問題児たちと一人の神が異世界から来るそうですよ?   作:異山 糸師

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ちょっとした鬼畜注意。


第9話 最強を知るそうですよ?

 “異動”を早速使い、ノーネームの本拠地まで跳んだ。

 

 黒ウサギに昨夜はどこに行っていたのか聞かれたが、適当にはぐらかせておいた。

 さすがにコミュニティ“高天原”のリーダーに成ってきましたー、なんて言えないでしょう。

 

 丁度いいので、ゲームに向かう耀達を呼び止める。

 

「何かな? 零さん」

「ああ、今日のゲーム頑張ったら褒美をやる。勿論、飛鳥にもだ」

「ご褒美?」

「あら、私もいいの?」

「当たり前だ」

「そう。楽しみにしてるわね」

「私も。頑張ってくる!」

「行ってらっしゃい……そんなに羨ましそうな顔をするな、黒ウサギ」

「へッ!? し、してないですヨ!」

 

 絶対してたろ。しかし黒ウサギが言うにはしてないらしい。

 

「……じゃあ、黒ウサギの分は無くてもいいな?」

「そ、そんな……」

 

 ウサ耳をペタンとしてこの世の絶望が来た、みたいな顔をして涙目な黒ウサギには悪いけど、可愛すぎてもうちょっと見ていたいと思ってしまったわ。

 

「嘘だって。お前の分もあるさ」

「そ、そうなのですか!?……い、いえ、その……///」

 

 恥ずかしそうに顔を伏せているが、にやけているのはバレバレだ。そのまま笑顔の三人を見送り、ここに残ったのは俺と十六夜だけ。

 

「しっかし、褒美ねぇ………昨日の夜になんかしたのか?」

「まあな。女性陣だけだぞ? 所謂プレゼントだ。お前のは無い」

「いらないさ。その代わり…俺と闘ってくれるんだろう?」

 

 そう言って十六夜はにやりと笑って俺を見てくる。その顔は早くやりたくて仕方が無いと言っている。

 

「まあ、そういう話だったもんな。蛇の時の実力を教えるために手合わせをするんだっけ?」

「ああ! さっさとしようぜ! ずっとお前と闘いたくてうずうずしてたんだよ!!」

 

 戦闘狂か、お前は。ま、約束だもんな。

 適当に広いところに行く。ここも土が死んでいた。終わったら治してやろう。

 

「そうだなぁ…終わったらお茶でもするか?」

 

そう言った瞬間、十六夜の顔がこれまでに無いほど綻んだ。どんだけ嬉しいのやら…。

 

「マジかッ!? ぜひ頼む!!」

 

 ふむ…何を出してやろうか。

 

「いやぁ、今日は良い日だな!」

「そっか、よかったな。さ、やるか」

「おうよ!」

「始まりの合図はこの石が落ちた瞬間な」

 

 石を適当に地面から拾い、おもむろに投げた。

 空を舞い、石が地面についた瞬間…始まった。

 

「全力で行くからな、零! 覚悟しろやァァァァァァァァッ!!!!」

 

 十六夜が今までで一番速い速度で突っ込んできた。十六夜が蹴った地面は爆発したように土が吹き飛び、砂煙を後方に盛大に作った。

 俺にとってはゆっくりと進んでくる十六夜が、拳を繰り出す。それを首を傾けるだけで避けると、今度はその勢いのまま蹴りが横から来た。十六夜がこれは当たった!みたいな顔をするが……残念。普通にバックステップでかわす。

 それからも、幾度となく攻撃が来るが、余裕を持ってかわし、いなし、受け流す。

 

「どうしたァァ!避けてばっかじゃ勝てねえぞッ!!」

「ふむ、それもそうだな。じゃあ……少しだけ力を入れるぞ!」

 

