異変が起こったのは数秒後のことだった。
「………あっ」
と、誰かが声を上げる。それから星が流れだし、流星群ができる。
「この流星群はとある理由から起きました。詳しくは色々問題があるので言えませんが……」
失礼な奴だ。俺が問題児だとでも言いたいのかね?
「箱庭の世界は天動説のように、すべてのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。コミュニティ“ペルセウス”が“サウザンドアイズ”を追放されたためあの星々から旗を降ろすことになりました」
白夜叉に俺の命令は絶対。追放か皆殺しかで選ばせたらノータイムで追放と答えた。ちっ……残念だ。
既に夜空にはペルセウス座はなかった。ふと見ると、三人は言葉を失ったかのように呆然としていた。この規模の奇跡は初めてなのだろう。
「今夜の流星群はサウザンドアイズからの私たちの再出発に対する祝福も兼ねております。今日は一杯騒ぎましょう♪」
黒ウサギの音頭で子供達は一気に料理に食らいつく。
三人は暫し呆けていたが、十六夜の
「………アルゴルの星が食変光星じゃないところまではわかったんだがな。まさかこの星空すべてが箱庭の為だけに作られているとは……いや、そんなことより飯だ! 急がねえとガキ共に食い尽くされちまう!!」
これで食べ始めた。十六夜ってこんなキャラだっけ?
俺もボチボチ食べ始める。相変わらず、何でこんなに美味いのか……俺が作ったとは思えん。
「ねえ、零さん」
「なんだ? 耀」
暫く食っていると、皿一杯に料理を乗せた耀が近づいてきた。しかし凄い量だな、お前の皿の上。溢れんばかりに載ってるじゃないか。別に無くなったら増やすからいいのに。
「どれも物凄く美味しい…その中でオススメとか、ある?」
「ふむ……」
少し料理群を見渡し、幾つかの皿に数種類の料理を乗せて耀に渡してやる。
「これ等だな。俺が好きっていうのもあるが……」
「へぇ…零さんの好きな料理……食べさせて?」
「は?」
「だって両手塞がってるし……」
……先に食べてしまえばいいのだが、何故か言わない方がいい気がする。言ったらしょんぼりしそうな……。
「はいはい…ほら」
「あ~ん……モグモグ……っ!? ホントだ…美味しい!」
俺が好きなものだから力入れて作ったからな。気に入ってくれたのなら嬉しい。
耀と一緒に食べていたんだが、ふと、耀がこんな事を聞いてきた。
「零さんは三毛猫と話せたけど、今までにどんな動物と話して来たの……?」
そう聞かれ、手を止めて考える。野生の動物は旅してるときにコンプリートしたし……
「そうだな…山や森なんかで見る動物や動物園なんかの動物、水族館の魚、妖怪や妖精や精霊や神獣や幻獣……あと、草木なんかもだな」
「す、凄い……零さんは一体どこから来たの!?」
またまたキラッキラした目で見てくる。まあ、普通に過ごしていたら話せない様なものばかりだからな。
「内緒だ」
「そう……残念。もっと零さんのこと知りたかった……」
少しションボリした耀の頭を再び撫でながら言う。
「これから長い付き合いになるんだから追々教えてやる。お前も色んな生物と話せるようになるさ」
「……うん。よろしくお願いします…」
「はいよ。…料理補充してくるから食べてな」
「…わかった」
そう言って離れる。まったく、好奇心旺盛な子供みたいだ。いやまあ、子供だが。
周りの料理を見てみるともう少なくなっていた。子供達も凄いが、十六夜が凄い。何であんなに食えるわけ?お前の胃は何なの?どっかに繋がってんのか?
幽々子の胃とか?
各長机をまわる。能力を発動させながら人差し指で机の上を一度だけコツンと叩く。次の瞬間には叩かれた机の上の料理が元の量まで増えた。
これを見て歓声を上げる子供達。十六夜のペースが倍になりやがった。
「……零さんはこんなこともできるのですね…」
「まあな」
最後の机を増やしたとき、黒ウサギが近寄ってきて話しかけてきた。
「本当に何から何までありがとうございます。こんなに嬉しそうな子供達は初めて見ました」
「子供なんだからしっかり食べて大きくならないとな」
「はい………」
シュンとウサ耳をヘタレさせて落ち込む黒ウサギ。ノーネームの金銭問題が結構危ういからだろう。
「だから大人な俺達が何とかしないとな。子供のできることは限られてるんだ、導いてやるのが年長者の仕事だろう」
「そう、ですね」
「ああ。だからお前も頑張れよ」
「YES!黒ウサギも力になれるようにガンバリマス!」
ムフーと意気込む黒ウサギを見て静かに笑う。これ位言っておけば俺が居ないときでも何とかするだろう。
ぐりぐりと頭を撫でてやりながら全力でウサ耳を触りに行く。
夜空を見ながら、萃香に貰った伊吹瓢で勇儀から貰った星熊盃に酒を注ぎ、一気に飲み干した。
ふぅ…これで1巻は終わりました。
さてさて、これからもよろしくお願いしますね。