 俺のその言葉に十六夜が距離を取ろうとしたが、俺は体を前に出して掌底を放つ。十六夜はなんとか腕で防いだが、砂埃を立てながらボールのように吹き飛んでいった。

 それを俺はそこから動かずに見ていたが、あれしきで終わったとは思わない。証拠に、土煙の中から十六夜が笑いながら走ってきた。まったく…鬼みたいだな。

 

「面白いぞ、零! もっと楽しませてくれ!!」

「おやおや、その壊れた左腕で何が出来ると言うんだね?」

「右腕があるだろうがッ!!」

 

 十六夜の左腕は血に塗れ、あらぬ方向に曲がっており骨が見えている。やり過ぎたか? まあ、死んでも生き返らせればいいだけの話。ちょっと十六夜に聞いてみますか。

 

「おい、十六夜」

「なんだ!」

 

 勿論この間も応酬は続いている。少し話すために軽く蹴り飛ばして間を空ける。

 

「グッ……それで、なんだよ。腕が痛いからさっさと話せよな」

「ああ、さっきの軽い力でそれだったわけだが……」

「軽くてこれかよ……」

 

 十六夜が小声でなんか言ってるが、今は無視。

 

「命をかけた死合でいいのか? それとも、戦闘不能になったら終わりでいいのか?」

「………そうだな、まだ死にたくはないから戦闘不能になったらでいいぜ」

「りょーかい」

 

 この短い話し合いが終わると同時に、十六夜が獰猛に笑い、今までにない力を込めた走りで近づいてくる。いいねぇ……威勢の良い奴は好きだぜ? 面白いからなぁ……戦闘不能だろ? 腕の一本や二本、無くなってもいいだろう? もちろん、死なないように手加減はする。差し詰め、十六夜の第三宇宙速度よりもう一段階上で十六夜の出すパワーと同じ力で戦ってやる。だけど、技までが一緒かと聞かれたら、NOだ。手刀や足刀で空間や次元なんかを斬る俺だ…身体が無くなっても文句言うなよ?

 

「腕の一本や二本は覚悟しろよ?」

「へっ! 俺の過去最大の本気で行くぞッ! オラァァァァッ!!!」

 

 互いに激突して拳の応酬を繰り広げる。俺が腕二本に対し、十六夜は一本。だが、脚なども使って的確に此方を攻めてくる。荒削りだが、これはちゃんと磨けば強くなるだろう。だが、今は遅すぎるし弱すぎる。お前より上は何人でも居ると、今この戦いで知っていけ!

 

「遅い!」

「チッ…ダラァ!」

 

 大きく振りかぶった腕を俺に振り下ろすのを横目で見送り、此方は下から抜刀するように手刀を出し、斬り裂く。ズバン! という音と共に十六夜が血を噴出させながら吹き飛び、はるか後方に落ちた。それと同時に目の前に落ちてくる十六夜の左腕(・・)。どうやら使えない左腕で護ったらしいが、俺の手刀の鋭さには耐えられなかったようだ。

 

「グ…ガァ、アァァァァァァァァッッ!!!!!」

 

 肩から先がバッサリと無くなった十六夜は、叫び、冷や汗と血を大量に流しながら傷を押さえつける。

 

「十六夜」

「グゥゥゥ……」

 

 獣みたいな声を出す十六夜は俺を睨むように見てくるが、俺はというと落ちている左腕のもとに行き、脚で軽く踏みつける。

 

「恨むなよ、お前はまだ……戦闘不能じゃない」

 

 グッ…っと、脚に力を入れ、

 

「まっ…………」

 

 ズダァァァンッ!! と、足元の土が消え去るほどの力で、十六夜の腕を踏み砕いた。

 

「これで……お前の腕は二度と戻らなくなった。どうだ? 今の気持ちは」

「く…くそ、がぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 やけくそになったのか、がむしゃらに突っ込んでくる十六夜。所詮は数多くの殺し合いを経験してこなかった子供…戦闘中は感情に身を任せるのもいいが、冷静に考え抜く力も必要だ。これくらいのことで怒っていては生き残れない。猪突猛進に突っ込んできた十六夜の腕を掴み、相手の殴ってきた勢いを利用してそのままくるりと身体を回し、地面に叩きつける。星をも砕くほどの力は消滅させるほどの力となって己に返って来て、十六夜の意識と身体の感覚を激しく揺らす。俺は間髪入れずに十六夜の腕の付け根…肩を踏み潰して、右腕すらも千切り取った。

 

「―――――ッ!!!?」

 

 無理矢理に千切られた故か、声にならない程の悲鳴を上げて、本人は意識して流していないであろう涙が、無意識の内に止めどなく溢れだしている。いやはや…実にいい姿になったな、十六夜。

 

「クハハハッ! おい十六夜、見てるか? これからもう片方の腕も消し去ってやろう!」

 

 意識の薄い十六夜が、それでも俺が持っている腕に視線を注ぐ。その目は涙に濡れていても見えているのか……なら、

 

「まずは腕だな」

 

 空中にポイっと放り投げ、目の前に落ちてきた瞬間に両の掌でパンッ!と合唱するように指先から断面までを潰した。残ったのは俺の手の中に残るよくわからないゴミみたいな破片と俺と十六夜の全身を濡らす大量の血。それとついでに左目も刳り抜いて目の前で喰ってやった。今では十六夜の左目は俺の腹の中……スマンね。ご馳走様だ。

 

 今ではピクリとも動かない、両腕と左目がない十六夜。掠れたような息の音と俺を見る目が生きていることを教えてくれる。普通なら自分をここまでした相手に恐怖を抱いた目をするはずなんだが……不思議と十六夜はそんな目をしていない。

 

 まったく……つくづく面白い男だよ、お前は。これからお前が歩む人生をこの目で見たくなってきた。今回は何か異様にテンションがノッてきたが、面白かったよ。お前をここまでしたお詫びと言ったらなんだが、

 

「これからのお前の人生…少しでも輝かしくなるように、俺という神が見守り、支えていってやろうじゃないか」

 

 ただその目は…しっかりと俺を見ていた。

 

「こんなことめったに無いぜ? 俺が直々に愛し(護っ)てやるなんて……これからのお前の人生に、幸あらんことを……」

 

 優しく微笑みながら十六夜の残った目をゆっくりと閉じてやる。それだけで、十六夜は眠りについた。

 一応言っておくなら、愛すとかアイスとか何とか言ったけど、BL的なことじゃないからな? 神が人間を愛する、寵愛みたいなものだ。ラインハルトみたいに愛するとかそんなんじゃないからな?

 

 俺は能力で『十六夜が傷ついた』という事実を消し去った。それと同時にこの土地も傷ついた事実も消し去り、しかも死んでいた土地が再び生き返った。

 

 しっかし、何でかしらんが今回はマジで楽しかったなぁ……何でだろう? 十六夜のせいかね? 

 あそこまでコテンパンにしてやったが、十六夜も十六夜だ。よくもまぁ、俺のことを恨まないね。いいさ、それに免じて俺はお前に加護を与えて支えてやろう。あと、今一度行っておくがBLじゃないからな? 俺が神だということを思い出してくれ。俺が気に入ったやつなら、どこまでも支えてやるさ。幻想郷の住人は皆支えてやってるよ。

 

 今回の一件で十六夜のことは大体分かったし、やっぱり面白いやつだ。幻想郷組より遥かに弱いけど面白かった。

 

 さて、考えるのはやめて……この血だらけ状態をどうにかしましょうか。まあ、方法なんて能力で消す以外ないんだけどね。消し終わった後、十六夜の横でふわふわの草の上に寝転がり、空を見上げる。お茶は十六夜が起きてからでいいでしょう。肉体的にも精神的にも多大な負荷が掛かっているため、ちょっと時間が立たないと起きないかもだが。

 

 それから二時間後、皆が帰ってくるのを感じた。

 

「な、なんですか!? これは一体!?」

「それより耀、大丈夫か?」

「…無理かも。凄く痛いよ、零さん」

 

 右腕からはかなりの血が出ている。俺は【消す程度の能力】で傷を跡形もなく消し、【無限にする程度の能力】で失った分の血を増やす。

 

「はいよ。あとは無理せず過ごせ」

「……凄い。ありがとう」

「零さん、こんなことができたのね」

 

 お、飛鳥とジンもやってきたか。

 

「それで? 勝ったのか?」

「もちろんよ」

 

 俺の問いに飛鳥が当たり前だ、という風に返事した。

 しかし黒ウサギだけは静かだな。

 

 見てみると、自然豊かになったこの場所をただただ見続け……涙が流れているのすら気づいていなかった。他の奴らはゲームのことを話していてこちらに気づいていない。俺だけが気づいているようだな。

 隣に立ち、わしわしと頭を撫でてやる。黒ウサギは大人しく撫でられていた。

 

「……正直、もうこんな風景は見られないと思っていました………」

「現に見られているんだからいいじゃないか。俺がちょちょいと生き返らせてやっただけだ」

 

 大した労働にもならなかった。俺は美しい自然の風景が好きなのだ。そのためならこれ位お安い御用だぜ。

 

「さて、帰りましょうか」

「あ、ちょっと待て」

 

 飛鳥が帰ろうとしたので、呼び止めた。これからお茶をするのだ、こいつらも一緒にどうかと思ってな。ジンだけは子供たちを見るために帰って行ってしまったが。そのことを聞いて喜びの声を上げる三人を傍目にテーブルとケーキを複数、それに紅茶を出す。ケーキバイキングみたいな感じだ。それを先に三人に食べさせてやり、十六夜を起こすことにした。

 

「十六夜、そろそろ起きろ。お茶にするぞ」

「んぁ……? ……ああ、そうか……瀕死になるまでやられて負けたのか」

「まぁな……無事か? 少し大人気なかったな…やり過ぎたよ」

「いいさ、俺より上がまだまだいるということを教えてくれたんだろ? 痛かったが、いい経験になったよ」

 

 ヤハハと笑う十六夜は、体の具合を確かめるように動かしながら、ニヤリと笑って俺にこう言ってくる。

 

「それに…零がこれから護って支えてくれるんだろう? 知らない奴が居ないほど有名で最強の神に直々に愛されるなんて、なかなか無いことだ。お前が女だったなら…俺は惚れてたかもなぁ…強い女も結構好みなんだよ」

「気付いたか…女ね…確かに俺は女にもなれるが、機会があったらな」

「マジかよ、見てみたいからぜひ頼むわ」

 

 やっぱ神とか言ったらバレたかぁ……ま、十六夜は気にしてない様だし、誰にも言わないだろう。さすが聡明な十六夜君、一発で俺が神だと気付いたね。

 

 それからは未だに力が入らない十六夜を抱えて椅子に座らせる。ケーキが既に無くなりかけていたので、追加で大量に出してやると十六夜と耀がものすごい勢いで食べだした。俺も食うかね。でも珈琲派だからなぁ…俺だけ珈琲飲むか。

 

「あ、零。俺にも珈琲くれ。そっちのほうがいい」

「はいよ」

 

 追加で十六夜の分も出してやり渡す。ついでに霊力を入れて飲んだ時に身体の再生を促進するようにしといた。食い終わる頃には元気になるだろう。しかし、俺ってやっぱりドSだったんだな。泣いてる十六夜は可愛かったぜ?

 

 




派手ではないけど……まあそれはいいとしてですね、なんかよくわかりませんが勝手に指が進んでました(笑)
十六夜ファンの方はすみませんね。う~ん…アルコールのせいかな?
ドSとは言われ続けてたから知ってましたけどねぇ……ま、いいか!

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